奥深く粋な、スイスワインの世界

SommeTimesでは、私が粋(Iki=生=活)と感じるワインを色々と紹介させていただきたいと思っております。


以前のSommeTimesのコラム(オンラインサロンにアーカイヴがありますが、Web版でも特別掲載中)でも、スイスワインの話題をとりあげたことがありました。その時紹介したのは、“プティット・アルヴィン”というスイスを代表するブドウ品種でした。それに対して今回紹介したいのは、アミーニュというちょっとマイナーなブドウ品種。でも知っていて損はないです。



何故なら「日本人の舌に合っている」って思うから。

それから日本の食事にも。



今回はスペシャルレポートとしての掲載のため、ある程度必要なことは書きますので少し長くなります。あまり聞いたことのない品種についてですが、ワインがお好きな方でしたら、必ずや面白がってくださると信じて書きましたので、ぜひ楽しみながら読んでください。



ワイン生産国、スイス

この話しをする前に、スイスワインの簡単なおさらいを。


スイスは人口860万人、国土は九州よりちょっと大きいくらい。ヨーロッパのほぼ中央に位置し、平地は国土の1/3しかない。スイスワインの歴史は古く、その始まりは紀元前にも遡るといわれる。スイス国民にとってワインはなくてはならないアルコール飲料で、生産量もそこそこ多い。スイスワインの中には、リリース価格1本が10万円級のワインだって存在する。



日本は世界的に見ても、様々な国のワインが入手できるワイン輸入先進国。それなのに、そんな日本においても、スイスワインは殆ど見ない。「スイスにもワインってあるの?」という日本人が殆どだろう。ワインのプロでも、スイスワインを口にしたことがないという人間に沢山会った。むしろ話題にすらならない。一度飲んでもらえたらその良さを感じていただけるワインが沢山あるのに、目に触れる機会がない。それをとても残念なことだと思ってきた。


まぁ確かにほぼ流通してないのだから、機会が限られるのも仕方ない。ただよく調べてみれば、日本にもわずかながら輸入されており、かなり厳選した優良な(または面白い)ワインが入ってきている。


例えば、

・メゾン・カレーのピノ・ノワール:Domaine de La Maison Carree

・アンリ・クルション:Domaine Henri Cruchon

・ヴァレンティンのワイン:Vinigma

・ウイユ・ド・ペルドリ:Oeil de Perdrix

・新進気鋭のサンペロ:Clos de Tsampehro

・マリー・テレーズのワイン:Chappaz

・「スイスのロマネ・コンティ」と呼ばれているようなワインもあるし:Weingut Gantenbein

・上記のGantenbeinと産地・スタイル・価格が共通したようなワインもある:Weingut Donatch

・ルイ・ボヴァール: Domaine Louis Bovard

・レイモンド・パコとそのお子さんのワイン:Domaine La Colombe

・シャトー・ラ・バティ:Chateau La Batie

・そして今回のジェルマニエ:Jean Rene Germanier

キリが無いのでこの辺で(記載は順不同)。


このレポートを読んで、是非ネットでポチっとして欲しい。

もちろん日本未入荷の凄いワインだってある。



では、なぜ生産量はそこそこあって優良ワイナリーも沢山あるのに、ここまで日本でスイスワインが流通せず、且つ知られてないのか。実はこれは日本だけの話じゃなく、世界中で同様の状況にある。なぜって、スイスで生産されてるワインの殆どをスイス人が自分たちで飲み干してしまっているから(笑)。そもそもスイスは、世界でも有数のワイン消費国なのだ。その一人あたりのワイン消費量は世界で大体5番目くらい。しかも自国のワインだけでは足りず、消費量の65%を海外からの輸入ワインに頼っているというのだから、どれだけ飲むのか想像には難くないだろう。



それに、スイスには海がない。おまけに山岳地帯なので、流通においてかなり難しい環境が揃ってしまっているとわかる。以上のことから、生産者からしてみれば、スイス国内で消費してくれるのだから、大変な思いまでしてわざわざ外の国に運ぶ必要がない。輸出されているワインは、その生産量の2%足らずだという。なるほど、これでは日本に回ってくるはずもないわけだ。そんな状況だから、まだまだスイスワインを楽しんでいる人は少数派。ということでスイスワインを先取りしてみてはいかがか?!




