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未輸入NYワインから紐解く未開の可能性

日本国内未輸入ワインのテイスティングは、非常に多くの学びをもたらしてくれる。未輸入である理由や、輸入された際の市場の反応を予測すると、市場分析の学びとなり、市場開発の学びともなり、昨今のワイン市場においてもますます重要性を増す、販売者、伝え手たちの創造性を養うための学びにもなる。


今回、アメリカ合衆国・ニューヨーク州産の未輸入ワインを多数テイスティングする機会に恵まれた。その際に筆者の脳内を駆け巡った様々な思考を、読者の皆様と共有したいと思う。


なお、今回ピックアップしたワインは1銘柄を除いて、現地価格で表記している。現地価格と日本国内価格の差は、実に複雑な要因(*)によって決定しているため、現地価格のおおよそ何倍という一般化が非常に難しいが、多くの場合は、1.5〜2.5倍の範囲に収まっていることが多い。


予備知識ではあるが、アメリカという国は、東、中央、西で大きく大衆文化が異なる。西側の大都市(特に文化面の特徴が顕著なのは、サンフランシスコとポートランド)は環境問題に対する意識が強い一方で、東側の大都市(特にニューヨーク市)ではあらゆる差別への嫌悪感情から連なる、多様性の尊重がより強い比重を占める。もちろん、サンフランシスコでも多様性は重視されるし、ニューヨークでも環境問題は大きな関心を集めているため、これはあくまでも比重の話である。


ニューヨーク州のワインは、緩やかに環境問題への取り組みを進めつつも、多様性は常に大切にしてきた。まさに、東側の州らしい在り方だ。


そして、多様性は往々にして分かりにくく、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネといった人気品種の実力が高いカリフォルニアに比べて、リースリングとカベルネ・フランを得意とするニューヨーク州(特にフィンガーレイクス)は、かなり部が悪い。


しかし、日本でも多様性への理解は着々と進んでおり、ブランドより個性、ファクトリーメイドよりもクラフトを尊重する流れは、より加速していくだろう。つまり、様々な要因で国内輸入に至らなかったワインに、チャンスが巡ってくる可能性は決して低くないのだ。


今回テイスティングしたワインの中で筆者がピックアップしたものは、結果的にフィンガーレイクス産のみとなった。ロングアイランド産のワインは、一部の例外的存在を除いて、高品質なお土産ワインの領域を突破できていない。高品質なので悪いものでは全く無いのだが、現地価格の全体的な高さもあいまって、国際的な競争力を発揮できるタイプのワインにはなりきれていない。こういうワインは、輸入されたものを楽しむよりも、現地で楽しんだ方が、価値が上がるだろう。


また、フィンガーレイクスに関する詳細は、特集記事でも取り上げている。


(*):ワイナリーの現地価格と輸出用蔵出し価格の差、スケールメリットによる蔵出し価格下落の有無、中間業者の有無、現地輸送インフラの整備具合、輸送手段(船かエアか)、輸送環境(温度管理するか否かなど)、コンテナの積載率、輸送距離、倉庫代、インポーターの商業規模、代金支払い時点での為替、価格帯や国によっては関税、インポーターによるブランド確立のための戦略といった要素が複雑に絡みあう。このことを理解したなら、「現地価格と比べて〜〜」といった類のクレームがあまりに愚かであることも、ご理解いただけるかと思う。インポーターが不必要に高価な値付けを行うケースは、基本的に稀なことであり、そのようなケースのほとんどが「あえて国内価格の値付けを高くした上で、大幅割引価格を前提とした販売を基本戦略とする」タイプのものだ。このようなケースに関しては、「大幅割引がモノの価値を下げる」という普遍の真理を無視し、自らが輸入する造り手のブランド価値の崩壊すら気に留めない、極めて利己的な販売戦略だと強く断じさせていただく。


