2022年2月20日5 分

SommeTimes’ Académie <23>(ワイン概論19:白ワイン醸造2)

最終更新: 2022年4月8日

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回から、一般的な白ワインの醸造フローを学んでいきます。赤ワイン醸造と重複する部分もありますので、適宜参考にしながら読み進めてください。

本稿の内容は、<ワイン概論14:赤ワイン醸造2><ワイン概論15:赤ワイン醸造3> ともリンクしています。

同じ工程であっても、赤ワインと白ワインとではタイミングや目的が異なる場合も多々ありますので、注意してください。

なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください


 

 

⑥ 主発酵(Alcoholic Fermentation)

圧搾と静置(Settling, Debourbage)を経て得た果汁を様々な発酵槽に入れ、野生酵母を利用した発酵の場合は自然に発酵が始まるのを待ち、培養酵母を使用する場合はこのタイミングで添加します。ワインの発酵を担う主体となる酵母はSaccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セルヴィシエ)。この段階で、マストに含まれる糖分が、酵母の働きによってアルコールと二酸化炭素に分解されます。また、白ワインは赤ワインに比べると野生酵母のみでのクリーンかつ完全な発酵が難しく、酵母添加されるケースもより多いと言えます。

SommeTimes’ View

圧搾せずにマスト(果皮、種子等が混合した状態)のままで発酵に突入した場合、製法としてはオレンジワインに分類されるようになりますが、明確な基準は無いため、2~3日以内の浸漬発酵であれば、白ワインとして分類してしまうケースもあります

赤ワインと同様に、発酵槽による影響も強く出ます。ステンレス・タンクは最もクリーンかつシャープに、セメント・タンクやコンクリート・エッグは基本的にはニュートラルですが少しふくよかに、樽での発酵は樽のサイズが小さく、新しくなるにつれ、樽からの影響を強く受けます。白ワインの小樽発酵はかつて隆盛を誇りましたが、テロワールの個性を覆い尽くしかねないため、近年は敬遠されるようになりました。白ワインでは、赤ワイン以上に「樽の味しかしない」ワインになりやすく、逆に言えば狙って作りやすいとも言えます。

アンフォラ等の土器による発酵は、(ポリフェノール含有量に劣る)白ワインの場合、より酸化に対して神経を尖らせる必要があります。

白ワインの場合、より高い酸度とクリーンでフレッシュな味わいを求めた結果として、やや早摘みになることもあります。その場合、糖度が低いままであることも多く、地域によっては補糖が慣例化しています。(日本の甲州も、少々事情は異なりますが、補糖するのが一般的です。)
 

 

⑦ マロラクティック発酵(Malo-lactic Fermentation)

主発酵を終えた白ワインは、乳酸菌の働きによって、鋭角なリンゴ酸をまろやかな乳酸と微量の二酸化炭素へと分解するマロラクティック発酵以降、MLF)へと進みます。MLFは、乳酸によるまろやかさだけではなく、ダイアセチル(乳製品等によくある香り成分の一種)等の影響によって、複雑で豊潤なアロマをもたらす一方で、微生物学的な安定性ももたらします。マロラクティック発酵を行うことが大前提となる赤ワインと違い、白ワインの場合はあくまでも醸造上の選択肢の一つ、になります

SommeTimes’ View

日本語で「乳酸発酵」と訳されるケースがありますが、乳酸発酵は糖質を分解して乳酸を作る工程ですので、MLFとは全く異なります。

白ワインの品種やスタイルによっては、MLFのコントロールは重要な工程となります。もう一度MLFをコントロールする方法の中でも代表的なものを記載しつつ、白ワインのケーススタディとしていきます。

・温度調整

ワインの温度15.5を下回るとMLFが急激に鈍りはじめるという特性を利用して、MLFが起こらない温度(10~14の間なら基本的に安全圏)まで下げてしまうという方法があります。温度が理由で、MLFが自然に発生しないケースは多くあります。代表的な例は、ドイツのリースリング。主発酵を終えたタイミングからしばらくの間、ドイツのほとんどの地域で気温が15.5℃を上回ることはありません。


 

・補酸

pH値3.2よりも低いとMLFが阻害されます。早めのタイミングで収穫することも多い白葡萄の場合、自然とpH値が低くなる傾向があるため、品種や、産地、ヴィンテージの特性、目指すスタイルによっては、MLFのために補酸を行うことがあります。補酸ではなく、収穫時期によって、ある程度コントロールするケースもあります。ブルゴーニュを例にすると、MLFを必須としないシャブリであれば、早く摘んでpH値を低く保っても問題ありませんが、コート・ドールやマコネといったMLFが一般的な選択肢として入ってくる地域では、より遅く積んで、pH値を上げることも多いです。


 

・亜硫酸添加

遊離型亜硫酸がある程度存在する場合、MLFを阻害することができます。しかし、亜硫酸添加によってMLFを防ぐ場合は、温度やpH値などを考慮して、慎重に添加量を決める必要があります。特に温暖な地域では、気温もpH値も高くなる傾向があるため、MLFをコントロールする手段として、頻繁に用いられます。MLFを行わないことがクラシックな手法となっているカリフォルニアのナパ・ヴァレーなどは、まさにこのコントロール方法が採用される典型例となります。


 

これらのコントロール方法を複合させて考えると、冷涼地と温暖地では、MLF対策が根本的に異なっていることが理解できると思います。

また、MLFの完全なコントロールは極めて難しく、テクニカル・データで頻繁に見かける「MLF50%」といった表記は、正確とは言い切れません。

次回以降は熟成から瓶詰めまでの段階に関して学んでいきます。