ワインとコーヒーの考察 ②

前回のコラムでは"Specialty Coffee"と"時代の変遷"に関して記しましたが、"フレーバーホイール"を中心に

コーヒーとワインがいかに近しいものかに関して考察していければと思っています。

皆さんはワインをどのように表現していますでしょうか?

ソムリエの教本やワインセミナー含め、外観、香り、味わい、総評と進んでいく中で、香りの部分にフォーカスする事が非常に多いのではないでしょうか?

研鑽を積んでいくにつれて、表現の方法も変わっていくと思いますが、 根幹の指標となる“物”に関しては、多くの人が"アロマホイール"から引用していると思います。


◆ フレーバーホイールとアロマホイール

では、コーヒーとワインの香りに関して、少し紐解いていきたいと思います。

まずはコーヒーの指標となるフレーバーホイールから。

フレーバーホイール(Coffee Taster’s Flavor Wheel)は、コーヒーの風味を厳密に表現するために1995年に初めて作成されました。

現在、使用されているのは2016年に改訂されたもので、コーヒーの風味を表すこと細かく表す指標として、アメリカのスペシャルティ・コーヒー協会(S.C.A.A)と世界コーヒー研究所(WCR)が共同で作成したものです。


円の中心には、「フローラル」「フルーティー」「スパイス」「ナッティ・ココア」など大まかに9項目に分れており、円の外側になるにつれて、その9項目毎の風味の特徴がより細かく表現されていきます。


フローラル

フルーティー

スパイス

ナッティ・ココア

甘味

酸味/発酵

野菜

香辛料

ロースト

その他


ワインで言うところの香りの第一印象は、「フローラル」「フルーティー」に起因し、香りの第二印象は「スパイス」「香辛料」「ナッティ・ココア」。味わいは「甘味」と「酸味/発酵」。

そして「野菜」「ロースト」「その他」に含まれるのが、ワインで言うところのブショネを含めた欠陥臭を表します。


実は、ワインではネガティブな表現であっても、コーヒーでは“個性”と捉えて表現が出来ます。

一番の違いは“火入れ”の部分であり、生豆を生かすも殺すもロースター次第。その”ロースト”の具合によって引き出されるアロマが変わってくるので、抽出された1杯のコーヒーという液体に向き合い、フラットな気持ちで評価をする事が重要になってきます。


ワイン(他の蒸留酒や醸造酒)に比べてテクニカルシートのような先入観や答え合わせがない分、一般消費者がすべてを理解する事は困難ではありますが、1つの参考資料として使用していただければと思います。







◆ コーヒーとワインの共通項

では、次にコーヒーとワインの近しい部分に関してみていきましょう。

コーヒーとワインの共通項は、安易に「嗜好品だから」という理由だけではありません。

多くの人を魅了する2つの飲み物には、数多くの共通項があります。

改めて文字に起こしてみると、「なるほどね」と共感していただけるのではないでしょうか。

① “果実”から作られる飲み物

そもそもコーヒーとは、”コーヒーノキ”という樹から採れる種子(生豆)を焙煎、抽出したものです。

コーヒーノキは、約2~3年でジャスミンのような香りのする白い花をつけ、受粉後、数か月で実が大きくなり、最初は固く緑色だった実が次第に熟して真っ赤に変貌を遂げていきます。

この熟れた実は、色や形がサクランボに似ていることから“コーヒーチェリー“と呼ばれ、 このコーヒーチェリーの中に入っている種子がコーヒーの生豆の部分です。


実際、"ナチュラル"と呼ばれるコーヒーチェリーに果肉が付いた状態で乾燥させる伝統的な精製があります。

これはミューシレージという粘液質を残したまま乾燥させる手法で、熟した果実の甘さがダイレクトに伝わる為、香りと味わいにも複雑な風味と個性を与えます。実際、限られた地域でしか行われていませんが、非常に秀逸なコーヒーに出会う可能性が高いともいえるでしょう。


② 産地やテロワールといった環境に影響される

テロワール

元々は世界最高峰のワイン生産地であるブルゴーニュで生まれた概念で、フランス語で大地を意味する「TERRE テール」、もっとさかのぼるとラテン語で領地を意味する「Territorium テリトリウム」が語源となっている事はワイン業界ではよく知られた事です。

ブルゴーニュは長年にわたる地殻変動や気象変化によって岩石が浸食や崩壊を繰り返した結果、「ほんの数メートル離れた隣の畑でもワインの味わいが異なる」といわれ、ブドウがどのような環境で育ったか=テロワールという考え方は、その後ほかのワイン生産地や農作物にも拡がっていきました。


なぜ、ワインの世界では「テロワール」という考え方が重要視されるのでしょうか。

それはワインがテロワールの影響を非常に受けやすい醸造酒だからです。

ほかの醸造酒、例えば日本酒やビールの場合、原料である米や大麦をそのままアルコール発酵させることはできません。 米や大麦に含まれるデンプン質を酵母の力で糖分に変え、その糖分をアルコール発酵させるという「2段階」の工程が必要となります。