リースリング

フィンガーレイクス最大の強みは、なんといってもリースリングだ。そして、スレートにも似た粘板岩の頁岩(けつがん)土壌の恩恵も受け、ドイツ・モーゼルさながらの、辛口から極甘口まで幅広いスタイルで一貫した高品質が実現できている。人気や知名度を度外視して、実力だけで言うのであれば、フィンガーレイクス産リースリングは、既に準世界最高クラス(ドイツを除いた、他の有力なリースリング産地と同レベル)に到達している。しかし、内包する問題点もまた、モーゼルと類似している。スタイルの幅広さという特徴そのものが、実に掴みにくいのだ。アルザスやオーストリア、オーストラリアであれば、基本的にドライなタイプが主流のため、産地とスタイルの結びつけが容易であるが、フィンガーレイクスはこの点において少々不利な状況(特にマーケティング面において)にある。筆者は多様性に対して極めて寛容かつポジティヴであるため、フィンガーレイクスのリースリングは、大変興味をそそられるワインではあるのだが。


紹介順は写真左から


生産者:Ravines / レヴィーンズ

ワイン名:Dry Riesling

ヴィンテージ:2017

現地価格:$18.95

レヴィーンズは現地訪問したことがあるワイナリーだ。モンペリエで醸造学を学び、Ch. Cos d’EstounelやフィンガーレイクスのDr. Konstantine Frankで研鑽を重ねたモルテン・ハルグレンが奥様と一緒に2000年に設立したワイナリー。非常に穏やかで、気の良いご夫婦の性格が、そのままワインになったかのような、素朴な魅力が光る逸品を手がける秀逸なワイナリーだ。その素朴さ故のインパクトの無さが国際市場で難しかったのは理解できるが、フィンガー・レイクスというテロワールの最も中庸の表現とさえ言えるレヴィーンズのリースリングは、とても価値のあるワインだ。現地価格も申し分なく低く抑えられている。国際市場に入ったときに、確かにライバルは多いが、この品質のリースリングがこの価格で楽しめるのは、十分に破格と言える。リースリング好きとしては、現地の人々がうらやましくすら思えてしまう。日本ではまだまだ理解の進んでいない産地故に、現段階では難しいワインかも知れないが、この素朴な良さが生きる日は必ずくる。



生産者:Hermann J. Wiemer / ハーマン・J.・ウィーマー

ワイン名:Riesling “HJW Bio”

ヴィンテージ:2017

現地価格:$45.00

シンプルに表現するなら、このリースリングこそ、現時点でフィンガー・レイクス最上の、つまり全米最高のリースリングだ。フィンガーレイクスのトップランナーで、日本でも最も名の知れたこの地の造り手の一角であるハーマン・J.・ウィーマーが、自社畑の中の完全にビオロジック化(ビオディナミの手法も一部取り入れている)した区画の葡萄のみを用いて仕込んだ特別なキュヴェとなる。同じ畑から造られる通常のリュット・レゾネ版と飲み比べると、驚くほどの品質の違いに、ビオロジックの効果を確信させられるだろう。当然、現地価格も相当高価であり、国際市場での競争相手はより強力となるが、それでも、米国で最も優れたリースリングである、という価値は計り知れない。未知の産地の市場が切り開かれていく際には、このような産地を代表するワインの存在は非常に重要となる。たとえ高価であったとしても、だ。



生産者:Living Roots / リヴィング・ルーツ

ワイン名:Riesling Traminette

ヴィンテージ:2017

現地価格:$14.99

2016年に設立されたばかりのリヴィング・ルーツは、オーストラリア・アデレードヒルズの名門ワイナリー「ハーディズ」の系譜に連なるワイナリーだ。創始者のトーマス・ハーディから数えて六代目に当たるセバスチャンが、フィンガーレイクスで手がけるのは、裕福な大ワイナリー一家の道楽でもなんでもなく、極めてダウン・トゥ・アースなワインだ。このキュヴェは残念ながら生産をやめてしまったようだが、フィンガーレイクスらしい魅力が詰まった良作と言える。リースリングは62%、そして残りはトラミネットという冬季耐性を強めるためにゲヴュルツトラミネールから人工交配されたハイブリッド品種。単体だと構造の弱さと単調さが目立ちがちなハイブリッド品種。そこで、リースリングにブレンドするというアイデアが生まれたわけなのだが、このワインは素晴らしい成功を納めていると言える。極々僅かにオフドライによったフルーティーでフレッシュな味わいは大変魅力的で、現地価格の安さも相まって、日本国内の市場でも大きな可能性を期待できたワインだ。



