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オーストラリアワイン市場の現状への思い

現在、期間限定でフリーの仕事をさせて頂いている関係で、友人のオーストラリアワインインポーターの販促を手伝う事となり、とりあえず自宅のあるさいたま市のワインショップや酒屋を中心に、リサーチを兼ねて出来る限りお店を回らせていただいたのですが、オーストラリアワインに対する認識や知名度が私の想像以上に低く、オーストラリアワインの魅力は殆ど伝わっていないことが判ってしまいました。


もちろんさいたま市全てを回ったわけではないのですが、イオンやエノテカ、カルディさんのような大手を除いた個人店はほぼ全て伺い、お話を聞かせていただきました。しかしながら、なかなかに厳しい結果となりました。詳しい内容は下記に記しますが、今回の件を記事にさせて頂こうと思い、自身が愛してやまないオーストラリアワインに何かしらの貢献ができればという、全く個人的な理由で書くことをお許しください。また、現在の新型コロナの影響によって恐らく起こるであろう状況に対しても、後半でお話させていただきたいと思います。

(今回のレポートはあくまでワイショップと酒屋での結果です。また日本全国の酒屋では無く、あくまで僕の行動範囲内で回ったお店であることはご了承ください。)


1 はたしてオーストラリアワインにどういったイメージを持っているのか?


今回伺ったワインショップと酒屋はさいたま市と東京都内のワインショップを含め30件以上ですが、その中からお話を聞けたのは15件のオーナー様や担当者様。以下に頂いたご意見を記します。

「味わいが濃い」「飲みつかれる」「ニーズがない」「バーベキューには最適」「料理に合わない」「安い」

と比較的よく聞くワードではありますが、手放しで肯定なご意見ではなかったのが正直な感想です。



2 他の国のワインに比べてのストックはどれくらいか?


調べた店の規模は500アイテムから50アイテムの店と幅はありますが、さいたま市で回った店は殆どが全体に対し1割以下。東京の有名ワインショップで何とか2割という状況でした。ちなみにフランスワインと比較すればオーストラリアワインは8分の1という結果です。



3 どういったアイテムが置かれているか?


大手のワインショップはやはり世界的にも有名なジェイコブス・クリーク【①】やピーター・レーマン【②】などの有名メーカーは抑えてありました。小さな店主のこだわりのある品揃えのワインショップは、最近人気のナチュラル系のオーストラリアワインが置かれておりましたが、逆にスタンダードで低価格のオーストラリアワインはほぼない状態でした。



4 お店側の具体的なご意見


1の質問をした際に、ある程度の印象は聞いたのですが、今回いくつかの厳選したサンプルワインを持って試飲をして頂きご意見頂きました。(ナチュラル系のシラーズとマーガレットリヴァーのエレガントなシャルドネ)


マーガレットリヴァー シャルドネ【③】

「味わいや品質は素晴らしい」

「価格が高い」

「思ったよりは美味しい」

「すでに店にあるカルフォルニアやフランスのシャルドネの方が売りやすい」


ナチュラル系 シラーズ【④】

「綺麗な味わいで美味しい」

「オーストラリアワインのイメージと違って美味しい」

「オーストラリアワインではない」

「オーストラリアワインにしては高い」

「売り方が難しい」


などのご意見を頂きました。


ここで注目したいのは品質そのものは認めているものの、やはり価格と売り方に難色を示している事と、現在海外や日本のソムリエには注目されているナチュラル系のオーストラリアワインの認知度が、あまり広まっていないことでした。また既にその存在を知っていて、ナチュラル系のオーストラリアワインを扱っているワインショップの方々には、高評価を得た今回のシラーズでしたが、反対に高価格のオーストラリアワインを扱っていたあるワインショップの方は、ナチュラル系のオーストラリアワインは認めないという考えをおもちで、少なくともシラーズに関してはスパイスが香る濃い目の味わいが正道というご意見でした。



5 この現状はなぜ起こっている?


