2023年4月14日28 分

飛躍の時 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.3>

最終更新: 2023年4月25日

Chianti Classico Collectionでの二日間を終えた時、私は不思議な高揚感に包まれていた。

極限まで集中したテイスティングを、連日8時間近く休みなく続け、舌も足も思考も、疲弊しきっていたはずなのに、私は妙に興奮していたのだ。

4年前の辛酸を晴らすべく、地道に研究を重ねてきたChianti Classico。

その答え合わせをひたすら繰り返した2日間。

確信に変わった数多くの仮説。

新たな発見。

未知のワインとの出会い。

新世代の躍動と、ベテランのプライド。

複雑に絡み合う思惑。

そして、思い知らされたChianti Classicoの偉大さ。

会場で見聞きした全てが、私を刺激し続けていたのだ。

Chianti Classico編最終章を執筆するにあたり、私は今、安堵感と共に、寂しさに似た感情を抱いている。

2020年代のワイン産業

新型コロナ禍の本格化と共に幕を開けた2020年代。様々なワイン関連ニュースも飛び交ったが、その中でも最もインパクトが大きかったのは、間違いなくボルドーの話題だろう。

2021年後半にC.I.V.B(ボルドーワイン委員会)が発表したレポートは、ボルドー全域の75%がサスティナブル認証を取得(公式な続報はまだだが、2023年時点ではさらに増加しているのは確実)という驚異的な成果と共に、世界に衝撃を与えた。

ボルドーワイン委員会が行ってきたような取り組みは、世界各地で進んできたものではあったが、ボルドーの成功は殊の外大きな意味をもっていた。

そう、世界で最も名高い銘醸地の一つであるボルドーが、しかも気候条件、産業条件共に、サスティナブル化が決して簡単ではない部類に属しているボルドーが成功したという事実には、他の伝統産地が繰り返し続けてきたあらゆる「言い訳」を、容易に論破できるだけの力があったのだ。

ボルドーの成功をきっかけに、世界各地でやや停滞していた取り組みが一気に加速していくのは、もはや疑いようも無かった。

2023年2月。ボルドーの衝撃から1年と半年足らず。

その余波がトスカーナにも届いていることを、はっきりと感じることができた。

4年前に訪れた時は、オーガニックの話題に顔をしかめる造り手も少なく無かったのだが、今回は明らかに違った。

とある造り手が私に語った、Chianti Classicoにおけるオーガニック比率54%という最新情報は、キアンティ・クラシコ協会による公式な発表が無いため、確定的な情報ではないが、実態はその数字を超えた状況にあると推察できる

では、Chianti Classicoにおけるオーガニック及びサスティナブル推進の変遷を辿っていこう。

伝統の守り手として

最初の取り組みは、1987年に始まった。

キアンティ・クラシコ協会が主導した、来るべき大規模な再植樹に向けた研究は、クローン、台木、密植率、葡萄樹の仕立て方法、などの複数のテーマに別れていた。

16年もの歳月を費やして行われたこの研究の中でも、特筆すべき成果は、ウイルスフリー・クローンの選定である。総数239の候補から選抜された、サンジョヴェーゼ24種、カナイオーロ8種、コロリーノ2種のウイルスフリー・クローンは、エスカなどの深刻なウイルス感染に悩まされてきたこの地にとって、救いの神そのものであると同時に、オーガニック/サスティナブル推進の強力な土台ともなったのだ。

この研究は、2006年にキアンティ・クラシコ協会が発表したサスティナブル推進プロジェクト「Chianti Classico 2000」へと繋がり、化学合成農薬の削減、生物多様性の促進、土壌と水資源の保護、という目標を十分に実現可能なものへと押し上げた。

一方で、規模はずっと小さいが、Chianti Classico 2000プロジェクトと同レベルに重要な取り組みが、1995年に始まっていた。

現在は独立したUGAとなったPanzano(かつてはGreve in Chiantiの一部)で、「L’Unione Viticoltori di Panzano in Chiantiパンツァーノ・ワイン生産者組合)」という生産者団体が結成され、Panzanoエリアの全面オーガニック化という目標に向けて動き始めたのだ。

2008年には、かねてからパンツァーノ・ワイン生産者組合に、オーガニック転換のアドヴァイスを行なっていたルッジェーロ・マッツィッリを所長として、私立研究所Spevisが始動。

Spevisによるタイムリーなサポートの元、2020年にはPanzanoにある葡萄畑の、約90%がオーガニック化に成功した。

Chianti Classico 2000プロジェクト、PanzanoとSpevisの連動による圧倒的な成果、そして、ボルドーの一大サスティナブル化という衝撃。

誇り高きChianti Classicoの造り手たちが、迷わずこの道を進んでいくために必要だったバックアップ体制と成功例が揃ったのだ。

参考までに、2021年12月にキアンティ・クラシコ協会が発表したデータには、Chianti Classico認定畑約6800haのうち、約2050ha(おおよそ30%)がオーガニック化したとある。

それから一年以上が経った現在、オーガニック比率54%という筆者が耳にした数字は、(少なくとも、認可待ちのグループを含めればほぼ確実に)非現実的なものでは無いと十分に考えられるが、公式のアナウンスを待って、SommeTimesでも補足レポートを行う予定だ。