生産者:Weis Vineyards/ ヴァイス・ヴィンヤーズ

ワイン名:Semi Dry Riesling

ヴィンテージ:2018

現地価格:$18.99

ヴァイス・ヴィンヤーズは、とても存在意義の高いワイナリーだ。造り手のハンス・ペーター・ヴァイスは、ドイツのモーゼル出身。スレートと頁岩という違いはあれど、良く似た粘板岩土壌をもつ二つの産地の架け橋となり得る、極めて重要な存在だ。ワインも、正にモーゼルスタイル。辛口からアイスワインまで手がけるが、どれも非常に洗練されている。筆者が特に感心したのが、このセミ・ドライ・リースリング。モーゼルほど分厚い甘味と酸が無く、よりすっきりとした方向で、見事にまとまっている。モーゼル産の気高いワインは、少し構えながら飲んでしまうが、ヴァイス・ヴィンヤーズのワインなら、絶妙なバランス感覚で、全く飲み疲れしない。何より、意外なほどの食中酒としての汎用性の高さも光る。日本料理なら、甘い味噌にも辛い味噌にも対応し、豚肉との相性が特に優れ、香辛料にも問題なく対応でき、なんならキムチ鍋や火鍋に合わせても、唐辛子で火照った口内を、優しく癒してくれるだろう。甘いから、と無闇に拒絶するのは、あまりにも勿体無い。



生産者:Weis Vineyards/ ヴァイス・ヴィンヤーズ

ワイン名:Ice Wine Riesling

ヴィンテージ:2017

現地価格:$59.99 (375ml)

ドイツ流のお家芸とも言える極甘口のアイスワイン。製法上どうしても高価格となるアイスワインは、現地価格も立派な値段となっているが、品質は間違いなくトップクラス。日本国内で手に入る極甘口ワインは、極めてヴァリエーションに欠けているのが残念だが、このような素晴らしい極甘口ワインは、優れたワイン趣味の持ち主(そして比較的裕福な)であれば、隅々まで味わい尽くしてくれるだろう。極少量であっても、こういったワインが輸入されることには、大きな意義があると筆者は信じている。



シャルドネ

フィンガーレイクスでも、シャルドネが盛り上がりつつある。インターナショナルスタイル(テロワールよりもワインメイキングを重視した、より濃厚なスタイル)で造られた高品質なシャルドネは、かねてからロングアイランド産で散見されてきたが、フィンガーレイクスでも様々なスタイルのシャルドネが見られるようになった。そして、ある意味「お土産ワイン」路線に振り切っているロングアイランド産に比べると、フィンガーレイクスのシャルドネからは過渡期特有の「迷い」が見られる点が非常に興味深い。単純な話をすると、「どれだけ新樽を効かせるか」という問題だ。現地の嗜好だけを考えるのであれば、田舎町のフィンガーレイクスでシャルドネを造るなら、たっぷりと樽を効かせた方が売れるのは間違いない。しかし、国際市場では、見知らぬ産地から出てきたインターナショナルスタイルのシャルドネ、のような存在は、とっくに飽和状態になっている。フィンガーレイクス産のシャルドネが、今後よりインターナショナル色を強めていくのか、冷涼気候の特性を存分に活かしたシャープな方向性へと向かうのか、それともそれらが混在共存する多様性が維持されていくのか、注目を続けていきたい。


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生産者:Heart and Hands / ハート&ハンズ

ワイン名:Chardonnay

ヴィンテージ:2018

現地価格:$28.99

日本にも、非常に秀逸なピノ・ノワールが輸入されているハート&ハンズだが、シャルドネもまた興味深い。スタンダードとなるこのワインは、低温浸漬、フランソワ・フレール製のフレンチオークで発酵、定期的なバトナージュ、MLF発酵、樽熟成と、インターナショナルスタイルの「定番レシピ」がこれでもかと詰め込まれている。もはや冷涼気候らしさは濃霧の彼方に隠れてしまっているが、ワインそのものの完成度は実に秀逸。現地価格も、フィンガーレイクスやロングアイランドで造られる同様のスタイルのワインと比べても、しっかりと抑えられている。それどころか、カリフォルニアにライバルを探してみても、ヴァリューパフォーマンスで圧倒できるケースは非常に多いだろう。つまり、意外と思うかも知れないが、価格の適正さに、ニューヨーク産という目新しさを少々加味すれば、マーケットポテンシャルがかなり高いワインとも言えるのだ。



