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最も新しいニュー・ワールド生産国⁉️ イギリス 「ガズボーン」

今年の桜は平年より2週間近くも早く咲きました。4月上旬の今日は、まるで5月の陽気。空気も乾いて、キリッと冷えたスパークリング日和です。スパークリングワインの需要はますます増えそうだし、イングリッシュ・スパークリングがより多くの方に飲んでいただけるチャンスと期待に胸膨らみます。ただ、この暖かさは手放しで喜べることなのでしょうか。


昨今の気候変動は私たちに与えられた最大のチャレンジの一つです。多くのワイン産地にとってはまぎれもなく脅威であり、いかに対処するかによって、ワインの品質に大きな影響をあたえることでしょう。一方、この気候変動を歓迎している産地もないわけではありません。その一つが北緯50度以上にブドウ畑が広がるイギリスです。ワインを心から愛する文化を持ち、ワイン業界を牽引する市場をもちながらも、ワイン生産国としては目立たぬ存在でしたが、この気候変動を大きな恵として、大きく躍進しようとしています。すでに自国内では大きな支持を得ており、このコロナ化でも、ワイナリーは活発なオンライン・セールスに支えられています。


イギリスでは、20世紀後半まで夏であっても30度を超える日はありませんでした。それが、21世紀になってからは、2007年を除く全ての年で30度越えの暑さが記録されるようになり、この夏の暑さは春や秋まで暖かさを引き延ばし、より長い生育期をもたらすようになりました。温暖化がすすんでいることは肌で感じ取れるほどで、私自身、2008年渡英直後は夏でも長袖を着ていたのが、2012年オリンピックイヤーの夏には「暑い」と半袖を着たのを鮮明に覚えています。30度を超えると「異常気象!耐えられない」とイギリス人のランニンングメイトが茹だる日が年々増え、ロンドンの新築フラット(日本でいうマンション)にはエアコンが搭載されるようになりました(イギリスの大半の家には今でもエアコンはついていません。私の家にもありませんでした)。


この10年でイギリスのブドウ栽培面積は3倍にも拡大し、ワイナリー数も一気に増加しました。ポメリーやテタンジェといったシャンパーニュからの参入もあり、イングリッシュ・スパークリングワインが多様化し、産地として成熟してきているのを実感します。


しかしながら、自社畑のみでワイン生産を行っているワイナリーはまだまだ多くはありません。そんな中、自社畑のみを信条とする生産者、ガスボーンをご紹介します。スタイリッシュなラベルが印象的なこのワイナリーは、”凝縮したフレッシュな果実味、厚みと深みのある”一貫性のあるスタイルを生み出しています。


ガズボーンの信条は以下の3つ。


1. 自社畑のみ

2. ヴィンテージワインのみ

3. 長期間の熟成

自社畑

ガスボーンは、イギリス南東部のケント州アップルドアに拠を構えます。ケントは、ドーヴァー海峡に面するイギリスの玄関口であり、イギリスで第一位の栽培面積を誇る州です。テタンジェがブドウ畑を購入したことでも注目を浴びました。


イギリス南部といえば、セブンシスターズ宜しく、シャンパーニュと同じ白亜の土壌が広がる画を思い描かれるかと思いますが、ケントは砂質、粘土質、頁岩とかなり多様で、アップルドアの畑は、砂質埴土土壌です。海岸からわずか10キロに位置する緩やかな起伏のある南向き斜面の畑には暖かい海風がダイレクトに吹き込み、寒い年でもブドウを完熟させることができます。


2013年にはウエスト・サセックスにも畑を購入。この白亜の畑は、日照時間はより長いのですが、標高が少し高いこと、より雨が多いことなどから、アップルドアのように毎年コンスタントにブドウを完熟されることは難しく、総じて、出来上がるワインは酸味が高い軽やかなスタイルとなります。暖かいヴィンテージにはブレンディング・コンポートネントとして大きな役割を果たします。


ヴィンテージワインのみ

イギリスでヴィンテージワインのみの生産というと、マルチ・ヴィンテージを生産するだけの土台がないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。これこそが、ガズボーンの妥協を許さないワイン造りへの自信の現れです。「自分たちに与えられた各年の最高ワインを造るために努めたい」が故にヴィンテージワインに拘っているのです。北限の地においてこの大仕事を可能にしているのは、気候と土壌が異なったケントとウエスト・サセックスの二つの畑の存在です。


