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ミネラルって言葉、簡単に使ってない?

ソムリエあるある。テイスティングコメントで困ったときの「ミネラルの香りがします」。(特にワイン勉強したての初心者に多く見られる。)なんのこっちゃわからない香りをミネラルの香りと逃げるのはどうなんだろうと最近よく思う。そこで我々が何をミネラルと表現しているのか理解するために、まずはミネラルを示すワードをピックアップしてみた。



香り部門

石灰

火打石

貝殻

鉱物

海、磯

スモーク


味わい部門

塩味

噛み応え(テクスチャー)



いったいこれらは何に由来しているのか?

ルーロやコシュ・デュリ(共にブルゴーニュ・ムルソーの有名生産者)のマッチを擦ったときの香りは、還元的な硫黄化合物とこうばしい樽香が調和したときの奇跡の産物であろうし、貝殻などの香りはシュール・リーと呼ばれる製法、長期の澱との接触によって生まれている。ただこのように説明できるものは極めて例外的で、ミネラルと表現されるものの多くが、テロワール、気候条件、ブドウ品種、土壌、栽培、醸造のどこに由来するものなのか、論理的に説明できないものばかりだ。


特に皆様に認識していただいていただきたいのは、土壌とワインのミネラル感が直接的に結びついているものではないということ。いまだに石灰質土壌にブドウが植えられているから、石灰の香りがしていると信じているソムリエは少なくない。


アレックス・マルトマン「Vineyards, Rocks and Soils」(2018)では以下のように述べられている。


1. 根は固体や岩石や土壌の複雑な成分を吸収しない。

2. 地質学的物質は一般的に味は無く、どんな場合でも無臭である。


どうやら土壌の中のミネラルと、ワインの中に感じるミネラルには 直接的な相関関係はなさそうだ。


それなのに我々がミネラルという言葉を使いたくなるには、何かの要因があるはずだ。


私たちがとある香りを、ミネラルと定義づけられる香りだと認識する場合、それはその物質の香りと同様の香りを含んでいる可能性はある。特定のワインではスモーキーな香り(火打石)に寄与するベンジルメルカプタンや、石灰に寄与するカリウムやマグネシウム系成分が少なからずあるのかもしれない。ただ鉱物に香りや味があることは、化学的には確認できていないし、ワインのアロマホイール(※2022年JSAソムリエ教本)にはそれ様の香りは記載されていない。




ではどのようにミネラリティを表現すればいいのだろうか。


そこで我々がミネラルの香り、味わいがします、と発言するときの傾向を分析してみた。


① フルーティな、野菜っぽい、オークが効いた、花のような、スパイシーな、といった表現とは一切関係がないものを表現するとき。

② 酸の引き締まった質感を表現したいとき。

③ 「フルーツを超えたもの」で、口の中に感じるワインの余韻を長くするものを表現するとき。

④ 軽やかでフレッシュで透明感のあるスタイルのワインと伝えたいとき。

⑤ ワインの還元的要素をポジティブに伝えたいとき。


上記を分析すると我々は文字通りミネラルが入っていると思っているわけではなく、石や、岩、金属、そしてミネラルを想起させる詩的な特徴について言及することによってそのワインのスタイルを表現するときに頻繁に用いていると思われる。


とすると、シュール・リーや還元を示すワードは別として、我々はミネラルという言葉を使用する場合はミネラルそのものに言及するべきではなく、Fruity, Floral, Spicy, Earthy, Pungent, Oxidizedなどを含め、Mineralityと前述の各要素の強弱や構成割合、関連性をコメントしながら、そのワインの本質に迫っていくのが正しいテイスティングな方法ではなかろうか


