0. ハイブリッド・ソムリエとは
ハイブリッド:生物学で異なる種類などを掛け合わせた交雑種
ソムリエ:レストランで従事し、ワイン全般を含めた飲料に対しての専門性の高いウエイター
とここでは位置付けておきたいと思います。
ハイブリッド・ソムリエ:状況の変化に対応し、外的要素(世の中の流れ)に対応しながら、専門性とニーズを掴みながら他業種の良さを取り入れワイン脳(ソムリエ脳)を活用できるソムリエのことを指す。
1.「きっかけ」
「緊急事態宣言のような経済が止まっている状態でも、勉強はやって当たり前。
飲食に関連する全ての生産者の為にも、ソムリエはもっと売っていかないといけない。
売ることによって社会貢献となる事だってある。」
尊敬する大越ソムリエから言われた
2020年に最も心に残っている言葉だ。
果たして、世界中のどれだけのワインビジネスをやっている人達が、この期間にワインを売れただろうか?
又、生産者へも還元できるビジネスに繋げることができただろうか?
2.「2020年」
勿論、教育は大切だ。
僕も2020年4月頃、Sommetimes Directorでもあるヤンさんの企画のZoomを使用したオンラインセミナー“ソムドラ”で毎日、勉強させて頂いた後、自らのクライアント先のスタッフのソムリエ資格対策講座の雑学と、毎日Zoom漬けの勉強ざんまいの幸せな時間を過ごさせてもらっていた。
僕の取っていた行動はスキルアップと教育という観点から言うと申し分ないと思いますが、
生産者や取引先のワイン会社、そしてレストランのオーナーの観点からすると、どうだろうか?
2020年4月ごろ、国内の様々な街場のレストランは存続のために必死にテイクアウトやECサイトを始め、シェフたちはメニュー作成に走り、カレーやチーズケーキといったようなテイクアウトの流れが全国的に見えたのではないだろうか?
あの不動の三ツ星のカンテサンスでも、2種類のケーキを出した事は衝撃でした。
サービススタッフは、テイクアウト商品を梱包し、ソムリエは自宅待機だったのではないだろうか?
と当時の私の分析では、そのケースが高い気がしてならない。
3.「100年に一度の出来事だからこそ、変革が生まれる。」
このような出来事の中で生き、今まで以上に考える時間が増えて、自分自身のソムリエとしての考え方が大きく変わる。
“これまで通りではいけない”
私は2018年からフリーランスのソムリエとして、レストランやホテルの開業時のワインリスト作成や、スタッフ教育とインフラを整えたりと主にBtoBを行ってきたが、2020年を振り返ってみると飲食店やホテルの取引先の卸し業者さんと一緒で、大きなダメージを受けました。
(ギリッギリやっていけてる感じ。汗)
変化を受け入れよう。
そして、今できるベストは何なのか。。。
4.「時代の背景と共に求められるソムリエ像」
生産者やインポーター、小売にジャーナリストという観点は外して頂き、
国内の市場でホテルや飲食店に従事しているソムリエを対象として、
ざっくりとしていますが、35歳の僕の視点から考察してみます。
1990年代
1995年の田崎真也さんの世界一というニュースを筆頭に、この時代に活躍していたのは
現在の60代である。
いわゆる王道のフランスやイタリアの銘醸地を熟知しており、得意分野でもある。
現在のようにネットによる情報が、当時には全くと言って良いほどなく情報戦という意味では、若い時に一番苦労されたのではないだろうかと、先輩方のお話から見えてくる。
また、バブル時代を経験しており、1962年 ホテルオークラ、1966年 マキシム・ド・パリ東京1974年 銀座レカン、1984年 トゥールダルジャンの開業と日本のフレンチレストラン全盛期とも取れ、名だたるグランメゾンで王道のフランス料理などが供され、今じゃ飲めないような銘醸地のグランヴァンが沢山空いていた時代。
2000年代
2000年の石田博さんの世界3位というニュースを筆頭に、この時代に活躍していたのは
現在の50代のソムリエである。
現在の60〜70代のソムリエからの教育や流れから、同じくフランスやイタリア、又はアメリカに特化したソムリエは多いと感じる。
知識としては、より細かく畑ごとのアペラシオンや生産者の個性を探求できているソムリエが、仕事ができているとされていたのではないだろうか。
2010年代
森ソムリエや大越ソムリエという業界をリードするような現在の40代が頭角を現してきた時代と読む。
料理業界から見てスターが多い世代にも感じられる。