北部UGAs

本章では、UGA詳説の後編として、6つのUGAを「北部」とした上で進めていく。

北部に該当するUGAは以下の通りとなる。

Greve(グレーヴェ)

Lamole(ラモレ)

Montefioralle(モンテフィオラッレ)

Panzano(パンツァーノ)

San Donato in Poggio(サン・ドナート・イン・ポッジオ)

San Casciano(サン・カシアーノ)

かつてはGreve in Chiantiとしてひとまとめにされていたゾーンは、Greve、Lamole、Montefioralle、Panzanoへと分割された一方で、Tavarnelle Val di Pesa、Barberino Val d’Elsa、そしてPoggiobonsiの旧ゾーンは、San Donato in Poggio UGAへと統合された。

南部ではCastelnuovo Berardengaが分割(西側のVagliagliと東側のCastelnuovo Berardenga)されたのみだったのに対し、北部ではより大きな改変が行われたことになる。

特にGreve in Chiantiの4分割は、今後南部(特にGaiole)の更なる分割のモデルケースとなる可能性が十分にある。

北部UGAs内のオリジナル・キアンティ

1716年にコジモ三世が定めたChiantiの範囲は、実は正確には分かっていない。

参考までに、当時の布告に書かれていた文言を和訳しておく。

『キアンティに関しては、このように定められ、その通りになる。SpedaluzzoからGreveまで、そこからPanzanoまで、そしてRaddaの全域を含み、それには3つの地域、すなわちRadda、Gaiole、Castellinaが含まれる。そこからシエナの州境まで続く。』

布告にあった文言から、オリジナル・キアンティ(Chianti Storico)の大部分が南部の3地域(Radda、Gaiole、Castellina)にあったことは確実だが、北部に関しては釈然としない。

ただし、文言の前半を現在の地図と照らし合わせながら丁寧に追っていくと、おおよその範囲が予測できる。

まずは「SpedaluzzoからGreveまで」という部分から、現在のGreve UGA内にある銘醸エリアのGreti地区(及び、Gretiに接したMontefioralle UGAの北東部)が含まれていたのは、確実と言えるだろう。

次に、「そこからPanzanoまで」という文言を頼りに地図を辿っていくと、Greve in ChiantiからPanzano in Chiantiの町へと進んでいく最中(東側)に、Greveの銘醸エリアRuffoli地区があり、Panzano in Chiantiのすぐ南西部には、Panzanoの銘醸エリアConca d’Oro地区があるため、この両地域もオリジナル・キアンティに含まれていたのは、ほぼ間違いない。

つまり、現在のGretiRuffoliConca d’Oro(各エリアの解説は後述)は、オリジナル・キアンティに含まれていたと考えるべきだろう。

Lamoleに関しては、不明点が多い。歴史的、そして地質、地勢、立地的にもLamoleはGreveよりもRaddaとの繋がりが強かったため、コジモ3世が宣言したところの「Raddaの全域」にLamoleが含まれていた可能性は捨てきれない。しかし、当時の気候は現在よりも冷涼であり、栽培技術も発展途上だったため、Lamoleの葡萄がちゃんと熟していたか、つまりChiantiと認められるほどの品質に至っていたかについては疑問が残る。

以降、北部UGAsの詳説に入るが、本章でもマイクロ気候と土壌の特徴を重要な要素として用いていくため、復習を兼ねて前章を今一度読み直していただければ、以降の内容が分かり易くなるかと思う。

Greve(グレーヴェ)

UGAsの導入に際し、4分割されたGreve in Chiantiだが、その大部分がGreveというシンプルな名前に変わって残った。

分割されたMontefioralle、Panzano、Lamoleは、独立に足るだけのユニークなテロワールが認められる小地区ではあるが、Greveに残ったエリアにもかなりの多様性が見受けられる。

地勢的には東にキアンティ山脈西にグレーヴェ川北にエマ渓谷南東部にデュッダ渓谷があり、Greve UGA内の小エリアを把握していく上で、重要な手がかりとなる。

まず、北部のエマ渓谷近くのエリアは、Strada in Chiantiの町を中心に葡萄畑が集中しているため、本特集記事では、Strada地区としておく。Strada地区は、標高が低いためより温暖なエリアとなり、土壌は頁岩を多く含むシラーノ・フォーメーションが主体となる。

エマ渓谷東側の山間部にはSan Polo in Chiantiの町があり、Macigno土壌が中心となるため、Strada地区とはテロワールが異なる。しかし、このエリアに葡萄畑は少ないため、よりリフト感が高まると考えておくだけで十分だろう。

グレーヴェ川キアンティ山脈に挟まれたGreve中央西部の位置には、このUGAでも最も葡萄畑が集中しているGreti地区がある。複雑な土壌組成で知られるエリアでもあり、オリジナル・キアンティに含まれていたことが確実視されている、というのも、十分に納得できるだけの高品質ワインがひしめく、間違いない銘醸地だ。

Greti地区をさらに南下していくと、Greve UGAの南端エリアに小さなRuffoli地区がある。

Greti地区とは異なるテロワールを宿したこの地は、オリジナル・キアンティの一部であった可能性が高く、この地区にあるワイナリーの際立った実力と相まって、Ruffoli地区もまた銘醸地の名に相応しいと言える。

キアンティ山脈を超えた東側にあるデュッダ渓谷を中心とするDudda地区は、東西に山脈が走るという特殊な地勢によって、Greveの他地区とは異なったテロワールを獲得するに至っている。

