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  • 未輸入NYワインから紐解く未開の可能性

    日本国内未輸入ワインのテイスティングは、 非常に多くの学び をもたらしてくれる。未輸入である理由や、輸入された際の市場の反応を予測すると、 市場分析 の学びとなり、 市場開発 の学びともなり、昨今のワイン市場においてもますます重要性を増す、販売者、伝え手たちの 創造性 を養うための学びにもなる。 今回、アメリカ合衆国・ ニューヨーク州産の未輸入ワイン を多数テイスティングする機会に恵まれた。その際に 筆者の脳内を駆け巡った様々な思考 を、読者の皆様と共有したいと思う。 なお、今回ピックアップしたワインは1銘柄を除いて、 現地価格で表記 している。現地価格と日本国内価格の差は、実に複雑な要因(*)によって決定しているため、現地価格のおおよそ何倍という一般化が非常に難しいが、多くの場合は、1.5〜2.5倍の範囲に収まっていることが多い。 予備知識ではあるが、アメリカという国は、東、中央、西で大きく大衆文化が異なる。 西側 の大都市(特に文化面の特徴が顕著なのは、サンフランシスコとポートランド)は 環境問題に対する意識が強い 一方で、 東側 の大都市(特にニューヨーク市)ではあらゆる差別への嫌悪感情から連なる、 多様性の尊重 がより強い比重を占める。もちろん、サンフランシスコでも多様性は重視されるし、ニューヨークでも環境問題は大きな関心を集めているため、これはあくまでも比重の話である。 ニューヨーク州のワインは、緩やかに環境問題への取り組みを進めつつも、多様性は常に大切にしてきた。まさに、東側の州らしい在り方だ。 そして、多様性は往々にして分かりにくく、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネといった人気品種の実力が高いカリフォルニアに比べて、リースリングとカベルネ・フランを得意とするニューヨーク州(特にフィンガーレイクス)は、かなり部が悪い。 しかし、日本でも多様性への理解は着々と進んでおり、 ブランドより個性、ファクトリーメイドよりもクラフトを尊重 する流れは、より加速していくだろう。つまり、 様々な要因で国内輸入に至らなかったワインに、チャンスが巡ってくる可能性は決して低くない のだ。 今回テイスティングしたワインの中で筆者がピックアップしたものは、 結果的にフィンガーレイクス産のみ となった。 ロングアイランド産 のワインは、一部の例外的存在を除いて、 高品質なお土産ワイン の領域を突破できていない。高品質なので悪いものでは全く無いのだが、現地価格の全体的な高さもあいまって、国際的な競争力を発揮できるタイプのワインにはなりきれていない。こういうワインは、輸入されたものを楽しむよりも、現地で楽しんだ方が、価値が上がるだろう。 また、フィンガーレイクスに関する詳細は、 特集記事 でも取り上げている。 (*):ワイナリーの現地価格と輸出用蔵出し価格の差、スケールメリットによる蔵出し価格下落の有無、中間業者の有無、現地輸送インフラの整備具合、輸送手段(船かエアか)、輸送環境(温度管理するか否かなど)、コンテナの積載率、輸送距離、倉庫代、インポーターの商業規模、代金支払い時点での為替、価格帯や国によっては関税、インポーターによるブランド確立のための戦略といった要素が複雑に絡みあう。このことを理解したなら、「現地価格と比べて〜〜」といった類のクレームがあまりに愚かであることも、ご理解いただけるかと思う。インポーターが不必要に高価な値付けを行うケースは、基本的に稀なことであり、そのようなケースのほとんどが「あえて国内価格の値付けを高くした上で、大幅割引価格を前提とした販売を基本戦略とする」タイプのものだ。このようなケースに関しては、「大幅割引がモノの価値を下げる」という普遍の真理を無視し、自らが輸入する造り手のブランド価値の崩壊すら気に留めない、極めて利己的な販売戦略だと強く断じさせていただく。 リースリング フィンガーレイクス最大の強みは、なんといってもリースリングだ。そして、スレートにも似た粘板岩の 頁岩 (けつがん)土壌の恩恵も受け、ドイツ・モーゼルさながらの、辛口から極甘口まで幅広いスタイルで一貫した高品質が実現できている。人気や知名度を度外視して、実力だけで言うのであれば、フィンガーレイクス産リースリングは、既に 準世界最高クラス (ドイツを除いた、他の有力なリースリング産地と同レベル)に到達している。しかし、内包する問題点もまた、モーゼルと類似している。スタイルの幅広さという特徴そのものが、実に掴みにくいのだ。アルザスやオーストリア、オーストラリアであれば、基本的にドライなタイプが主流のため、産地とスタイルの結びつけが容易であるが、フィンガーレイクスはこの点において少々不利な状況(特にマーケティング面において)にある。筆者は多様性に対して極めて寛容かつポジティヴであるため、フィンガーレイクスのリースリングは、大変興味をそそられるワインではあるのだが。 紹介順は写真左から 生産者:Ravines / レヴィーンズ ワイン名:Dry Riesling ヴィンテージ:2017 現地価格:$18.95 レヴィーンズは現地訪問したことがあるワイナリーだ。モンペリエで醸造学を学び、Ch. Cos d’EstounelやフィンガーレイクスのDr. Konstantine Frankで研鑽を重ねたモルテン・ハルグレンが奥様と一緒に2000年に設立したワイナリー。非常に穏やかで、気の良いご夫婦の性格が、そのままワインになったかのような、素朴な魅力が光る逸品を手がける秀逸なワイナリーだ。その素朴さ故のインパクトの無さが国際市場で難しかったのは理解できるが、フィンガー・レイクスというテロワールの最も中庸の表現とさえ言えるレヴィーンズのリースリングは、とても価値のあるワインだ。現地価格も申し分なく低く抑えられている。国際市場に入ったときに、確かにライバルは多いが、この品質のリースリングがこの価格で楽しめるのは、十分に破格と言える。リースリング好きとしては、現地の人々がうらやましくすら思えてしまう。日本ではまだまだ理解の進んでいない産地故に、現段階では難しいワインかも知れないが、この素朴な良さが生きる日は必ずくる。 生産者:Hermann J. Wiemer / ハーマン・J.・ウィーマー ワイン名:Riesling “HJW Bio” ヴィンテージ:2017 現地価格:$45.00 シンプルに表現するなら、このリースリングこそ、現時点でフィンガー・レイクス最上の、つまり全米最高のリースリングだ。フィンガーレイクスのトップランナーで、日本でも最も名の知れたこの地の造り手の一角であるハーマン・J.・ウィーマーが、自社畑の中の完全にビオロジック化(ビオディナミの手法も一部取り入れている)した区画の葡萄のみを用いて仕込んだ特別なキュヴェとなる。同じ畑から造られる通常のリュット・レゾネ版と飲み比べると、驚くほどの品質の違いに、ビオロジックの効果を確信させられるだろう。当然、現地価格も相当高価であり、国際市場での競争相手はより強力となるが、それでも、米国で最も優れたリースリングである、という価値は計り知れない。未知の産地の市場が切り開かれていく際には、このような産地を代表するワインの存在は非常に重要となる。たとえ高価であったとしても、だ。 生産者:Living Roots / リヴィング・ルーツ ワイン名:Riesling Traminette ヴィンテージ:2017 現地価格:$14.99 2016年に設立されたばかりのリヴィング・ルーツは、オーストラリア・アデレードヒルズの名門ワイナリー「ハーディズ」の系譜に連なるワイナリーだ。創始者のトーマス・ハーディから数えて六代目に当たるセバスチャンが、フィンガーレイクスで手がけるのは、裕福な大ワイナリー一家の道楽でもなんでもなく、極めてダウン・トゥ・アースなワインだ。このキュヴェは残念ながら生産をやめてしまったようだが、フィンガーレイクスらしい魅力が詰まった良作と言える。リースリングは62%、そして残りはトラミネットという冬季耐性を強めるためにゲヴュルツトラミネールから人工交配されたハイブリッド品種。単体だと構造の弱さと単調さが目立ちがちなハイブリッド品種。そこで、リースリングにブレンドするというアイデアが生まれたわけなのだが、このワインは素晴らしい成功を納めていると言える。極々僅かにオフドライによったフルーティーでフレッシュな味わいは大変魅力的で、現地価格の安さも相まって、日本国内の市場でも大きな可能性を期待できたワインだ。 生産者:Weis Vineyards/ ヴァイス・ヴィンヤーズ ワイン名:Semi Dry Riesling ヴィンテージ:2018 現地価格:$18.99 ヴァイス・ヴィンヤーズは、とても存在意義の高いワイナリーだ。造り手のハンス・ペーター・ヴァイスは、ドイツのモーゼル出身。スレートと頁岩という違いはあれど、良く似た粘板岩土壌をもつ二つの産地の架け橋となり得る、極めて重要な存在だ。ワインも、正にモーゼルスタイル。辛口からアイスワインまで手がけるが、どれも非常に洗練されている。筆者が特に感心したのが、このセミ・ドライ・リースリング。モーゼルほど分厚い甘味と酸が無く、よりすっきりとした方向で、見事にまとまっている。モーゼル産の気高いワインは、少し構えながら飲んでしまうが、ヴァイス・ヴィンヤーズのワインなら、絶妙なバランス感覚で、全く飲み疲れしない。何より、意外なほどの食中酒としての汎用性の高さも光る。日本料理なら、甘い味噌にも辛い味噌にも対応し、豚肉との相性が特に優れ、香辛料にも問題なく対応でき、なんならキムチ鍋や火鍋に合わせても、唐辛子で火照った口内を、優しく癒してくれるだろう。甘いから、と無闇に拒絶するのは、あまりにも勿体無い。 生産者:Weis Vineyards/ ヴァイス・ヴィンヤーズ ワイン名:Ice Wine Riesling ヴィンテージ:2017 現地価格:$59.99 (375ml) ドイツ流のお家芸とも言える極甘口のアイスワイン。製法上どうしても高価格となるアイスワインは、現地価格も立派な値段となっているが、品質は間違いなくトップクラス。日本国内で手に入る極甘口ワインは、極めてヴァリエーションに欠けているのが残念だが、このような素晴らしい極甘口ワインは、優れたワイン趣味の持ち主(そして比較的裕福な)であれば、隅々まで味わい尽くしてくれるだろう。