まだまだ未知の世界、カナダワインについて

プロローグ

SOMMETIMESでワインを勉強している方や、常に情報のアップデートを欠かさない方々にとっては、「カナダ」というワイン生産国はきっと定期的に登場し、そんなに珍しくはないワイン生産国かと思いますが、世界各国のワインを幅広く扱う機会のあるプロフェッショナルの方だけではなく、消費者であるお客様が、カナダワインに少しでも興味を持っていただけると嬉しいなという思いで、この記事を書いております。




カナダワインの認知度

みなさんはカナダワインというと、何を一番に思い浮かべるでしょうか。


そうですね、カナダワインの代名詞「アイスワイン」だと思います。


「カナダワイン=アイスワイン」というセンテンスを使わずにはいられないほど、あまりにも定着してしまったイメージではないでしょうか。


このイメージのせいか、いくら「上質な辛口スパークリングやスティルワインも造ってるんですよ。」とお伝えしても、まだまだ実感が湧かないのか、アイスワイン以外の産地として話題にのぼることの少ない産地、カナダ。


実際今こうしてカナダワインに関する記事を書いている私も、初めから「カナダ」というワイン生産国を知っていたわけでも、興味をもっていたわけでもありませんでした。


10年前の教本には数ページしか載っていないし、ソムリエ資格一次試験の筆記の際も1問出題されれば良いほうで、それもよくある原産地呼称を名乗るための正誤問題や、アイスワインの主要品種はヴィダルです、いうとてもありきたりな問題しか当時はなかったので全く気にもとめておらず、とにかく印象が薄い産地でありました。(でも今や教本も十数ページに増え、試験ではケベック州の正誤問題が出題されたとか!びっくりですね。)


ソムリエの資格がはれて取れて外資系のホテルで働いていた際、先輩がたまたまサンプルで持ってきてくださったカナダのピノ・ノワールをテイスティングした時には(具体的な産地も生産者も覚えておらず…)、とてもジャミーで樽がバリバリにきいていて、お世辞でもそれが良いワインだとその時は思うことができませんでした。


そんな私がなぜカナダワインに興味をもったのか。それはとても簡単なことでした。


東京で行われたカナダワインの会で素晴らしいカナダワインに出会ったこと。そしてそこから実際に30代半ばを目前に会社を辞め、長年の夢であった留学の土地にカナダを選び、1年間ほどカナダのトロントで生活をしたこと。そして産地に赴き、たくさんの素晴らしいワインや生産者たちと接する機会をいただき、他のワイン産地同様、そこにしかない産地の特徴や生産者のフィロソフィーを自分自身で感じることができたこと。


それらが、私をカナダワインの世界に引き込んでくれたきっかけとなりました。


トロントで生活をしている時はワインショップでソムリエとしてワインの販売をしていたのですが、実はカナダ国内でも「カナダワイン」をきちんと理解して扱っているソムリエや、購入しているお客さまはそんなに多くはない、ということに気づかされました。どちらかというと欧州のクラシックなワイン産地やカルフォルニアのワインが好まれることが多く、お客さまのお好みを伺い同じように特徴や味わいを説明しても、「カナダワインではないものがいい」と言われることも度々。きっと私の英語でのセールストークがまだまだだったというのもあるかと思いますが、国内での認知度も高くはないという印象でした。




カナダというワイン産地について

まず、一括りに「カナダ」といっても、国の面積は約998万平方キロメートルで日本の約26倍、ロシアに次ぐ世界2位の大きさを誇る、地図でみても一目瞭然ですがとても大きな国です。


よく、「北に位置するからさぞかし年中寒いんでしょ?」と⾔われることが多いですが(もちろん冬は寒いです)、有名な都市バンクーバーを有し、主要ワイン産地でもあるブリティッシュ・コロンビア州は、緯度的にはワイン産地としての北限に近いとしながらも、一部地域では夏の日中気温が40度に達することもあります。


もう一つの主要産地オンタリオ州でも、ブドウの育成期にあたる6月〜9月は、平均気温で言うとブルゴーニュやボルドーなどよりも高くなり、特に夏は日中30度半ばまで気温が上がります。気温が上がる晴れの日は肌を刺すほどの紫外線の強さ、こんなに広大な湖が近いのに不思議と湿度は平均して低く、カラッとした天気というのが印象的です。


また、カナダのワイン産地を語る上で重要になってくるのが湖の存在(一部は海)であり、この広大な水源なくしてはカナダではきっとワインを造ることが難しいだろうというほど、重要な役割を果たしています。




マイクロクライメイトとブドウ品種

ご存知かも知れませんが、カナダの品種はヴィダルだけではありません。


前述の通り、多くの主要ワイン生産地域が湖の影響「レイク・エフェクト」(水温が極めて安定しやすい巨大水塊は、周囲の気温変動を穏やかにする。)を強く受け、独特のマイクロクライメイト(微気候)を形成しています。ワイン造りの歴史(1811年にヨハン・ジョン・シラー氏がオンタリオ州で始めたのが最初とされる)は長くはないものの、各々のマイクロクライメイトにあったブドウ品種の研究が進められ、様々な品種が植えられています。