一方、ワインの場合はブドウに含まれる糖分を「そのまま」アルコール発酵させることができるのです。

工程が少ないので楽なように思われるかもしれませんが、ブドウの善し悪しがそのままダイレクトにワインの出来不出来に直結してしまうため、テロワールという概念が非常に重要となってきます。

それでは、コーヒーはどうでしょうか。

実はコーヒーのテロワール(生育環境)は「何が優れていれば、品質の良いコーヒーになるのか。」

という問いに関して、ワインほど解明がされていません。

勾配、風向き、土壌、天候、どの条件が豆の成分のどの部分に具体的な影響を与えるのかということは、未だはっきりとわかっていないのです。

ただ、解明されていないだけでテロワールがコーヒーに与える影響はものすごく大きいのです。ワインとは違い個人的な嗜好の枠にテロワールが直接結びついている訳ではありませんが、豆本来のアロマを引き出すための最適な道筋を見つけ出すためには、不可欠な前提条件となっています。


ワインベルトとコーヒーベルト

では、どのような気候条件がこの2つの飲み物には必要なのでしょうか。

まず、ワイン用ブドウの多くの品種に適しているとされる気候条件は以下の通りです。

・年間の平均気温が10~20度

・ブドウの栽培において発芽から成熟に必要な日照時間が1000~1500時間

・年間降雨量が500~900ミリ

・水はけの良い土地

この条件を満たしている場所が、ブドウ栽培において適した環境となっています。

ワインベルトとはこのブドウの栽培に適した地域を表したもので、具体的には北半球は北緯30~50度、南半球は南緯20~40度の緯度帯のことを言います。

北半球のワインベルトには、フランス、イタリアをはじめとしたワイン大国の他に、カナダやアメリカ、そして日本などが含まれます。南半球のワインベルトにはチリ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどのいわゆるニューワールドと呼ばれる産地が含まれます。

これらの地域は、気温や日照時間、年間降雨量をはじめとした、高品質なブドウを育てるにあたって重要な条件がそろっているのです。

同じく、コーヒーの栽培に関して適しているとされる気候条件をまとめると、

・肥沃で水はけがよい。

・有機物を多く含んだ火山岩質などの土壌

・年間を通じて平均した気温(20℃前後)

・1,200~3,000mm程度の年間降水量が望ましい。 ・適度な日照と寒暖差が必要

が必要となります。

ちょうどワインベルトの隙間である、“赤道”を挟んで南北緯約25度の間の地域にはこれらの条件を満たすところが多く、生産地が集中していることから、この一帯を“コーヒーベルト”と呼んでいます。

赤道直下ということで暑い国々を連想しますが、この地域の中でも特に山間部でコーヒーノキは育てられています。

山間部の高地で造られることによって、昼夜での気温差が大きくなり、質の高いコーヒー豆の収穫に繋がるのです。

現在、地球温暖化の影響もあり、ワイン産地はこの限りではなくなってきましたが、1つの目安として指標をもつことは大切な事です。 ワインとコーヒー、どちらにおいても生産地域には気候などの条件があり、さらに地域の個性が味わいに大きく影響することが共通点として挙げられるのではないでしょうか?


③ 造り手を選択する時代

ワインの善し悪しはヴィンテージだけでは、判断が出来ません。

実際、オフヴィンテージと言われるワインに厳しい年であっても、手腕によって素晴らしいワインに仕上げる造り手は数多くいます。

私たちは自分で選択をし、セラーにはお気に入りの生産者のワインを入れて「今か今か」と飲む日を待ちわびているのではないでしょうか笑。


コーヒーもCOE(カップ・オブ・エクセレンス)が導入されて以降、生豆を生産する農園毎に評価をされる時代になりました。今を牽引しているサードウェーブの波が、消費者にも"シングルオリジン"という名称で伝えられ、いわゆるブレンドではない特定の地域・原産地のみで栽培されたコーヒーを楽しむ事が出来ます。

勿論、今までもシングルオリジンの概念はありましたが、ブレンドがその店を決めると言っても過言ではなかったので、このように多くの場所で、様々なコーヒーを選べるようになった事は時代の変遷がなしえた所業です。


④ 知識と経験によってより豊かな体験が出来る

これはどの世界にも通じる事かもしれませんが、間違いなく"知らないよりも知っている"方が豊かな体験が出来ます。特に飲料に関しては共通する部分が多く、新しい発見や気づき等、より深い部分を知る事で満たされる事は多いはずです。是非、コーヒーの世界にも足を踏み入れ、経験値を増やしていってください。

いかがでしたでしょうか?


