ワインとコーヒーの考察

ワインとコーヒーに関して、同じ嗜好品として比較される事がしばしばあるかと思います。

ここではワインのプロフェッショナルが集まっているので、今回は少し息抜きとして“コーヒー”という身近な飲み物に関して寄稿させていただきます。


まずは最近のコーヒー事情に関して。


皆さんは"Specialty Coffee"という単語をご存知でしょうか?

多くの有名なコーヒーショップやカフェはこの理念の下、品質の高い豆を仕入れ、焙煎し、一杯のコーヒーを提供しています。


私が所属しているSCAJ(※注1)という組織では、スペシャルティコーヒーに関して以下のような基準で定義がされています。


▪ 消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。


▪ 風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。


▪ カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。( From seed to cup


▪ 生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。

▪ 適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。

▪ 適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。


コーヒーに関しては、“カッピング”(挽いたコーヒー豆に熱湯を注ぎ、4分後に上澄をスプーンですくってテイスティングする方法)を行い、コーヒー豆を挽いたものにお湯を注ぎ口に含む工程の中で、コーヒーの香りや味を評価します。ワインで言うテイスティングにあたり、コーヒーの品質の善し悪しを、同じ条件下において判断するというものです。たくさんのコーヒーを同時にテイスティングする必要があるため、そして、淹れ方の技術による差があってはコーヒーそのものの味を評価できないため、世界共通で、このカッピングという方法でコーヒーを味わいます。


主な評価に関しては、COE(※注2)カッピング評価基準および、SCAJカッピング評価基準によりFLAVOR:フレーバー、AFTER TASTE:後味の印象度、ACIDITY:酸の質、MOUTH FEEL:口に含んだ質感、CLEAN CUP:カップのきれいさ、SWEET:甘さ、BALANCE:ハーモニー均衡性、OVERALL:総合評価の合計8項目から成り立ちます。原料であるコーヒーの生豆の品質が評価されたもので、品質評価の点数が80点以上のものをスペシャルティコーヒーと呼び、日本に輸入されるコーヒーのうち、スペシャルティコーヒーが占める割合は約11%と年々上昇傾向にあります。


スペシャルティコーヒーの変遷に伴い、忘れてはいけないのがコーヒーウェーブです。ワインにもその時代を築いた幾つかの“波”が存在しますが、コーヒー業界にも存在します。こちらも以下に紹介しますのでご参考までに。


✴︎First Wave

19世紀後半〜1960年代に広まった日本での最初の流行。

コーヒーが大衆の食堂で楽しまれるようになった事がFirst Waveの功績である。

その要因としては、 流通の発達により大量のコーヒーが食卓に届くようになり価格が安くなった事で、“コーヒー(珈琲)”が一般的な飲み物となり、広く親しまれるようになった。

“Regular Coffee“は流通の革命と効率化によってもたらされたものである。


✴︎ Second Wave

1960年代〜2000年頃まで続いた第2の流れ。大衆的な飲み物から卓越した飲み物となり、世界中に均一で良質なコーヒーの"味"を届け、コーヒーを万国共通の価値観へと昇華させた。“ローストとスタイルの融合”、“エスプレッソ系ドリンク”の台頭。ロゴ入りの紙コップを片手に街中を颯爽と歩くスタイルがクールであり、街で仕事をする人々にとってのファッションアイコンになっていく。今や世界中に顧客を持つシアトル創業の“スターバックス”はセカンドウェーブの中で最も成功したブランドである。


✴︎ Third Wave

2013年頃から日本でもこの用語が頻繁に使われ始めた。“苦味やコクが旨い”という日本風の価値観は完全に打ち崩され、酸味と甘味、そして複雑さという全く異なる世界が広がっているのが今の実情である。同じ種類のコーヒー豆であっても、ロースターによって焙煎の方法で違いを楽しんだり、同じロースターであっても年ごとの味の違いを楽しんだりする事が出来、コーヒーをまるでワインのような付き合い方に昇華させたのもサードウェーブの特徴と言える。純喫茶のような器具にこだわり一杯一杯を丁寧にいれる。そして、シングルオリジンという単一農園が主流になってきたのもこの流れが大いに影響している。


現在までコーヒーの世界も急速に発展してきています。

コーヒーが身近になったのは、先代の方々の努力の賜物です。

日々に感謝に、より素晴らしい未来に私も微力ではありますが貢献していければと思っております。


※注1 SCAJ・・・Specialty Coffee Association of Japan : 一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会


