ソムリエ朝倉達也です。
フリーランスとして独立をし、自らの会社を設立してちょうど1年が経った。
いざ自身で始めると今まで知らなかった事が本当に多いことに気が付いて、まだまだ至らぬ点は多いながらも独立して良かったと感じている。
私は関西在住なので、主な活動は関西圏がベースにはなるのだが、去年は石川県の新規開業のオーベルジュの監修にしっかりと携わっており、月の半分は北陸に行く生活となっていた。
それ以外にも、プライベートブランドのワインを造るプロジェクトのディレクションをしていたので、山形や奈良にも足を伸ばすこともあり、色々な土地の伝統文化や地酒、郷土料理に触れて改めて自国のことをもっと知らなければと思うきっかけにもなった。
私は関西に移り住んで10年以上になるが、この機会に地方のワイン市場にて感じたことを共有してみようと思う。
大きく分けると以下の点について考えさせられた。
◎モノがない
単純な在庫の種類。都市部ほど様々なジャンルの業態がないせいか、カクテル商材やリキュール、ミネラルウォーターなども取り寄せばかり。 発注者側の飲食店もあるものでやるというスタンスであるのか、真新しいものを必要としないのかは不明だが、結局は都市部から取り寄せたりする形が多くなった。
◎スピード感
そのエリア内の酒販店であっても地方であれば配送範囲が距離的な問題によりこの曜日にしか来れない、とか前日夕方までしかオーダーできないなど、心理的でなく物理的な距離感。
モノによってはamazonが速さを上回る場合もあった。
◎リスク
昨年の夏は北陸に歴史的な豪雨があり、私も陸路を封鎖されて北陸は関西~東京~長野経由の金沢入りのルートを取らざるを得なくなったが、その後半月は関西からの陸路は全て信州越えのルートのみ。運輸会社の営業所が水没したため、自身で営業所にモノを取りに行くケースもあった。
◎逆手を取ればブルーオーシャン
上記のようなアドバンテージもあるが、逆手を取れば真新しい事や今までにない商材を求めてるクライアントがいれば、まるまる囲い込めるということ。
たまたま某地方の店でワインリストを見ながら、ダメもとで「ナチュラルワインはありませんか?」と尋ねた所、オーナーが喜びながらリスト外のワインを色々持ってきて、「地方では売れないけど、自分は大好きなんです」と、色々おススメしてくれた。
それからはその地方に行ったときはその店にしか行かなくなったし、自分のお客様もその店を案内するようになった。
もちろん新規開業案件だったので、地元酒販店との繋がりを時間をかけて構築してゆくことで、ある程度の融通を効かせてくれるのは百も承知なのだが、開業コンサルという現場スタッフとは異なる立場上、初動である程度の結果を示さないといけないので、この部分が今後地方で仕事をしてゆくソムリエには問題のひとつになるのではないだろうか。
逆に言えばこの点をクリア出来るパートナーが見つかったり、クリアする術を心得ると、よりスムーズに仕事もできるし依頼主にも満足してもらえるのではないだろうか。
最終的には「地方でこそワイン飲もう」みたいな形で、都市部にはないような尖ってニッチなお店が地方に増えてくれば、そこはワインファンの新しい旅の目的地にもなるかもしれない。
今回紹介するワインは、著名なワイン産地に挟まれたニッチな産地から届いたワインです。
ワイン名:Tout Compte Fait
国名:フランス
地域:タルタラス(ローダニエンヌ)
生産者:ピエール・アンドレ&アンヌ・デプロード
収穫年:2021年
輸入元:R the wine shop
小売価格:3,500円
コトー・デュ・リヨネなどが生産されるリヨン南部と北ローヌ北部の間の飛び地、ローダニエンヌのタルタラスという地域の小さなワイナリー。
著名産地でいうとコートロティの急斜面を越え、丘を越えたその西側とでも言っておこう。
分類でいうとIGPコリーヌ・ローダニエンヌに属するワイン。
このエリアではブルゴーニュとローヌの間という事もあり、両方のブドウが植えられている。
このTout Compte Faitというキュヴェは、ピノ・ノワールを主体に僅かなシラーをブレンドしたもの。
シラーはLa Syrahと形容されるように実は女性的な性格(La はフランス語で女性名詞単数に用いられる)なので、ピノ・ノワールとブレンドした際はなんとも色気のある味わいとなり、実際このワインも3日目にピノ・ノワールの愛らしい香りと、余韻にかけてシラーらしい詰まった味わいが妖艶に表現されており、絶妙な味わいに変化した。是非3日目のこの味わいを体験してほしい。
他にもガメイ100%の赤や、シャルドネとヴィオニエのブレンド、ジャケールとルーサンヌのブレンド(共に白)なども生産している。
もちろん都市部で著名なワインを飲むのもいいのだが、ちょっと離れた地方に行くと面白いワイナリーを発見できることもある。
それが地方に行く楽しみでもあり、このワイナリーのように日本初輸入のワイナリーは、ひょんなことから自社ワインを国外に輸出するきっかけになったりもする。
都会は都会、地方は地方、それぞれの素晴らしさを発見して、「その為にそこに行く価値」を、それぞれの場所で見いだせたらどんなに素晴らしい事だろう。
今年はどんな知らない場所で仕事ができるのか。
そう思うと楽しみでならない。
<プロフィール>
朝倉 達也 / Tatsuya Asakura
1986年鹿児島県出身
株式会社La Lune代表
ASI 認定Diploma JSA認定ソムリエ・エクセレンス WSET Level 3 Napa Valley Wine Japan Expert
15歳で料理人として飲食業界のキャリアをスタート。
様々なジャンルで修行を重ね、20歳でバーテンダーに転向。
接客業に天職を見出し、22歳でソムリエ資格を所得しフランス料理業界へ。
関西のグランメゾンで研鑽を重ね26歳でシニアソムリエ(現ソムリエエクセレンス)を取得。
コロナ渦でASI Diplomaを取得したのち
ソムリエの新しい働き方を求め株式会社La Luneを設立。フリーランスとなる。
現在は関西を中心にソムリエ不在の飲食店のコンサルティング、スタッフ教育、
ワイン商社のウェブサイトでのコラム執筆やワインセット監修などを行っている。
2022年7月に開業した石川県小松市のAuberge eaufeuにてビバレッジディレクターを勤め、国内外のフーディーから高い評価を得ている。
独自のメソッドに基づいたペアリングを得意としている。
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