ここからは私見ではありますが、この現状はオーストラリアワインだけでは無く、チリにも当てはまる問題ですし、日本ワインやドイツワインも今回とは違った意見で誤解されている現状もあるかと思います。例えば日本ワインは海外に比べてレベルが低いやドイツワインは甘いだけなどと、早く解かなければいけない誤解は沢山ありますが、とりあえず今回はオーストラリアワインに起こっている現状を紐解きたいと思います。


①オーストラリアには世界的な大手ワインメーカーが多い

2016年ユーロモニターインターナショナル【⑤】のワインブランド販売量データによるとトップ10の中にイエローテイル【⑥】とハーディーズ【⑦】というオーストラリアのメーカーが2社(5位と8位)入っています。その他はアメリカ勢が占めていますが、2社入るというのは、はかなり世界では認知されているということでもあると思います。同時にスーパーマーケットに常備されているブランドであることは、お判りになる方も多いと思います。

つまりこれらのワインが、多くの人が最も目にするオーストラリアワイン、ということになり、イメージがそういった価格と味わいに引っ張られてしまうことは否めないと思います。


②他国に比べ日本で注目されるタイミングが遅かった

既に皆様ご存じの通り、日本では各国のワインが楽しめます。しかしながら、フランスやカルフォルニアワインに対しては、ある程度の知識や大体の味のイメージをもたれている方が多いのに対し、オーストラリアに関しては偏ったイメージが先行しています。恐らくは、日本で紹介された順番がかなり遅かったのかと思います。

現在も定期的に販売されている「世界の名酒辞典」【⑧】ですが、以前1989年版を読んだときフランスはボルドーとブルゴーニュはそれなりに充実していましたが、オーストラリアは2アイテムのみの掲載でした。僕も今から20年前に受けたソムリエ試験の教本には、今でこそしっかりとした情報が書いてはあるものの、オーストラリアの情報はとても少なかった記憶があります。そもそもの情報がこうでは、オーストラリアワインに偏ったイメージを持つのは仕方がないとは思います。



6 この記事を書こうと思ったもう一つの理由


ここまで書いてきて、「別に無理にオーストラリアワインを飲む必要は無くない?」と思われる方もいらっしゃると思います。もちろんそうです。事実今も大量にフランスワインやカルフォルニアワインは売られていますし、あくまで嗜好品としてのワインの好みを無理に変える必要はありません。


実は、インポーターの手伝いとは別のお仕事で、高級ワインの流通に関する情報を得ることが出来ました。具体的な内容はお話しできませんが、今回の新型コロナ問題が、日本のワイン輸入に影響を及ぼしているようなのです。ワインに限った話ではないので、ある程度は予測と実情をご存じの方がいらっしゃるとは思いますが、新型コロナへの対策が、残念ながら日本は他国に比べ遅れをみせています。当然飲食店含め、今回お話を伺った酒屋さんやワインショップの皆様も、ワインが売れず大変に厳しい状況でした。

そんな中、この状況から回復をみせている国では早速ワインの輸入が始まっています。

当然ながら世界でも人気のあるフランスやカルフォルニアの銘醸ワインは数が限られていて、新型コロナ禍では無くても、世界中でそれらの争奪戦は行われていました。しかし今回その争奪戦に、新型コロナ禍からの状況回復ができなかった国は遅れをとっています。


つまり、今までは問題なく買えた誰もが知っているワインを、簡単には買えない状況が起こりうる可能性があります。


「そんなに高いワインは買わないから大丈夫」、「手ごろなフランスワインを買うから大丈夫」と思っている方も、フランスワインやカルフォルニアワインが、そもそも安く買えなくなる可能性も十分考えられます。例えばフランス・ブルゴーニュの、あるワイナリーの特級畑のワインが世界の争奪戦で日本には1本も入らないとします。しかし当然その同じワイナリーの下のランクのワインも人気となり、日本に入荷してくる量が限られてしまう、という状況も考えられます。発展しすぎの考えかもしれませんが、フランスやアメリカの銘醸地のワインが、日常に飲める機会が激減するのでは無いかと心配しています


しかしながら、簡単にワインを飲むことを止めることは出来ません。このような厳しい状況でもワインを楽しむ事は無くしたくはありません。なので、今回もしフランスワインやカルフォルニアワインが買いづらくなっても、他の魅力的なワインを楽しんでもらいたい気持ちもあり、今回の記事を書かせていただいています。


あえてオーストラリアを選んだのにはもう一つ理由があり、現在オーストラリアと中国は関税による問題で今まで中国で人気だったオーストラリアワインの中国への輸入が制限されています。そのためオーストラリアワインに関しては、今後日本が更に良いものを手に入れることができる可能性が高いと言えます。



