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再会 <40> のんびりヌーヴォーの価値
Remi Dufaitre, Beaujolais Villages Nouveau 2022. ¥3000 11月の第3木曜日午前0時。 1985年の制定以降、 ボジョレー・ヌーヴォーの解禁 を祝う瞬間として長年親しまれてきた、 日本ワイン市場最大規模のイベント である。 近年はその盛り上がりも 右肩下がりの傾向 にはあったが、 決定的な転機が2022年 に訪れたことを、記憶している人も多いだろう。 ロシアによるウクライナ侵攻が直接的な要因となって発生した 燃料危機 に伴い、 現地での物価と空路での輸送費が高騰 した結果、2022年度のボジョレー・ヌーヴォー輸入量は、前年比45%減ともされる量にまで落ち込んだ。 この数値は、サントリー社の統計によると、ピークを記録した2004年と比べると、なんと85%減にもなるとのことだ。 さらに、価格の高騰を押し切って輸入されたボジョレー・ヌーヴォーは、解禁日から半年以上経った現在でも叩き売りされている光景を頻繁に目にする。 生産者は輸出量減に苦しみ、インポーターは利益の圧縮に苦しみ、酒販店は在庫過多に苦しみ

梁 世柱
2023年6月25日


再会 <18> 塗り替えられる「ティピシテ」
Christophe Pacalet, Côte de Brouilly. 2020 ¥4,800 プライヴェートではほぼナチュラルワインオンリーの筆者は、同類の例に漏れず、ガメイが大好きだ。 華やかなベリー香に、ほのかなワイルド感が加わる蠱 惑的 なアロマ。 ピュアな果実味と踊るような酸。 軽やかで、伸びやかで、自由なワイン。 そんな ナチュラルガメイの聖地 といえば、当然 ボジョレー である。 マルセル・ラピエール をはじめとして、ナチュラルワインを代表するような偉大な造り手たちがひしめくこの地のワインを飲んで人生が変わった、と言う人にも数えきれないほど出会ってきた。 そんな聖地にも今、 温暖化と言う荒波 が押し寄せている。 1970年代頃 までのボジョレーは、 アルコール濃度11%を超えることは滅多にない ワインだった。 やがて、徐々にインターナショナル化していったボジョレーは、 補糖によって12.5%程度までかさ増し することが一般的となった。 12.5%は、それでも 十分気軽にグビグビ飲める 、というアルコール濃度であり、ガメイ特有の「

梁 世柱
2022年8月7日


その憂いが、世界を変えた <ボジョレー特集後編>
愛するものに、自らの理想像を押し付ける。厄介極まりないヒトの性に、筆者もまた囚われている。ありのままを受け入れたいと建前を言い放ちながらも、本音では自らが受け入れられる折衷点を常に探っている。それは結局のところ、部分的にでも理想を押し付けていることと何ら変わらないことと知りながら。筆者のような妄執に囚われたものが、そこから抜け出し、冷静かつ公正でいるためには、指針が必要だ。動かざる指針が。サステイナブル社会が問う「造る意味」と「造る責任」。ワインにおいて、造る意味の大部分は「テロワールの表現」に宿る。そして、造る責任は「無駄にしないこと」に集約される。それらは確かに、私にとっては動かざる指針だ。今一度、自らを縛り付ける頑なな情熱と向き合ってみよう。手にした二つの指針を頼りに。 非常に古い時代の姿をそのままに残す、ボジョレーの古樹 ジュール・ショヴェの系譜 『ボジョレーとは、香りのワインである。』 第二次世界大戦後に、化学肥料と化学合成農薬の助けを得て 大幅に高収量化 した代償として、 潜在的な脆弱性 を抱えてしまったボジョレーの葡萄は、 過度の補

梁 世柱
2021年9月25日


偉大なるボジョレー <ボジョレー特集前編>
毎年のことだ。9月に入ると、安堵と焦慮が入り混じった感情に駆られる。エアコンのスイッチを入れる頻度は減り、全開にした窓から新鮮な空気が室内を吹き抜け、けたたましい蝉の鳴き声は、心地良い鈴虫の音に変わる。美しい秋はもう目の前だ。だがこの穏やかな気持ちをいつも乱してくるものがある。そう、ワインだ。この季節に筆者がとあるワインに対して抱く想いは、主観的には至って冷静で論理的なはずなのだが、客観的に見ると酷く感情的に思えるだろう。理由ははっきりとしている。結局は、単純に、嫌なのだ。自分が愛してやまない偉大な産地から、心から愛せないワインが大量に生み出されることが。あと2ヶ月も経ったら、私がその地に対して抱く理想像が木っ端微塵に破壊して回られることに、心が激しく掻き乱されるのだ。そう、 ボジョレー・ヌーヴォー というワインが、私の心から平穏を奪っていく。 ヌーヴォーの未来を問う フランス・ブルゴーニュの南部に飛び地の様に位置するボジョレーは、おそらく日本においては、あらゆるワイン産地の中でも シャンパーニュに次いで知名度の高い産地 だろう。少なくとも、ブル

梁 世柱
2021年9月11日
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