※注2 COE・・・Cup of Excellence(カップ・オブ・エクセレンス)、その年に収穫されたコーヒーの中から最高品質(トップ・オブ・トップ)のものに与えられる名誉ある称号で、中南米を中心に各国でコンテストが行われている。

国内予選を勝ち抜き、国際審査員の厳格なカップテストにより評価された、全生産量の数%にも満たないほんのわずかなコーヒーのみカップ・オブ・エクセレンスの称号が授与される。


―――


さて今回、私が提案するのは、エスプレッソにGrappa(グラッパ)を入れて楽しむCaffè Corretto(カフェ・コレット)

イタリア発祥のこの飲み物はイタリアだけでなく全世界で幅広く楽しまれています。


グラッパだけでなく、ハーブ系の蒸留酒やブランデー等を入れても成立しますが、あえて王道のグラッパで。

エスプレッソ2ショット(ドッピオ)に約15mlのグラッパを注げば完成!のシンプルなものですが、コーヒー豆やグラッパにこだわれば至福のひと時に・・・


コーヒー豆はグァテマラ、ウエウエテナンゴ地域のミディアムロースト。

ミルクチョコレート、キャラメル、ヘーゼルナッツの香ばしさが前面にでており、チェリー系の綺麗な酸に加えアフターに、ほのかにピーチの印象。余韻も長く、厚みのある味わいが時間をかけて変化していきます。


そこに合わせるグラッパは樽熟成をしている上質なグラッパ。バローロやバルバレスコのネッビオーロ種の搾りかすから作られたグラッパはそれだけで妖艶。惹きつけられる1杯です。


香りが芳醇で繊細なこのタイプのグラッパはコーヒーの苦みが強すぎると生きてこないので、フルーツトーンの残るやや浅煎りの豆をチョイスするとGOOD。コーヒーのアフターと華やかなブランデー香が交互に追いかけていき、何とも言えない心地よさを体感出来るはずです。


シーンとしてはブランチ後の昼下がりにテラスで。オランジェットと共に最高のひと時を演出して下さい。



生産者:Berta / ベルタ

ワイン名 : TRE SOLI TRE Grappa di Nebbiolo / トレ ソーリ トレ グラッパ ディ ネッビオーロ

ワインタイプ : Grappa / グラッパ

生産国:Italy / イタリア

生産地:Piemonte / ピエモンテ

アルコール度数 : 43°

インポーター:FOODLINER / フードライナー

参考小売価格:¥16,000


バローロ及びバルバレスコのネッビオーロ100%使用。(ラ・モッラ及びモンフォルテダルバのバローロ生産者の絞りカス、パルッソのブッシア、コンテルノ・ファンティーノのジネストラ、ロベルト・ヴォエルツィオのチェレクイオ)。

蒸留後、ミディアムトーストしたアリエ・トロンセ産225Lのバリックで7年3ヶ月間熟成。



<ソムリエプロフィール>

安藤 修 / Osamu Ando


Hotel Indigo Karuizawa

Food and Beverage Manager / Hotel Head Sommelier


1987年 東京生まれ。

2006年 日本大学文理学部体育学科 卒

サーヴィスの楽しさに開眼し、スポーツ関係のキャリアを諦め現在に至る。

ビバレッジに興味を持ったきっかけは、意外にもワインではなくコーヒー。

“Streamer Coffee Company”のラテア―トに感動し、本格的に学び始め、2014年にはレストラン業界では数少ないAdvanced Coffee Meister ( No.0101 ) を取得。

様々なレストランにてサーヴィス、ソムリエとして研鑽を積む。


2013 - 2015 Pierre Gagnaire Tokyo - Chef de Rang / Sommelier

2015 - 2017 Innovative Restaurant “81” - Chef Sommelier

2017 - 2019 L’orgueil - Director / Chef Sommelier

2019 – 2021 KIMPTON SHINJUKU TOKYO - Beverage Manager / Hotel Head Sommelier

2021 – Hotel Indigo Karuizawa - Food & Beverage Manager / Hotel Head Sommelier


✴︎ J.S.A.Sommelier Excellence ( 2020〜 )

✴︎ Advanced Coffee Meister ( No.0101 )

✴︎ Maîtres des Service Concours – Semi Finalist ( 2015 / 2019 )

✴︎ 全国梅酒評議会 評議委員 ( 2017 )