2023年5月28日9 分
5月に入っても気候の安定しない長野市。例年ならGW明けから急激に暖かくなり、完全な春の訪れを感じるのだが、日毎の寒暖差が激しく、最高気温が30℃近い日もあれば、15℃という日もある。雨も多く降っており、さらに先日、ゲリラ豪雨とともに「雹(ひょう)」が降った。
霰と雹の間くらいの小粒で短時間だった為に、農園被害は無かったが、「もし粒がもっと大きく長時間降っていたら。」と考えると非常に恐怖を感じた。
ブドウ達は萌芽後すくすくと生長し、長い新梢で40cmを超えている。
雨が多ければブドウも育つが雑草も育つ。さらに病害虫リスクも高まるため、必要な作業をしっかりとこなし、観察し、対処していかなければならない。
いよいよ栽培する品種が決定し、植え替えの定植を行った。
植樹から5年目、ようやく昨年に初収穫を迎えたブドウ樹を切り、新しい苗を植えるという行為をなかなか理解してくれない方も多いが、私は未来へ向けて進んでいきたい。
今年200本、来年250本、再来年は様子を見て追加の定植を行う予定でいる。
品種①ヤマ・ソービニヨン
ヤマブドウ×カベルネ・ソービニヨンを交配育成した山梨大学作出の黒ブドウ品種。
耐病性、耐寒性に強く栽培容易で、1本でも結実する両性花である。
品種②マスカット・ベリーA
ベリー×マスカット・ハンブルグを交配育成した故川上善兵衛氏の作出した生食/醸造兼用の黒ブドウ品種。果皮は紫黒色で樹勢強く耐病性あり栽培が容易で豊産性。
私の圃場で4年間、40品種を栽培検証した結果として選んだ2品種である。
特に①を主力品種として栽培していくつもりだ。
①は無農薬栽培に成功、②はボルドー液のみ数回の使用で栽培に成功し、実った果実の糖度/酸度/熟度ともに納得のいくものだった。
※詳しくは、SommeTimes長野特集をご覧下さい。
苗木の定植は大きな作業だ。私の畑には現在6500本のブドウ樹が育っているが、2019年の定植(挿し木)は大変な作業であった。しかし今回はたったの200本、過去の失敗経験を生かしてしっかりと準備を行った。
特に植え穴をしっかりと深くあけ、土の強弱に合わせて事前に堆肥と肥料を投入し、初期生長が順調にいくよう心がけた。
①苗木の手配および確保(前年予約)
②定植日の決定(4月下旬から随時)
③苗木の希望配送日を連絡(4月下旬)
④植え穴の事前準備(小型重機による掘削および施肥)
たった200本といえ、全て一人での作業であるため、一日30〜50本を目標に毎日淡々と作業を行った。
①仮植え場所から移動(掘り出し)
②植え付けの前日から、苗木根部を一昼夜浸水
③苗木の切り戻し(接ぎ木部から植えで良い芽のあるところ/ひ弱な枝はしっかり切詰める)
④二段根の処理(根の栄養分散による生育遅延を防ぐ)
⑤定植
⑥灌水(10L程の水量が良いとされている)
⑦盛り土(土の代わりにオガ粉堆肥を使用)
⑧ビニールマルチ(雑草対策および保温効果)
植え穴が小さ過ぎたり、土が硬過ぎたり、地力の弱い土地に施肥もせずに定植し、全然育たなかったり、苗木の切り戻しを怠った為に生育が不良だったり、雑草負けしてしまったり、灌水不足で思うように伸びなかったり。過去に散々失敗した点をなるべく改善した。
①植え穴を小型重機でしっかりと開け土をほぐした
②事前に肥料と堆肥を土中に投入した(地力の弱い区画のみ)
③苗木をしっかりと切り戻した
④根切りをしなかった
⑤マルチを張った
⑥灌水をしっかり行った(継続的に実施)
葡萄栽培の先輩達は必ず言う、「定植後の初期生長がとても大事だ。」と。
私の圃場では、その言葉が現実として存在している。5年目を迎えるブドウ樹たちだが、初期の生育が悪かった区画(地力の非常に弱い区画で数年間、僅かな肥料しか与えなかった)は未だに実を付けておらず、ひ弱で小さい。後でいくら肥料を与えても、急激に大きく生長することもない。初期の生長が順調だった区画は、同じ品種でも樹は大きく生長し沢山の実を付けている。