極少量であっても、こういったワインが輸入されることには、大きな意義があると筆者は信じている。 シャルドネ フィンガーレイクスでも、シャルドネが盛り上がりつつある。 インターナショナルスタイル (テロワールよりもワインメイキングを重視した、より濃厚なスタイル)で造られた高品質なシャルドネは、かねてからロングアイランド産で散見されてきたが、フィンガーレイクスでも様々なスタイルのシャルドネが見られるようになった。そして、ある意味「お土産ワイン」路線に振り切っているロングアイランド産に比べると、フィンガーレイクスのシャルドネからは過渡期特有の「 迷い 」が見られる点が非常に興味深い。単純な話をすると、「 どれだけ新樽を効かせるか 」という問題だ。現地の嗜好だけを考えるのであれば、田舎町のフィンガーレイクスでシャルドネを造るなら、たっぷりと樽を効かせた方が売れるのは間違いない。しかし、 国際市場では、見知らぬ産地から出てきたインターナショナルスタイルのシャルドネ、のような存在は、とっくに飽和状態になっている 。フィンガーレイクス産のシャルドネが、今後よりインターナショナル色を強めていくのか、冷涼気候の特性を存分に活かしたシャープな方向性へと向かうのか、それともそれらが混在共存する多様性が維持されていくのか、注目を続けていきたい。 紹介順は写真左から 生産者:Heart and Hands / ハート&ハンズ ワイン名:Chardonnay ヴィンテージ:2018 現地価格:$28.99 日本にも、非常に秀逸なピノ・ノワールが輸入されているハート&ハンズだが、シャルドネもまた興味深い。スタンダードとなるこのワインは、低温浸漬、フランソワ・フレール製のフレンチオークで発酵、定期的なバトナージュ、MLF発酵、樽熟成と、インターナショナルスタイルの「定番レシピ」がこれでもかと詰め込まれている。もはや冷涼気候らしさは濃霧の彼方に隠れてしまっているが、ワインそのものの完成度は実に秀逸。現地価格も、フィンガーレイクスやロングアイランドで造られる同様のスタイルのワインと比べても、しっかりと抑えられている。それどころか、カリフォルニアにライバルを探してみても、ヴァリューパフォーマンスで圧倒できるケースは非常に多いだろう。つまり、意外と思うかも知れないが、価格の適正さに、ニューヨーク産という目新しさを少々加味すれば、マーケットポテンシャルがかなり高いワインとも言えるのだ。 生産者:Heart and Hands / ハート&ハンズ ワイン名:Verve Chardonnay ヴィンテージ:2018 現地価格:$28.99 スタンダードのシャルドネとは異なるコンセプトで造られた、興味深いワインがこちら。38%をステンレスタンクで発酵し、MLF発酵は部分的に留めている。その分、より酸の骨格がはっきりと感じられ、冷涼気候らしい抑制の効いた味わいとなっている。テロワールを感じられるワインの方が、遥かに存在意義があると度々主張してきている筆者は、やはり「フィンガーレイクスらしさ」を残したこちらのシャルドネに、より強く魅力を感じてしまう。62%の樽は、筆者の感覚では、まだ「やりすぎ」ではあるものの、丁寧なワイン造りが十分に伺える佳作となっている。一方で、現時点でのマーケットポテンシャルで言えば、スタンダードシャルドネと、なぜか同価格で販売されているこのワインは、少々部が悪いだろう。樽をたっぷり使っているワインは、その分価格も高くなる、というのは確かに正解であるが、そのバイアスが、このワインの価格付の正当性に対して、疑問を生じさせてしまう側面は否めない。現地価格が、スタンダードシャルドネに比べて3~4$でも安ければ、また違った印象になることは間違いないだけに、勿体ない、という印象を禁じ得ない。 生産者:Osmote / オズモート ワイン名:Chardonnay Cayuga Lake ヴィンテージ:2018 現地価格:$18.00 オズモートには、フィンガーレイクス新時代の担い手の一人として、大きな期待がかかっている。世界各地のワイン産地で研修を重ねたベンジャミン・リカルディは、磨き上げたセンスと知見で、フィンガーレイクスに新たな風を呼び込んでいる。日本国内にも、彼のフラグシップに当たるシャルドネの別のキュヴェが輸入されている(400~500ℓの中樽で発酵)が、ステンレスタンクのみのこちらは未輸入。冷涼気候のシャルドネを、ステンレスタンクのみで仕立てた場合、非常に鋭角なワインとなることが多いが、このワインもその例に漏れず、開き直ったかのような、遠慮のないシャープさが痛快だ。ハーブ的なニュアンスも多分に感じられ、テロワールの表現は非常に鮮明ではあるものの、かなり飲み手を選ぶ可能性の高いワインとなっている。ある種の先見の明を感じるワインだが、時代がまだ追いついていないか。 ハイブリッド 大量生産型の安価なワイン(いわゆるジャグワイン)に使用されることの多い品種、というイメージがこびりついているハイブリッド品種だが、近年風向きが大きく変わりつつある。ハイブリッド品種ならではの 病害耐性の高さ は、 農薬散布量の劇的な削減に直結 し、 多収量確保の安定性 は、 極めてエコロジカルな要素 でもあるからだ。つまり、 SDGs の目標に含まれる、 地球環境への配慮、そして継続的な経済成長を両立 しやすい品種であるという理解が、深まってきている。特にデイリーレンジに用いられるワインに、積極的にハイブリッド品種を使用するチャレンジや議論は、世界各地のワイン産地(特に病害リスクの高い産地)で盛んに行われている。 カベルネ・フラン フィンガーレイクスにおける黒葡萄のスターは、カベルネ・フランで間違いない。元々 冬季耐性が高く、冷涼な気候でも魅力を十分に発揮できる 葡萄であるため、フィンガーレイクスでも長い栽培の歴史を誇る。それにしても、フィンガーレイクスを代表する2品種(リースリングとカベルネ・フラン)が共に、「一般消費者受けは今一つだが、専門家は非常に好む」品種の代表格であることは、なんとも皮肉なものだ。一部、日照量の多いエリア(バナナ・ベルトと現地では呼ばれる)で育った葡萄からは、高いアルコール濃度のワインが造られているが、フィンガーレイクスのカベルネ・フランが本領を発揮するのは、 冷涼気候 でしかありえない、 低アルコール濃度と、充実した構造が共存したスタイル である。 紹介順は写真左から 生産者:Osmote / オズモート ワイン名:DeChaunac ヴィンテージ:2018 現地価格:$18.00 ハイブリッド品種のデシャウナックは、カビ系病害に極めて強く、湿潤地での安定性から北アメリカの東側では広く栽培されてきた。オズモートはこの歴史あるハイブリッドに、現代のセンスを投入。早めに摘んでフレッシュさを残したデシャウナックを、シャルドネをプレスした後の果皮と共に発酵。ライトな赤ワインに、オレンジワイン的な要素を足して、大変興味深いスタイルを生み出した。価格は輸入された場合、デイリーレンジとしては少し厳しくなる設定なのが少し残念だが、このようなワインに市場が開かれるチャンスはきっと訪れると信じている。 生産者:Red Newt Cellars / レッド・ニュート・セラーズ ワイン名:Cabernet Franc ヴィンテージ:2018 現地価格:$22.00 フィンガーレイクスに居を置く、日本完全未輸入のワイナリーの中でも、レッド・ニュート・セラーズは飛び抜けた実力をもっている。見事なリースリングも素晴らしいが、このカベルネ・フランも最高のワインだ。低く抑えられたアルコール濃度、明朗な味わい、確かな酸と構造。この価格帯のワインとして、文句の付け所がない傑作ワインである。何よりも素晴らしいのは、このワインが備える全ての特性が、フィンガーレイクスというテロワールと直接的な関係があることだ。無理をせずに、普通に造ったら、この味わいになった。その「当たり前」がもつ強みの価値は、計り知れない。温暖化に苦しむ伝統国の多くの造り手が、喉から手が出るほど欲しているテロワールが、フィンガーレイクスに確かに存在しているのだ。 生産者:Element Winery / エレメント・ワイナリー ワイン名:Cabernet Franc ヴィンテージ:2014 国内価格:¥6,800(2013年ヴィンテージ) フィンガーレイクス出身のマスターソムリエであるクリストファー・ベイツが率いるエレメント・ワイナリーは、日本国内市場においても、フィンガーレイクスという未知の産地への偏見が打破され始めるきっかけとなった重要な存在だ。カベルネ・フランは別のヴィンテージが輸入されているため、今回のテイスティングの中では違った立ち位置にあるものの、フィンガーレイクスのカベルネ・フランを語る上で、このワインを避けて通るわけにはいかない。フィンガーレイクスの冷涼気候が見事に反映されたワインだが、その軽やかさに反するように、コアの果実味は極めて凝縮しており、ありふれた表現をあえて用いるなら、「物理学の法則に反している」かのような不思議なテクスチャーをもったワインだ。Hermann J. Wiemer、Red Newt Cellars、Keuka Lake Vineyardsと、見事なカベルネ・フランを手がける造り手は多いが、エレメント・ワイナリーは間違いなく、最上候補筆頭である。価格も現地価格と比べて、国内価格が非常に良心的に設定されているため、ぜひこのワインを体験して、フィンガーレイクス産カベルネ・フランの真価に触れていただきたい。 可能性を切り開くもの 未輸入に留まっている理由の多くは、日本の市場がそれらのワインを受け入れる準備が整っていないことにあるが、今回テイスティングしたワインの中で、筆者がピックアップしたものはどれも、十分に可能性を感じさせるものであった。さて、この可能性とは、誰がどのように切り開いていくのか。この点に関して言えば、インポーターの役割は、実はあまり高くないと思っている。もっとも重要なのは、最初の受け手であり、二番目の語り手でもある、ソムリエ、ジャーナリスト、カヴィストたちが理解することであり、これらのワインを通じて、どのように顧客を満足させられるかを考える発想力である。日本国内ワイン市場の長い歴史の中で、強固に築き上げられてきた固定概念が、急速に崩壊している現代だからこそ、そのチャンスは無限に散りばめられているのではないだろうか。