スイスの生産地

さて、肝心のスイスワインだが、ワイン大国に四方を囲まれているのだから、その品質も悪いわけがない。面白いのは、その隣接するワイン大国に、文化や言葉はもちろん、ワインのスタイルもかなり影響を受けているという点。西のフランス語圏には最も有名なヴォー州とヴァレー州があり、南のティチーノはイタリア語圏、北のエリアにはドイツ語圏があり、それぞれ仕上がるワインには、どこかその隣国との共通点を感じさせられる。

このようにいくつかの産地があって、それぞれに異なる固有のスタイルを生み出しているから実に面白い。



各産地をみてみよう。


スイスにワイン産地は幾つかあれど、まずおさえなければならない産地はヴォー州ヴァレー州(添付地図左下)だろう。両方フランスに隣接してる産地だけど、ヴォー州が湖の影響を強く受けている産地なのに対して、ヴァレー州は山あいの産地という違いがある。スイスのワイン産地の特徴として、圃場(ほじょう)のほぼ全域が山あいの斜面にあるため、機械化は不可能な条件下でつくられている場合が多いが、この2つの産地もその例に漏れない。



ヴァレー州は、全体には赤ワインの生産量の方が多い産地(特にピノ・ノワール)。そしてブドウ栽培面積5,000haはスイス最大のAOCであり、スイスワイン総生産量の3分の1がヴァレー州で生産されている。夏は暑く冬は寒い、そして昼夜の寒暖差も激しく、スイスアルプスで最も高い山があったり、4000m級の山々も50を超えるほど存在する。その理由(気温と山)からヴァレー州は州全体でみれば“スイス国内でも一番降雨量の多い”地域の一つなのだとか。


しかし、これって不思議じゃないですか?!だって降雨量が多い産地なのに、スイス最大のワイン生産地って?!



これはなぜかといえば、先述した、降雨量が多い話しはあくまで州全体の平均のことであって、実はブドウ畑があるローヌ渓谷沿いの標高約700mの傾斜地は“特殊な微気候”になっていて、雨が少なく乾燥しているという。ヴァレー州には凄い山々があるわけで、そうした山々の降雨量は多いだろう。しかし湿気を帯びた空気は山頂を通過して乾燥し、ブドウの成熟を促進する有名な暖かい風“フェーン”が吹くことで、ブドウはかなりの恩恵を受けている。おかげで霜のリスクがなく、このブドウ栽培エリアに限り晴天が多い上、年間降雨量は600mm未満で、なんと「その部分だけがスイスで最も乾燥している」。成長期に2,000時間以上の日光を浴び(フランスのボルドーとブルゴーニュが丁度2000時間といわれてるので、それよりも若干多いくらい)、昼夜の寒暖差もあってゆっくりと果実を成熟させられることから、ブドウ栽培に適する理想的な区域となっている。


その上、多様性に富んだ土壌から、幅広いブドウ品種とユニークなワインを産み出す。




ジャン・ルネ・ジェルマニエ

今回は、そのヴァレー州のワイナリーをご紹介する。

ジャン・ルネ・ジェルマニエ(Jean Rene Germanier)」はスイスを代表するトップワイナリーであり、120年以上の歴史をもつ。現在3代目のJean-Reneとその甥のGillesが主となりワイナリーを運営している。純粋なもの造りへの飽くなき探究心のもと、最先端の革新的製造技術、自然への愛情により、ワインを芸術的な領域にまで高めている。そして醸造から瓶詰めまでの作業には細心の注意をはらいつつも、あまり介入はしないという主義。またSDGsが騒がれる遥か以前から、サステイナブルなワイン造りに取り組んできたパイオニアでもある。

何より造られるワインを飲んで欲しい。この珠玉のワインはなんとラッキーなことに日本にも少量が輸入されている。



シャスラでも、プティット・アルヴィンでもないブドウ品種。


ジェルマニエは様々なブドウ品種を植えている。とりわけスイスワインを語る上でなくてはならないブドウ品種“シャスラ”は、当然ジェルマニエでも造っていて、もちろん飲んで欲しいワインではあるが、シャスラはあまりにも多くが語られているのでここでは割愛する。


前回のコラムで紹介した品種“プティット・アルヴィン”は、個人的にジェルマニエを代表するワインだと思っているので、もしまだの方はお試しいただきたいし、そのコラムも読んで欲しい。で、今回紹介したいのが“アミーニュAmigne”というブドウ品種。世界でも珍しい品種で、このはなしを皆さんにぜひ聞いて欲しい。




カメレオンのような品種?