少々専門的な部分にも踏み込んでみましたが、ワインと近しいコーヒーの世界に少しでも興味をもってもらえれば私としては御の字です。


是非、お気に入りのカフェを見つけ様々なコーヒーに触れてみてください。

普段何気なく飲んでいたコーヒーかもしれませんが、"新しい発見"があなたの人生をより豊かにするはずです。





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さて、最後にワインの紹介とフードペアリングのお話しを。

コーヒーにはなかなかフードペアリングをしているところが少なく、悲しいところではあります。


ということで、今回は、一つのデザートに対してワインとコーヒーを提案してみたいと思います。



デザート : Tarte Tatin / タルト・タタン

パティスリー : Le passe the / ル・パス・テ

説明 : フランスで生まれた伝統的なリンゴのお菓子。タルト・タタンで使うリンゴは、アップルパイに使うリンゴよりも大きくカットされており、じっくりと煮込まれ飴色に輝いている。


合わせるワインは五一ワインの"貴腐 - Kifu"です。

日本で生産される貴腐ワインの中で、品質、味わい共にトップレベルであると確信している安定感のある1本。


今回合わせたものは2001年〜2006年のアッサンブラージュ。

よどみのない綺麗に澄んだ琥珀色。

リンゴの蜜、カスタード、パン・ド・エピスといった甘やかな香りに包まれ、高揚感がたまらない。

味わいは熟したアプリコット、ダージリンのような華やかさ、上質な蜜のトーンが余韻を引き延ばし、伸びやかに続いていきます。


単体でも勿論楽しめますが、タルト・タタンと合わせるとさらに素晴らしい体験に。

リンゴの酸味が心地よく、キャラメリゼしたほろ苦さもワインと合わせた時に相乗効果を生み、余韻に複雑さをプラスし、何とも言えない幸福な時間を過ごす事が出来ました。この組み合わせはもしかしたらもう二度と味わえないかもしれませんが、記憶に残るペアリングになったと自負しています。

コーヒー豆はケニア ニエリ地区ルアライファクトリーのハイロースト。

抽出はハンドドリップ。コーヒー豆の量を増やし、コーヒーの凝縮感にフォーカスしてみました。カシス、ブラッドオレンジ等特徴的なケニアのフレーバーは勿論ですが、タルト・タタンのボリュームにしっかりと寄り添い、絶妙な”甘苦さ”がしっかりと調和していました。


中々普段の生活の中で、意識してデザートや料理とコーヒーを合わせる機会は多くないと思いますが、コーヒーはアルコールと違い、いつでもどこでも楽しめるというアドバンテージを持った飲み物でもあります。


ケニアのコーヒーはなかなか飲む機会に恵まれませんが、キリマンジェロのあるタンザニアの北に位置し、非常に質の高いコーヒー豆を精製出来る地域です。アフリカのコーヒーというとエチオピアやタンザニアが台頭していますが、その付近の国々にも是非目を向けていただけると、皆さまのコーヒーライフもより豊かなものになるはずです。


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生産者:Goichi Wine / 五一ワイン

ワイン名 : Kifu / 貴腐

ワインタイプ : Noble Rot / 貴腐ワイン

生産国:Japan / 日本

生産地:Shiojiri / 長野県塩尻市

ブドウ : Chardonnay, Semillon / シャルドネ、セミヨン

アルコール度数 : 10°

参考小売価格:¥13,204


貴腐 - Kifuは、貴腐菌により貴腐化したぶどうの実を一粒一粒手作業で選別し、貴腐ぶどうのみを集め、専用のプレス機で絞り出す。貴腐菌が自然発生のため、立地や気候などがその年のぶどうの出来を左右するほか、貴腐ぶどうの収量は大変少なく、生産に手間と技術を要するため、大変希少なワイン。


<ソムリエプロフィール>

安藤 修 / Osamu Ando

ホテルインディゴ軽井沢 / Hotel Indigo Karuizawa

Food & Beverage Manager / Hotel Head Sommelier


1987年 東京生まれ。

2006年 日本大学文理学部体育学科 卒

サーヴィスの楽しさに開眼し、スポーツ関係のキャリアを諦め現在に至る。

ビバレッジに興味を持ったきっかけは、意外にもワインではなくコーヒー。

“Streamer Coffee Company”のラテア―トに感動し、本格的に学び始め、2014年にはレストラン業界では数少ないAdvanced Coffee Meister ( No.0101 ) を取得。

様々なレストランにてサーヴィス、ソムリエとして研鑽を積む。


2013 - 2015 Pierre Gagnaire Tokyo - Chef de Rang / Sommelier

2015 - 2017 Innovative Restaurant “81” - Chef Sommelier

2017 - 2019 L’orgueil - Director / Chef Sommelier

2019 – 2021 KIMPTON SHINJUKU TOKYO - Beverage Manager / Hotel Head Sommelier

2021 – Hotel Indigo Karuizawa - Food & Beverage Manager / Hotel Head Sommelier


✴︎ J.S.A.Sommelier Excellence ( 2020〜 )

✴︎ Advanced Coffee Meister ( No.0101 )

✴︎ Maîtres des Service Concours – Semi Finalist ( 2015 / 2019 )

✴︎ 全国梅酒評議会 評議委員 ( 2017 )