まず、ブリティッシュ・コロンビア州の南北に細く伸びるオカナガン湖(厳密にはオカナガン湖から南端の都市オソユースまで、いくつかの小さな湖が連なることで形成されてる。)沿いに広がるオカナガン・ヴァレーでは、北部は主にリースリング、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、シャルドネ、ピノ・ノワールなどの冷涼産地に植えられている品種が多くを占めていますが、南部はカナダで唯一の砂漠地帯であり、灌漑も必要となるほどのエリアで、シラー、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなどの品種が植えられています。驚くべきことに、ここオカナガン・ヴァレーのエリアだけで60種を超える品種が植えられているといわれています。


一方、五大湖の一つであるオンタリオ湖は四国と丁度同じくらいの大きさを有し、湖沿いに広がるワイン生産地に大きな影響を与えています。オンタリオ州の主要ワイン産地であるナイアガラ・ペニンシュラは、2つの大きなアペラシオン、「ナイアガラ・エスカープメント」と「ナイアガラ・オン・ザ・レイク」に分けられますが、かの有名なナイアガラの滝に近いナイアガラ・オン・ザ・レイクのエリアは砂質と粘土質の土壌が中心で、特に湖や川の影響を強く受けるため、温暖で長い生育期間が確保でき、カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フラン、メルローなどの品種に適しています。比べて、ナイアガラ・エスカープメントは基本的に粘土質・シルト土壌ですが、“Benchベンチ”と呼ばれる少し内陸に位置するサ

ブ・リージョンエリアの土壌中間層には石灰質が多く含まれており、「ベンチ」という名の通り台地となっていて、他のエリアよりも標高が高くより涼しい気候も相まって、特にシャルドネやリースリング、ピノ・ノワールに適した産地となり、国際的な評価も得ています。


最後に今回は私の思い出深いカナダのワインを1本、ご紹介させていただければと思います。



TAWSE WINERY / VQA Lincoln Lakeshore Laundry Vineyard Cabernet Franc 2010

生産者:TAWSE WINERY(トーズ・ワイナリー)

葡萄品種:カベルネ・フラン100%

生産国:カナダ

生産地: ナイアガラ・ペニンシュラ>ナイアガラ・エスカープメント>リンカーン・レイクショア

ヴィンテージ:2010


綺麗に熟したカベルネ・フラン。カシス・ブラックベリーなどの黒系果実が中心、エレガントで上質な酸、しなやかなタンニンが液中に完全に溶け込み一体感が素晴らしい。2010年は私がいた2021年同様、雨が多くmildewに悩まされ非常に難しいヴィンテージであったが、出来上がったワインは素晴らしく、とても思い入れのあるワインなんだと、当時チーフワインメーカーを務めていたPaul Pender氏がテイスティングしながら語ってくれました。

残念ながら志半ばでこの世を去ってしまった偉大なTawse WineryのチーフワインメーカーPaul Pender氏と、素晴らしいナイアガラのワインメーカーとのご縁をたくさん繋いでくれた尊敬するソムリエJimson Bienenstock氏、今は亡き2人と共にテイスティングしたこのワインを、この場を借りて彼らに大きな感謝と敬意を表し捧げたいと思います。




エピローグ

Tawse Wineryでテイスティングさせていただいた際は、特にカベルネ・フランとリースリングの質の高さに本当に驚かされました。まだまだご紹介したいワインがたくさんありますし、今回ご紹介したワインは特別にワイナリーのセラーから出していただいたもののため、残念ながら購入することはできませんが、恵比寿のカナダワイン専門店Heavenly Vinesさんではキュヴェやヴィンテージ違いのTawse Wineryのカベルネ・フランの他、多くのカナダワインに出会うことができます。


是非一度、これを機会にカナダのワインを試していただけたら、そしてあなたの今後のワインの選択肢の中のひとつに加えていただけたら私もとても嬉しく思います。

また素敵なワインをどこかでご紹介できる日を楽しみにしています。




<プロフィール>

秦 亜吏加 (Arika Hata)


鮨職人の父に影響を受け、食の世界に興味をもち学び始める。

都内調理師学校卒業後、都内フレンチレストランや外資系ホテルにてサービス・ソムリエとしての経験を積む。2021年の1年間、拠点をカナダのトロントに移し、これからの産地であるカナダワインやソムリエとして現地での ”ホスピタリティとは” を学び、翌2022年に帰国。現在はフリーランスとして活動しており、日本ではソムリエ以外にも取締役秘書を勤めた経験や、カナダ以外にもヨーロッパ、南米と海外渡航経験もあり、色々な視点から体験談とともにワインをより楽しくお伝えしていけたらと思っています。


・日本ソムリエ協会認定 ソムリエ

・国際ソムリエ協会認定 International A.S.I. Sommelier Diploma

・Service Excellence for Business Diploma