7 オーストラリアワインがもっと飲まれる為に行われている事とやりたいこと


前置きが長くなりましたが、いよいよ本題です。前半では悲観的な内容を書きましたが、現在決して悲観することのないオーストラリアワインの別の面もあるのと、これから希望したい展望を下記に記したいと思います。


①レストランでの活躍

今回のリサーチは酒屋とワインショップに限定しましたので、レストランのデータはとっていません。しかし、自身も今まで色々な業態のレストランでオーストラリアワインを使ってきた一人なのでわかるのですが、使い勝手の良いジャンルのワインではあります。

味わいがはっきりしているものが多く、ネガティブな味わいは少なく、料理とのペアリングや、冒険せずに間違いのない味わいを提供したい場合や、グラスワインには本当に適していると思います。

また、サンジョヴェーゼなどのイタリア品種を使ったワインもあるため、現代風のイタリアンレストランに使われることもあり、またジャンルを問わないレストランでは積極的に使われています。


東京ですと、僕も働いていた丸の内、銀座にあるSalt(現Wattle Tokyo)や渋谷のAROSSA【⑨】ではオーストラリア料理とワインを以前より提供しており、また、オーストラリアのレストランが東京に出店しているケースでは、表参道のイタリア料理Fratelli Paradisoや恵比寿のタイ料理Longrain【⑩】が、本国のワインリストと変わらない厳選したバリエーションのあるオーストラリアワインを取り揃えており、オーストラリアワインを楽しむ事が出来ます。


②オーストラリア大使館や観光局の働き

他の国も当然ではありますが、オーストラリア大使館は食材やワイン。観光局は現地ワイナリーの紹介を積極的に行っております。特にオーストラリアはヴィクトリア州、西オーストラリア、南オーストラリアなど各地の観光局が日本で活躍しており、それぞれのワイナリー情報を得ることが出来ます。


③オーストラリアワインの魅力の再発見と新しい動き

ここ数十年従来の味わいのワインでは無く、葡萄そのものの味わいを活かしたナチュラルな味わいのワインが様々な国で生み出されていており、オーストラリアも例外ではありません。恐らくは日本ではアデレードのLucy Margaux【⑪】やマクラーレンヴェールのJauma【⑫】などが先駆けのワインではないかとは思いますが、現在は多種多様な味わいのワインを日本で飲むことができます。


良くこういったナチュラルな味わいは、どの国も同じに感じるというご意見を伺うことがあるのですが、オーストラリアワインの魅力の一つに葡萄品種の特性がはっきりと感じる事ができるということがあり、ナチュラルな味わいのワインにもその魅力はしっかりと発揮されているため、むしろ更にピュアな魅力を感じることができると思います。


また、上記のようなスタイルでは無くても、スタンダードな味わいのオーストラリアワインも昔のイメージとは大きく変わり、非常にクオリティの高いワインが生み出されています。

ビクトリア州のHoddles Creek【⑬】などの涼しい産地で造られるシャルドネやピノ・ノワールは、フランスを含めた他国に負けない綺麗な味わいをもったワインですし、クナワラで造られるカベルネ・ソーヴィニョンは、大味ではない繊細かつ個性のはっきりした味わいに仕上がります。その他の地域でも素晴らしい品質のワインは造られていますので、是非お試しいただきたいと思います。



8 今回のワイン


今回ご紹介するワインは、小さいながらもオーストラリアワインを広めようと尽力しているインポーターが輸入しています。



1

生産者:Bannockburn

ワイン名:Bannockburn 1314 A.D Pinot Noir /バノックバーン 1314 A.Dピノノワール

葡萄品種:Pinot Noir/ ピノノワール

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:オーストラリア

生産地: / ヴィクトリア州 ジーロン

ヴィンテージ:2019

インポーター:Down Under

参考小売価格:¥3,850(税込)



2

生産者:Peccavi Winery

ワイン名:Peccavi Chardonnay / ペカヴィー シャルドネ

葡萄品種:Chardonnay/ シャルドネ

ワインタイプ:白ワイン

生産国:オーストラリア

生産地: / 西オーストラリア

ヴィンテージ:2017

インポーター:Awines

参考小売価格:¥6,600(税込)


