テロワールの味、テロワールのワイン、と言った表現は、
ワインの世界において、非常に頻繁に用いられます。
今回はそのお話を、できるだけソフトにしてみたいと思います。
まず、テロワールとは?という問いにお答えいたしましょう。
テロワールは大きく分けて以下の要素に分解できます。
1. 天候的要素(日照量、有効積算温度、降雨量、降雨時期等々)
2. 地形的要素(標高、平地or斜面、斜面なら傾斜角度と方角)
3. 地質的要素(何質土壌か)
4. 人(主に葡萄品種の選択、畑の区画分けにおいて重要な役割)
1〜3は大前提として自然が決めます。
ここに対して人が介入できる余地は非常に限られています。
1の天候的要素に関しては、人は何も手出しすることができません。
一部の畑では、斜面を形成するように開墾して2の地形的要素に手を加えたり、
土壌改良(改造)を行い、3の地質的要素を変化させるケースもあります。
人が関係する4の要素は、実は非常に重要です。
フランス・ブルゴーニュ地方を例に見ていきましょう。
1〜3は元からそこにあった、ただの自然環境です。
そこに人が入り、長年の研究により、ピノ・ノワール、シャルドネという「葡萄品種」を決めました。
さらに、主に修道院がワイン造りの主体を担っていた時代に、ブルゴーニュの有名な畑の数々が「線引き」され、細かく区画分けされていきます。
つまりテロワールというものは、
その自然環境に最適な葡萄品種を「人」が決め、その自然環境x葡萄という組み合わせの効果が最大化する範囲を「人」が決めることによって、ようやく成立するのです。
ここまでが「テロワールの味」の範囲です。
しかし、それだけではワインになりません。
「人」がさらに関わる部分があるからです。
それがこの二つの要素です。
①栽培
②醸造
①の栽培に関しては、
1. 農法(慣行農法、減農薬農法、オーガニック農法等)
2. 収量(葡萄の凝縮度に直結する)
3. 収穫時期(葡萄の糖度、フェノール類の熟度、酸度等々に関連)
に関して、人が重要な決断を下し、
それらは必ずワインに多大な影響を与えます。
②の醸造に関しては、人が関与できる範囲が非常に広いことが特徴です。
この①と②を合わせて「人の味」とします。
さて、長い前置きが終わりましたが、
本題です。
「テロワールの味」と「人の味」のバランスです。
この二つの要素は、実はシーソーの様な関係にあります。
例えば、特級畑のモンラッシェ。
地球上で最も偉大な葡萄畑の一つですが、
テロワールの味があまりにも強烈なため、
「誰が造っても結局モンラッシェの味」という現象が頻繁に起こります。
シーソーが極端にテロワールの味に偏っているパターンです。
一方、村名格のピュリニー=モンラッシェになると、
「誰が造っているのか」によって、大きく味わいが異なります。
これは、シーソーが人の味に偏っているパターンです。
歴史的な価値観を尊ぶのであれば、テロワールの味こそがワインにとって最も重要だと言えるでしょう。
確かに、人の味に偏りすぎると「なんでもあり」になってしまう側面もあるからです。
しかし、「美味しい」という極めて主観的な感覚は、
テロワールの味とも、人の味とも、なんら決定的な関連性は見られないのです。
つまり、私なりの結論としてはこうなのです。
ワインの文化的側面も楽しみながら飲みたいのであれば、テロワールの味と人の味は、少々気にした方が楽しいです。
文化や歴史は気にせず、ただただ美味しいワインを楽しみたいのであれば、自分の感覚に素直であれば良いだけです。