2022年5月16日4 分
昨今のオリエンタルカレーや、スパイスカレー人気の高まりもあり、いわゆる「インドカレー屋」は日本全国津々浦々に広がっている。
筆者も無類のインドカレー好きで、良く食べ歩くのだが、今回はインドカレーとは少し違うスリランカカレーの名店に出会った。
東京は足立区、北千住にある「タンブリンカレー&バー」だ。
北千住駅の西口から出て、左方向を見るとマクドナルドがある。そこを境目に右側の通りと左側の通りには、東京でも指折りのカオスな空間が広がっており、センベロ的な立ち飲み店や、世界各国の様々な専門料理店だけでなく、いわゆる「ピンクなお店」も狭い範囲に多数混在しており、またそれらのお店が絶妙な「場末感」を醸し出しているため、なんとも不思議な空間になっている。
人通りは多く、細かな路地にもお店がびっしりと入っており、なかなかの繁盛エリアだ。
ぶらぶらと歩いて、気になるお店に立ち寄って一杯ひっかけるだけでも、かなり楽しいエリアなので、東京のメジャースポットに飽きた人には、訪問を強くおすすめする。
筆者にとっても、生まれ育った大阪の鶴橋という街の高架下エリアに良く似た雰囲気があるため、妙に落ち着く場所なのだ。
「タンブリンカレー&バー」はそんなカオス街を、荒川区へと向かう南方向に抜け、少し閑静になったエリアにある。
そもそもインドカレーとスリランカカレーはどう違うのだろうか。
インドカレーは(地方によってもかなり異なるが)、メジャーなものは「ギー」と呼ばれるバターオイルの一種を使うことが多い。つまり、簡単に言うと油をしっかりと使ったカレーとなる。
一方でスリランカカレーでは油は基本的に用いずに、ココナッツミルクをベースにする。また、スリランカカレーでは「トゥナパハ」と呼ばれるパウダー状になるまですり潰した混合スパイスが基本となるため、スパイスがカレーにしっかりと溶け込んだような味わいになる。小麦粉も使わないので、質感はサラサラとしたスープ上になる。
直線的なインドカレーのスパイス感も素晴らしいが、丸みを帯びたスリランカカレーの「出汁的」なスパイス感もまた、捨て難い。
具材は肉類よりも海鮮類が本場では多いが、まあ、ここは日本なので、なんでもありだ。
さて、ペアリングだが、一つ非常に大きな問題がある。
それは、スリランカカレー独自の「食べ方」にある。
スリランカカレーでは、ライス、複数のカレー、複数のおかず(漬物的なもの)を少量ずつ混ぜながら食べるのが基本。これはつまり、常に「味変」をしながら食べているようなものであり、ターゲットを絞るのが不可能に近いため、高度なペアリングもまた、ほぼ不可能だ。
ワインでざっくりと合わせるなら、この手のスパイス料理には王道のリースリング(半辛口〜半甘口くらいの塩梅が丁度いい)や、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカ辺りが筆頭候補になるだろう。赤ワインで行くなら、グルナッシュやシラー系が良いが、インドカレーほどスパイスがダイレクトにこないスリランカカレーの場合、そこまでアルコール濃度に対してセンシティブになる必要はない。(アルコール濃度が約13%を上回ったところから、スパイス感を強める作用が出てくる。)
とはいえ、ワインでの攻略は難しいなぁと頭を抱えることにはなったので、別の料理で攻略してみることにした。
タンドリーチキンだ。
スパイスが染み込んだ様なインドのタンドリーとは違い、スリランカのタンドリーは「カレーをまとっている」様な感じだ。
この料理に対しても、攻略法はスパイス料理対策の基本と一緒。しかし、どうしても味が混ざって変化するスリランカカレーに比べれば、ペアリングの精度はグッと高くなるだろう。
と妄想を膨らませていた時に、ふと別の飲み物が目に入った。
スリランカの代表的なビールである「ライオン」のスタウト(黒ビール)だ。
直感としか言いようが無いのだが、実際にこの組み合わせを試してみると、途轍もない衝撃を受けた。
美味いのだ、異次元に。
ほのかにスパイシーだが、マイルドな甘味があり、奥深いコクが素晴らしく、アルコール濃度は8.8%と言うハード系。
このスタウトが、スリランカタンドリーのあらゆる要素と繋がり、包み込み、染み込む。
その土地のワインとその土地の料理が、驚異的なペアリングとなることがしばしばあるように、ビールもまたその地に深く根ざしたものであれば、感動的な結果を生むことがある。
スリランカタンドリーと、ライオンスタウト。
北千住に足を運ぶには、十分過ぎる理由だ。