このアミーニュはとても面白い品種。実は“カメレオン品種”と呼ばれている。ドライな辛口タイプから極めて甘いワインまで、変幻自在に味わいを表現することができるのだから。こうしたブドウ品種が他に何かあるのかって考えても、オーストリアの“グリューナー・ヴェルトリーナー”とか、あと少しくらいしか思いつかない。しかもこの品種、殆どココでしか造られていない。


アミーニュの全栽培面積は世界でわずか40ha強。極めて希少なブドウ品種で、ほぼすべてがスイスのヴァレー州にしかないのだとか。そのうちの約30haがヴェトロ村。これを栽培する生産者はほんの数軒で、その半分以上をジェルマニエが造っている。つまり、このブドウ最大の生産者ということだ。と同時に、アミーニュの発展に尽力した生産者だともいえる。



文献によれば、アミーニュは古代スイスの品種で、おそらくローマ人によってヴァレーに持ち込まれたとされていようだが、それほど注目をされることがなく今に至る。数件の生産者しかいないのだから、それもそのはずだ。ただここへ来て徐々に、ヴァレーの忘れられた地場品種の大切さを重視しようとする機運が高まっているとも聞く。そんな中、地域の伝統を重んじるジェルマニエの理念と取り組みは、忘れかけられたこの地の歴史あるブドウ品種を再発見することに貢献してきた。アミーニュは、その最たる例といえる。


スイスには200を超える地場品種があるといわれ、多彩な個性をうみだすことに成功しているが、アミーニュはどうかというと、バラ房で通気性がよいため、腐ることなく樹の上にぶら下がったまま乾燥し、水分が抜けた状態を保ち、年を超えた1月まで収穫を待つこともしばしば。こんなに晩熟させる例は他になかなか無い。干し葡萄化したいわば“パスリヤージュ”のような状態(ヴァレーではflétrisフレトレ、枯れた、と呼ばれる)を作り、アルプスの強い日差しを浴びることで糖分が高まり、仕込まれたワインには複雑な芳香をもたらす。これをどのタイミングで収穫するかによって、出来上がったワインは面白いほど違ったスタイルに変幻するのだ。ここがアミーニュの真骨頂だと思う。



また最近のDNA検査では、シャンパーニュ地方の品種プティ・メリエPetit Meslierと密接に関連していることが明らかになっている。 これによりシャルドネの親グーエ・ブランGouais Blancの家族ということが判明した。




3つのタイプ

アミーニュは、さまざまな甘さのレベルでそれぞれ素晴らしいワインとなるが、2005年までは法的な表示の区別がなかった。 現在ヴェトロ村のアミーニュのラベルには蜜蜂(Abeilles=Bee)マークが示され、その蜜蜂マークの数で甘み(残留糖度)を示していることになっている。 それは3段階になっていて蜜蜂の数が多いほど甘くなる。


写真のように蜜蜂の数で甘みの度合いを表示


------------------------------------------- 甘み標記の基準は以下の通り

1 Abeilles(sec「辛口」)=残糖8g/L以下

2 Abeilles(moelleux「中甘口」)=残糖9〜25g/L

3 Abeilles(doux「極甘口」、またはfletris「枯れた」またはliquoreux「甘い」)=残糖25g/L以上

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Amigne de Vetroz Abeilles


生産者:Jean Rene Germanier / ジャン・ルネ・ジェルマニエ ワイン名:Amigne de Vetroz 2 Abeilles / アミーニュ・ド・ヴェトロ ・ドゥ・ザベイユ 葡萄品種:Amigne / アミーニュ ワインタイプ:白ワイン 生産国:スイス 生産地:Valais / ヴァレー州 インポーター:やまきゅういちスイスワイン 参考小売価格:¥4,400


今回ご紹介するワインは真ん中の“2 Abeilles”なので中甘口(微甘口)となる。収穫時期を違えることと、発酵をコントロールすることにより残糖の量を調整して甘みを決める。ジェルマニエのアミーニュは、ヴェトロの丘にある数区画のブドウ畑から収穫される。2 Abeilles のブドウは、糖度 100〜150°Oe(エクスレ) の間に収穫される。スチール製とステンレス製の槽で残糖度がおよそ 15g/l になるまでアルコール発酵され、その後瓶詰めまで、バトナージュを施されつつ、これらの槽の中で澱の上で熟成される。