  • 真夏の赤

    夏である。 日本の盛夏は本当に暑い。と言うか熱い。 筆者は10年間シンガポールに住んだ経験があるが、赤道直下で年中真夏にもかかわらず気温が35度に達することなどめったになかった。今これを書いているこの瞬間、気温は36度を指している。どうも緯度と気温は必ずしも単純に相関しないらしい。 こうも暑いと、やはりキリっと冷えた白ワインや、スパークリングでシュワっとさっぱりといった言葉があちこちで見られる。逆にしっかりした赤は暑苦しくて飲む気がおこらないとか。 しかしそうだろうか? 夏でも焼肉とか屋外でバーベキュー、またファインダイニングではしっかりと冷房が効いているはずでメインコースには赤が欲しいのは必然。赤ワインの登場場面はたくさんあると筆者は考えるが。 賛同していただけるのは少数派かも知れないが、天候と飲むワインのタイプとはそれほど強い相関性はないのではないか。寒い12月にシャンパーニュの消費が激増するのを見てもわかる通り、 気温よりも他の要因、環境、雰囲気の方が何を飲むかを左右するように思う 。 というわけであまのじゃくの私は猛暑の過日、あえて濃いめの赤を楽しんでみた。 生産者 :ル・レザン・エ・ランジュ ワイン名 : ヴァン・ド・フランス オマージュ・ア・ロベール 葡萄品種 : ガメ60%、メルロ40% ワインタイプ :赤ワイン 生産国 :フランス 生産地 :ローヌ地方 ヴィンテージ :2019 インポーター :ラシーヌ 参考小売価格 :2640円(税込み) ル・レザン・エ・ランジュ、「ブドウと天使」という名の生産者。エチケット上にも可愛い天使が描かれている。 フランス南部ローヌ地方の人里離れた小さな集落にワイナリーを構え、 ジル・アゾーニ、アントナン・アゾーニ の父子が、 酸化防止剤無添加、ブドウ以外にワインに何も入れない という厳格な哲学を基に黙々とワイン造りに取り組んでいる。 今回ご紹介する「 オマージュ・ア・ロベール 」はいくつかあるキュヴェの中でもガメ種6割とメルロ種4割という、どちらかと言うと 南仏らしからぬ品種構成 。 15度設定のセラーからボトルを取り出すとすぐにうっすらと水滴がつく。夏なら十分に清涼感を得られる温度だ。(これが真冬なら同じ15度でもひんやりとは感じない。人間の感覚とはかくも容易に環境に左右されるものだ。) 栓は以前はコルクだったが2019年からだろうか、王冠に変わっている。栓抜きで開けると軽くシュポっというが、ワインに泡は見られない。 グラスに注いで色を見ると、濃い。とても濃い色調なのだが、赤みがかった深いルビー色なのはガメ種が主体であるからだろう。当然のごとく瓶詰前のろ過はしていないだろうからクリアな透明感はない。濃密なワインであることが色だけで容易に想像できる。 グラスに鼻を近付けるまでもなく強く立ち上る完熟果実、ハーブ、スパイスの香りのオンパレード。 口に含んだ瞬間、ジャムのように凝縮したベリー系果実味が爆発、シナモン、ブラックペッパー、丁子などのスパイス、その後適度な収斂味が引き締めてくれてなんとも高いレベルでまとまってくれている。ブラインドで出されたらガメ種とメルロ種という二品種、どちらも想像しにくい複雑性、凝縮感。 このクオリティでこの価格はすごい。30年近くワイン業界に身を置いているが、なかなか出会えない高コスパなワインだ。この価格なら焼肉やグランピングでバーベキューなどカジュアルな機会にも使えるし、このクオリティならレストランで例えば鴨、鹿、イノシシなどと合わせたくもなる。 あまりに美味しいのでネット上でどんなコメントがあるか調べてみた。 意外にも、軽くてフレッシュ、少し冷やしてグビグビ飲めるワインというニュアンスのコメントが多い。 うーん、承服しかねるぞ。ここでも私は少数派なのだろうか? コメントされている方を批判するつもりはないし、間違っているというつもりもない。 酸化防止剤無添加のワインによくあるボトルごとの差、抜栓の時期による味わいの変化、提供温度、その場の雰囲気、その他いろんな要因で感じ方は人それぞれ。 ただ、ガメ種が主体であるという理由だけで軽くてフレッシュ、がぶ飲みタイプというコメントにもし結びついているのだとしたら、それはあまりに短絡的で残念至極。 少なくとも筆者が楽しんだボトルは紛れもなく高度に凝縮された、溢れんばかりのブドウのパワーを感じる濃密なワインであった、ということは声を大にして言っておこう。 暑いから白が良い、ガメは軽くてガブ飲み、あの人がこう言っていた、ではなく、先入観を一切排して真っ白な頭で目の前のワインと向き合ってみよう。きっとワインの楽しみ方の幅がグッと拡がるはずだ。 <ソムリエプロフィール> 長谷川 憲輔 / Ken Hasegawa 1969年 大阪生まれ 1990年 大学でフランス語を専攻。フランス、ボルドー大学留学中にワインの世界に触れる。 1992年 ワイン業界入り。商品開発、バイヤー、小売りなど流通全般に携わる 2006年 ふとしたきっかけでシンガポールに渡ることになり、ソムリエとして日本料理店に勤務 2010年 ふとしたきっかけで著名なシェフ、アンドレ’チャンに見いだされ、レストラン・アンドレの開店に伴いシェフ・ソムリエ就任。シンガポール歴代首相をはじめ、多くのVIPを接客。シンガポール未輸入のユニークなワインをフランスから直輸入し、自由な発想で組まれたペアリングは高い評価を得る。 ミシュラン・シンガポール二つ星獲得、World’s 50 Best Restaurants にて14位、Asia’s 50 Best Restaurantsにて 2位ランクインに貢献。 2017年 大阪に戻りフリーランスとして、ワインにとどまらず飲食業界を幅広くサポートする活動を開始 F&B Adviser to Restaurant MUME(台北) F&B Adviser to TAKAYAMA(京都) F&B Director to GOOD NATURE STATION(京都) その他、イベント企画、セミナー、講演など多数。飲食業界の発展を願いつつ活動中。