上記を意識しながらギリシャ、サントリーニ島の白ワイン、アシルティコをテイスティングしてみた。


生産者:Domaine Sigalas/ドメーヌ・シガラス

ワイン名:Santorini Assyrtiko/サントリーニ アシルティコ

葡萄品種:Assyrtiko /アシルティコ

ワインタイプ:白ワイン

生産国:ギリシャ

生産地:サントリーニ島

ヴィンテージ:2021

参考小売価格: 5,200円



外観

中程度からやや濃いレモンイエロー。

ワインの脚はグラスの縁をゆっくり流れ、粘性はかなり強い。

若々しく輝きのある外観だが、秘めたる凝縮感を感じる。


香り

第一印象は強く華やかだが、若さからなのか、抜栓したてからなのか、少し抑制がきいている。

強いフルーツ香は熟した柑橘、マイヤーレモン、マンダリンオレンジ、そして木なりフルーツは若々しい青リンゴ、洋梨。

華やかな香りはフレッシュレモングラス、レモンの花、オレンジの花のよう。

若干のカルダモンや白胡椒、フレッシュオリーブオイルのようなオイル香、かすかな砂岩のようなミネラル香がよいアクセントになっている。第一アロマが支配的で、フローラルな香りが華やかさを際立たせる。


味わい

アタックはかなり強い。おそらく熱を伴う高いアルコール感と、果実の密度によるものであろう。横に広がるボリューム感がすばらしい。飲んだ時には香り同様のフルーツの熟した印象。オイリーなテクスチャー、フルーツの熟度や高いアルコール感は力強い、豊かなボディを作り出す。

酸は非常にしっかりと感じられる。クリスピー、マウスウォータリングな酸が口中を引き締め、余韻に繋がっていく。そしてオレンジピールのような心地良い苦味と、かすかな塩味がさらに余韻を引っ張る。


結論

フルーツの熟度やアルコールの高さ由来の、口中でもたらされる豊かで広がりのある味わいがあり、凝縮感、味わいがコンパクトに詰まっていて、密度の高さが感じられる。

味わいにエネルギッシュな活力を感じ、余韻の心地よい塩味はギリシャの青い海と太陽を連想させる。ブドウが育った環境の産地特性を完璧に表現した、クオリティーの高いワインである。




ミネラリティについて

ギリシャサントリーニ島のクルーラ仕立て(地表近くにとぐろを巻くように仕立てる方法)でつくられたアシルティコは強い酸味とミネラリティが特徴というのが、普遍的な評価である。今回ミネラルの表現を絡めたテイスティングには絶好のアイテムと考えたのだが、ただただ余韻に感じられる塩味ばかりにフォーカスするとこのワインの本質を表現しきれない。

一般的にミネラリティを強く感じるワインの傾向として下記があげられる。


① フレッシュで柑橘系のニュアンスがあることが多い。

② 酸が強い。

③ オークを使うことでミネラリティがマスクされる。

④ 赤ワインよりも白ワインで顕著である。


確かにこのワインは上記の条件を満たしているのだが、透明感のあるエレガントなミネラリティなスタイルのワインといわれるとそうではない。確かに余韻の塩味は特徴的ではあるが、本質は温暖な気候、豊富な日照量に起因するエネルギッシュなワインであるということ。ミネラリティという一言を主張しすぎるとダメなワインな典型的な例だと思う。




最後に

ミネラリティとは、実際のワインがもつ香りや味わいなどの官能的特徴の組み合わせによってなりたっている。そのうちのいくつかは、品種と場所の組み合わせに由来するし、農法や醸造方法も影響しているかもしれない。土壌からグラスまでの道のりは私たちが想像しているよりもはるかに複雑なものだと認識しておく必要がある。

これで安易に「ミネラルの香りがします」は使えなくなったな。




<ソムリエプロフィール>

塚元 晃 / Akira Tsukamoto

レストラン相楽 / マネージャー兼ソムリエ

アカデミーデュヴァン大阪校 / 講師


International A.S.I. Sommelier Diploma取得

第7回イタリアワイン・ベスト・ソムリエコンクールJETCUP 優勝

イタリア共和国駐日大使館公認イタリアワイン大使

Wines of Portugal Japanese Sommelier of the year 2016 第3位

第2回ボルドー&ボルドー・シュペリュールワイン ソムリエコンクール2018 優勝

現在も世界中のワインと出会うべく勉強中


<レストラン相楽>

港町・神戸の多様な文化を、世代や国籍を超えて相楽(あいたの)しめるように。そして近隣の方々からも必要とされるコミュニティとなるよう、目利きされた兵庫・神戸の商品を提供し、神戸を切り口に多様な食文化を楽しめる発信基地を目指す。




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