樹にぶら下がったまま枯れる(乾燥し完熟する)ヴェトロのアミーニュの房


(ちなみに、ジェルマニエにおける辛口は、アミーニュ・ド・ヴェトロ グランクリュAmigne de Vetroz Grand Cruの名称でリリースされており、9 月の末にブドウの収穫が行われる。その後、コンクリート槽とステンレス槽で温度コントロールのもと、全ての糖分がアルコールに変換されるまで発酵される。

極甘口は“ミティス・アミーニュ・ド・ヴェトロ MITIS Amigne de Vétroz”という名称でリリースされており(日本未入荷)、糖度約 150°Oe に到達する 1 月まで、ブドウの樹にぶら下がったまましなびていくのを待つ。150°Oe はドイツTBAの基準くらい。それから残糖度が約 120 g/l になるまでアルコール発酵される)


写真のワインは“MITIS” 極甘口のワインで参考商品(日本未輸入)のハーフボトル



テイスティングノート

辛口のタイプはヴィンテージにより強い酸を感じる場合もあるが、紹介している“半甘口タイプ”にそれはなく、ある程度の酸があってもそれに相応しい甘みが覆ってくるためとてもバランスが良い。適度なコクがあってリッチ、丁度みりんのようなとろみ。

香りには完熟したネーブルやマルメロ、みかんの外皮、甘くなった洋梨のような香りと蜜っぽさ、あとは菩提樹の茶などがあったり、なんとも口溶けがよく、トロッとしたオイリーなテクスチャー、優しさと奥ゆかしさ(この辺りが実にヴァレーの白ワインぽい)、デリケートなタンニンが微かな苦みの余韻を伴う。



こんなワインのフードペアリングとして

最初に「日本人の舌に合う」と書いたけど、実際どういうことなのか?

まず日本食といっても幅が広すぎる。でもこのワインにはあまり鉄分を感じないため、その意味で日本の食材にマッチすると思っている。それに、口に含んだ時の柔らかさと中庸さも日本の家庭料理全般に上手く合ってくれるだろうし、昨今飲み手がドライ志向に向いている中で、こういった半甘口も逆に面白いと思っている。優しさと奥ゆかしさも日本の風土に根付いた料理に良いのでは。(最近驚いたことに一つに、CIVCシャンパーニュ委員会の報告で、日本で今急激に売り上げを伸ばしているのがドゥミ・セックなのだとか。一見日本人の志向が辛口に傾いているように見えるが、そういう面だけではないという表れともいえる。)


具体的には、肉じゃがみたいなのでもいいし、脂の乗った魚、米(ごはん)、みりんを使った料理、京風っぽい料理、揚げ物、スパイス系、中華系、などあげたら枚挙にいとまがない。

カツレツとかえびマヨ、それから豆腐(に塩をかけてオリーブオイル)にこのアミーニュをぜひ試して欲しい。意外に思えるフードペアリングとして納豆とか。何しろ汎用性の極めて高いワインであることは間違いがない。

もちろん日本食だけではないけど。。


どうでしょう?!

世界中にはその場所にしか何故か生息せず、プロも聞いたことがないような“地場品種”っていくらでもあるけど、その正体は、あまり特徴がないとか、一般に受け入れられにくい味すじだったり、そのうち忘れられる場合が殆ど。しかしアミーニュはどうか??


とても興味深い。


様々なタイプに変幻し、豊かで果実味に満ち溢れ、しかも人を虜にするようなアロマ。他の地場品種でここまで長く語りができるブドウ品種は殆ど思いつかない。



イキ(粋=活=生)なワインとは自分的に、

粋(イキ)=「イカしている」「BadassとかCool(ヤバイ,渋い,やんちゃな)」ワイン

活(イキ)=「活力のある」「活気に満ち溢れた」「活き活きとした」ワイン

生(イキ)=「生き生きとした」「生の」「今の」「旬の」情報またはワイン

のことをいう



<ソムリエプロフィール>

藤巻 暁 / Akira Fujimaki


1966 年、新潟生まれ。ワインバーを併設した東京 渋谷の東急百貨店本店<THE WINE>に て、ソムリエ兼カヴィストとして勤務。大学在学中からワインに魅せられ、世界のワイン 産地を周遊。その後飲食店やワインバーでの勤務を経て現職。現在は、東急百貨店と並行 し、ワインスクール講師、レストランのワインリストの作成、従業員の教育などコンサル タント業や、ワインイベントの企画などの活動をしている。