国内のコンクールが頻繁に行われるようになり、勉強しなきゃいけない国やエリアが増えてきた時代。
クラシックにナチュラルワイン、世界中に広がるワイン産地といったような情報を敏感に捉え、ワインに対しての“こだわり”という部分で、各レストランが差別化を図ろうとしていくような流れがあり、コアなメッセージを発していく事がお店のPRであり売りであったような時代になったのではないかと推測する。
また、現在の40代は30代のタイミングで2008年に日本にミシュランが上陸してきた時に、様々なジャンルが評価されるようになり、イタリアワインの専門家、オーストリアワインの専門家、ギリシャにジョージアなど、専門をもつ事による他者との差別化を測れるソムリエが重宝されてきた。
同時に日本食の世界的な人気と合わせて、日本酒を扱うソムリエも増えてきて、ペアリングでも活発に日本酒を取り入れた世代のソムリエとも言える。
2013年のAsia’s 50 Best Restaurantのスタート後、イノベーティブというジャンルもこの時期に定着。
シェフ達も世界中を周り、色々な物にインスピレーションを受け、様々な創作料理があるような状況になっていく。
レストランなので、勿論ソムリエも影響を受け。ナチュラルだからとか、クラシックだとか、国別を問わないワインセレクトになっていくのも
必然的とも言える。
2017年〜
2017年の岩田渉さんと2020年の井黒卓さんと30代のソムリエが立て続けに全日本最優秀ソムリエコンコールを制覇。
どの職業でもそうだと思いますが、現時点での一番の働き盛りである。
現役の40〜60代までの先輩方にしごかれ、コンクールでも、国内ではスカラシップという制度ができて階段的に教育が整い始め、様々な海外研修や最新情報もタイムラグなしにネットでキャッチできる時代。
情報戦という意味では、いわゆる恵まれた時代ではないかと思う。
銘醸地ワインの価格の上昇により扱えなくなってきたワインが増えてきた、という観点ではマイナスであるが。。。
「20年前は、もっとDRCが安かったんだよ。」とよく教えてもらえる世代。
そして、情報がボーダレスに入ってきて、あらゆる国のワインが日本で飲めるようになり、ワールドワイドに様々な国のワインが扱え、ニッチなサブ・リージョンを語れるソムリエが評価が高いように思える。又、様々なワインに柔軟に向き合える世代とも感じられる。
20代のソムリエ
2019年の高松亨さんのMaster Sommelier取得。当時、世界最年少が一番記憶に新しく、
Master of WineでなくMaster Sommelierに進路を寄せていた国内のソムリエ達に一石投じた出来事だと思う。
(CMSの端くれだけど僕だってそうだ。)笑
インターネットによる情報やクリエーションが更に進化し、速度を速め時代が激しく動く昨今で、これから頭角を現していく世代の戦い方や、時代に求めれるソムリエ像に目が離せない。
文章の中に
1972年の赤玉ポートワイン「金曜日はワインを買う日」。
1987年の日本国内でのボジョレー・ヌーボーのスタート。
2003年インポーターのラシーヌ社の設立。
2012年の逆輸入ソムリエ ヤンさん(ソムリエ界の黒船)の到来。
などといったトピックスを省略している事をどうか許して欲しい。
海外や小売りのマーケットまでの話を入れてしまうと記事が書き終わらないので(汗)
5.僕が思うハイブリッド・ソムリエ
世代別や時代の流れによって求められるソムリエスキル、レストランでの役割なども変わっていくのは、当然であると感じます。
現にコロナウイルスが蔓延している2020年は、世界のレストラン従事のソムリエは、ネットでのワイン販売も含めて、経済を動かすという意味では、思いっきりビハインドした事は間違いないだろう。
先手必勝、ナンバーワンでなくオンリーワン
「日本のワインシーンで8番ライトの位置を掴む。」
ライト前のポテンヒットを打つ存在になりたい。
でも、8番ライトでもレギュラーに食い込む。←ここが一番重要。
関西に行った時だけ僕に優しくしてくれる岩田さんと飲みながら、僕がよく話している言葉だ。
僕みたいに諦めの悪い中年のビジネスライクなソムリエは考えて欲しい。
①ソムリエとして競争に勝てなくても生き残る(商売の上手くいく)方法を。
②そして、他業種と比べてのソムリエの強みと弱みを。
①、②を考えながら、コロナウイルスという外的要因に対応してゆく事により
生まれる何か。。。
ハイブリッド・ソムリエ後半編に続く。。。
次回、2018年に受けた衝撃!!