一本目は大阪を拠点に活動されている、ダウンアンダーさんのワインです。

ヴィクトリア州の涼しい環境で造られる事で、全体的に香りは優しく華やかに立ち上がり、紅茶やイチゴの香りが印象的です。また、製法は徐梗を行い野生酵母で発酵。ノンフィルターで瓶詰めすることで、果実味がはっきりしながらも複雑な味わいとなっており、オーストラリアワインのピノノワールに懐疑的だった方にも、ご満足いただける味わいかと思います。


二本目は札幌でオーストラリア人のミックが活躍するAwinesの、西オーストラリアの秀逸なシャルドネ。土地の個性とは無縁と思われがちなオーストラリアですが、その土地それぞれの特徴はもちろんあります。このワイナリーは海風の影響を受け葡萄畑の気温を最適に整え、葡萄の根は地中深くまで伸びている理想的な環境です。製法は手摘みで収穫された葡萄を一晩冷却することで果実味を保ちます。小樽での発酵によってバニラやナッツも風味を与えます。また、このピカヴィーはなかなか置いてもらうのが難しいロンドンの高級スーパーHarrodsに現在オンリストされています。

以上の2本ですが、1本目のピノノワールは現在販売されているブルゴーニュの有名な造り手のピノノワールに負けない味わいをもつにもかかわらず、価格は半分程度ですし、ピカヴィーに関しては、ブルゴーニュやカルフォルニアの一本1万円を超えるシャルドネに全く引けをとっていない味わいです。


総評

結果、オーストラリアばかりを贔屓してしまいましたが、フランス、カルフォルニアにとってかわるワイン産地は勿論沢山あり、Sommetimesでも紹介しています。

今回のコロナの影響はワインを楽しむという事に色々な影響を与えていますが、是非悲観的にならずに今までと違う観点でワインを選ぶ方の手助けが出来ればと思っています。


①現在オーストラリア国内で最大の販売量を誇る。高品質のブランド

②葡萄栽培農家を愛する800を超える畑を持つ多種多様なスタイルのワインを生み出す。

③オーストラリアでも比較的高級なワイナリーが多く存在する産地

④世界でも流行している葡萄の味わいを前面に感じるワインスタイル。最大は無農薬や低農薬。亜硫酸を使わないもしくは極力控えての製法が一般的。

⑤消費財業界およびサービス業界に特化した国際的市場調査会社

⑥世界50か国で販売されているカンガルーのラベルで誰しもが見たことのあるワイン。

⑦160年の歴史を誇るデイリーからプレミアワインまで幅広く手がけるオーストラリアを代表するワイナリー

⑧ワインからウイスキーまで網羅した国内唯一の辞典。毎年更新されていて価格も網羅しているため、プロやワイン好きまで楽しめる貴重な一冊。

⑨Pjパートナーズが運営するオーストラリアンレストラン。Saltはコースメインの高級感あるレストラン。AROSSAはビストロスタイルのカンガルーやワニがメニューに載っています。

⑩Fratelli Paradisoは表参道ヒルズにある手打ちのパスタが絶品なイタリアン。ワインはナチュラル系が中心で、バーではワインのみも楽しめます。Longrainは恵比寿ガーデンプレイス内にあるオーストラリアワインとタイ料理が楽しめる都内でも貴重な店。

⑪元料理人のアントン ファンクロッパーが造り出す、多くのワインメーカーに影響を与えたワイン。ワイン名は娘さんの名前で、ラベルの絵はその娘さんの作品

⑫元オーストラリア最優秀ソムリエがジェームス、デニス、ダンビーの3人のアースキンファミリーで造られるナチュラルワイン。ヤウマはカタラン語でジェームス。

⑬今やビクトリア州を代表するワイン。カンタス航空のファースト、ビジネスのラウンジで提供されビクトリアワインショーではトロフィーを勝ち取っています。



<ソムリエプロフィール>

山根 宏士 / Hiroshi Yamane

フリーワインアドバイザー(現リストランテ大澤ワインアドバイザー兼マネージャー)


1976年北海道生まれ。札幌の星付きフレンチでキッチンからこの業界をスタート。以後ソムリエに転身し札幌でも伝説的なビストロ「わいんや」を立ち上げる


東京に移住後は「オーバカナル」「ブラッスリーオザミ」「アロッサ渋谷」「W.W」「ARGO」

等の様々なジャンルのレストランでソムリエ、マネージャーとして研鑽を積み現在に至る。

現在近々行われるプロジェクトに備え武者修行中。


JSA認定シニアソムリエ



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