契約農家の重要性

北海道後志地方余市郡余市町

北海道余市郡余市町。ここ10年余りで、国内屈指のワイン産地として全てのソムリエ・ラインラヴァーに認知されるようになった注目の産地である。数々のワイン雑誌に頻繁に登場し、断片的にその情報に触れる機会も多いと思われるが、今回はそんな余市町のワインを、北海道出身の私が歴史から順を追って簡潔にまとめてみたいと思う。


北海道民にとって、特に札幌近郊で生活するものにとって、余市町とは「フルーツのまち」である。リンゴ、なし、ブドウ(生食用、醸造用ともに)の生産量は道内で1位を誇っている。私も小さいころに「サクランボ狩り」に家族で出かけた思い出や、家の冷蔵庫に「りんごのほっぺ」という余市町のリンゴから造られた100%ジュースが置いてあり大好きだったのを覚えている。


余市町の歴史

そんな「余市町=フルーツのまち」という構図ができたのは、明治初期にまでさかのぼる。1875年、北海道開拓視聴から様々な果実の苗木800本の配布を受け、余市町にて栽培が開始される(日本で初めてリンゴの栽培に成功したのは余市町である)。

1877年、ブドウが初めて結実したが、この頃はまだ生食用のブドウのみしかなかった。

1943年、戦時中に白ワインの酒石酸が必要になったため「余市ワイナリー」が中心となってワイン製造を始めたのが発端となる。ちなみに、余市ワイナリーは余市町最古のワイナリーであり、その後に続くワイナリーは2010年設立の「ドメーヌ・タカヒコ」を待たなければならない。

1960年代、道東、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所と契約し、原料ブドウの供給を開始。つまり、この頃の池田町のワイン生産構造は、余市町を含む後志地方のブドウに依存していたのである。

1973年、ワインづくりを新たな道内産業にしようとした北海道は、西ドイツへ人材を派遣。およそ50種のドイツ・オーストリア系品種の苗木が集められる。

1983年セイベルミュラートゥルガウツヴァイゲルトといった優良品種が決定される。

1984年、生食用ブドウの収益低下やリンゴの価格暴落に伴い、北海道ワイン株式会社を中心に醸造用ブドウの普及に力を入れる。この頃に生食用ブドウやその他果実から「醸造用ブドウ」の栽培に鞍替えした農家が多い(藤本毅氏、北島秀樹氏)。30年以上のベテランブドウ栽培家や、家族二代に渡り醸造用ブドウを栽培するなど、優秀な契約農家の存在が余市町のワインのレベルを底上げしているのは間違いない。



生産者:北海道ワイン株式会社

ワイン名:葡萄作りの匠 北島秀樹 ケルナー

品種:ケルナー

タイプ:白ワイン

産地:北海道余市町

ヴィンテージ:2019

アルコール度数:12.5%

価格:2,420円


北海道ワイン株式会社の功績

北島秀樹氏は、1985年に、それまでの生食用ブドウの栽培からワイン用専用ブドウ栽培へと鞍替えをした第一人者であり、北海道ワイン株式会社(本社は小樽市)が初の専属契約を結んだ栽培農家である。同社は持続可能な経営戦略をおよそ300軒の契約農家と共に構築しており、豊作でブドウ価格が値崩れしたり、その年の販売予定ワインの量を超える場合であっても、年間契約価格で原料を全て買い入れる「全量買取契約」を締結している。また、ブドウの重さや糖度によって、契約単価を上乗せするインセンティブを与えたり、また各栽培地域での自然環境に適した栽培条件を自社で研究し、栽培のノウハウを農家に渡している。近年は若い世代が続々と北海道の地に参入しているが、まだ実地経験の浅いワインメーカーたちは、こうして地域から情報を得ることができる構造をうまく理解している。


契約農家の重要性

現在、余市のワインを数多くテイスティングすると、一つ思うことがある。それは自社で栽培したブドウから造られた、より値段の高い「エステート」のものよりも、契約農家やJAから供給されたより廉価なスタンダード品の方がワインのレベルが高いことが多々あるということだ。当然、まだ自社畑のブドウの樹齢が低かったりすることがその理由の筆頭に挙げられると考えるが、あらためて日本において秀逸な量と質を兼ね備えたワインの生産には、培われたノウハウを持つ有能な契約栽培農家の存在が必要なのであろうと考えさせられる。


白ワイン用ブドウ品種「ケルナー」

ケルナー」という白ブドウ品種が、北海道において最重要視されるようになったのは割と最近のことである。古くは1973年にドイツからもたらされたブドウの1つであるが、北海道の優良品種に指定されなかったために、長らく放置されていた。近年は、「バッカス」よりも糖度が上がり、酸がやや控えめに仕上がることから、より上質なブドウとして余市町の各ワイナリーの白ワインの中核をとなることが多い。現在、白ワイン用ブドウ品種として北海道で最大の栽培面積(約35%)となっている。


登地区

「北島農園」があるのは、日本海に注ぐ余市側の右岸、「登町」だ。現在、余市には11のワイナリーが稼働しているが、そのうち7つのワイナリーがここに集中している。その理由は広大な面積の畑が手に入りやすいこと。ワイン用ブドウの栽培は、生食用ブドウの栽培よりもhaあたりの収量が少ないことから、広大な一枚の畑がないと農家にとって経済的に成立しない(近年、空知地方がより注目されているのは、耕作可能な土地がまだまだ残っていること)。話は変わるが、数年前に余市のワイナリーを訪れた際に「佐々木さんの実家はどこですか?」と聞かれ、「江別市です」と答えると、「実家に戻ったら一周ぐるっと見渡してみて下さい。日当たりのよさそうな斜面があったなら、そこにブドウを植えてみてください。きっとよいワインになると思いますよ」と言われたことを思い出した。まだまだ北海道には多くのポテンシャルが埋まっていることの表れだろう。


さて、この一方で、ドメーヌ型の「我」をいく生産者も忘れてはならない。「ドメーヌ・タカヒコ」を中心とした、、、といきたいところなのだが、長くなりそうなのでここで終了とさせて頂きたい。



<ソムリエプロフィール>


佐々木 健太(ささき けんた)


南仏ニースにある一つ星レストラン「Keisuke Matsushima」にて研鑽を積む。


帰国後フォーシーズンズホテル丸の内東京、南青山レストラン「L’AS」のソムリエを経て独立。ワインスクールの講師としては5年目に突入。強引な暗記に頼らない理解がより深まる解説が、「資格取得後に差が出る講義」として絶大な支持を得る。現在は、2020年に新たに立ち上がった、Live配信専用ヴィノテラスワインスクール専任講師。また自身のYoutubeチャンネル「サイバーワインスクール」を運営。さらに「ワイン教育」を軸に、多数企業のコンサルティング業務に従事。ワインリストの作成からアプリケーションの開発など、幅広く活動。