以上の特徴を踏まえて、Greve UGAは、Strada、Greti、Ruffoli、Duddaの4地区に分けて考えていくと分かりやすいだろう。

各地区の特徴に関しては、以降の造り手紹介と合わせて述べていく。

Greveの造り手たち

Ottomani

ビオディナミワイナリーのOttomaniは、Greveの中でも明確に温暖なStrada地区のテロワールを見事に表現している。

Strada地区では、平均的な標高が200m近辺と低く、よりダークな果実味が宿りやすい。また、シラーノ・フォーメーションGalestro土壌の影響によって、たくましい骨格とフレッシュなドリンカリティが両立される点も魅力だ。オリジナル・キアンティの領域からは外れていた可能性が高い地区だが、その高い実力はGreveの名に恥じないものと言える。

Ottomaniは、様々な地葡萄を育てているが、Chianti Classicoとしてリリースするワインはサンジョヴェーゼ単一となる。

コンクリートタンクのみでソフトに仕上げたレギュラーのChianti Classicoは、非常にオープンな黒系果実味が、絶妙なフレッシュ感とドリンカビリティへと繋がる快作。

Riservaは、古典的な大樽で仕上げ、Strada地区が秘める緻密なミネラル感や、くっきりとした骨格も引き出した大傑作。緊張感が高い味わいながら、Strada地区らしいドリンカビリティが一切損なわれていない。

なお、色々と思うとこがあるようで、G.Sは生産していない。

Montecalvi

オリジナル・キアンティの一部であったと考えられるGreti地区は、今もなおChianti Classicoを代表する銘醸地と言える。

標高は200~300mとやや低い部類に属しているが、その入り組んだ土壌組成もあって、極めて複雑な味わいが、ミネラルとタンニンの強固な外殻によって、タイトで筋肉質なテクスチャーに凝縮される

そんなGreti地区の、白眉と言えるワイナリーがMontecalviだ。

レギュラーのChianti Classicoは、サンジョヴェーゼを主体に僅かな地葡萄もブレンド。30%全房発酵を行い、フレッシュかんを引き出しているが、Greti地区の本質であるタイトさは健在。バランスに優れた素晴らしいワインだ。

造り手曰く「政治的な理由」でIGTとしてリリースされているVigna Vecchiaは、1932年に植樹されたサンジョヴェーゼ主体の混醸畑から造られる実質的なG.Sだ。

その実力は凄まじく、Greti地区らしいタイトさの奥底に、無尽蔵の複雑性が潜む偉大なワイン。銘醸地Greti地区の最高傑作、と言っても過言ではないだろう。

Querciabella

Greveの最南部、標高が400~550mほどに到達するRuffoli地区は、オリジナル・キアンティの一部であった可能性が非常に高い。そしてその可能性は、コジモ3世の布告内容以上に、Ruffoli地区の圧倒的に高水準な品質そのものが肯定している。

Ruffoli地区のサンジョヴェーゼを一言で表現するなら、「あらゆるChianti Classicoの中でも最もエレガント」となる。

フレッシュ感が際立つ高標高に加え、Galestroと砂岩が絶妙に入り混じる土壌が、ストラクチャーとリフトを同時にもたらす。高標高Chianti Classicoに良くある「枯れた」ニュアンスは無く、むしろ果実のピュアさが極限まで引き出されている

もし私が(同じ考えに至るのは私だけでは決してないと思うが)、ブルゴーニュに習ってChianti Classicoからグラン・クリュ(もしくは特級相当の地区)を選出するとしたら、Ruffoli地区は一瞬の迷いすらなく、筆頭候補の一つとして挙がる。

Querciabellaは、スーパー・トスカンの名品群であるCamartina、Palafreno、Batarといったワインの方が良く知られているだろう。しかし、このワイナリーがRuffoli地区に最高の葡萄畑を所有し、しかも最上級ワインとしてGran Selezioneを生産していることはあまり知られていない。

数あるG.Sの中で、最も高価なワインの一つでもあるQuerciabellaの作は、標高500mを超える単一畑から。

Ruffoli地区のエレガンスが極地に至ったような、異次元の最高傑作だ。

再び(それが分かりやすい表現であることを願いつつ)ブルゴーニュに例えるとすれば、QuerciabellaのG.Sは、特級畑ミュジニーのような存在、となる。

なお、G.Sのファースト・ヴィンテージが2017年となった理由は、「前のヴィンテージは官能検査でG.Sとして認められなかったから」とのこと。

キアンティ・クラシコ協会のテイスターたちは、サンジョヴェーゼのエレガンスをどうにも理解できないのだろうか。

淡くエレガントな味わいになるはずのないテロワールから生まれた、「細い」ワインを格下げするのであれば理解できるが、そもそもそういう味わいになるテロワールのワインを認めないというのは、彼らがいまだに固定された狭小な価値観に囚われているということだ。

Podere Poggio Scalette

Querciabella、Il Tagliatoと並びたつ、Ruffoli地区の大銘醸ワイナリー、Poggio Scalette。

当主ヴィットリオ・フィオーレの、Ruffoli地区への思い入れとプライドは凄まじく、最上級キュヴェであるIl Carbonaioneが、実質的には全Chianti Classicoを代表するクラスのG.Sであるにも関わらず、「RuffoliがGreveの一部とされ続ける限り、IGTとしてリリースする」という頑なな姿勢を崩さない。

