top of page

クリュのこれから

シャンパーニュ地方にも、もちろん存在する格付け。

シャンパーニュの格付け「エシェル・デ・クリュ」は、1919年に初めて導入され、当時は12村がグランクリュに制定されました。その後1985年に改定され、今の 17村となっています。「エシェル・デ・クリュ」の本来の機能は、ブドウを買い付ける際の価格決定システムでした。各村の格付けによってブドウの価格を一律で決定するこのシステムは、自由競争を阻害するとして1999年より禁止されましたが、現在でも品質の基準として機能しています。そのため、今現在も定期的に見直しがされているそうです。


皆さんもよくご存じのグランクリュ17村と、プルミエクリュ44村が、格付け表記を認められています。またそれ以外のクリュは258村あり、近年は格付け表記がなくとも評価されるクリュが出てきています。


そんな「クリュ」の特徴を生かすことに心血を注いでいるヴィニュロンの中から今回ご紹介したいのは、「シャルトーニュタイエ」というメゾン。そして当主であるアレクサンドル シャルトーニュ氏です。


大学の卒業研修でジャック・セロス アンセルム氏に師事し、2006年に実家であるシャルトーニュタイエに戻りシャンパーニュ造りをはじめます。


アレクサンドルがまず初めに手掛けたことは、健全なブドウを栽培するための土壌改良、そして自然環境を尊重したワイン造り。さらに1863年にブドウの栽培農家として創業した

シャルトーニュタイエの歴史を改めて紐解き、所有する全てテロワールの徹底した研究と分析。これらを、丁寧かつ斬新なアイデアで進めていく彼の情熱的なスタイルは、とても純粋で非常に興味深く印象的です。


「健全なブドウの樹の根はまっすぐ地中に伸びていくものなんだ。」

そう言って、いくつか地中に生えたブドウの樹の根の写真を見せてアレクサンドルが説明してくれたことをよく覚えています。畑表面の草だけでなく、微生物まで殺して土壌を不活性化させてしまい、ブドウの根がまっすぐではなく横方向に成長してしまう環境を作り出す除草剤は、一切使用しないことを徹底するようになったそうです。その代わり、より良い土壌を作る為に野草を調整し、適切な空気を含ませながら畑を鋤き耕している。馬や機械は使わず、畑は全て人の手で耕しています。



さて、ここからはクリュの話をしたいと思います。


シャルトーニュタイエは、ランスから北西に車で15分ほどの距離にあるメルフィー村に在ります。この村の畑の総面積は45haと大きくはないのですが、その中にも多様な土壌と微量気候が存在していて、シャルトーニュタイエはそのうち10haを所有しています。


また近年、新たに隣のサン・ティエリー村にも畑を所有しているとのことです。


メルフィー村は600年以上前からワイン造りが行われていた土地ではありますが、他のグランクリュやプルミエクリュに比べて知名度が低く格付けは84%。しかしながら、最近のシャンパーニュではこのようなクリュから、次世代の素晴らしい生産者の手により、そのポテンシャルが引き出され、評価されるシャンパーニュが生まれてきているのが非常に面白い傾向だと思います。


アレクサンドルが手掛けるシャルトーニュタイエのシャンパーニュは、「Heurtebise」

や「Les Orizeaux」など土壌やブドウ品種が異なる単一区畑から、それぞれの区画の個性を生かしたシャンパーニュ造りをしています。一次発酵には野生酵母を使用し、2次発酵は自分の畑から選んだ酵母を培養して使用しています。それは、メルフィー村のテロワールをシャンパーニュに表現するために必要なことだと考えているからです。その他にも一次発酵の際に、畑の土壌によってステンレスタンク、たまご型コンクリートタンク、バリックを使い分けるなど様々な工夫と試行錯誤をしています。


そして、テロワールを表現するためにシャンパーニュの個性に合わせてドサージュの量を決めています。いつも同じ量とは限りません。以前私が訪問した際、ドサージュ量が1gづつ異なるベースワインの比較試飲をさせて頂いたことがありました。僅か1gでも味わいの表情ががらりと変化し、ドサージュが多ければ甘く感じるというものでもないということが非常に興味深い経験でした。そして熟成の度合いや飲み頃の時期など様々なことを考慮しながらテロワールを最大限に伝えたいという思いを、ドサージュからもひしひしと感じた瞬間でもありました。


クリュの特徴を生かし切るワイン造りに情熱を傾ける、次世代生産者のひとりであるアレクサンドル シャルトーニュ。これからの進化にますます目が離せません。


<ワイン情報>


生産者: Chartogne Taillet /シャルトーニュタイエ

ワイン名:Cuvee Les Orizeaux /キュベ レ ゾリゾー

葡萄品種:Pino noir100%/ピノノワール100%

ワインタイプ:シャンパーニュ

生産国:フランス

生産地:Melfy/ シャンパーニュ地方/メルフィー村

ヴィンテージ:NV

インポーター:フィラディス

参考小売価格:\15,300(税抜)



瓶内熟成は48か月。ドサージュは3g/L。

キュベ レゾリゾーはメルフィー村の南側に位置する単一畑で、植樹されたのは1950年代だそうです。砂質と石灰が主体の土壌には鉄分が含まれ、粘土も少し混ざっているため、独特のミネラル感と豊かさが感じられます。ほのかな蜂蜜のニュアンスから、ベリー系フルーツの果実味が感じられ、美しいミネラルが心地よい切れ味の良さを表現しています。

口福のマリアージュはサクッと上がった串揚げや天ぷら。オレンジとレモンのゼリー。


<プロフィール>

近越 安那 

1982年生まれ、石川県金沢市出身。

制作会社勤務を経て、飲食業界へ。

シャンパーニュバーの先駆けであるti quoiで2011年から約2年間勤務の後、2014年に独立。麻布十番にて完全紹介制のchampagne bar HACHI をオープンする。




bottom of page