「ブドウは強い。肥料を与えない方が良い。不毛な地ほど高品質な実を付ける。」と言われる事もあるが、全てがそれに当てはまる訳ではなく、土質、土層、水はけ、その他の環境差異によって結果も異なると私は考えている。
ガットサイドとは
「知らないうちに樹の奥深くにもぐり、内部を喰い荒らす虫がいます。ガットサイドSは樹体に塗布または散布することにより、これら穿孔性害虫(樹木の樹幹、新梢、枝に穿孔する害虫)の食入や産卵を防止する防除効果の高い薬剤(住友化学)。」
ブドウ樹を食害する害虫として「コウモリガ」や「クビアカスカシバ」がいるが、これらが樹体に入り発見が遅れると、最悪の場合は枯死に至る場合もあるため、対策が必要である。
発見次第で捕殺すれば問題ない場合もあるが、出来る限り虫の捕殺は行いたくないため、未然に防ぐ対策として、初めてこちらの薬剤を使用することにした。
樹1本1本に塗布しなければいけないのは非常に手間がかかるが、苗木200本+50本ほどなので丁寧に塗った。効果があることを期待したい。
3月から行っている作業だが、終わらない。
優先順位が低くなってきてしまっているが、なるべくしてあげたい作業であるため、出来る限り行いたい。
ブドウ畑の草刈りは非常に労力と手間のかかる作業であるが、とても大事な作業である。
「草刈りはするべきか?しないべきか?」私が長年思い悩んでいる事でもあるが、現在の答えは「するべき」である。
「自然」なブドウ栽培をしたいと思えば思う程、「農業」という本質が、自然との間に大きな矛盾を生み出す。
自然から考えれば、雑草を刈る必要など何もない。植生の遷移(せんい)法則に従って、植物達は生え変わりながら土を肥やし、やがて大きな樹木が育つ豊かな森へと変化している。土にとって雑草はなくてはならない存在であることは間違いなく、彼らは意義があって存在し、仕事をし、命を全うしている。
ブドウ畑でも同じく、雑草達は土を耕し、微生物を呼び、不足しているものを補いながら腐植を造り豊かな土壌を形成しているが、そこが「農園=農業」である場合、それは一変する。
ブドウだけに与えたい養分を奪う悪者、虫や獣を呼び込む悪者、作業をしづらくする邪魔な悪者、本来は自然にとって貴重な存在であるはずが、人間の都合で悪者となる。
「農園に存在する全ての命と共存共栄できる方法はないのか..?」まだその答えは出ていない。
雑草を刈らなければ、虫達が多く飛来し、結局捕殺しなければならなくなる。
出来る限り「捕殺」はしたくない。今出来ることは、虫の飛来を出来る限り未然に防ぐために、こまめに草を刈る事。草刈りは適期に適量刈る事を心がけている。
私の圃場は、畝間2.5m、株間0.75mで設計されているため、畝間は乗用モア(乗用草刈り機)で、株間は草払い機もしくは鎌で刈っている。
草払い機での作業は効率が良いが、広い面積では非常に時間と労力のかかる作業であり、さらに高速で鋭い刃が回転している為、ブドウ樹の近くは危険で刈ることが出来ず、最後は手作業となる。広い面積を鎌で刈るという行為は想像以上に大変な作業である。
芽かきは「樹帯内栄養を調整する上で最も大切な作業であり、新梢管理の第一歩である」と言われている。
新梢の栄養状態の善し悪しがブドウ品質に強く影響するため、樹を十分に観察し、生育の状況により芽かきの時期や程度を考え、伸び方を調整して残した新梢の生長を揃える必要がある。
芽かきをする目的はいくつもあるが、以下が主な目的ではないだろうか。
① 貯蔵養分の無駄な分散消耗を防ぐ
萌芽は貯蔵養分を使用し行われるため、不要な副芽や着房しない新梢は早めに除去する。