Il Carbonaioneは、平均樹齢90年を超える、標高450m近辺の単一畑から造られ、この畑には「サンジョヴェーゼ・ディ・ラモレ」と呼ばれる古いクローンが残っていることでも知られている。

QuerciabellaのG.Sと同様に、Il Carbonaioneもサンジョヴェーゼのエレガンスを極限まで引き出した凄まじいワイン。

また、レギュラーのChianti Classicoも、Ruffoli地区の魅力が、抜群のフレッシュ感と共に表現された快作。

Carpineto

オリジナル・キアンティには含まれていなかったと推察されるが、南東側のドゥッダ渓谷を中心としたDudda地区もまた、Greveの多様な魅力を形成する素晴らしいエリアだ。

東西に山脈が走る狭い渓谷、という地勢は、標高(250~450m)が示す特性以上に、強いフレッシュ感をワインにもたらす。

赤系と黒系が絶妙に混じり合う果実感、ヴィヴィッドな酸、頑強なタンニンといった構成が基本となりつつ、高い長期熟成能力も感じさせる。

Carpinetoは、モンタルチーノやモンテプルチアーノにも葡萄畑を有する大きなワイナリーだが、Chianti Classicoエリアの本拠地はDudda地区にある。

その真髄たるG.Sは、Dudda地区らしい多層的でフレッシュ感の強い果実味、はっきりとした酸、そして分厚いタンニンが、精妙なバランスで共存した大傑作ワイン。

Lamole(ラモレ)

南部のRadda UGAと並んで、最も総体的特徴が明確なのがLamoleだ。

最小のUGAでもあるLamoleの葡萄畑は、ほとんどが標高500mを超える位置にあり、Chianti Classicoとして認定される(現時点での)上限となる700mに近い位置にすら点在している。つまり、Chianti Classicoの中でも最も冷涼なUGAがLamoleということだ。

土壌は石灰質を含まない砂岩であるMacignoが完全に主体となり、東方向に向かって標高が上がっていくという地勢から、葡萄畑の多くは西向き斜面(テラス状の畑が多く、株仕立てが主流)に拓かれている。

高標高、Macigno土壌、日当たりの悪い西向き斜面、株仕立てといった要素は、Chianti Classicoの中でも際立って淡い色調、フローラルで繊細なアロマ、全体的に低めのアルコール濃度、乾いたニュアンスのタンニン、そして石灰質が含まれていないことが主な要因と考えられる(高標高に反した)酸の穏やかさ、といったLamoleらしさとなって現れる。

僅か8軒しかワイナリーが無いLamoleが、独立したUGAを獲得することができたのは、この特異なテロワール故であるし、その独立を承認したキアンティ・クラシコ協会の英断は、高く評価されるべきだ。

また、Lamoleは狭く、造り手も少なく、エリア内での一貫性も非常に高いため、他UGAsのようにさらに細かく分割して検証する必要もあまり無い

Lamoleの造り手たち

Fattoria di Lamole

Lamoleを代表する、いや、Chianti Classicoの古典派を代表する造り手が、Fattoria di Lamoleだ。

葡萄畑の最高地点は、上限の700m。まさに限界気候と言える環境で育ったサンジョヴェーゼの魅力を、コンクリート・タンクでニュートラルに引き出す。

どのキュヴェに共通したLamoleらしい淡さ、フローラルでフレッシュなアロマ、柔らかいフェノールのタッチがある。

レギュラーのChianti ClassicoやRiservaも十分過ぎるほど素晴らしいが、3種の単一畑は異次元の領域。

特に、1974年に植樹された自根のサンジョヴェーゼからなるLe Viti di Livioは、Lamoleの魅力が全て凝縮されつつ、あり得ないほどの奥深さを表現した、Chianti Classico最高傑作の一つ。

単一畑の上級キュヴェは全て、かつてはGran Selezioneとしてリリースされていたが、その「淡さ」故に官能検査で認められなくなったため、現在はIGT格となっている。

Lamoleを独立したUGAとして承認しておきながら、この地の最も偉大なワイン群をGran Selezioneとして認めないというのは、愚行としか言いようが無い。

Lamole di Lamole

このUGAで最も広く知られたワイナリーが、(Lamole最大規模の)Lamole di Lamoleであることに異論は無い。しかし、ワインには少々の疑問点が付きまとう。

レギュラーラインのChianti Classicoは2種で、Duelameというキュヴェは僅かなカナイオーロを、Maggioloというキュヴェではカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを合わせて10%ブレンドしている。Lamoleの淡さに対して、ボルドー品種はどうにも強過ぎるため、この地の魅力を根こそぎ奪ってしまっているようにしか思えない。

一方で、共にサンジョヴェーゼ単一となる2種のGran Selezioneは極上。

Vigneto di Campolungo G.Sは、標高がLamoleとしてはかなり低い420m地点から、575mまで達する急勾配の畑で育ったサンジョヴェーゼで造られる。斜面下部の葡萄が含まれていることもあってか、やや腰の据わった味わいとなる。

Vigna Grospoli G.Sは、Lamoleの銘醸畑の一つであるGrospoliから。標高は540~560m程と、Lamoleの中ではかなり緩やかな傾斜の畑だが、Lamoleの真髄が凝縮したかのような、極めてエレガントな大傑作ワイン。

