2022年11月2日4 分

現地で飲むワインは本当に美味しいのか

「現地で飲むワインは美味しい。」

SommeTimesではさまざまな角度から度々この現象の真偽に迫ってきたが、今回はまた別の、「保存環境」という視点から見ていこうと思う。

というのも、筆者はこの3ヶ月間で北ギリシャ、南アフリカと立て続けに現地訪問を行ったが、現地の方が美味しいという感覚を一切覚えなかったからだ。

むしろ、同じワインであれば、日本の方が美味しいと感じたことも多々あった。

これまでの検証(記事1記事2)では、どちらかというと微生物学的要素に対する仮説や、ワインを飲む環境に主眼をおいて検証を行ってきた。確かにそれらの要素は、ワインの味わいに十分なレベルの影響を及ぼし得るが、今回検証する「保存環境」というのは、もっと根源的なものであり、より初心者向けの内容ともなる。

この保存環境において、特に大きな影響を及ぼす要素は3つ。

温度、直射日光、湿度である。

最後の湿度に関しては、そこまで極端な環境というのはそうそう無い(そもそも、人が快適に過ごせる湿度帯は限られている。)上に、かなりの長期保存をしない限りは、その影響も小さい。理想は75%前後とされ、それ以上高いとカビの原因になり、それよりも低いとコルクの乾燥が加速する。

問題は前者二つだ。

まずは温度に関して。

温度には二つの側面があり、一つは温度そのもの、もう一つは温度変化だ。

保存温度の理想帯は13~15度とされている。ただし、この温度帯はあくまでも長期保存によって緩やかに熟成を促していくための温度帯となる。つまり、熟成を可能な限り遅らせたいのであれば、3~12度の範囲でコントロールすれば良い。温度が低くなればなるほど、色素などが結合して沈澱したりするが、味わいに対する影響は軽微だ。注意すべきは、その「逆」を決して行わないこと。16度以上になると熟成スピードが早まるが、このスピードは多くのワインにとって有害なものである。熟成とはつまり、酸化でもあるため、そのスピードが上がり過ぎると、深刻な不具合を起こしてしまうのだ。特に20度を超える環境は要注意。つまり、人が快適に過ごすためにエアコンが効いた環境では、夏でも冬でも基本的には室温管理はアウトということになる。

温度変化に関しても注意が必要で、長らく13度の環境に置かれていたワインが、数日間25度の環境に置かれるだけで、明確な劣化が生じる。特にワインの膨張による「吹きこぼれ」は、コルクを弱め、ボトル内の空間を増やし、酸化を急速に早めてしまうため、深刻な問題に繋がりやすい。

このような温度管理が、海外では非常に緩いことが多い。ワイナリーで飲むワインは、よほど原始的な設備環境でも無い限り、ある程度は安心感があるが、問題は飲食店。冬に運ばれたワインを冬の間に飲むのなら大丈夫だが、通年棚に飾られていたワインは危険極まりない。海外では日本ほど、外置き型のワインセラーが一般的では無いのだ。

もし海外でワインを飲む場合は、温度管理機能があるセラー(人工的なものでも、地下セラーのように天然のものでも)を有しているかどうかを、必ずチェックしていただきたい。

もちろん、日本に運ばれてきたワインが、ドライ輸送(温度管理をしない輸送、現在日本では少数派となりつつある。)されていたり、店舗内に室温放置されている場合も同様に危険なので、ご注意いただきたい。

そして、直射日光もまた、完全なNG環境だ。

これはとにかくシンプル。当てなければ良いだけ。

太陽光はワインを劇的に変質させることができ、非常に強い酸化、褐色化に加え、日光臭と呼ばれる不快臭の元になる。特に透明タイプの瓶はダイレクトに影響を受けるため、短期間であっても優先して暗所に保管すべきである。(あえて、超長期間、ワインを直射日光に晒すという製法もあるが。)

日本でも悪質な店舗では直射日光にボトルを晒しているケースが見受けられるが、オープンテラス文化のある海外では、より多くこの問題が生じている。

この点もまた、海外でワインを飲む際に重々気を付けていただきたい。

総合すると、日本は輸送環境、保存環境の両面において、世界でも際立って優れている国であり、実際に海外のワインメーカーが来日した際に、コンディションの良さに驚くということは頻繁に起こる。

日本人の几帳面慎重な性格が、ワインの品質を守っているのだ。