歴史を楽しむ

長い新型コロナ禍で外食の機会が減る中で、読書をする時間が増えている方もとても多いと思います。

ワインはやはり気のおけない仲間たちと飲むのが一番美味しいですが、自分も一人飲みがだいぶ増えました。元々読書をしながらお酒を飲むことが多かったので、あまり苦にはなってませんが、早く日常を取り戻したいですね。


というわけで今回はちょっと違う角度から、ワインのご紹介をしたいと思います。


皆様はワインが好きになったきっかけはなんでしょうか。

自分は両親の跡を継いでいるので、自然と好きになりましたが、元々歴史が大好きでしたのでワインを通じて歴史を調べることがとても楽しく感じます。


壮大な歴史のロマンに想いを馳せながら、長い年月の歴史をもつワインを飲む時が最高に贅沢で楽しい時間です。そして自分の大好きなポムロールのワインを、歴史を通じてご紹介できたら面白いだろうなと思いまして、今回のテーマは『歴史を楽しむ』にしました。 


ご存じの通り、ポムロールはボルドーの偉大な産地であり、非常に希少性が高いワインが生まれます。


『ペトリュス』やシンデレラワインと言われた『ル・パン』など、非常に高価で神話的なワインが多数生まれています。


あまりにも有名なこの地域のワインを今回あえて取り上げるのは、ポムロールにまつわる歴史がとても面白いからなのです。

 

ワインの歴史を語るにはキリスト教の存在が欠かせませんが、御多分に洩れず、ポムロールもキリスト教の影響がとても強いです。


ワイナリー名を見てみると、実はポムロールには宗教的なワイン名が沢山見受けられます。


レヴァンジル・・・・・福音

ロスピタル・・・・・病院

ドメーヌ・ド・レグリーズ・・・・・教会

ル・ボン・パストゥール・・・・善き司祭

オスピタレ・・・・・ 病院(聖エルサレム騎士団の役割)

ペトリュス・・・・・聖ペテロ。天国に渡る最後の鍵をもつ使徒


より間接的な例ですと、トロタノワはtros ennuyeux という言葉が語源で、「とっても耕すのが厄介」という意味になります。


セルタンはポルトガル語に由来し、「砂漠」という意味があります。土壌が極度に痩せていて、作物が育ちにくいところからきています。


ブルゴーニュのシトー派でもそうですが、厳格、勤労をモットーとする修道会は、このようなところを開墾することが修行の一環だったと思われますので、トロタノワやセルタンのような例もあります。


ちなみに、ポムロールは『ポム(りんご)=種のある果実』からきています。


痩せた大地に葡萄畑が広がった頃に、このような名前が付けられたのでしょう。



巡礼の宿泊地

スペインにある『Saint-Jacques des Compostella 』(サンチアゴ・デ・コンポステーラの巡礼地)のことを皆様方はご存じでしょうか。


キリスト教の聖地であり『ローマ』、『エルサレム』と並んで、<3大巡礼地>に数えられています。


サンチアゴは9世紀に12使徒の一人である聖ヤコブの遺骸が発見されたとして、大聖堂が建立され、巡礼の地となりました。


当時ポムロールは、この巡礼の途中の宿泊地でした。


この地には、『聖ヨハネ騎士団』Hospitaliers de Saint-Jean de Jérusalem>が大きく関わっています。


聖ヨハネ騎士団は1023年ごろ、アマルフィ商人がエルサレムの聖ヨハネ修道院の後に病院を兼ねた巡礼宿泊地から始まります。第1回十字軍の後、騎士修道会として当時の教皇から正式な承認を受け、軍事的要素の強い団体となりました。


この騎士団はホスピタル騎士団とも呼ばれ、騎士たちは医療奉仕の義務があり、病院や治療も兼ねた宿泊施設を多く運営していました。


ポムロールにも聖ヨハネ騎士団が運営する宿泊施設があったので、先ほど記載したように、現在のワイナリーに由来するネーミングが多数見受けられます。

 

ちなみに3大宗教騎士団と言われるものが、『テンプル騎士団』『ドイツ騎士団』、そして『聖ヨハネ騎士団』です。


テンプル騎士団は20年前の映画ですが、ダン・ブラウン原作の『ダヴィンチコード』で名前が多く取り上げられたのが思い出されます。


テンプル騎士団は最古の銀行システムを作り上げ、王侯貴族相手に取引をして国際的銀行として莫大な富を築き上げました。しかし14世紀初頭その富の集中に目を向けたフランス王フィリップ4世に異端扱いをされ、一斉弾圧が行われました。その日が10月13日の金曜日であり、あの13日の金曜日の由来とも言われています。

 

その異端審問の認可をした法王はクレメンス5世。初代アヴィニョンの教皇(アヴィニョン捕囚)であり、シャトーヌフ・デュ・パープ(*)の名前の由来の方です。もともとボルドー大司教でしたので、ボルドーのペサック・レオニャンの素晴らしいワイナリー『パプ・クレマン』の由来でもあります。


