2022年1月25日6 分

SommeTimes’ Académie <22>(ワイン概論18:白ワイン醸造1)

最終更新: 2022年4月8日

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回から、一般的な白ワインの醸造フローを学んでいきます。赤ワイン醸造と重複する部分もありますので、適宜参考にしながら読み進めてください。

本稿の内容は、<ワイン概論13:赤ワイン醸造1><ワイン概論15:赤ワイン醸造3> ともリンクしています。

同じ工程であっても、赤ワインと白ワインとではタイミングや目的が異なる場合も多々ありますので、注意してください。

なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください


 

 

① 選果(Sorting)

健全な葡萄を選り分ける工程手摘みの場合は、畑でも実質的な選果が行われることが多いです。ワイナリーに葡萄が運ばれると、選果台と呼ばれる台に乗せられ、ベルトコンベアー式の選果台では目視しながら手作業で、光学式(非常に高価)等の場合は、選果台そのものが選果を行います

SommeTimes’ View

白ワイン用の葡萄を選果する場合、赤ワイン以上に腐敗果、過熟果、貴腐果に神経を尖らせる必要があるとする生産者と、赤ワインよりも気を使わなくても良いとする生産者に大きく流派が分かれます。前者は徹底的にクリーンで現代的なワインを目指す造り手に多く、後者は伝統的な手法を踏襲する造り手に多い傾向があります。

考え方が分かれる主な理由は、後述する圧搾のタイミングが、白ワインの場合は除梗と破砕の直後に来ることが多いため、腐敗果等が混入しても、大きなダメージにはならないと考えられているからです。また、伝統派の中には、多少の貴腐果が混ざっていた方が、複雑性が増すと考えている造り手も少なからずいます

一方で、徹底してクリーンなスタイルを目指す場合や、後述する浸漬を行う場合、僅かな腐敗果や貴腐果の混入が大きな影響を及ぼす可能性があります。特に亜硫酸の添加量をなるべく抑えたい場合は、白ワインにおいても選果は非常に重要度の高い工程となります。


 

② 除梗(Destemming)、破砕(Crush)

除梗:果梗を取り除いて、葡萄の果実だけにする工程。除梗を行わない状態を全房と呼びます。なお、果実を房から叩き落とすような方法で収穫する機械収穫の場合、全房にはなり得ません。また、除梗した葡萄は選果しやすくなるため、選果よりも先に除梗するケースもあります。除梗は手や網で行う場合も、機械で行う場合もあります。

破砕:葡萄の果皮を破いて、果汁、果皮、果肉、種子が混合したマスト(日本語では醪:かもろみ)を得る工程。破砕は除梗破砕機を使用して、除梗と一括して行われることが多いです。また、足踏みによる伝統的(古典的)な破砕も小規模ワイナリーでは現役を貫いています。稀にですが、手で優しく握り潰すように破砕するワイナリーもあります。なお、天然酵母で発酵させない場合は、このタイミングで亜硫酸(二酸化硫黄、酸化防止剤)が添加されることが多いです。白ワインの場合は、この工程の直後に圧搾か低温浸漬へと移行します。

SommeTimes’ View

除梗や全房は、赤ワインにだけ関係していると考える方も多いとは思いますが、実際には白ワインでも徐梗するか全房のままにするかの判断を、破砕前に行うのがスタンダードとなりつつあります。この判断は、後に続く浸漬と圧搾に大きく関連してきます。

破砕後の亜硫酸添加は、白ワインの場合、赤ワインよりも多いケースで添加されます。主な理由は二つあり、一つは白ワインではマロラクティック発酵が必須とはならないために、亜硫酸添加による乳酸菌の活動阻害を気にする必要がない場合もあること、もう一つは、黒葡萄に比べてポリフェノール類の含有量が遥かに少ない白葡萄は、その分だけ酸化に対して脆弱な側面があるからです。

手での破砕はレアケース

③ 低温浸漬(Cold Maceration)

圧搾に移る前の破砕後のマストを、発酵がスタートしない低温に保ったまま短期間(白ワインの場合、通常数時間〜24時間程度)漬け込む工程。この工程は、行う場合と、行わない場合があります。主にアロマをより強く抽出したり、ニュートラルな特性の品種に豊かな香りをもたせる目的で行います。また、浸漬温度を4~8度にまで下げ、より長い期間ゆっくりと抽出するケースもあります。

低温浸漬させる葡萄は除梗されている場合もあれば、全房の場合もあります。

SommeTimes’ View

白ワインの低温浸漬工程でも、亜硫酸は重要な役割を担っています。前述した酸化の問題に対するリスクヘッジに加え、「亜硫酸が細胞壁を壊す」という性質を利用して、アロマの抽出を促す意図もあります。
 

 

④ 圧搾(Pressing)

マスト(果汁、果皮、果肉、種子等の混合物)から、果皮、種、茎を分離させるために、圧搾します。赤ワインの場合は主発酵後に行いますが、白ワインの場合は破砕か低温浸漬の直後に行います圧搾機詳細はこちらから)、もしくはタンクの底部側面に設置された蛇口から、圧搾前に自重によって自然に流出する液体をフリーランワインと呼び、軽い圧力をかけたあとで流出する液体をプレスワインと呼びます。フリーランワインは、ピュアで繊細に味わいに、プレスワインは複雑で厚みがありますが、少々のエグミや雑味も含みます。一般的に両者はブレンドされますが、そのブレンド比率は造り手によって大きく異なります。強い圧力をかけて最後に絞り出したワインは、少量がブレンド用に使われるか、ブランデー等の原料に回されます。

SommeTimes’ View

白ワインの醸造では、除梗した葡萄を破砕して圧搾することが通例でしたが、低温浸漬を全房で行うケースが増えたことにも関連し、全房で圧搾する方法も一般化しつつあります。全房圧搾(Whole Bunch Press)のメリットとしては、梗がマスト内に隙間を作ることによって、より均一かつ搾汁率の高い圧搾が行えること、梗が緩衝材のような役割を果たすため、マストにかかる圧力が弱まり、よりクリーンでフレッシュな果汁を得ることができる、という点が挙げられます。

圧搾前の果汁は強く濁っている

⑤ 静置(Settling, Débourbage)

圧搾後の果汁を短期間(通常半日〜1日程度)低温で静置して不純物を沈殿させた後に、上澄み部分を分離させることによって、クリーンな果汁を得る工程。白ワインの多くはこの工程を経てから主発酵に移ります。また、一般的にはこのタイミングでも亜硫酸が添加されます。造り手によっては、清澄材(ベントナイトなど)や遠心分離機を使用することもあります。

次回以降は発酵の様々な段階に関して学んでいきます。