top of page

共鳴するシャンパーニュ

私には見えないものを感じたり証明する能力は全くありませんが、自分が良いと感じるものに出会った時、身体が共鳴するかのようにゾクゾクと鳥肌が立つことがあったりします。それは私の五感に働きかけ、鋭敏にし、ある種の恍惚とした幸せの感覚へと誘ってくれる素晴らしい瞬間ですが、それはとても儚く、一度経験してしまうと再度その感覚が同じ様に得られるとは限らないのです。


改めまして、乃木坂しんの飛田です。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。


こういう感覚の話しはとても伝えにくいのですが、皆さんだれもが経験したことのある、言ってしまえば「感動」という言葉になるのでしょうが、そこにも大小様々な感覚があるのではないかと思います。今回はそんな不思議な体験のお話を…。


昔、日本料理屋の立ち上げの為パリで働いていた時期があります。ある日シャンパーニュの生産者から、ランデヴーの問い合わせがありました。彼は日本のインポーターさんから紹介され、わざわざ連絡をくれたので、直ぐに約束をしました。

当時の私には彼のワインの情報はあまりなく、私は元来習うより感じよっていうタイプの人間ですので、特に前情報などは入れないで当日を迎えました。

当日現れた彼は屈託ない笑顔と物腰柔らかい口調でまずは飲んでみてと、様々なシャンパーニュを試飲させてくれました。



最初の一口からその素晴らしさを感じ、彼の話しとともに引き込まれていきました。

彼の名前は「Benoit Marguet(ブノワ・マルゲ)」


今や業界では知らない人はいないのでは、というぐらいに知名度を得た素晴らしい生産者だと思います。昨今その勢いも知名度も更に増してきていますが、当時からその片鱗はしっかりとあり、更なる理想への追求をした彼のワインにはそれらがしっかり現れているとティスティングして感じ取る事ができます。


そんな中から本日ご紹介したいシャンパーニュが、「 Cuvée Sapience 」です。



何を今更って思う方も多いかもしれませんが、私にとっては初めて何か不思議なシンパシーを感じたワインだったのです…。それは正にワインという飲み物の概念を飛び越して、エネルギーが身体の中に流れ込んでくる様な感覚でした。


その当時一緒に試飲していた場所は、日本建築を施した部屋だったのですが、周りの空気が震えるかのようにザワザワし、全身に鳥肌が立ったのを覚えています。こんな事ってあるのかなと自分でも信じられないほどの経験でした…。


すっかり気に入ってしまった私は、後日彼のワイナリーにもお邪魔し、その流れで「André Beaufort」も紹介いただくのですが、その話しはまた今度…。


話しは戻り、彼のワイナリーに訪れた際には一緒にランチもしましたが、その時には同じ感覚にはなれず、パリに戻ってからもお客様にお勧めして一緒に楽しませていただきましたが、素晴らしい味わいのシャンパーニュなのは間違いないのですが、そういった感覚にはやはりなれず、あれは私の勘違いなのかなと疑うようになってきていました…。


そこから歳月は流れ、大望の彼の初来日が決まり、再会することができました。

久しぶりに会った彼は、以前より更に静謐さを増し、ワインの話しを聞いているというよりは、修道僧から何か説法を聞いている様な感覚に陥るほどでした。



テイスティングが始まると、驚くことに、何と、そう、あの時と同じように大気がざわつき、体がゾクゾクし、鳥肌が立つあの感覚が戻ってきたのです。作り手を目の前にしたワインが、まるで生きているかのように共鳴し、活動を始め、活き活きとし始めたのではないかと思うほどでした。


そしてその瞬間に、私はテロワールという言葉の意味やビオディナミという概念を少しだけ理解できた様な感覚を得ることできました。マルゲの畑やセラーを訪れた際の景色がフラッシュバックのように思い出されましたし、以前の感覚を取り戻すことができました。そう考えるとやはり人も含めてテロワールなんだなと、実体験で感じることができたように思います。


もちろんこれは私の経験であり、何が正しいとかいうつもりもありません。


ただ、ワインってとても不思議な楽しい魅力的な飲み物なんだなあって、つくづく思うってそんなお話でした。


以降は、サピエンスを飲む度にやはりソワッとはするのですが、彼がいるときほどには感じることはもはやありません。


また、彼だけではなく素晴らしい生産者のフィロソフィーはいつも素材を大切に、やり過ぎないように注視し、1つ1つのディテールを丁寧に作り上げる料理の世界に相通ずるものがある様な気がしてならないのは私だけでしょうか。


そんな素晴らしい人、もの、こと、などをご紹介しいていけるように日々感じ、精進していきたいなと思う今日この頃でした。


最後までお読みいただきありがとうございました。




<ソムリエプロフィール>


飛田 泰秀 / Yasuhide Tobita

The Flying Stones LLC

乃木坂しん オーナーソムリエ


1974年東京都出身


19歳で単身渡英し習得した語学力をもとに、都内イタリアンレストランサービススタッフとして飲食業界でのキャリアを開始する。


2002年 東京・銀座フランス料理「オストラル」。 同店移転オープニング業務にも携わる。


2006年 オストラル閉店に伴い、南青山のフランス料理「ランベリー」開業。支配⼈として2年間レストラン開業準備から運営の経験を積む。


(在職中、ミシュランガイド東京2008にて1つ星)


退職後、各種レストランの開業運営コンサルタントとして携わり、その経験を活かし、フランス料理「ラ・ロシェル溜池山王」入社。シェフソムリエとして新店舗開業を成功へと導く。


2012 年 東京・銀座日本料理店(当時3つ星)に支配人兼シェフソムリエとして入社。グループのフランス・パリ店の開業に伴い渡仏。開業準備から営業オペレーションなど全ての礎を築く。(在職中1つ星)


2016 年 6 月 日本料理「乃木坂 しん」を開業し独立。オープンから半年でミシュランガイド東京2017において1つ星を獲得。以降現在まで1つ星を維持


様々なイベントの企画や開発、育成、ワインスクールでの指導など幅広く活動している。



<乃木坂しん>


東京は赤坂、乃木神社にほど近い赤坂通り沿いに、料理人である石田伸二氏とともに開店させた会席料理店。お料理に合わせたワインや日本酒とのペアリングコースも楽しめる。


ミシュランガイド東京において1つ星の日本料理店

bottom of page