  • 非常時のレアワイン

    世界の消費傾向が一気に変わった昨今のワイン市場。レストランでの営業が世界中で制限され、自宅での消費が多くなり、流動性の高いワインの価格帯にも変化が起こりました。ちなみにアメリカはワイン消費量が世界1位ですが、2019年と2020年と横ばいの状況です。(どこの国も実はあまり変化はありません。) 傾向としては、 低価格帯の消費が増えました 。(レストランの需要ではなく、自宅での消費に移行した結果) 必然的に、ワイナリーとしてもキャッシュフローなどの問題もあるため、色々と施策をすることとなります。 そんな施策の中で、ワイナリーが セラーストックのバックヴィンテージ や、 レギュラーでは他国に出していないものを輸出 することがありました。日本にもこういったアイテムが入ってきており、ワインを知っている方は、そういったものを探すのも楽しいです。 あとで紹介するワインはそういったワインで、私も見つけたときにすぐに購入致しました。 消費傾向が一気に変わりましたが、日本においてもご自宅でのワイン消費が増えることは飲食店での消費増加にも結果的につながるのと思いますので、あたらしい情報を常に発信していくことで、よりワインを身近に感じていただけるようにすることが必要です。 生産ワイナリー: Saintsbury / セインツベリー 生産者:David Graves / ディヴィッド・グレイヴス ワイン名1:Brown Ranch Chardonnay / ブラウン・ランチ シャルドネ ワイン名2:Rodgers cleek Syrah / ロジャーズ・クリークシラー 葡萄品種1:Chardonnay / シャルドネ 葡萄品種2:Syrah / シラー ワインタイプ1 :白ワイン ワインタイプ2 :赤ワイン 生産国 :アメリカ 生産地 :カリフォルニア カーネロス(ナパヴァレー) ヴィンテージ1 :2006 ヴィンテージ2 :2007 インポーター :布袋ワインズ株式会社 参考小売価格1 :¥6,700  参考小売価格2 :¥4,800 本日ご紹介のワインは、根強いファンを持つ セインツベリー 。ナパヴァレーを拠点にする同ワイナリーは1981年にスタートしており、ピノ・ノワール、シャルドネが有名です。ナパヴァレーといえばカベルネ・ソーヴィニヨンというように、気候から考えると、難しいといわれてきました。しかしそんなナパ・ヴァレーの中でも、 カーネロス というエリアは際立って 冷涼 であり、セインツベリーは、早い段階でこの地に可能性を感じ、それはすぐに確信に変わり、そしてホワイトハウスでの晩餐会でふるまわれるに至るほど、セインツベリーの名は広く知られるようになりました。 まさにナパヴァレーにおいて、シャルドネとピノ・ノワールのパイオニアといっても過言ではありません。 紹介する1本目のワインは、2006年のシャルドネです。 こちらは熟成も進み、果実の甘みにカリンなども感じることかでき、海老や蟹などと相性がよさそうで和食と合わせたいワインです。私はソムリエ資格を取る前は和食のお店で働いていましたが、知っていれば取扱いたかったワインです。 2本目は、2007年のシラーです。私はセインツベリーをずっと扱ってきたのですが、シラーは今回の件で初めて、セインツベリーが作っていたことを知りました。(日々情報を更新しないと改めて痛感しました。) お店でも取扱いましたが、ご存知の方も少なく、こちらも提供するさいワクワクしたものです。私ならこのワインは、食事がおわった後にグラスでゆったりと楽しみたいです。 今回紹介したセインツベリーはもちろん、他にも色々と素晴らしいワインが日本には入ってきておりますのでワインショップでさがしてみてはいかがでしょうか。 <ソムリエプロフィール> 小巻 秀人 / Hideto Komaki ワイン居酒屋 赤坂あじる亭 マネージャー 1983年 埼玉生まれ 2003年より飲食業界に入る。 2006年 赤坂の和食レストラン勤務 2013年 ソムリエ資格取得 2014年 株式会社セレブール入社 カリフォルニアワイン専門店あじる亭カリフォルニア勤務 2017年 同系列店のワイン居酒屋あじる亭に異動 2018年 店長就任 2020年 感動キューブ株式会社にワイン居酒屋あじる亭が所属、継続して店長として勤務 現在 ナパヴァレーヴィントナーズ公認アンバサダー

  • スイーツ x ワイン 甘い香りに癒されて

    レストランでワイン(お酒)を楽しむことが許されない。 耳を疑う発表から数ヶ月。なお、先の見えない状況が続いていますね。 リアルイベントで皆様の笑顔にお逢いできない日々の中、あらためて「外食すること」の尊さを知ることになりました。 作りたての料理、カトラリー、器、照明、サーヴィス、そして寄り添うワインによって創られる「非日常」に私たちは、癒されていたのだと。 【Marieのファーストチョイス】 そんな中、日本に届けられたアロマティックな白ワインをご紹介いたしましょう。 前回のコラムでもご紹介した、東欧で5000年の歴史を持つワインカントリー「 モルドバ 」の固有品種「 ヴィオリカ 種」です。 ヴィオリカ種は1969年に誕生したセイベル種とアレアティコの交配種。ヴィオリカはモルドバの女性に多い名前です。 グラスに注ぐと、ジャスミンやバラなどのフローラルで華やかな芳香と、マスカットや白桃の甘い香りが溢れます。味わいはドライで、フレッシュな酸と果実味のバランスが秀逸。 ワインの香りは、ブドウそのものの香りを第1アロマ、発酵や醸造に由来した香りを第2アロマ、熟成に由来する香りは第3アロマやブーケと呼ばれています。 ワインの癒し効果には、①アルコール飲料であること ②色調 ③香り などがありますが、自然由来の 豊かな香りの刺激には、誰しもうっとりした表情になりますね。 【スイーツとの相性】 アロマティック品種は、他にもゲヴュルツトラミネール、ヴィオニエ、マスカットなどがありますが、今回はこれからの季節にぴったりな軽やかなスイーツと合わせてみました。 「 ヨーグルトと白桃、ピスタチオのセミフレッド 」 コース料理の最後に甘口ワインを勧められることがあると思いますが、フルーティで優しい食感のデザートにはアロマティックな白ワインという選択肢も。 ヨーグルトの酸味と白桃の果実味 が「ヴィオリカ」の甘い香りと溶け合い、この日もまた最上の笑顔を頂戴しました。 既成概念にとらわれず、ペアリング研究を進めて行くことが新たな発見に繋がると信じて。次回、皆様とお会いできる日を心待ちにしております。 生産者 : Chateau Purcari / シャトープルカリ ワイン名 : Viorica / ヴィオリカ 葡萄品種 : Viorica / ヴィオリカ ワインタイプ : 白ワイン 生産国 : Moldova / モルドバ 生産地 : シュテファンヴォーダ ヴィンテージ : 2020 インポーター : ユウ・コーポレーション 参考小売価格 : ¥3,500 【モルドバのブドウ品種】 白ワイン品種 65% 赤ワイン品種 35% 国際品種 73%、コーカサス品種 17%、土着品種 10% 【Chateau Purcari】 シャトープルカリは、1827年に設立された国営ワイナリー。1978年のパリ万博博覧会では、初の金メダルを獲得。英国ヴィクトリア女王が愛したと言われ、19世紀には英国王室に献上されていました。近年では、ルーマニア王室にも公式に認められ、献上しています。1991年に、モルドバ共和国として旧ソ連から独立するまで、そのワインはベールに包まれていました。 ワイナリーには宿泊も可能で、歴史を感じながらテイスティングを堪能できます。 <プロフィール> 秋山 まりえ / Marie Akiyama ステラマリー株式会社 / Stella Marie Co., Ltd. 代表取締役 ステラマリー☆ワイン会主宰 東京都出身の江戸っ子。 総合商社を退職後、2006年に出逢ったモルドバワインが転機となり資格を取得。 J.S.A. ソムリエ、WSET® Advanced Certificate 2011年8月より4年間、ワインバーにてソムリエールとして経験を積む。 2015年7月 ステラマリー株式会社 設立。代表取締役CEOに就任。 2015年9月 第1回ステラマリー☆ワイン会を開催。(次回186回目) 2019年7月 「ワイナートWinart」にて、日本人女性として初のフランス版ミシュランガイド一つ星を獲得した神崎千帆シェフ(Virtus・パリ12区)とのパリでの対談が連載される。 2020年1月 「日刊ゲンダイ」にて、日本人初のフランス版ミシュランガイド三つ星を獲得した小林圭シェフ(Restaurant KEI・パリ1区)のレストラン書評が掲載される。 ・ワインイベントプロデュース ステラマリー☆ワイン会 (メーカーズディナー、ワインと料理のマリエージュ会、ウェビナー) 年間約30回開催(会員制) ・レストランコンサルティング (ワインリストの提案) ・ワインギフトのセレクション   ☆ステラマリーは、ワインが繋ぐ一期一会を大切にしております。

