2023年7月29日4 分
Weingut Keller, Riesling G.G. “Oberer Hubacker Monopol” 2021.
講演でも、SommeTimesでも、プライヴェートでも、私は底なしの「リースリング愛」を包み隠さず話してきた。
もちろん、シャルドネも、ソーヴィニヨン・ブランも好きだし、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーも好きだ。
ヨーロッパ各地の土着品種にも、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼ、テンプラニーリョといった代表的なものに限らず、好きな葡萄品種はたくさんある。
葡萄品種という括りからは外れるが、シャンパーニュだって大好きだ。
それでも、私に至上の感動を与えてくれる、魂を奥底から揺り動かしてくれる唯一無二の葡萄が、リースリングであることには変わりない。
広範囲に手を広げている私のワイン探求の中でも、リースリングの研究こそが本当の意味でのライフワークであり、尽きない情熱の源でもある。
さて、リースリングといえばドイツ。
と最初からドイツの話をしてしまうと、ここで終わってしまうので、少し寄り道をしよう。
オーストリアには極上の銘醸地(特にヴァッハウとカンプタール)があるし、フランスのアルザスも素晴らしい。
ニューワールドも粒揃いだ。
オーストラリアには世界でも稀有な個性をもったリースリングを生み出す、クレア・ヴァレーとイーデン・ヴァレーがあるし、ニュージーランドも急成長中。
チリのコストパフォーマンスには驚かされるし、アメリカ合衆国にはカリフォルニア、ワシントン、ニューヨークのフィンガー・レイクスと、高品質リースリングの産地が3つもある。
カナダのオンタリオ州も、いずれは世界的なリースリングの銘醸地として認められるだろう。
世界には素晴らしいリースリングが溢れているし、相変わらず世界各地のリースリングを楽しんではいるのだが、私は結局いつも、ドイツに戻ってきてしまう。
ドイツこそが紛れもない、世界最上のリースリング王国。
これは、私の中に住み着いた、ただ一つの「固定概念」でもあるのだ。
いつもの私なら、ブルゴーニュのピノ・ノワールが最上であることすら疑ってかかるが、ドイツのリースリングに限っては、1mmの疑いすらもっていない。
そんなリースリング王国ドイツの中でも、特に優れた産地として広く知られているのは、モーゼルとラインガウだが、ミッテルラインにも、ナーエにも、ファルツにも、極上のリースリングはある。
だが実は、私が考えるジャーマン・リースリングの至高、いや世界的リースリングの頂点は、これらの産地とは別の場所にいる。
ヴァイングート・ケラー。
どちらかというと、ミュラー=トゥルガウの産地として知られている、ラインヘッセンの造り手だ。
長らく日本への正規輸入が途絶えていたケラーだが、以前レポートしたように、日本市場に復活してくれた。
今回「再会」したケラーのワインは、私が自身の40歳という節目を噛み締めるために選んだ一本となる。
実は、このワインをレビューすることには、大きなためらいがあった。
リースリングの王者ケラーの特級畑ワイン。
一応、「G Max」という、別の惑星から来たような桁違いのトップキュヴェ(価格も桁違いだが)も造っているケラーだが、特級畑でも十分に凄い、というか凄すぎる。
この圧倒的な味わいを前にしては、どのような言葉も、無意味になってしまう。
だから、あまり書く気になれなかったのだ。
いや、今この瞬間も、テイスティング・ノートなどというものを書く気は全く無い。
至高の芸術に、言葉はいらない。
必要なのは、体験だけだ。
ケラーの価格は、近年目も当てられない勢いで高騰している。
現在、特級畑の国内販売価格は3万円前後。
高価なワインであるのは間違いない。
それでも、私は皆様にお伝えしたい。
適当な2000円のワインを15本買うよりも、この一本を探し出してじっくりと向き合うことの方が、価値がある。
普段は、決してそのような発言はしないのだが、ケラーだけは例外とさせていただきたい。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。