受け継がれる志

近年、世界のレストランでは食事との相性を重視し、バリエーション豊かな楽しみを表現する“ペアリング”を提案するお店が増え、私自身も様々なお店で驚きや高揚感を楽しませて頂いております。


そのバリエーションという観点でワインについて考えると、生産地やブドウ品種の前に「色調」があり、従来の白、ロゼ、赤ワインに加えてオレンジワインというカテゴリーが認知され、果皮浸漬による豊かな味わいは重要な役割を果たしています。


イタリアにおけるオレンジワインの潮流は、北東イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州と、その東に隣接するスロヴェニアで古くから行われてきた醸造方法を、1990年代後半にヨスコ・グラヴネルが中心となり改良を重ねつつ、その理論や成果を惜しみなく同志に伝えることで広まっていきました。


グラブネルは今でこそオレンジワインのリーディング生産者として認知されていますが、大切な事はいかに健全で良いブドウを栽培し、その果実の力をどのようにワインとして表現するかを継続してきた生産者です。それは80年代に大樽熟成が主流だった頃に、いち早くバリック樽を導入して高品質ワイン造りに成功したことからもブドウ栽培とワイン造りの可能性に挑戦しつづける姿勢が窺えます。


その潮流の発祥地であるゴリツィア北エリアには、現在多くの名立たるオレンジワイン生産者が連なり、「オレンジワインロード」とも呼ばれるようになっています。


北側にある山地がアルプスの寒さを遮り、南からはアドリア海の潮風が到達する海と山、両方の影響を受ける個性的な環境で、土壌はこのエリアの特徴である「ポンカ」と呼ばれるマール(*1)と砂岩で構成されます。


*1:粘土と石灰が混合した土壌。泥灰土とも呼ばれる。


今回紹介したいのは、名高いワイナリーであるドラガの次期当主であり、そのエリアで若手NO.1として注目されているミトヤ・ミクルスの造るワインです。



生産者:Draga / ドラガ

ワイン名:Venezia Giulia Ribolla gialla Miklus /

ヴェネツィア・ジューリア リボッラ・ジャッラ ミクルス

葡萄品種:Ribolla gialla 100% / リボッラ・ジャッラ100%

ワインタイプ:オレンジワイン

生産国:イタリア

生産地:Friuli Venezia Giulia / フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア

ヴィンテージ:2015

インポーター:リリブ

参考小売価格:¥4,800


ドラガは1900年代初めにブドウ畑の耕作を始め、1950年頃までは小さなガレージワイナリーとしてバルクワインの販売と、のちに瓶詰めを始めます。その後1990年までに畑の購入やセラー建設などをしてワイナリーとして成長していきますが、この時期は前述したグラブネルなどがバリック熟成した高品質ワインを生産し、産地として注目を集め始めた頃と重なります。


この流れに追随するようにドラガも1997年からバリック樽熟成のワインを作り始め、近代的な設備を整えるなどの変化が生まれていきました。


現在、畑は標高200mの「ドラガ地区」と標高220m「ブレッグ地区」=グラブネルがブレッグワインを造る地区にあります。畑は草で覆われており、除草剤は使用しない、太陽光発電システムによるグリーンエネルギーを使用、雨水を最大限利用するなど環境への配慮を怠りません。


ドラガがバリック熟成を始めた時代に、今回のコラムの主人公である青年期のミトヤ・ミクルスは、祖父から薄濁りの発砲した飲み物を与えられていたようですが、もちろん当時の彼にそれが何なのかは理解できなかったようです。


その後、他のワイナリーなどでの研修を終える2005年にその祖父が数本のワインを家族とともに開けた時、その青年期の記憶は、金色に輝く果皮浸漬ワインと繋がったのでした。


その魅力の意味を理解したミトヤは、当時のドラガでは樽熟成はするものの、数日の果皮浸漬しかしていなかった中で、2週間の浸漬を試みることを許され、2006年にミクルスのリボッラ・ジャッラが誕生しました。


現行のワインは30日の果皮浸漬と開放樽での発酵、アカシアの小樽で48か月の熟成を経て出来上がります。


オレンジがかった黄金色に輝く鮮やかな色調のワインは、花梨やビワ、黄色い花のようなフローラルな香りが溢れ、上品なアカシアの香りが追随します。フルボディのしっかりとしたストラクチャーを持ちつつも、口当たりは滑らかで凝縮した果実味に圧倒されます。


ミッドからは芯のあるしなやかなミネラルとタンニンが調和していき、洗練された長いフィネスへと導かれていきます。


クリーンナチュラルのお手元のような味わいは、そのブドウの健全さや土壌の個性、彼の真摯なワイン造りの結晶と言えるでしょう。まだ発展途上にもあるので、数年後にどんなワインに変化するのかも楽しみです。


しっかりとした辛口でありながらも、エキス分の強い果実感とタンニンが調和することで生まれる、旨味たっぷりな甘苦さが味わいの特徴であり、ほんのりと甘さを感じさせるような食事との相性が期待できます。


フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州はハプスブルク文化の影響を受け、イタリアでは珍しく砂糖を料理に多用します。現地では甘いプラムやグラニュー糖、燻製したリコッタチーズを使ったパスタやポレンタと呼ばれるトウモロコシ粉を使った料理、モンタジオチーズと共に飲まれるでしょう。

料理にお砂糖を使うという発想から、みりんなどの程よい甘味が残る和食とのペアリングも試してみたいところです。


ヨスコ・グラヴネルが導いたオレンジワインの世界は、多くの生産者に受け継いがれており、今後はミトヤ・ミクルスのような若手醸造家が新たな世界を開くでしょう。

伝統や革新、原点回帰や新たなチャレンジなどが凝縮する今の時代に、ワインを楽しめることは最高の贅沢であり、毎年造られるワインを心待ちに出来ることを幸せに感じます。



<ソムリエプロフィール>

永瀬 喜洋 Yoshihiro Nagase

株式会社 クアトロヴィーニ 代表取締役


2001年 イタリアに渡り、レストランにてソムリエとして従事しながら20州のワイン生産者を訪ね見聞を広げ、2007年までの間に日本とイタリアを行き来し数々の新規レストラン立ち上げに参画。


2014 年  第8回イタリアワイン・ベストソムリエコンクール(JETCUP) 優勝


駐日イタリア大使館公認 イタリアワイン大使 拝命


2018年  株式会社 クアトロヴィーニ設立


2019 年  Italian International Indigena Center Piemonte Specialist 資格取得