  • ノンアルコール・ペアリング Vol.3

    Vol.3では、実際に私が店舗で作っているドリンクを、レシピを含めてご紹介していきます。

  • オーストラリアワイン市場の現状への思い

    現在、期間限定でフリーの仕事をさせて頂いている関係で、友人のオーストラリアワインインポーターの販促を手伝う事となり、とりあえず自宅のあるさいたま市のワインショップや酒屋を中心に、リサーチを兼ねて出来る限りお店を回らせていただいたのですが、オーストラリアワインに対する認識や知名度が私の想像以上に低く、オーストラリアワインの魅力は殆ど伝わっていないことが判ってしまいました。 もちろんさいたま市全てを回ったわけではないのですが、イオンやエノテカ、カルディさんのような大手を除いた個人店はほぼ全て伺い、お話を聞かせていただきました。しかしながら、なかなかに厳しい結果となりました。詳しい内容は下記に記しますが、今回の件を記事にさせて頂こうと思い、自身が愛してやまないオーストラリアワインに何かしらの貢献ができればという、全く個人的な理由で書くことをお許しください。また、現在の新型コロナの影響によって恐らく起こるであろう状況に対しても、後半でお話させていただきたいと思います。 (今回のレポートはあくまでワイショップと酒屋での結果です。また日本全国の酒屋では無く、あくまで僕の行動範囲内で回ったお店であることはご了承ください。) 1 はたしてオーストラリアワインにどういったイメージを持っているのか? 今回伺ったワインショップと酒屋はさいたま市と東京都内のワインショップを含め30件以上ですが、その中からお話を聞けたのは15件のオーナー様や担当者様。以下に頂いたご意見を記します。 「味わいが濃い」「飲みつかれる」「ニーズがない」「バーベキューには最適」「料理に合わない」「安い」 と比較的よく聞くワードではありますが、 手放しで肯定なご意見ではなかった のが正直な感想です。 2 他の国のワインに比べてのストックはどれくらいか? 調べた店の規模は500アイテムから50アイテムの店と幅はありますが、さいたま市で回った店は 殆どが全体に対し1割以下 。東京の有名ワインショップで何とか2割という状況でした。ちなみにフランスワインと比較すればオーストラリアワインは8分の1という結果です。 3 どういったアイテムが置かれているか? 大手のワインショップはやはり世界的にも有名な ジェイコブス・クリーク 【①】や ピーター・レーマン 【②】などの有名メーカーは抑えてありました。小さな店主のこだわりのある品揃えのワインショップは、最近人気のナチュラル系のオーストラリアワインが置かれておりましたが、逆にスタンダードで低価格のオーストラリアワインはほぼない状態でした。 4 お店側の具体的なご意見 1の質問をした際に、ある程度の印象は聞いたのですが、今回いくつかの厳選したサンプルワインを持って試飲をして頂きご意見頂きました。(ナチュラル系のシラーズとマーガレットリヴァーのエレガントなシャルドネ) マーガレットリヴァー シャルドネ【③】 「味わいや品質は素晴らしい」 「価格が高い」 「思ったよりは美味しい」 「すでに店にあるカルフォルニアやフランスのシャルドネの方が売りやすい」 ナチュラル系 シラーズ【④】 「綺麗な味わいで美味しい」 「オーストラリアワインのイメージと違って美味しい」 「オーストラリアワインではない」 「オーストラリアワインにしては高い」 「売り方が難しい」 などのご意見を頂きました。 ここで注目したいのは 品質そのものは認めているものの、やはり価格と売り方に難色を示している 事と、現在海外や日本のソムリエには注目されている ナチュラル系のオーストラリアワインの認知度が、あまり広まっていない ことでした。また既にその存在を知っていて、ナチュラル系のオーストラリアワインを扱っているワインショップの方々には、高評価を得た今回のシラーズでしたが、反対に高価格のオーストラリアワインを扱っていたあるワインショップの方は、ナチュラル系のオーストラリアワインは認めないという考えをおもちで、少なくともシラーズに関してはスパイスが香る濃い目の味わいが正道というご意見でした。 5 この現状はなぜ起こっている? ここからは私見ではありますが、 この現状はオーストラリアワインだけでは無く、チリにも当てはまる問題ですし、日本ワインやドイツワインも今回とは違った意見で誤解されている現状もあるかと思います 。例えば日本ワインは海外に比べてレベルが低いやドイツワインは甘いだけなどと、早く解かなければいけない誤解は沢山ありますが、とりあえず今回はオーストラリアワインに起こっている現状を紐解きたいと思います。 ①オーストラリアには世界的な大手ワインメーカーが多い 2016年ユーロモニターインターナショナル【⑤】のワインブランド販売量データによるとトップ10の中に イエローテイル 【⑥】と ハーディーズ 【⑦】というオーストラリアのメーカーが2社(5位と8位)入っています。 その他はアメリカ勢が占めています が、2社入るというのは、はかなり世界では認知されているということでもあると思います。同時に スーパーマーケットに常備されているブランド であることは、お判りになる方も多いと思います。 つまりこれらのワインが、多くの人が最も目にするオーストラリアワイン、ということになり、イメージがそういった価格と味わいに引っ張られてしまうことは否めないと思います。 ②他国に比べ日本で注目されるタイミングが遅かった 既に皆様ご存じの通り、日本では各国のワインが楽しめます。しかしながら、フランスやカルフォルニアワインに対しては、ある程度の知識や大体の味のイメージをもたれている方が多いのに対し、オーストラリアに関しては偏ったイメージが先行しています。恐らくは、日本で紹介された順番がかなり遅かったのかと思います。 現在も定期的に販売されている「世界の名酒辞典」【⑧】ですが、以前1989年版を読んだときフランスはボルドーとブルゴーニュはそれなりに充実していましたが、オーストラリアは2アイテムのみの掲載でした。僕も今から20年前に受けたソムリエ試験の教本には、今でこそしっかりとした情報が書いてはあるものの、オーストラリアの情報はとても少なかった記憶があります。そもそもの情報がこうでは、オーストラリアワインに偏ったイメージを持つのは仕方がないとは思います。 6 この記事を書こうと思ったもう一つの理由 ここまで書いてきて、「別に無理にオーストラリアワインを飲む必要は無くない?」と思われる方もいらっしゃると思います。もちろんそうです。事実今も大量にフランスワインやカルフォルニアワインは売られていますし、あくまで嗜好品としてのワインの好みを無理に変える必要はありません。 実は、インポーターの手伝いとは別のお仕事で、高級ワインの流通に関する情報を得ることが出来ました。具体的な内容はお話しできませんが、今回の新型コロナ問題が、日本のワイン輸入に影響を及ぼしているようなのです。ワインに限った話ではないので、ある程度は予測と実情をご存じの方がいらっしゃるとは思いますが、新型コロナへの対策が、残念ながら日本は他国に比べ遅れをみせています。当然飲食店含め、今回お話を伺った酒屋さんやワインショップの皆様も、ワインが売れず大変に厳しい状況でした。 そんな中、この状況から回復をみせている国では早速ワインの輸入が始まっています。 当然ながら世界でも人気のあるフランスやカルフォルニアの銘醸ワインは数が限られていて、新型コロナ禍では無くても、世界中でそれらの争奪戦は行われていました。しかし今回その争奪戦に、新型コロナ禍からの状況回復ができなかった国は遅れをとっています。 つまり、今までは問題なく買えた誰もが知っているワインを、簡単には買えない状況が起こりうる可能性があります。 「そんなに高いワインは買わないから大丈夫」、「手ごろなフランスワインを買うから大丈夫」と思っている方も、 フランスワインやカルフォルニアワインが、そもそも安く買えなくなる可能性も十分考えられます 。例えばフランス・ブルゴーニュの、あるワイナリーの特級畑のワインが世界の争奪戦で日本には1本も入らないとします。しかし当然その同じワイナリーの下のランクのワインも人気となり、日本に入荷してくる量が限られてしまう、という状況も考えられます。発展しすぎの考えかもしれませんが、 フランスやアメリカの銘醸地のワインが、日常に飲める機会が激減するのでは無いかと心配しています 。 しかしながら、簡単にワインを飲むことを止めることは出来ません。このような厳しい状況でもワインを楽しむ事は無くしたくはありません。なので、今回もしフランスワインやカルフォルニアワインが買いづらくなっても、他の魅力的なワインを楽しんでもらいたい気持ちもあり、今回の記事を書かせていただいています。 あえてオーストラリアを選んだのにはもう一つ理由があり、 現在オーストラリアと中国は関税による問題で今まで中国で人気だったオーストラリアワインの中国への輸入が制限されています 。