シャンパーニュにおける「旨味」への考察

うまみとは何か

1908年にだし昆布の中からグルタミン酸を発見したことが、「UMAMI」という味わいの

はじまりです。2000年になり、舌の味蕾にある細胞にグルタミン酸受容体が発見されたことにより、従来の甘味・酸味・塩味・苦みに加え、うま味の実在が世界的に広く認知されるに至りました。今回はシャンパーニュの「うまみ」についていくつかの研究結果をもとに考えてみます。



発酵とうまみ

デンマークコペンハーゲン大学食品化学部による研究「発酵とうまみの可能性」によると、

うまみはグルタミン酸、アスパラギン酸によって生じることが分かってきていますが、グルタミン酸はタンパク質、ヌクレオチドは核酸など様々な食品や飲料に由来しているので、含まれる量は様々です。また、タンパク質や核酸そのもの自体には味がないので、他の化合物と結びつくことによりその味わいをもたらすようになります。

ワインやシャンパーニュなどの醸造過程では、酵母との結合工程があるため液中に生成されるFAA(Free amino acid:グルタミン酸などの遊離アミノ酸)が大きくなるのです。それはFAA量が微生物、特に酵母との関係性が深いことを意味しています。



シャンパーニュのうまみ

シャンパーニュは一次発酵だけでなく、澱と共に長く熟成させる瓶内二次発酵、そしてデコルジュマン後のドザージュで加えられた糖やブドウ由来の残糖分が、酵母の自己消化(タンパク質の加水分解)に使われることによってFAAがもたらされるのです。加えて、デコルジュマン後の長期熟成によりメイラード反応が起こり、その香りや味わいが変化して、さらにうまみが増していくことが考えられます。ちなみに、メイラード反応とシャンパーニュについてはまた別の機会に記述していきたいと思います。最近はドザージュをしない造りのシャンパーニュも増えてきていますが、近年の気温上昇によりブドウの熟度が高くなってきていることもあり、残糖度が比較的高くドザージュせずとも、バランスのいいうま味が表現できる素晴らしい生産者が増えてきているのではないでしょうか。

シャンパーニュのみならず、醸造酒全般においてうまみ成分との深い関係性が様々な研究によって解明されつつあることは非常に興味深く、「うまみ」がこのように世界的に認知されていることは日本人としてもとても嬉しく思います。これからのシャンパーニュにおける「うまみ」の進化がますます愉しみです。


今回紹介する1本は

メニル・シュール・オジェ村に構える、家族経営の生産者。ジャン・ルイ・ヴェルニョン

畑はメニルを中心に、オジェ、アヴィーズに計5.3haを所有しています。2002年より醸造責任者となったクリストフ・コンスタンが栽培・醸造の改革を行い、近年飛躍的な発展を見せている注目するべきメゾンの一つといっても過言はないでしょう。

メニルのシャルドネは鋭い酸と繊細で硬いミネラルをもち合わせているため、飲み頃を迎えるまでには時間がかかるのが一般的な印象です。そのため通常は酸を柔らかくするためにMLFを行います。しかし、このヴェルニョンのシャンパーニュの一番の魅力は「早い段階から美味しく飲むことができる」ということなのです。その秘密は十分に熟したブドウを使うという点にあります。それは、近年では特に普通の感覚に思える言葉ですが、クリストフ氏の意味するところは一線を画しています。彼はメニルの個性を活かすため、MLFを一切行わず、鋭い酸と硬いミネラルに負けない豊かな果実味をもつ熟したブドウを育てるという、見事な二面性を両立させているのです。

畑ではサスティナブル農法を実践し、一部のキュベを除き発酵は全てステンレスタンクで行われています。キュベごとに3年~5年の瓶内二次発酵を経て手作業でデゴルジュマンが行われた後ドサージュは最小限に抑えられ、世界へとリリースされています。


<ワイン情報>


生産者: J.L.Vergnon/ジャン・ルイヴェルニョン

ワイン名:Eloquence /エロケンス

葡萄品種:chardonnay100%/シャルドネ100%

ワインタイプ:シャンパーニュ

生産国:フランス

生産地:Le Mesnil-sur-Oger/ シャンパーニュ地方/ル メニルシュールオジェ

ヴィンテージ:NV

インポーター:フィラディス

参考小売価格:\7,800(税抜)


ステンレスタンクで発酵、瓶内熟成36か月以上。ドサージュ3g/L。

メニル、オジェを主軸にアヴィーズからのブドウも使用。爽やかな柑橘系のアロマからアーモンドパイのニュアンスが感じられます。鮮烈な酸のアタックと肉付きのいい豊かな果実味が素晴らしいバランス。余韻は長く、ミネラルがもたらす塩味とうまみが表現されており

日本食にも相性抜群な1本だと思います。

口福のマリアージュ:天ぷら、カキフライ、串揚げなどの揚げ物、白身魚やエビの昆布締め



<プロフィール>

近越 安那 

1982年生まれ、石川県金沢市出身。


制作会社勤務を経て、飲食業界へ。


シャンパーニュバーの先駆けであるti quoiで2011年から約2年間勤務の後、2014年に独立。麻布十番にて完全紹介制のchampagne bar HACHI をオープンする。