1月11日4 分
Part.1で解説した通り、日本酒ペアリングにおいては、ペアリング構築の優先順位がワインとは大きく異なります。
「甘味」に次いで優先順位が高い要素となるのは、「風味」。
ワインペアリングにおいては、上から5番目の要素が、日本酒ペアリングでは2番目となるため、注意が必要です。
ただし、「風味」に対する考え方は、ワインと日本酒では少々異なります。
ワインの場合、「レモンのような酸味」といったように、具体性を伴った味わいとして捉えた方が有効ですが、日本酒の場合は、具体性よりも「総合的な強さ」が重要となります。
では、ペアリングにおける「風味の基礎理論」が、日本酒にどのように適用されるかを見ていきましょう。
なお、ワインペアリングの場合は、アディションという「風味の追加」に該当する手法も時折有用となりますが、日本酒では適用されませんので、その点も注意が必要です。
料理の風味と飲料の風味が近ければ、調和の関係が成立します。
ワインの場合は、双方の柑橘風味、赤ベリー風味を合わせる、といったシンプルな運用をすることができます。(具体性を看破するためのテイスティング能力は必要ですが。)
しかし、日本酒の場合は先述した通り、「風味の総合的な強さ」が鍵となります。
味わいを構成する要素がワインよりも少ない日本酒の場合、どうしても繊細な構造となってしまうため、料理と日本酒の間で、風味のパワーバランスをしっかりと調整しておかないと、どちらかが他方に対して強くマウンティングをしてしまうことになります。
特に日本酒側の風味の強さは、一口の量を調整したとしても、調整効果が限定的となりますので、可能な限り正確なペアリングを心がけたい部分です。
逆に考えると、ワインのように、風味の中から「具体性」を見出すためのテイスティング能力は不要となりますので、より簡単にこの手法を用いることができる、とも言えるでしょう。
料理側の風味の強さは、食材の特性と調理(調味料)によって決まります。淡い味わいの食材を、控えめな調味料で仕立てた場合、風味の総合的強さもまた、低くなります。
一方で、肉や山菜など味わいの強い食材を、醤油、味醂、味噌、バター、赤ワインソース、ベリーソースなどで仕立てると、総合的な風味の強さが大きく上がります。
前者のような料理体系の場合、典型的な淡麗辛口タイプで吟醸香が強くないタイプが相応しく、後者のような料理体系の場合、無濾過生原酒、濁り酒、熟成酒といったタイプが有効となります。
具体例を挙げると、「生ウニ」のように、非常に風味が強い食材の場合、調理自体がシンプルであっても総合的な風味の強さが高いため、無濾過生原酒等で合わせることになります。
両者の中間には、広範囲のグラデーションが存在していますが、基本的には、料理の風味が強くなるほど、吟醸香を強めていくのが正攻法となり、補助的に「アルコール濃度」の項目も用いますが、そちらに関してはまた次回以降に解説していきます。
また、日本酒の中にも、ワイン的な風味の手法を用いることが十分に可能な要素があります。
それは、乳酸風味と熟成風味です。
乳酸風味は、主に生モト、山廃系で(ペアリングの要素としてカウントできるレベルまで)上昇します。基本的には、発酵食材やバターなどの調味料との組み合わせで考慮することが多い要素となります。
熟成風味は、ナッツ、キャラメル風味といった、「メイラード反応」による風味の変化が該当します。つまり、氷温近辺で長期熟成を行なったタイプの熟成酒では、この手法が使えません。
わざと焦がすような調理法を行なった場合、非常に有効な手法となりますので、例えば鮎の塩焼きといったタイプの料理に、程よく熟成したタイプの日本酒を合わせてみると良いでしょう。また、そのような料理に良くある「ワタの苦味」に対しても、メイラード系の苦味が調和します。
乳酸風味と熟成風味をピンポイントで用いる場合にも、それぞれの「強さ」は重要となりますので、バランス調整はしっかりと行うようにしてください。