② 新梢の勢力(長さ)を揃える
新梢の長さが揃うと開花期/成熟期が揃う。
③ 特定の新梢へ養分を集中させない。
全ての芽に均等に養分が分配される訳ではない為、特定の芽(新梢)への養分集中が起こり、その枝だけが大きく生長し、その他が大きく生長しない。
④ 新梢が混み合う状態を回避する。
全ての芽(新梢)を残すと、枝が多過ぎて混み合い、光合成の阻害による品質低下や、湿度上昇による病害虫発生リスク増加のリスクが起きる。
⑤ 収穫量(負荷)を決定する。
ブドウ樹にとって適正な枝数(房数)を残す。
展葉3枚を過ぎ、花穂の着生や新梢の伸び方が分かってくる頃から順次開始し、新梢の誘引に合わせて最終本数に仕上げるのが基本である。
① 副芽の芽かき
一つの芽から2つ、時には3つ発芽している場合があるが、主芽だけを残す。
② 不定芽の芽かき
結果母枝以外の場所から発生する芽、特に地面に近い下部にある芽は不必要であるために除去する。
③ 先端の強い新梢の芽かき
頂部優先性により先端の芽が強く伸びてしまう性質がある為、先端の芽をかいて中間部および全体の新梢伸長を促す。
④ 予備枝以外の芽かき
ギュイヨ仕立ての場合は、次年度の結果母枝用候補となる生育良好な新梢を数本残し、それ以外の芽はかく。
⑤ 間隔を空ける芽かき
混み合わないように新梢同士の間隔を15c程度空けるよう、必要のない新梢を芽かきする。
「芽かきは剪定でもある。樹勢の強いものは弱く、弱いものは強く行うべし」という原則に基づき、ブドウ樹それぞれの樹勢に応じた新梢数に調整しなければならない。
① 強い芽かき
樹勢が弱く新梢の生長が悪い場合は、芽かきを強くしないと希望する勢力の新梢が確保できない。
② 弱い芽かき
樹勢が強く新梢の生長が強い場合は、芽かきを弱くし徒長を防がなければならない。
ブドウ樹1本1本に合った適正な芽かきを行う事は簡単ではないが、樹勢や生育とも深く結びついているため、気の抜けない作業である。
今シーズンから新しい仕立てを本格的に実施する。
昨年に簡易的なもので試験したが結果が良好だった為、今年は資材を使用し設備を設置した。
詳細は次回。
6月に入れば作業量は一段と増す。
勢い良く伸びる新梢の誘引、芽かき、摘心、副梢管理、草刈り、防除。
5月の段階で既に、ブドウの生育スピードに私の作業スピードが追いついていない状態であるが、6月からはギアをトップに入れて作業していかなければならない。
<筆者プロフィール>
ソン ユガン / Yookwang Song
Farmer
1980年宮城県仙台市生まれ。
実家が飲食店を経営していたこともあり幼少時よりホールサービスを開始。
2004年勤務先レストランにてワインに目覚めソムリエ資格取得後、2009年よりイタリアワイン産地を3ヶ月間巡ったのち渡豪、南オーストラリア「Smallfry Wines(Barossa Valley)」にて約1年間ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ。
また、ワイン産地を旅しながら3つのレストランにてソムリエとして勤務。
さらにニュージーランドのワイン産地を3ヶ月間巡り、2012年帰国。星付きレストランを含む、都内5つのレストランにてソムリエ、ヘッドソムリエとして勤務。
2018年10月家族で長野へ移住。ワイン用ブドウを軸に有機野菜の栽培をしながら、より自然でサスティナブルなライフスタイルを探求している。
2021年ブドウ初収穫/ワイン醸造開始。
現在も定期的に都内にてワインイベントやセミナーなどを開催。
日本 ソムリエ協会認定 シニアソムリエ
英国 WSET認定 ADVANCED CERTIFICATE
豪国 A+AUSTRALIAN WINE 認定 TRADE SPECIALIST