そのためオーストラリアワインに関しては、今後日本が更に良いものを手に入れることができる可能性が高いと言えます。 7 オーストラリアワインがもっと飲まれる為に行われている事とやりたいこと 前置きが長くなりましたが、いよいよ本題です。前半では悲観的な内容を書きましたが、現在決して悲観することのないオーストラリアワインの別の面もあるのと、これから希望したい展望を下記に記したいと思います。 ①レストランでの活躍 今回のリサーチは酒屋とワインショップに限定しましたので、レストランのデータはとっていません。しかし、自身も今まで色々な業態のレストランでオーストラリアワインを使ってきた一人なのでわかるのですが、 使い勝手の良いジャンルのワイン ではあります。 味わいがはっきりしているものが多く、ネガティブな味わいは少なく、料理とのペアリングや、冒険せずに間違いのない味わいを提供したい場合や、グラスワインには本当に適していると思います。 また、サンジョヴェーゼなどのイタリア品種を使ったワインもあるため、現代風のイタリアンレストランに使われることもあり、またジャンルを問わないレストランでは積極的に使われています。 東京ですと、僕も働いていた丸の内、銀座にあるSalt(現Wattle Tokyo)や渋谷のAROSSA【⑨】ではオーストラリア料理とワインを以前より提供しており、また、オーストラリアのレストランが東京に出店しているケースでは、表参道のイタリア料理Fratelli Paradisoや恵比寿のタイ料理Longrain【⑩】が、本国のワインリストと変わらない厳選したバリエーションのあるオーストラリアワインを取り揃えており、オーストラリアワインを楽しむ事が出来ます。 ②オーストラリア大使館や観光局の働き 他の国も当然ではありますが、オーストラリア大使館は食材やワイン。観光局は現地ワイナリーの紹介を積極的に行っております。特にオーストラリアはヴィクトリア州、西オーストラリア、南オーストラリアなど各地の観光局が日本で活躍しており、それぞれのワイナリー情報を得ることが出来ます。 ③オーストラリアワインの魅力の再発見と新しい動き ここ数十年従来の味わいのワインでは無く、葡萄そのものの味わいを活かしたナチュラルな味わいのワインが様々な国で生み出されていており、オーストラリアも例外ではありません。恐らくは日本ではアデレードのLucy Margaux【⑪】やマクラーレンヴェールのJauma【⑫】などが先駆けのワインではないかとは思いますが、現在は多種多様な味わいのワインを日本で飲むことができます。 良くこういったナチュラルな味わいは、どの国も同じに感じるというご意見を伺うことがあるのですが、オーストラリアワインの魅力の一つに葡萄品種の特性がはっきりと感じる事ができるということがあり、ナチュラルな味わいのワインにもその魅力はしっかりと発揮されているため、むしろ更にピュアな魅力を感じることができると思います。 また、上記のようなスタイルでは無くても、スタンダードな味わいのオーストラリアワインも昔のイメージとは大きく変わり、非常にクオリティの高いワインが生み出されています。 ビクトリア州のHoddles Creek【⑬】などの涼しい産地で造られるシャルドネやピノ・ノワールは、フランスを含めた他国に負けない綺麗な味わいをもったワインですし、クナワラで造られるカベルネ・ソーヴィニョンは、大味ではない繊細かつ個性のはっきりした味わいに仕上がります。その他の地域でも素晴らしい品質のワインは造られていますので、是非お試しいただきたいと思います。 8 今回のワイン 今回ご紹介するワインは、小さいながらもオーストラリアワインを広めようと尽力しているインポーターが輸入しています。 1 生産者:Bannockburn ワイン名:Bannockburn 1314 A.D Pinot Noir /バノックバーン 1314 A.Dピノノワール 葡萄品種 :Pinot Noir/ ピノノワール ワインタイプ :赤ワイン 生産国 :オーストラリア 生産地 : / ヴィクトリア州 ジーロン ヴィンテージ :2019 インポーター :Down Under 参考小売価格 :¥3,850(税込) 2 生産者:Peccavi Winery ワイン名:Peccavi Chardonnay / ペカヴィー シャルドネ 葡萄品種 :Chardonnay/ シャルドネ ワインタイプ :白ワイン 生産国 :オーストラリア 生産地 : / 西オーストラリア ヴィンテージ :2017 インポーター :Awines 参考小売価格 :¥6,600(税込) 一本目は大阪を拠点に活動されている、ダウンアンダーさんのワインです。 ヴィクトリア州の涼しい環境で造られる事で、全体的に香りは優しく華やかに立ち上がり、紅茶やイチゴの香りが印象的です。また、製法は徐梗を行い野生酵母で発酵。ノンフィルターで瓶詰めすることで、果実味がはっきりしながらも複雑な味わいとなっており、オーストラリアワインのピノノワールに懐疑的だった方にも、ご満足いただける味わいかと思います。 二本目は札幌でオーストラリア人のミックが活躍するAwinesの、西オーストラリアの秀逸なシャルドネ。土地の個性とは無縁と思われがちなオーストラリアですが、その土地それぞれの特徴はもちろんあります。このワイナリーは海風の影響を受け葡萄畑の気温を最適に整え、葡萄の根は地中深くまで伸びている理想的な環境です。製法は手摘みで収穫された葡萄を一晩冷却することで果実味を保ちます。小樽での発酵によってバニラやナッツも風味を与えます。また、このピカヴィーはなかなか置いてもらうのが難しいロンドンの高級スーパーHarrodsに現在オンリストされています。 以上の2本ですが、1本目のピノノワールは現在販売されているブルゴーニュの有名な造り手のピノノワールに負けない味わいをもつにもかかわらず、価格は半分程度ですし、ピカヴィーに関しては、ブルゴーニュやカルフォルニアの一本1万円を超えるシャルドネに全く引けをとっていない味わいです。 総評 結果、オーストラリアばかりを贔屓してしまいましたが、フランス、カルフォルニアにとってかわるワイン産地は勿論沢山あり、Sommetimesでも紹介しています。 今回のコロナの影響はワインを楽しむという事に色々な影響を与えていますが、是非悲観的にならずに今までと違う観点でワインを選ぶ方の手助けが出来ればと思っています。 ※ ①現在オーストラリア国内で最大の販売量を誇る。高品質のブランド ②葡萄栽培農家を愛する800を超える畑を持つ多種多様なスタイルのワインを生み出す。 ③オーストラリアでも比較的高級なワイナリーが多く存在する産地 ④世界でも流行している葡萄の味わいを前面に感じるワインスタイル。最大は無農薬や低農薬。亜硫酸を使わないもしくは極力控えての製法が一般的。 ⑤消費財業界およびサービス業界に特化した国際的市場調査会社 ⑥世界50か国で販売されているカンガルーのラベルで誰しもが見たことのあるワイン。 ⑦160年の歴史を誇るデイリーからプレミアワインまで幅広く手がけるオーストラリアを代表するワイナリー ⑧ワインからウイスキーまで網羅した国内唯一の辞典。毎年更新されていて価格も網羅しているため、プロやワイン好きまで楽しめる貴重な一冊。 ⑨Pjパートナーズが運営するオーストラリアンレストラン。Saltはコースメインの高級感あるレストラン。AROSSAはビストロスタイルのカンガルーやワニがメニューに載っています。 ⑩Fratelli Paradisoは表参道ヒルズにある手打ちのパスタが絶品なイタリアン。ワインはナチュラル系が中心で、バーではワインのみも楽しめます。Longrainは恵比寿ガーデンプレイス内にあるオーストラリアワインとタイ料理が楽しめる都内でも貴重な店。 ⑪元料理人のアントン ファンクロッパーが造り出す、多くのワインメーカーに影響を与えたワイン。ワイン名は娘さんの名前で、ラベルの絵はその娘さんの作品 ⑫元オーストラリア最優秀ソムリエがジェームス、デニス、ダンビーの3人のアースキンファミリーで造られるナチュラルワイン。ヤウマはカタラン語でジェームス。 ⑬今やビクトリア州を代表するワイン。カンタス航空のファースト、ビジネスのラウンジで提供されビクトリアワインショーではトロフィーを勝ち取っています。 <ソムリエプロフィール> 山根 宏士 / Hiroshi Yamane フリーワインアドバイザー(現リストランテ大澤ワインアドバイザー兼マネージャー) 1976年北海道生まれ。札幌の星付きフレンチでキッチンからこの業界をスタート。以後ソムリエに転身し札幌でも伝説的なビストロ「わいんや」を立ち上げる 東京に移住後は「オーバカナル」「ブラッスリーオザミ」「アロッサ渋谷」「W.W」「ARGO」 等の様々なジャンルのレストランでソムリエ、マネージャーとして研鑽を積み現在に至る。 現在近々行われるプロジェクトに備え武者修行中。 JSA認定シニアソムリエ