更なる自社畑の拡張、ブドウ樹の高樹齢化、そして、彼らの自身の畑への理解と経験の蓄積により、ガズボーンの品質は一層向上していくことでしょう。


長期間の熟成

自分たちに与えられた各年の最高ワインを造るために使用するのはクール・ド・キュヴェ(*1)のみです。120の区画別に毎年200種類以上のベースワインを巧みにブレンドすることによって、ガズボーン・スタイルを達成しています。

ブリュットリザーヴでも3年以上もの間澱とともにゆっくりとコンタクトし、さらに、デゴルジュメント(*2)後にも熟成されていてからリリースされます。ガズボーンの一連のラインナップをテイスティングすると、“凝縮したフレッシュな果実味、そして、厚みと深みのある”一貫性のあるスタイルが明確に感じ取れるでしょう。


Blanc de Blancs 2013

Chardonnay 100%

熟したレモン、アプリコット、黄桃、ジンジャーブレッド、アーモンドと共にペイストリーの香ばしいアロマ。滑らかなテクスチャーとは相反する緻密な高い酸味が美しく伸びやかに持続。


ガズボーンというとBlanc de Blancs(*3)が有名かと思いますが、ロゼも秀逸。



Rose 2013

Pinot Noir 100%

輝きのあるサーモンピンク。ラズベリー、イングリッシュ・ワイルド・ストロベリーの赤系ベリーのフレッシュなアロマがダイレクトに感じられ、トースト、シナモン、ブリオッシュが重なる。高いながらも角張っていないフレッシュな酸味は伸びやかで、余韻に重なるベリーの皮のほろ苦さが味わいを引き締めている。



Brut Reserve, Late Disgorged 2009

Chardonnay 77%, Pinot Noir 14%, Meunier 9%


深みのあるゴールドの色調。溶け込んだムース。黄リンゴ、アプリコット、洋梨、そして、長期の熟成に由来するブリオッシュ、カラメル、アーモンド、ジンジャーブレッド、アニス、パンデピスと複雑なアロマ。ほんのり甘みを帯びた滑らかなアタック。艶のあるテクスチャー。カラメルやナッツの複雑な余韻が長く持続。


6年以上熟成させてからリリースさえる特別なワイン。イギリスにもこんなに熟成されたワインがあるということを知ってもらいたくてアカデミー・デュ・ヴァンのイングリッシュ・スパークリングワインの講座でも使用しています。みなその味わいには一驚の逸品です。


最後に

イギリスは生産量の約7割をスパークリングワインが占めています。しかしながら、この気候変動によって高品質なスティルワインが産出されるようになり、今までスパークリングに特化していた生産者からも徐々にスティルワイン生産が増えてきています。

ガスボーンのピノノワール2018、ぜひ飲んでみてください。2018年は質、量ともにグレートヴィンテージ。イギリスのピノノワールの進化が味わえます。


(*1) クール・ド・キュヴェ:葡萄の圧搾時に流れてくる果汁の中から、最も品質の高い果汁のみを、厳格にタイミングを見極めて分けたもの。


(*2) デゴルジュマン:瓶内二次発酵で生じた澱を瓶口に移動させて冷却し、瓶内の気圧を利用して凍った澱を取り除く工程。


(*3)Blanc de Blancs:白葡萄のみを用いて作られたワインのこと。シャンパーニュを中心に主にスパークリング・ワインで使用される用語。


<プロフィール>

青山 敦子 / Atsuko Aoyama DipWSET

WSET® Level4 Diploma

WSET® Certified Educator

アカデミー・デュ・ヴァンWSET資格取得コース主任講師

ギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダー 2018年 Wines of Greece World of Greek Wine Program 最優秀賞 IWCインターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドンAssociate Judge

WSET ディプロマコースをロンドン本校で学び最速最短の1年半で取得。ロンドン本校にて認定講師と認められた唯一の日本人。 英国スパークリング専門誌 “Glass of Bubbly”のライター、WSET Level 3筆記・テイスティング試験採点官を務め、約8年過ごしたロンドンから2016年に帰国。


スティーヴン・スパリュア氏の紹介でアカデミー・デュ・ヴァン講師となり、2016年12月WSET日本語コースをゼロから立ち上げる。現在アカデミー・デュ・ヴァンWSET講座は常時14クラス程度開講。



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