生産者:Heart and Hands / ハート&ハンズ

ワイン名:Verve Chardonnay

ヴィンテージ:2018

現地価格:$28.99

スタンダードのシャルドネとは異なるコンセプトで造られた、興味深いワインがこちら。38%をステンレスタンクで発酵し、MLF発酵は部分的に留めている。その分、より酸の骨格がはっきりと感じられ、冷涼気候らしい抑制の効いた味わいとなっている。テロワールを感じられるワインの方が、遥かに存在意義があると度々主張してきている筆者は、やはり「フィンガーレイクスらしさ」を残したこちらのシャルドネに、より強く魅力を感じてしまう。62%の樽は、筆者の感覚では、まだ「やりすぎ」ではあるものの、丁寧なワイン造りが十分に伺える佳作となっている。一方で、現時点でのマーケットポテンシャルで言えば、スタンダードシャルドネと、なぜか同価格で販売されているこのワインは、少々部が悪いだろう。樽をたっぷり使っているワインは、その分価格も高くなる、というのは確かに正解であるが、そのバイアスが、このワインの価格付の正当性に対して、疑問を生じさせてしまう側面は否めない。現地価格が、スタンダードシャルドネに比べて3~4$でも安ければ、また違った印象になることは間違いないだけに、勿体ない、という印象を禁じ得ない。



生産者:Osmote / オズモート

ワイン名:Chardonnay Cayuga Lake

ヴィンテージ:2018

現地価格:$18.00

オズモートには、フィンガーレイクス新時代の担い手の一人として、大きな期待がかかっている。世界各地のワイン産地で研修を重ねたベンジャミン・リカルディは、磨き上げたセンスと知見で、フィンガーレイクスに新たな風を呼び込んでいる。日本国内にも、彼のフラグシップに当たるシャルドネの別のキュヴェが輸入されている(400~500ℓの中樽で発酵)が、ステンレスタンクのみのこちらは未輸入。冷涼気候のシャルドネを、ステンレスタンクのみで仕立てた場合、非常に鋭角なワインとなることが多いが、このワインもその例に漏れず、開き直ったかのような、遠慮のないシャープさが痛快だ。ハーブ的なニュアンスも多分に感じられ、テロワールの表現は非常に鮮明ではあるものの、かなり飲み手を選ぶ可能性の高いワインとなっている。ある種の先見の明を感じるワインだが、時代がまだ追いついていないか。



ハイブリッド

大量生産型の安価なワイン(いわゆるジャグワイン)に使用されることの多い品種、というイメージがこびりついているハイブリッド品種だが、近年風向きが大きく変わりつつある。ハイブリッド品種ならではの病害耐性の高さは、農薬散布量の劇的な削減に直結し、多収量確保の安定性は、極めてエコロジカルな要素でもあるからだ。つまり、SDGsの目標に含まれる、地球環境への配慮、そして継続的な経済成長を両立しやすい品種であるという理解が、深まってきている。特にデイリーレンジに用いられるワインに、積極的にハイブリッド品種を使用するチャレンジや議論は、世界各地のワイン産地(特に病害リスクの高い産地)で盛んに行われている。


カベルネ・フラン

フィンガーレイクスにおける黒葡萄のスターは、カベルネ・フランで間違いない。元々冬季耐性が高く、冷涼な気候でも魅力を十分に発揮できる葡萄であるため、フィンガーレイクスでも長い栽培の歴史を誇る。それにしても、フィンガーレイクスを代表する2品種(リースリングとカベルネ・フラン)が共に、「一般消費者受けは今一つだが、専門家は非常に好む」品種の代表格であることは、なんとも皮肉なものだ。一部、日照量の多いエリア(バナナ・ベルトと現地では呼ばれる)で育った葡萄からは、高いアルコール濃度のワインが造られているが、フィンガーレイクスのカベルネ・フランが本領を発揮するのは、冷涼気候でしかありえない、低アルコール濃度と、充実した構造が共存したスタイルである。