サンジョヴェーゼ単一ワインの、圧巻の出来栄えをもってしても、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを捨てきれない理由が彼らにはあるのだとは思うが、やはり、Lamoleのサンジョヴェーゼとボルドー品種は、相性が良いとは私には思えない。

Montefioralle(モンテフィオラッレ)

Lamole に次いで小さなUGAであるMontefioralleもまた、比較的総体的特徴がつかみやすい小地区となる。旧Greve in Chinatiの中央西部に位置し、葡萄畑の標高は250~400mの範囲に集中している。

平均気温で見ると、標高によって微細な違いは生じるものの、全体的に西側に行くほど標高が高くなるという地勢から、葡萄畑の多くが東向き斜面にあるため、基本的にはChianti Classicoの中でもやや温暖な部類に属している。

また、UGAの中心部を平行に横切るように貫く2つの峡谷(Paurosa峡谷とBecherale峡谷)を通過するように風が周回する、という地勢的特徴や、葡萄畑が集中しているエリアに共通しているAlberese土壌が合わさり、フルーティーで丸みを帯びた果実感、同じく丸い印象の酸、やや硬いミネラル、充実したタンニンの骨格といった総体的個性に繋がる。

厳密に言うと、Paurosa峡谷の北側、Paurosa峡谷とその南にあるBecherale峡谷の中間部、そしてBecherale峡谷の南側の3エリアに分けて考えることもできなくはないが、それらの微細な違いよりも、Montefioralleに共通する特性に焦点を当てた方が良いだろう。

ただし、Paurosa峡谷北部の東端エリア(北東部)は、Greveの銘醸エリアであるGretiに限りなく近い位置(オリジナル・キアンティに含まれていた可能性が高い)にある上に標高が低く、地質的にもより多様となるため、Montefioralleの総体的特徴があまり当てはまらなくなる

Montefioralleの造り手たち

Altiero

Montefioralleの中でも最高地点にほど近い標高450m近辺、Becherale峡谷の南側にあるのが、Altiero。

総面積約7haという小さなワイナリーだが、テロワールを緻密に表現する、素直なワイン造りが実に素晴らしい。

全てのワインがサンジョヴェーゼ100%となっているが、レギュラーのChianti Classicoではハンガリアン・オーク、リゼルヴァではフレンチ・オーク、そしてG.Sでは大樽と使い分けている。

急勾配の区画から造られるRiservaは緊張感の高いフェノールの充実度が魅力、そして丘の最上部にある単一区画から造られるG.Sは、Montefioralleらしい丸い果実味と酸、しっかりとしたフェノールの骨格といった特徴が凝縮した大傑作ワイン。

全体的に素朴さを感じさせる造りだが、奥底からただならぬ古典美が漂う。

Villa Calcinaia - Conti Capponi

Villa Calcinaiaは、先述したMontefioralleの総体的特徴が当てはまらない、北東部エリアに位置するワイナリーとなる。

メルローなども育てているが、Chianti Classicoと名のつくワインには徹底して地葡萄のみ(ほとんどのキュヴェがサンジョヴェーゼ100%)を使用する、トラディショナリストでもある。

10%程度のカナイオーロがブレンドされたレギュラーのChianti Classico、サンジョヴェーゼ単一となるRiservaは、共に古典的で隙の無い味わいだが、同じくサンジョヴェーゼ単一となる3種のG.Sは驚くほど素晴らしい。

全体的に、Montefioralleの中でも際立った「暖かさ」を感じさせるワイン群となっているが、この小エリア独特の多様な土壌組成によって、大きく異なる個性が形成されている。

砂質土壌主体のVigna La Fornace G.Sではフローラルなアロマと抑制が効いた丸い果実味が、石灰質系土壌主体のVigna Bastignano G.Sでは暖かさの中にも緊張感と構造の頑強さが、粘土質土壌主体のVigna Contessa Luisa G.Sでは、より強い凝縮感と重心の低さが際立つ。

この3種のG.Sを比較すれば、サンジョヴェーゼが土壌組成に対して極めて敏感に反応するということが、非常に良く分かるだろう。

Panzano(パンツァーノ)

Chianti Classicoがオーガニック/サスティナブルへと突き進んでいく過程で、極めて重要な役割を担ってきたPanzanoは、別の意味でも特殊な地域だ。

Panzanoは、その広範囲がオリジナル・キアンティに含まれていたと目される歴史的な地域でありながら、長年に渡ってGreve in Chiantiとしてひとまとめにされてきたという不遇な経緯、そしてChianti Classicoの中でも突出して「外部参入者」が多いことが相まって、最も先進的かつ独自性の強い地域へと変貌したと言える。

Panzanoのテロワールは、大きく分けると2地区、さらに細かく分けると4地区とすることができるだろう。

大きな区分では、Panzano in Chiantiの町を通過する国道118号線を境に、東側西側に分ける考え方となる。

さらに、西側は中央のConca d’Oro地区最南部、北西部に分けることもできる。

葡萄畑は標高300~475mの地点に集中しており、Chianti Classicoの中でも中庸に近い気候となる。

土壌は全域に渡ってAlberese、Pietraforte、Galestro、そしてシラーノ・フォーメーションが複雑に入り組んでいる

東側は中央部に向かって標高が下がるような地勢となっており、斜面の向きも畑の位置によって大きく変動はするが、全体的にはフルーティーでフレッシュな果実感に特徴があると言える。

