固定概念を壊して自由を得る

緊急事態宣言の真っ只中、皆さま如何お過ごしだろうか?

宣言の対象である兵庫県で働く私にとって、まさか自分が「禁酒法」のような状況下になるなんて思ってもみなかった。 SommTimesの他の執筆者でも触れてる方は多いが、まさしくソムリエ職務の在り方そのものを考え直す機会だとつくづく感じる。 僕自身も1年前の最初の緊急事態宣言下で、「業界の流れは止めるべきではない」と思い様々なインポーターのアイテムをテイスティングし、コメントをセールスに使って頂いたり、eコマースでの家飲みワインセット商品の選定をさせて頂いたりと、その時思いつく限りの色んなアクションを起こした。 その時私は初めて、エンドユーザーの顔が見えないサービスの提供はとても難しいものだと感じた。 なぜならレストランの現場では完成された料理が目の前に存在し、自分の思い描く温度や状態のワインが直接提供できる。当然、顧客へのダイレクト性が高いためレスポンスが速く、何か問題があったとしてもチューニングがし易い。 けれども家飲みのシチュエーションでの提案だと、レストランとは異なり料理や温度管理も難しいし、そもそも各家庭にどんなグラスウェアがあるかも分からない。 「発信」という手段に対して以前より世間の興味が向いている分、これは自分にとっての良いチャンスだったと思うが、その反面、より家飲みに寄り添ったプロのソムリエとしてのリコメンドする力を磨かなければいけないと思った。 そこで以下の2つの項目をより深く考察しようと思い立った。

①料理とワイン ②己の舌の感度をより上げる この2点である。

料理とワイン

非常に悩ましいところで、頭にこびり付いた固定概念というものが本当に邪魔をする。 例としては多くのワインの教科書に載っている「その土地の料理とその土地のワイン」というのが、正にそれにあたる。 例えばオリーブオイルを使った料理に、冷涼な北の産地のワインを選ばない、というような慣習を、産地特性の知識として覚え、それをお薦めに活かすのは勿論大切なのだが、料理名とワインの丸暗記だけのとして蓄えるのは、避けるべきと僕は考えている。

そうしないと今日多くのWEBで書かれているような、キャンティには反射的にTボーンステーキ、ジンファンデルにはBBQ、ブルゴーニュにはハムとパセリのゼリー寄せ、という様な現状になる。

これは海外のソムリエが日本酒をテイスティングして「スシとサシミに合う」と言うようなものだが、我々日本人は皆全て日本酒と共に寿司と刺身を毎日食べているのか?どこの家庭にハムとパセリのゼリー寄せがあるのか?といったリアルな状況とは、完全な矛盾が生じてくる。

「その土地の料理とワイン」というのは、「その土地の気候や風土、農業に由来し伝統的に共に供されてきた組み合わせの例」としてソムリエは認識するべきである。

そして家庭の食卓におけるワイン提案を想定するならば、ソムリエは(伝統的組み合わせに限らず)口にする全てのものとワインの相性を、常に考えなければならないと思う。 料理とのペアリングの要素などは編集長である梁ソムリエが詳しく執筆なさってるので此処では触れないでおく。

己の舌の感度をより上げる

30代半ばに差し掛かる自らの健康を考慮した事もあるのだが、より深くワインの味わいや本質やキャラクターを捉えるためには、自らの舌の感度をさらに磨かなければならないと思ったので、週に2日の塩分を全く使用しない料理の導入と、可能な限りのうま味調味料(かつては化学調味料と呼ばれていた)の排除を行なった。

もちろんリステリン等のマウスウォッシュやフリスクなども絶った。

ヒトが味わいを感じる味蕾という舌の器官は、10日で新しいものに生まれ変わるとされ、初めは物足りなく思えた新しい試みの食生活も次第に楽しめるようになり、ミネラルウォーターや米の繊細な甘味などの微妙な違いが、判断できるようになってきた。 ワインの味わいもより細かい構造を捉えられるようになってきたので、引き続き継続してゆきたい。 発信力が大切になってくるこの時代だからこそ、プロのレコメンドとしてのその根拠と裏付けを取れるように、自分なりのロジック構築、ペアリングの成功と失敗による経験値の蓄積を怠らず行って、より自分らしいレコメンドを行えるようになりたいと改めて感じた。



固定概念を打ち破ったワイン

ワイン名:Bordeaux Blanc C de Sec 2018 ワイナリー:Chatau Closiot 生産地域:フランス・ボルドー地方・バルサック村 ブドウ品種:セミヨン80%、ミュスカデル、ソーヴィニヨン・ブラン インポーター:テラヴェール 今回紹介するこのワインも、正に固定概念を打ち破ったワインであろう。 生産者はブルゴーニュの鬼才、ジャン・マリー・ギュファン。 2016年にこのシャトーを購入して、天候の関係上この2018年ヴィンテージがファーストリリースのワイン。 現代のモダンなスタイルとも言える、ソーヴィニヨン・ブラン7割、セミヨン3割でフレッシュさを売りにするタイプではなく、セミヨンを完熟させ、伝統的なミュスカデルを加えつつもボルドーでは珍しいMLF(乳酸発酵)を行なっている。そして無濾過。

甘夏や水仙のようなチャーミングで小ぶりの花の香りに、MLF由来によるつるんとしたテクスチャーがあり、口内に含むと綺麗な球体が描かれる。 バルサック村は石灰岩があるのでワイン自体の芯が強く、主菜にも合わすことのできる味わい。 豚肉をたっぷりの新生姜と共にバターでソテーしてレモン汁を絞ったような簡単な家庭料理でもしっかり楽しめる。



今回私は初めての寄稿だったが、今後も皆様にとって有益で面白味のある内容にできたらと思っている。

<ソムリエプロフィール>

朝倉 達也/ Tatsuya Asakura


1986年生まれ鹿児島県出身


Maison de Taka Ashiyaシェフソムリエ

ASI 認定Diploma

JSA認定ソムリエ・エクセレンス

WSET Level 3

第3回ソムリエスカラシップ優秀賞受賞

第9回全日本最優秀ソムリエコンクール本戦出場


15歳で料理人として飲食業界に入り20歳を機に接客へ転向。

22歳でソムリエ資格を取得しLE PONT DE CIEL(大阪・一つ星)でソムリエ職務の基礎を学ぶ。

GEORGE BLANC(マコン・三つ星)やGUY LASSAUSAIE(シャスレー・一つ星)などのフランスの星付きでも研修を重ね、

2013年より現職。




Maison de Taka Ashiya

兵庫県芦屋市にある邸宅レストラン。

2007年にフランス・ルーアンの2つ星であるGillの姉妹店としてオープン。

現在はエクセブティブ・シェフである高山英紀の名を冠したレストランに改名。

地元の食材や日本の作家とのコラボレーションをコンセプトにし、

長年地元の顧客を中心に愛されている。

高山英紀はボキューズ・ドール国際料理コンクールで二度の日本代表の経験もある。

高山を始め、メートル・ドテルの今村昭彦は『メートル・ド・セルヴィス杯』準優勝、料理人の糸井章太は

次世代の料理人を発掘するプログラムである『RED 35』にて最年少でRED EGGのタイトルを獲得するなど

関西でも屈指の実力派が集まるレストランである。