資格試験の意味 なぜ挑戦すべきなのか。(無料公開)
- 梁 世柱

- 12 分前
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2025年は、ソムリエ・ワインエキスパート呼称資格認定試験(以下、省略して「資格試験」と表記)の試験対策講座を、主任講師として務めるという新たなチャレンジの一年となった。
実は、過去に試験対策講座担当へのオファーは少なからずあったのだが、頑なに断ってきた。
理由は明白だった。
試験への対策という単純な意味であれば、(講師側に)特殊な領域の知識や、より現実的な見解などは必要ではなく、要点さえ押さえれば、ワインプロフェッショナルならできる人はたくさんいる。ワインの深部を探究することに情熱を燃やしに燃やしてきた私にとって、広く浅い世界を担当することに、限られた時間的リソースを割く意味性がなかなか見出せなかったのだ。
しかし、その考えは徐々に変化してきていた。
もちろん、そこにも理由がある。
資格試験を突破した人々から、「資格試験のせいで、ワインへの情熱を失ってしまった。」という声をあまりにも多く、頻繁に耳にしたからだ。
その結果だけを見るなら、まさに本末転倒としか言いようがない。
何が足りなかったのか、自分なら何ができたかも知れないのか。
ワイン(アルコール全般)を嗜む人々の数が、右肩下がりを続けている中、このような機会損失は、もはや私にとっても対岸の火事ではなくなってきていた。
そして、1年間資格試験対策講座を走り抜けた今だからこそ、伝えたいことがある。
資格試験においては、驚くほど広範囲に、そしてなかなかに重箱の隅を突くような情報を、膨大に暗記することを求められる。
一週間程度の直前超暗記や、何かのラッキーが重なった程度で合格できるような難易度の試験ではない。
相当な努力なしでは、まず受からない。そういう性質の資格試験だ。
しかし、そのような暗記対象の中には、私の20年超のワインキャリアの中で、(現場レベルでは)ただの一度も必要としなかったような情報も、大量に含まれている。
比較的マイナーな産地の、原産地呼称制度で定められた最低アルコール濃度。
日本では滅多に見かけないワイン産地の、よくわからないサブリージョン。
なぜ、そんな細かいことまで覚えないといけないのか。現実世界で必要のない知識を大量に蓄えることに、なんの意味があるのか。
そう思う人が多々いるのは、当然だと思う。
実態とはズレた内容を、試験対策のためだけに覚えることもある。
例えばフランスのアルザス地方。
試験対策的には、最低アルコール濃度の細かい規定を暗記することになるパートがあるのだが、温暖化によって、最低アルコール濃度の条件クリアが、あまりにも簡単になってしまったアルザス地方にとって、むしろ問題となっているのは、過熟への対策、つまり原産地呼称制度で規定されている「最大アルコール濃度」の方だ。
アルザス地方の実態を考えれば、暗記するべきは最大アルコール濃度なのは明白である。
そして、このような例は、氷山の一角に過ぎない。
私ですら意味があまりない、と感じざるを得ない暗記は、確かに相当多いのだ。
それでも私は、資格試験への挑戦を、強く推奨する。
対象範囲が驚くほど広いことにも、ちゃんと意味がある。
おそらく多くの人が、資格試験というきっかけが無ければ、興味をもつことも、出会うことすらもなかったようなワイン産地が、世界各地に確かに存在している、という事実に気付くことができるだろう。
つまり、範囲が広いことには、「知識と興味の偏りを抑制する」という極めて重要な役割があるのだ。
フランスには、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ以外にも、歴史深く素晴らしい産地がたくさんある。
イタリアには、バローロとキアンティとプロセッコ以外にも、個性豊かな素晴らしいワインがたくさんある。
アメリカワイン=ナパ・ヴァレーではない。
資格試験は、そういった情報に、受験生を半ば強制的に触れさせるのだ。
そして、覚える意味があまりないように思えるものの中にも、確かに将来的に必須級となってくるものも少なからずある。
資格試験を突破し、晴れて有資格者となった後、さらなる深い学びを進めていく段階にきた時、そのような知識が、正しい理解をしていくための重要な土台となることが極めて多いのだ。
例えば、ナパ・ヴァレーに含まれる、数々のサブ・リージョン(A.V.A.)の位置を地図上で把握し、暗記する、という課題。
世の中の大多数のワインラヴァーは、ナパ・ヴァレー産である、というよりも深い情報を必要としていない。
だから、より浅い世界に限定するなら、サブ・リージョンの位置を覚えることには意味がないようにも思えるのは当然だ。
しかし、ナパ・ヴァレー産ワインの理解をさらに深めようとしたとき、サブ・リージョンの位置関係が、決定的とも言える重要な情報に突然変化する。
海からの距離(海から遠いエリアほど暑く乾燥している。)と標高の高さ(標高が一定のラインを越えた段階で、霧の影響がなくなる。)は、ナパ・ヴァレーのテロワールを形作っている。
カーネロス、ラザフォード、カリストガ、ハウエル・マウンテンの違いを理解するためには、テロワールの土台を形成する、「位置情報」が必須になるのだ。
私は嘘も忖度も嫌いなので、正直に書くが、やはり意味性が低いように思える内容の量と、将来的には必ず役にたつ局面がくる内容の量を天秤にかけた時、明らかに後者が勝る。
だからこそ、資格試験に挑む意味は、十分過ぎるほどある、と断言できるのだ。
宣伝のつもりでこの記事を書いたわけでは決してないのだが、もし私と共に学び、資格試験を通じて、ワイン愛を深め、本当に必要な知識かどうかを理解しながら進んでいきたい人は、私が主任講師を担当するVinoterasの試験対策講座(下記リンク)を、検討してみていただきたい。