西側Conca d’Oro地区周辺は、バランスに秀でた構造と、土っぽさを感じさせる風味に特徴がある。北西部Conca d’Oro地区にかなり似ているが、やや高い酸が特徴と言える。最南部はConca d’Oro地区に比べるとやや細身だが、明確にブライトな果実味とフレッシュ感が宿る。

このように、地区ごとに特徴が異なる部分はあるが、Panzano内で共通した特徴もある。

基本的には(最南部を除いて)しっかりとしたボディ感と、鋭い酸のコントラストが、PanzanoのChianti Classicoには立ち現れるのだ。

Panzanoの造り手たち

Fontodi

Panzanoの中でも歴史的に名高いConca d’Oro南部に位置するのが、Chianti Classico屈指の銘醸Fontodiだ。

全体的にやや新樽のニュアンスが強い造りではあるが、卓越した技術によって引き立てられた最上級のテロワールが、はっきりとワインに宿っている。

その高品質はレギュラーのChianti Classicoでも十分に味わえるが、2種のG.Sは隔絶した品質領域に到達している。

G.Sの創立に際し、RiservaからG.Sへと昇格したVigna del Sorbo G.Sは、力強さと無欠のバランス感、輪郭のはっきりとしたフルーツの骨格とエッジの効いた酸など、まさにConca d’Oroらしさが凝縮されたような大傑作ワイン。

さらに、Conca d’Oroの中でも、標高450mという高地にあるAlberese土壌主体の単一畑からは、Terrazze San Leonino G.Sという特殊なテロワールを宿したワインをリリースし始めた。

Terrazze San Leonino G.Sは高地ならではのブライトで重心の高い果実感、さらに鋭角な酸、そしてAlberese土壌らしい強靭なミネラルが魅力的なワイン。Vigna del Sorbo G.Sとは大きく方向性の異なるキュヴェだが、土壌組成が非常に入り組んでいるPanzanoの多様性を示す、素晴らしいワインだ。

Fattoria Rignana

RignanaはPanzano北西部を代表するワイナリーの一つ。

Conca d’Oroと歴史的に呼ばれてきたエリアと北西部はかなり離れてはいるのだが、似たような標高(300m~400m近辺)、似たような土壌組成(Alberese、Pietraforte、Galestroが複雑に入り混じる)となっているため、その特徴もまた良く似ている。

G.SのVilla di Rignanaは、標高400m、Galestroを多く含む粘土石灰質土壌の畑から造られる。少々バリックのニュアンスが強いが、Conca d’Oro地区とも通じるパワフルな酒質とアーシーな風味に加えて、北西部らしい酸のリフトが加わる。

Riservaは、ヴィンテージによってカベルネ・フランが10~15%ほどブレンドされるというかなりユニークなワイン。品質は高く、ワインとしては個人的にかなり好きな味わいだが、やはりChianti Classicoとしては少々疑問が残る。

Monte Bernardi

Conca d’Oro地区と北西部は共通点が多いが、最南部はかなり個性が異なってくる。

Panzanoのトレードマークと言える引き締まったパワフルさは影を潜め、より柔和で明るいジューシーな果実味と快活な酸、穏やかなタンニンといった、極めて高いドリンカビリティへとテロワールの個性が変容していくのだ。

その最南部の特徴を、最も分かりやすく表しているワイナリーは、Monte Bernardiをおいて他にないだろう。

ベーシックのChianti Classico “Retromarcia”は、最南部らしいフレッシュ&フルーティーなタッチと、程よい冷涼感が光る快作。

もう一つのベーシックラインであるChianti Classico “Sangio”は、所有する畑の中でも温暖な区画から造られ、ソフトさとジューシーさが強調されたような、非常に明るい味わいとなっている。

Riservaは、樹齢50年以上の葡萄畑(Galestro土壌主体)から。最南部の特徴的なリフト感はそのままに、より緻密なミネラルが宿った大傑作ワインだ。2016年ヴィンテージでは、キアンティ・クラシコ協会お得意の「エレガントなサンジョヴェーゼへの理解不足」の被害を受けて、IGTへと降格させられてしまったが、最新ヴィンテージではRiservaへと返り咲いている。

野生酵母のみで発酵し、温度管理を行わず、亜硫酸添加量も控えめという造りから、ナチュラル・ワインとして扱われることも多い造り手だが、その実態は超古典派と考えた方が正しいだろう。

Monte Bernardiの底抜けに明るい味わいは、ナチュラルだからではなく、そういうテロワールだから、なのだ。

Podere Le Cinciole

Panzano東側に位置するワイナリーの代表としては、Le Cincioleを挙げたい。

当主のルーカは、パンツァーノ・ワイン生産者組合のリーダー格として、Panzanoのオーガニック化に多大なる貢献を果たしてきた人物でもある。

中央部に向かって標高が下がるため、強い風が地区内を周回するというPanzano東側特有のテロワールは、このエリアのワインに明らかなフレッシュ感をもたらす。

ベーシックとなるChianti Classicoにその特徴ははっきりと現れており、ガレストロ土壌らしい構造の強固さと、フレッシュな果実味が、絶妙なコントラストを描いている。

