一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、一般的な赤ワインの醸造フローを学ぶシリーズの最終章となります。一般的な醸造フローに関しては、前章で完結していますが、本章では、赤ワイン造りに付随する特殊な醸造工程に関して学んでいきます。
なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Académieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。
試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes’ Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください。
① カーボニック・マセレーション(Carbonic Maceration)
ライト〜ミディアムボディまでの赤ワインに時折用いられる手法。未破砕の葡萄をタンクに入れ、二酸化炭素を充満させた後に密閉して数日間置いておくと、果実の内側(果皮の細胞内)で酵素が反応し始めます。この反応によって、ポリフェノール類(主にタンニンとアントシアニン)が果皮から果肉へと染み出しつつ、僅かなアルコール発酵も起きます。約2%の濃度でアルコールが生成されたタイミングで、果皮が破れ果汁が流れだします。その後は一般的には一度圧搾し、通常の発酵フローへと移行します。セミ・カーボニック・マセレーションという類似した手法の場合は、二酸化炭素を充填せずに密閉します。この場合、タンク内に積み上げられた葡萄の上部が、自重で下部の葡萄を押しつぶして破砕し、流れ出た果汁がアルコール発酵し始め、やがてタンク内を二酸化炭素で満たします。セミ・カーボニック・マセレーションの場合も、アルコール濃度はあまり上がらないため、通常の発酵フローへと後に移行します。
SommeTimes’ View
カーボニック・マセレーションは全房発酵が基本となっているため、必ず(僅かであっても)グリーンなニュアンスが生じます。色合いは淡く、タンニンと酸は低く、イチゴやバナナ、キャンディーを思わせる香味が生じるのが特徴です。また、この手法で造られた赤ワインは、総じて早飲みに向きますが、熟成能力が極端に落ちるというわけでもありません。カーボニック・マセレーションによって生じたエステル香は非常に強力で、テロワールの特徴を強く覆ってしまいますが、完全に消失させるというほどでもありません。しかし、一般的な醸造フローで造られた赤ワインに比べると、どうしても「テロワール+カーボニック・マセレーション」という味わいの構成になってしまうため、テロワールの特徴が掴みづらくなります。
ボジョレーの専売特許とされていたのは随分と昔の話で、現代では世界各国の様々な造り手たちによって、柔軟に取り入れられています。特にナチュラル・ワイン・メイキングにおいては、既に広く用いられています。ここには、二酸化炭素の抗酸化能力によって亜硫酸添加を回避する、ガブ飲みスタイルのワインに仕上げるといった複合的な理由があるのですが、特に前者の目的で用いた場合、二酸化炭素への過信によって油断が生じ、過度の欠陥的特徴を伴ったワインになってしまうケースが、決して少なくありません。