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生産者:Osmote / オズモート

ワイン名:DeChaunac

ヴィンテージ:2018

現地価格:$18.00

ハイブリッド品種のデシャウナックは、カビ系病害に極めて強く、湿潤地での安定性から北アメリカの東側では広く栽培されてきた。オズモートはこの歴史あるハイブリッドに、現代のセンスを投入。早めに摘んでフレッシュさを残したデシャウナックを、シャルドネをプレスした後の果皮と共に発酵。ライトな赤ワインに、オレンジワイン的な要素を足して、大変興味深いスタイルを生み出した。価格は輸入された場合、デイリーレンジとしては少し厳しくなる設定なのが少し残念だが、このようなワインに市場が開かれるチャンスはきっと訪れると信じている。



生産者:Red Newt Cellars / レッド・ニュート・セラーズ

ワイン名:Cabernet Franc

ヴィンテージ:2018

現地価格:$22.00

フィンガーレイクスに居を置く、日本完全未輸入のワイナリーの中でも、レッド・ニュート・セラーズは飛び抜けた実力をもっている。見事なリースリングも素晴らしいが、このカベルネ・フランも最高のワインだ。低く抑えられたアルコール濃度、明朗な味わい、確かな酸と構造。この価格帯のワインとして、文句の付け所がない傑作ワインである。何よりも素晴らしいのは、このワインが備える全ての特性が、フィンガーレイクスというテロワールと直接的な関係があることだ。無理をせずに、普通に造ったら、この味わいになった。その「当たり前」がもつ強みの価値は、計り知れない。温暖化に苦しむ伝統国の多くの造り手が、喉から手が出るほど欲しているテロワールが、フィンガーレイクスに確かに存在しているのだ。



生産者:Element Winery / エレメント・ワイナリー

ワイン名:Cabernet Franc

ヴィンテージ:2014

国内価格:¥6,800(2013年ヴィンテージ)

フィンガーレイクス出身のマスターソムリエであるクリストファー・ベイツが率いるエレメント・ワイナリーは、日本国内市場においても、フィンガーレイクスという未知の産地への偏見が打破され始めるきっかけとなった重要な存在だ。カベルネ・フランは別のヴィンテージが輸入されているため、今回のテイスティングの中では違った立ち位置にあるものの、フィンガーレイクスのカベルネ・フランを語る上で、このワインを避けて通るわけにはいかない。フィンガーレイクスの冷涼気候が見事に反映されたワインだが、その軽やかさに反するように、コアの果実味は極めて凝縮しており、ありふれた表現をあえて用いるなら、「物理学の法則に反している」かのような不思議なテクスチャーをもったワインだ。Hermann J. Wiemer、Red Newt Cellars、Keuka Lake Vineyardsと、見事なカベルネ・フランを手がける造り手は多いが、エレメント・ワイナリーは間違いなく、最上候補筆頭である。価格も現地価格と比べて、国内価格が非常に良心的に設定されているため、ぜひこのワインを体験して、フィンガーレイクス産カベルネ・フランの真価に触れていただきたい。



可能性を切り開くもの

未輸入に留まっている理由の多くは、日本の市場がそれらのワインを受け入れる準備が整っていないことにあるが、今回テイスティングしたワインの中で、筆者がピックアップしたものはどれも、十分に可能性を感じさせるものであった。さて、この可能性とは、誰がどのように切り開いていくのか。この点に関して言えば、インポーターの役割は、実はあまり高くないと思っている。もっとも重要なのは、最初の受け手であり、二番目の語り手でもある、ソムリエ、ジャーナリスト、カヴィストたちが理解することであり、これらのワインを通じて、どのように顧客を満足させられるかを考える発想力である。日本国内ワイン市場の長い歴史の中で、強固に築き上げられてきた固定概念が、急速に崩壊している現代だからこそ、そのチャンスは無限に散りばめられているのではないだろうか。



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