  • アンフォラのワインって美味しいの?〜発酵槽とワインの性格〜

    今回は アンフォラ !をベースに、発酵槽についても書いてみます。 ワインのテクニカルデータを見たときに、発酵槽に注目することが多いと思います。 木樽発酵なら「樽の風味があってしっかりした酒質のワインかな」、ステンレス発酵なら「酸味があってキレがあるワインかな」、など様々な味わいを想像すると思いますが、アンフォラと書いてあったときなら、どんな味わいを想像するのでしょうか? ジョージア や、 フリウリ の一部でオレンジワインの興隆とともに注目されてきたアンフォラは、発酵槽としてどのような特徴と意味をもつのでしょうか。今回はそんなアンフォラを紐解いてみたいと思います。そしてここでは発酵槽を科学的に分析するというより、岩井的な“感じる”見解でみていくことにします。 その前に、「発酵槽とは?」ということをみていこうと思います。 まずは、ワインの味わいはどこからくるのでしょうか? 私はワインも人間と同じように性質と性格と二つの要素をもっていると考えています。 ・性質→先天的なもの 主に持って生まれたものを指し、接触による影響をあまり受けないもの。 ワインの場合、土地、気候、葡萄品種から得られる。 ・性格→後天的なもの 社会生活を送り、他と接触する上で変化をみせる。ワインの場合は醸造、瓶内熟成から得られる。 そこで、発酵槽とは、摘みとられてきた葡萄が潰された後、最初に長時間触れる容器です。葡萄果汁が一番ピュアな状態に触れるものです。 人間で例えていうなら、胎児にとっての母親の胎内のようなもの ではないでしょうか。母親の胎内でも子供は声を聞き、意識をもっていると言われています。その子の性格に大きな影響を与えるそうです。 胎内=発酵槽 と考えると ワインという命が生まれる 、まさにそのときに包まれている発酵槽はワインの性格を決定づける上で大きな役割をもちます。 そして、ビオディナミの伝道師ニコラ・ジョリー氏は、著書の中で代表的な発酵槽、木樽のことをこう言っております。 「自然界では、殆どの生命が“卵型”から誕生します。これを考えると、樽が丸い「卵」の両先端を切り取った形をしているのは、単なる偶然とは思えません。この形は、周りの力を中央に引き集めます。建築学から見ても、これは最良の形です。」 さて、ここでアンフォラです。その形を見てみましょう! どうでしょう、 卵型 なのは明白ですね。胎内たる発酵槽の形が卵である。つまりアンフォラの形はとても原点的であり自然なものであると言えます。 科学的な効果としては、卵型は自然な対流が生まれることによりナチュラルバトナージュ(*1)が行われることで、人為的な介入を大きく減らすことができます。私はそれにより、 酵母が自由に自然に発酵をおこなえるのでは と考えています。 それでは次はアンフォラの素材と特徴をみていきましょう。 アンフォラは 粘土で作られた素焼きの土器 です。この 土でできているというのが、大きなポイント になります。つまり他の発酵槽との違いは金属でも、木でもないというところです。ステンレスタンクは嫌気的な環境で発酵し、酸化がゆるやかで第一アロマが豊かでフレッシュなワインになります。キリッとして金属的なニュアンスをもちます。木樽は、好気的な環境で発酵し、マロラクティック発酵も起こりやすく、酸がまろやかで温かみのあるワインになります。厚みがあり木質的なニュアンスを持ちます。アンフォラは、土で出来ているので金属でも、木でもありません。そのどちらとも違う ニュートラルなニュアンス をもちます。 素焼きの土器なのでとても原始的な容器です。そして 地中に埋めれば嫌気的、地上におけば好気的 とそのスタイルは大きく変わりますが、地上の場合はかなり酸素透過性が高くなってしまいますので理想は地中に埋めたいところです。そうすることにより低い温度と嫌気的な環境でゆっくり発酵し、クリーンでクリア、さらに複雑さのあるキャラクターのワインになります。この低い温度で発酵をすることにより素焼きの土器の土臭さがほとんど出ず、土の持っているニュートラルなニュアンスのみを生かしたワインができるのです。余談ですが、発酵温度のコントロールはアンフォラを地中に半分埋めたり、2/3を埋めたりとその比率によって調整も可能なのではないでしょうか(今はほとんどが慣習的に全て地中に埋めてしまっていますが)。  まとめてみるとアンフォラの特徴は、 1 クリーン&クリア 2 複雑さを持つ 3 ニュートラル(中庸)な性格になる 4 ワインが生まれる際にふさわしい卵型 5 プリミティブな性質 であると言えます。 この観点からみると、巷に溢れている、 土臭いアンフォラのワインは、わたしにとってはNG です。土の香りがしないニュートラルなワイン作りが出来てこその、アンフォラであると信じています。 生産者: Zurab Topuridze /ズラブ・トプリゼ ワイン名: Golden Blend / ゴールデン・ブレンド 葡萄品種 : Rkatsiteli Mtsvane Khikhvi Kisi/ ルカツィテリ ムツヴァネ ヒフヴィ キシ 各25% ワインタイプ :オレンジワイン 生産国 :Georgiaジョージア 生産地 :Guria / グリア ヴィンテージ :2019 インポーター :Racines / ラシーヌ 参考小売価格 :¥3,800 税別 さて、ここでやっとワインの出番です。 ジョージアのワインを飲み続ける中で出会った、理想のアンフォラワインがあります。 ジョージアの西、黒海に面し、ワイン産地の中でも一際マイナーなエリア、グリアで作られたワインです。ワインの名前はゴールデンブレンド2019、作り手はズラブ・トプラゼ。なんとこの方、本業は石油会社の環境保全部の部長です。その傍ら、情熱を持って有機栽培でワイン作りをしています。葡萄はジョージアの主要4品種(ルカツィテリ、ムツヴァネ、ヒフヴィ、キシ)のブレンド。この4品種で作ると金色のワインが出来ることからこの名前にしたそう。マセラシオンもルカツィテリのみ7ヶ月で、あとは果汁のみの発酵から、いわゆる「アンバーワイン(オレンジワイン)」とは違う、作り手曰くの金色ワインなのでしょう。 グラスからたくさんのフルーツ(桃や杏)が溢れ出てきそうな、フルーティーでアロマティックな香り。注ぎ始めた瞬間からテーブルが華やかになります。濁りがなく澄んでおり、少しとろみを感じるような液体、そして黄金の輝きが眩しい。味わいはあくまでクリーン、そして適度なタンニンと豊かな果実味、余韻にはミネラルがじんわりと染みわたる味わい。ジョージアによくあるネガティブなキャラクターは微塵も感じさせず、クリーンでしっとりとして、尚且つ伸び伸びとしています。ステンレスや木樽では出せない、葡萄の内面の力を引き出した素晴らしいワインです。ジョージアワインに、そしてアンフォラに抵抗がある方に是非飲んでもらいたいワインです。 味わいに様々な要素がありますので、マリアージュはかなり幅広く楽しめます。発酵容器から与えられたエクストラのフレーヴァーがないワインなので、素材の味わいを生かしたお料理と合います。オススメはシンプルに塩で茹でた豚肉です。焼いた豚にはないしっとりとジューシーな食感と豚肉の脂の旨味が、このワインのキャラクターと絶妙にマッチして、お互いが溶け合いながら幸せな余韻へと続きます。せっかくなので健康で脂が美味しい質の良い豚肉を探してみましょう! アンフォラが土という素材であるがゆえに、土臭いとか不衛生とか様々な勘違いで認識されてしまい始めていると感じる今、こういう綺麗でナチュラルなワインを是非知ってほしい、そしてアンフォラの魅力を是非知ってほしいという想いで今回の記事を書きました。この機会に皆様がアンフォラのワインを楽しく美味しく飲める機会が増えることを祈っております。 (*1)バトナージュ:発酵後のワインを熟成中に、澱を攪拌してコクと旨味を引き出す作業。 <ソムリエプロフィール> 岩井 穂純 / Hozumi Iwai 酒美土場 shubiduba 店主 AWMB認定オーストリアワイン大使 J.S.A.認定ソムリエ アカデミー・デュ・ヴァン講師 Japan Wine Challenge審査員 オーストリアワイン普及団体「AdWein Austria」代表 経歴 1978年生まれ。20代前半より都内のワインバー、高級レストラン勤務を経て神楽坂ラリアンスのシェフ・ソムリエを長年に渡り勤める。その後丸の内の有名ワインバーのマネージャー/ソムリエ、ワインインポーターのコンサルタント、都内隠れ家レストランのプロデューサー/マネージャーを経て、2016年に酒美土場をオープン、現在に至る。2014年よりアカデミー・デュ・ヴァンの講師も務める。 オーストリアワインのスペシャリストであるが、近年はオレンジワインの専門家としても活動。さまざまなオレンジワインのイベントや講座を主催。現在ではTVや雑誌などにもオレンジワインの企画で出演している。 <酒美土場 -shubiduba-> 2016年に東京・築地場外市場にオープンしたわずか5.5坪のワインショップ&バー。ナチュラルワインにこだわり、特にオレンジワインの品揃えには定評がある。酒屋ならではの角打ち(かくうち)も行なっており、ナチュラルワインを求めるお客さんで連日にぎわいをみせる。