Aluigi G.Sは、標高440m地点の単一畑から。複数の土壌が入り混じる区画となっており、その特徴がそのまま見事な複雑性となってワインに宿る。

古典美が漂う、大傑作ワインだ。

San Donato in Poggio

(サン・ドナート・イン・ポッジオ)

4分割されて各地域の違いが分かりやすくなった旧Greve in Chiantiと違い、Tavarnelle Val di Pesa、Barberino Val d’Elsa、Poggiobonsiの旧ゾーンが、San Donato in Poggio UGAへと統合されたこの地域は、分かりにくさが増したと言っても良いだろう。

San Donato in Poggioをより深く理解していく上では、2通りの考え方がある。

よりシンプルな考え方としては、ペサ川の北側を北部、南側から広がるエリアを中央部、さらに南部を独立させて考えるという3分割の方法がある。

3分割の場合、Panzano北西部に近い引き締まったテクスチャーと高めの酸が個性となる北部、フルーティーでジューシーな中央部、エレガントで丸みを帯びたフルーツ感が特徴的な南部といった考え方をすることができる。

さらに細かく分けるのであれば、北部はそのままに、中央部をSan Donato in Poggioの村を中心としたSan Donato地区、OlenaからIsoleまでのエリアをまとめたOlena地区、南部のMonsantoとMontignanoをまとめたMonsanto地区、そしてそこさらに西へと進んだ先にあるPoggio di Macericca地区として全体を5分割する考え方もある。

テロワールから考えると5分割の方が正確だが、少々難しくはなるので、基本的には3分割の大まかな捉え方でも良いと思う。

5分割した場合の細かな違いに関しては、以降の造り手紹介と共に解説していく。

San Donato in Poggioの造り手たち

Poggio al Sole

San Donato in Poggio UGA北部の特徴を良く表した造り手として、Poggio al Soleを選出した。

平均的な標高が400m近辺とやや高く、土壌はGalestroが主体となるこのエリアでは、ワインにしっかりとしたタンニンの骨格と、高い酸が宿るが、隣接するPanzano北西部に比べると、幾分か明るく丸い果実感が特徴ともなる。

Poggio al Soleのワインは、北部の特徴を緻密に表現した良作揃いだ。

レギュラーのChianti Classicoは極々僅かなメルロー(3%)がブレンドされてはいるものの、この地のテロワールらしい明るく丸い果実味やヴィヴィットな酸が実に良く表現された佳作。

G.SとなるCasasiliaは、より複雑に土壌が入り組む区画から。北部の特徴はそのままに、より複雑性が高まった素晴らしいワインとなる。

Fattoria La Ripa

ペサ川の南側、San Donato地区に、この地を代表する名ワイナリーの一つ、La Ripaがある。

基本的にはフルーティーな性質を伴う中央部のワインだが、San Donato地区ではLamoleを彷彿とさせるような「枯れた」ニュアンスが少し入ってくる。

Riservaは、ややオレンジがかった色調の古典的Chianti Classicoで、ドライローズ系の乾いたアロマ、イチゴを思わせる明るい果実感と、クリーミなニュアンスが溶け合った傑作ワイン。

G.Sは、淡い世界観の中で、様々なニュアンスがより明確になった、ドラマ性の高い大傑作ワイン。RaddaやLamoleのChianti Classicoが好きなのであれば、San Donato地区のワインにも強く心惹かれることだろう。

Isole e Olena

Alberese土壌とシラーノ・フォーメーションが入り混じるOlena地区は、その南東に位置するIsole地区を含めて考えても問題ない。

そして、このエリアを代表する造り手は、Chianti Classicoの中でも非常に良く知られた造り手であるIsole e Olenaだ。

San Donato in Poggio UGAの中でも、最もフルーティーなワインとなるOlena地区の特徴は、Isole e OlenaのChianti Classicoを味わえば、文字通り一飲瞭然だ。

Isole e Olenaの名を世に知らしめたスーパー・トスカンのCeparelloは、相変わらずIGTとしてリリースされてはいるものの、カベルネとシラーをブレンドしたインターナショナル風味全開のG.Sに比べれば、Ceparelloの方がよほどG.Sの名に相応しいと私は思う。

明るく快活なフルーツ感が高い凝縮感と共に強く押し出されつつ、柔らかくアプローチャブルなテクスチャーが、内に秘めた巨大なパワーを適度にシェイプアップしている。

新樽のニュアンスが少々強いため、好き嫌いはあるかも知れないが、Ceparelloはテロワールの特徴を極限まで凝縮させた上で、計算しつくされた匠のワインメイキングによって軽やかさとパワーを両立させた、真に偉大なワインだ。

Castello di Monsanto

南部のMonsanto地区では、San Donato in Poggio UGAの中でも、際立ってエレガントかつ繊細なワインが生まれる。

土壌はAlbereseGalestroが混在し、300m近辺という「ちょうど良い」標高も相まって、実にバランス感覚に長けたテロワールを形成している。

Castello di Monsantoは、その名の通り、この地区を代表するワイナリーであり、Monsanto地区のエレガンスを余すことなく表現した、素晴らしいワインを手がけている。

特にVigneto Il Poggio G.Sには、誰しもが驚くだろう。サンジョヴェーゼを主体に僅かな地葡萄をブレンドし、Monsanto地区らしいエレガンスが、ソフトタッチの醸造によって、これ以上なく引き立てられている。