ドリンクビジネス界のボスキャラ
乞うご期待ください。
6.最近のワイン

生産者:Bodegas Cota 45/ ボデガス・コタ 45
ワイン名:UBE Milaflores/ ウベ・ミラフローレス
葡萄品種:Listan[Palomino]/リスタン[パロミノ]
ワインタイプ:White/ 白 非酒精強化ワイン
生産国:Spain/ スペイン
生産地:Andalucía/ アンダルシア
ヴィンテージ:2019
インポーター:ウミネコ醸造株式会社
希望小売価格:3,500円
【Producer’s Profile】
醸造家 ラミロ・イバニェス氏
オーストラリアとボルドーで経験を積みスペイン・アンダルシアに戻る。
【WINE】
異なる樹齢のぶどう畑で栽培されるパロミノ・フィノ100%
UBEシリーズは非酒精強化ワイン。生物学的熟成ワイン。
【Viticulture&Wine making】
土地の代表的な土壌アルバリサで昔のマンサニーリャ(*1)スタイル、フロール(*2)の元で2ヶ月熟成、そのまま600ℓのボタで合計9ヶ月熟成。アルコール添加なし。Alc12%
Sanlucar de Barramedaの近く沿岸沿いのMiraflores La Alta, Miraflores La Bajaの
区画のぶどうを使用。
海岸沿いで栽培されるリスタン種は内陸部(Jerez de la Frontera)に比べ、フロールが出やすい。
沿岸部の特徴:ワインは柑橘やパンの匂いをもつ。
内陸部の特徴:カレーやバラのニュアンスをもつ。
【Recommendation】
まず初めに純粋に好きなタイプのワイン。
低アルコール(12%)スッーとした柑橘に、ほのかな煙のような優しい香りに、シェリー特有の食欲が沸く香ばし2アロマ。
口に含むとスレンダーな酸味が柑橘の優しい果実味を抑えシャープに纏まっていく味わい。
余韻も軽やかながらも、優しく海を思わせるマンサニーリャの香りが鼻から抜けていく。
世界のマーケットでも、差別化できるカテゴリーという事で、トップソムリエにピックアップしてもらえる、ここにしかないオンリーワンの存在であると感じる。
ワインリストには勿論入れたいワインだ。
ここにしかない個性に乾杯!!
(*1)マンサニーリャ:辛口タイプのシェリーの中でも、サンルカール・デ・バラメッダ周辺で熟成されたもののこと。海の潮をより強く感じさせる風味が特徴的。
(*2)フロール:産膜酵母の集合体が発酵槽の上部に集まって膜となることで、独特の軽い酸化のニュアンスと風味が生まれる。基本的には醸造学上ではエラーではあるものの、シェリーやフランスのジュラ等では、産地の伝統的なスタイルを決定付ける要素となっている。
〈ソムリエ プロフィール〉
石原 大輝 / Daiki Ishihara
1986年 沖縄生まれ
バーテンダーからキャリアをスタートして福岡と東京のレストラン、そして地元の沖縄に戻りホテルやレストランでシェフ・ソムリエやマネージャーとして研鑽を積む。
2018年 Le Monde [Freelance Sommelierとして独立] 、J.S.A. Senior Sommelier取得。
2019年 A.S.I. Diploma取得。
2021年3月 自身がオーナーを務めるDowntown Donuts(ワインが飲めるドーナツ屋さん)を沖繩にオープン予定。
〈Le Monde〉
Freelance Sommelier、Beverage consultantとして活動。
沖縄のレストラン、ラグジュアリーホテル、鮨屋、ステーキショップやワインショップという様々なジャンルの店舗のワインリスト作成、ペアリングの提案、スタッフ教育にマネージメントなどを行う。沖縄のレストランやドリンクシーンをワールドクラスにする事を理念として日々奮闘中。
Mail address:ishihara_vin@icloud.com