  • SommeTimes Académie <14>(ワイン概論10: ブドウの虫害と生理障害)

    試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。

  • ノンアルコール・ペアリング Vol.2

    ノンアルコール・ペアリングVol.2では、Vol.1で述べたモスト(葡萄果汁)を中心に基本的な方向性を定めたドリンクを、実際に料理と合わせる際に、より高い精度のペアリングとなるように、様々な調整をすることができるボタニカルの使用法をご紹介いたします。

  • SommeTimes Académie <13>(ワイン概論9: ブドウの病害)

    試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。

  • Advanced Académie <10> ミネラルの味

    ミネラル感 、という表現は、実は 1980年代頃までは存在していなかった 。しかし、当時確実な成長曲線を描いていた ニューワールドワイン に、 果実味が明確に主体となった味わいが多かった こと、 醸造技術の進歩とビッグワインの隆盛 により、人為的な「力強さ」がもてはやされたことを背景に、それらのワインと伝統的なワインを区別するための言葉として、「ミネラル感」は誕生したと考えられる。

  • 【スティーヴン・スパリュア (1941-2021)】

    2021年3月9日、レジェンドが旅立った。ワイン業界はまたひとり、偉大な人物を失った。 私は、彼此20数年になるワインキャリアの中で、多くのご縁に恵まれて現在に至るわけだが、中でも「大物」と呼べる人物が スティーヴン・スパリュア 氏であった。 偉大な功績を残した人物と、同じ時代を生き、出会い、ほんの少しでも一緒に仕事が出来たことに、心の底から感謝したいと思う。私にとって、そして間違いなく世界中のワインを愛する多くの人々にとって、スティーヴン・スパリュアは、真の英国紳士であり、 ワイン界のレジェンド であった。 1976年 に行われた『 Judgement of Paris パリスの審判 』を主催し、その結果、当時全く無名だったカリフォルニアを世界のワイン地図に載せ、 フランス以外でも優れたワインを生産することが可能であると世に知らしめた 。カリフォルニアのみならず、 全ての新世界ワイン生産地に希望の光を当てた重大なイベント として、これから先もずっと語り継がれていくだろう。 レジェンドが現代ワイン史の中で果たした役割は大きく、枚挙に遑がないのだが、ここでは、私の個人的なスパリュア氏とのご縁を振り返りながら、レジェンドから学んだことを記し、追悼のコラムとさせていただきたいと思う。 「ワイン専門通訳」という業務を私は自分なりに模索・開拓してきたのだが、ある意味、そのきっかけとなった公式なデビューが、この「大物」のセミナーだった。 2014年、まだフリーランスになりたてで、WSET®Diplomaの受験中であった私に、この「大物」のセミナー通訳をオファーした当時のアカデミー・デュ・ヴァン取締役T氏。たいした実績もない、講師になりたての私に、大それたオファーをしたものだ、と、正直思うのだが・・。今となっては、それを無謀にも引き受けた自分の勇気を讃えたい。 それはもう、これまでに経験したことのないような緊張感だったことを、今でも鮮明に思い出す。 セミナーのテーマは、「 イングリッシュ・スパークリングワイン 」。この時、スパリュア氏は妻ベラさんの故郷 イギリス南部のドーセット に、スパークリングワイン造りのための「 ブライド・ヴァレー・ヴィンヤード 」を設立し、最初のワインがリリースされるというタイミングであった。私はこのセミナーでテイスティングに用意された「 Nytimber ナイティンバー 」と「 Ridgeview リッジヴュー 」という素晴らしいイングリッシュ・スパークリングの存在を知っていたので、通訳としての緊張感はさておき、ワクワクするテーマだった。今でいう「 Brit Fizz ブリット・フィズ 」(イギリス産スパークリング・ワインに定着した俗称)の将来性を、日本で最初に伝えた先駆けのセミナーであった。 スパリュア氏が長年のワインキャリアの集大成として、故郷であるイギリスでスパークリングワイン造りに着手したことは、ある意味自然な流れのように感じられるかもしれない。だが、これは彼が紛れもない ヴィジョナリー であったことを明確に物語っている。 それ以降、私は光栄なことに、スパリュア氏の来日時にアカデミー・デュ・ヴァンで開催されるセミナーやイベントの通訳を担当させて頂くようになった。回を重ねる毎に、あくまで自己評価ではあるが、多少は成長出来ていたかな・・。だが、実際にレジェンドと過ごす限られた時間で、一定の距離を縮められたということはなく、常に緊張感に包まれていた。彼以上に「英国紳士」という言葉がしっくりくる人に、私は出会ったことがない。 1973年、スパリュア氏はパリのマドレーヌ広場に、フランス初のプライベートワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」を開校した。その門を開き日本に招聘したのが、日本初のワイン専門誌『ヴィノテーク』創業者の有坂芙美子氏であった。 2017年9月には、スパリュア氏も来日されてアカデミー・デュ・ヴァン東京校30周年を記念したイベントが行われた。そのメインセミナーのタイトルは、「 Wines I have loved during 50 years in the trade. (ワインと共に歩んだ50年 私の愛するワイン) 」。参考までに、その時のワインリストがこちら。(試飲順) ● Domaine de Chevalier Blanc 2011 ● Bonneau du Martray, Corton Charlemagne 2014 ● Domaine Tempier, Bandol Rosé 2015 ● Chanson Père & Fils, Beaune 1er cru Clos des Feves 2012 ● Château de Beaucastel, Châteauneuf-du-Pape 2012 ● Château Léoville Barton 2001 ● Domaine Weinbach, Alsace Grand cru Schlossberg Cuvée Ste Catherine L’Inédit 2015 ● Domaine Huet, Vouvray le Haut Lieu Demi Sec 2009 スパリュア氏は、それぞれのワインと造り手にまつわるエピソードをテイスティングと共に振り返り、懐かしみながら語った。通訳泣かせではあったが、レジェンドの記憶の世界に入り込んでいくような、例えようのない貴重な経験となった。その夜には、盛大なパーティが開催された。列席された有坂氏とも旧交を温められ、多くの関係者、受講生の方々との祝福の宴となった。 一夜明け、夕方には離日というタイトスケジュールの中で、翌日には インドワイン についての特別セミナーが開催された。「 フラテッリ・ワイン 」というイタリアとインドの兄弟のコラボレーションで設立されたワイナリーで、スパリュア氏はそこで自身がプロデュースするワインを紹介した。これもまた、私にとっては彼がヴィジョナリーであった象徴的なエピソードだ。1970年代のカリフォルニアも、現在のインドも、彼の目には同じ様にうつっていたのかもしれない。 70歳を越えても尚、世界各地のワイン産地を視察され、ほんの短い滞在でも来日時には独自の視点からワインの学びの機会を私たちに提供してくれた 。次の来日では、奥様と一緒に京都へ旅行するのを楽しみにされていたことを思うと、コロナ禍でそれが叶わなかったことが悔やまれる。 個人的にフランスやイタリアなどメインストリームの産地よりも、南アフリカやカナダ、オーストラリアといった新世界産地とのご縁が深く、講師や通訳、執筆業というワインを伝える立場でこれからも活動をしていく上で、改めて振り返ってみても、スパリュア氏から得た経験や学びは、確実に自分の中で大きな糧となっている。私なりにバトンを繋ぎ、次の世代へと受け継いでいけるよう精進することを心に誓いつつ、天国のレジェンドに、献杯。 生産者: Bride Valley / ブライド・ヴァレー ワイン名: Rosé Bella (写真・右) 葡萄品種 :Pinot Noir & Chardonnay 生産国 :イギリス 生産地 : ドーセット ヴィンテージ :2014 参考価格 :¥6,960 お問い合わせ :アカデミー・デュ・ヴァン <ライタープロフィール> 高橋 佳子 / Yoshiko Takahashi DipWSET Y’n plus 兵庫県生まれ。 2000年、大阪北新地のワインバーでソムリエ見習いとしてワインの世界に足を踏み入れる。 2002〜2003年渡豪、ヴィクトリアとタスマニアのワイナリーで研修。帰国後、インポーター勤務時に上京。ワイン専門卸会社勤務を経て、2013年よりフリーランス。 ワインスクール講師、ワイン専門通訳&翻訳、ワインライター、ワインコンサルタントなど、ワイン業界でフレキシブルに活動する。 2016年、WSET® Level 4 Diploma取得* 2017年、PIWOSA Women in Wine Initiative 南アフリカワインのインターンシッププログラム参加 2018・2019年、Royal Hobart Wine Show International Judge 2019年より、WOSA Japan 南アフリカワイン協会 プロジェクトマネージャー *WSET®は、イギリスロンドンを拠点に世界70カ国以上で提供されている世界最大のワイン教育プログラム。Level 4 Diplomaはその最高位資格。

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