貴族的な優雅さを感じさせる、Chianti Classico最高傑作の一つだ。

Cinciano

共に南部にあるMonsanto地区とPoggio di Macericca地区は、かなり距離が近いのだが、テロワールもワインも明確に異なっている。

エレガントなMonsanto地区に対して、Poggio di Macericca地区のワインには、温暖なマイクロ気候による、豊満なテクスチャーと丸い果実感がはっきりと宿る。

Cincianoは、この地区の特徴を正確無比に表現する造り手だ。

RiservaとG.Sは共に、この地の暖かさを感じさせる、明るく柔和な果実感が素晴らしい。

さらに興味深いのは、Camponiというもう一つのRiservaで、かつては単一サンジョヴェーゼだったが、最新ヴィンテージはカナイオーロ、チリエジョーロ、マルヴァジーアをサンジョヴェーゼと共に混醸したワインへと進化した。お気づきかも知れないが、このワインはリカゾーリ・ブレンドへのオマージュでもある。

Poggio di Macericca地区らしい特徴に加え、数段階迫力を増したミネラル感が、全体をタイトに引き締める。個人的には、G.Sよりもこちらのワインの方が優れていると感じたほどの、大傑作ワイン。

San Casciano(サン・カシアーノ)

Chianti Classicoの北西部に位置するSan Casciano UGAは、11あるUGAsの中でも最も地味な存在と思われているかも知れない。

沖積土壌がUGAの大部分を占めているため、一般的な、よりクラシックな意味でのChianti Classicoとはかなりイメージが異なってしまうのが、その主たる理由だろう。

確かに、沖積土壌のエリア(UGA全体の70%程度)で育ったサンジョヴェーゼの特徴は、Lamoleほどでは無いがかなり淡い色調、丸みを帯びた果実感と酸、程よいタンニンと、全体的に各特徴がこじんまりとしており、良くいえばバランスに優れているが、悪くいえば没個性的ともなりがちだ。

しかし、San Cascianoがその魅力を強く発揮できる場所は、沖積土壌に他の土壌が入り混じる北西部の小さなエリアと、南東部のCampoli周辺エリアにある。

標高が150~200m近辺と低いため温暖で、強い粘土質土壌から、かなり重心の低い味わいとなるのが北西部

逆に、南東部は標高が400m近辺にまで上昇するため冷涼で、AlbereseGalestro土壌もあるため、リフト感の強い果実味と、緻密なミネラル、ブライトな酸が特徴となる。

両者はまさに真逆の個性となるため、San Cascianoの面白さは、UGAのほとんどを捨ててでも、この両極端な2地区に集約されると考えた方が良いだろう。

San Cascianoの造り手たち

Montesecondo

北西部ならSan Michele a Torri南東部ならSolationePoggio a Campoliといった造り手たちのワインから、両地区の特徴を探ることは十分に可能だが、最も分かりやすくその違いを知れるのは、間違いなくMontesecondoのワインとなる。

北西部と南東部の両地区に葡萄畑を所有するMontesecondoは、北西部の葡萄をChianti Classico(ごく僅かに南東部の葡萄もブレンドされる)に、南東部の葡萄をIGTとなるTïnに使用している。

ボルドー型のボトルに詰められたChianti Classicoは、肉付きが良く腰の座った果実味と、フレッシュな酸が同居したワイン。

一方で、ブルゴーニュ型のボトルに詰められたTïnは、明らかにリフトされたアロマ、エレガントで優しい果実味、軽やかなテクスチャーのワインとなる。

MontesecondoはChianti Classicoきってのナチュラル派でもあり、会場でこっそりと飲ませてくれた「特別なキュヴェ(南東部の単一畑から)」は、残念ながらネズミ臭が出てしまっていたが、サンジョヴェーゼとテロワールが織りなす魅力を正直に表現したMontesecondoのワインは、最高に飲み心地が良い。

テロワール・ワイン

まずは、非常に難解かつ専門的な内容になったChianti Classico特集を、ここまで辛抱しながら読み進めてくださった皆様に、心よりの感謝を表したい。

慣れない地名、慣れない土壌、UGAs間や各UGA内の驚くべき多様性。

この特集シリーズに詰め込まれた数多くの情報に、激しく混乱した人も多いと思う。

しかし、このような詳細なテロワールに基づいた記事を書くことができた、というのは、私の幻想でもなんでもなく、実際にChianti Classicoが紛れもない「テロワールのワイン」であり、微細なテロワールを驚くほど精緻に表現したワインが、数多く存在しているからだ。

日本におけるChianti Classicoの消費量は、全生産量の僅か2%しかない。

アメリカが37%も消費していることを考えれば、日本はどうみてもChianti Classico後進国だ。

本当に、このままで良いのだろうかと、深く考えさせられる数字だ。

世界最高のワイン伝統国の一つイタリア。

そのイタリアを代表する赤ワインの一つであるChianti Classico。

雄弁にブルゴーニュやボルドーやシャンパーニュの細かなテロワールを語る人はたくさんいるのに、RaddaとGaioleの違いを追求する人はあまりにも少ない。

このままで良いのか。

少なくとも、このままではダメだと思う人々にとって、本シリーズが少しでも助けやきっかけになったことを、切に願う。