(*)パプは法王を意味します。シャトーヌフは新しい城。クレメンス5世の後任のヨハネ22世がアヴィニョンに住居を兼ねた要塞を作り上げました。


フィリップ4世によるテンプル騎士団への弾圧により、その資産は聖ヨハネ騎士団へと移行されます。シャトーヌフ・デュ・パープの畑も元々はテンプル騎士団の持ち物が多く、ヨハネ22世はカオールから大勢の醸造家を移住させ、ワイン作りを奨励させたと言います。




マルタ騎士団 

聖ヨハネ騎士団に話を戻します。


テンプル騎士団亡き後、聖ヨハネ騎士団はイスラム教徒と戦う唯一の騎士修道会となりましたが、16世紀にオスマン帝国の来襲を受け、マルタ島に本拠地を移しました。この頃から、『マルタ騎士団』と呼ばれるようになります。


マルタ島でもオスマン帝国との闘いは繰り広げられ、オスマン帝国に初めての敗戦をもたらしたマルタ包囲戦やレパントの海戦での勝利に、マルタ騎士団は多くの重要な役割を果たしました。


ちなみにこのレパントの戦いにドンキホーテの作者、ミゲル・デ・セルヴァンテスが参加しています。ドンキホーテは、この戦いで捕虜になった体験から生まれた作品です。

その後の宗教改革やナポレオン・ボナパルトの影響により、その力は失われて行きましたが、1822年のヴェローナ会議で承認され、『領土なき国家』として今も活動しています。


現在の正式名称は『エルサレム、ロードス島およびマルタにおける聖ヨハネ主権軍事病院騎士修道会』であり、国際慈善団体として活動しています。



マルタ十字 

ポムロールではワイナリーの紋章に「正十字」がとっても多いのに気付かされます。

これは『マルタ十字』と呼ばれるもので、聖エルサレム騎士団の紋章です。

4つのVの形が組み合わされ、8つの角を持ちます。

これは騎士道における8つの美徳を意味します。


1忠誠心

2敬

3率直

4勇敢

5名誉

6死を恐れない

7弱者への庇護

8教会への敬意



ドメーヌ・ド・レグリーズ

ワイン:Domaine de l’Eglise  ドメーヌ・ド・レグリーズ

産地:Bordeaux Pomerol 地区

品種:Merlot 95% Cabernet Franc 5%

輸入元:多数 今回はJALUX

価格:約7,000円



今回ご紹介する『ドメーヌ・ド・レグリーズ』のラベルは、まさしく『マルタ十字です』


フランス語で教会を意味する『レグリーズ』の名をもつこのシャトーは、1589年設立のワイナリーで、ポムロールでも歴史が一番古く、かつてはハンセン病患者を受け入れていた病院であったと言われています。

もちろん、聖エルサレム騎士団が作り上げた病院です。


現在はカステジャ家が所有し、7ヘクタールの畑から約2500ケースのワインが作られています。


土壌は粘土質で表面を砂利が覆っており、やや砂質。またクラス・ド・フェールと呼ばれる鉄の酸化物が土壌に含まれており、ワインに力強さを与えています。


ここのワインは他の年も含めて、ミディアムボディ。

色は濃くなく、繊細でしなやかなワイン。若いうちから楽しめて、長期熟成にも向いていて、ヴィンテージから20年前後がベストに思えます。

重心も軽く、複雑なブーケがとても楽しめます。

値段もこの地にしては抑えられていて、クオリティを考えるととてもお買い得です。


2011年ヴィンテージは、少しオレンジがかったガーネットの色調。やはり、この地域としては色が濃くない。

プルーン、カカオ、クローヴ、シナモンの香りから、スワリングするとアッサムティー、シガー、ドライセージ、トリュフの香りが出始める。

ミディアムボディで滑らか。適度な酸があり品がある。まだ細やかなタンニンを感じるが、それが溶け込んだ時がピークになる。余韻は9秒。


2011年は古典的な存在感が魅力のヴィンテージなので、『仔牛のヒレ肉のソテー』、『牛頬の赤ワイン煮込み ポルトソース』など、フレンチクラシックの料理が合うでしょう。

北京ダックや、焼き肉のハラミなども合いそうです。

 

あまりにも王道すぎる地域のワインですので、皆様には驚きのある味わいのワインではありませんが、やはり王道の風格を感じられます。いつ飲んでも安心できる素晴らしいクオリティで、渋谷にある当店でも大勢の方に愛されています。騎士道における8つの美徳が込められているワインなのかもしれません。


ポムロールがワイン産地として発展していった歴史はまた別の機会にさせて頂くとしまして、今回はワインを通じて歴史を楽しんでもらう記事にさせていただきました。


一つのワイン産地でこれだけの歴史が詰まっているのは、とても興味深いことなのではないでしょうか。



<ソムリエプロフィール>

加藤 重信 

IZAKAYA VIN 代表 


家族の影響で幼少の頃よりワイン文化に触れ、1999年にフランスに滞在。

毎日のようにワイナリーをめぐる。

渋谷で唯一のシャンパンバーや恵比寿にワインバーを立ち上げ、現在はIZAKAYA VINの代表に就任。