2023年6月4日4 分

出会い <38> 第四のサンジョヴェーゼ

Le Rogaie, Morellino di Scansano “Forteto” 2022.

Chianti Classico、Brunello di Montalcino、Vino Nobile di Montepulciano。

気高き三大サンジョヴェーゼに続く産地は、いったいどこなのだろうか。

再会 <38>で紹介したValdarno di Sopra D.O.Cは(品質、総合力、平均点の高さ、秀逸な造り手の数から見れば)一押しではあるものの、他にも優れた選択肢は存在するのだろうか。

例えばCarmignano D.O.C.Gは、歴史的にも「第四のサンジョヴェーゼ」の地位に在り続けてきたと言えるが、個人的には少々同意しかねる部分がある。

Carmignanoは、数あるトスカーナ州のサンジョヴェーゼ主体産地の中でも、異質な存在だからだ。

カベルネ・ソーヴィニヨン(もしくはカベルネ・フラン)をブレンドするのが伝統であるCarmignanoに、このボルドー品種が到来したのは、メディチ家のカトリーヌ・ド・メディシスがフランス王妃として在位中だった16世紀中頃と考えられている。

つまり、Carmignanoにおいて、ボルドー品種はとっくに「地品種」と言えるということでもあり、実際にCarmignanoはブレンドの方が高品質だ。

サンジョヴェーゼが単一で真価を発揮できる場所こそ、サンジョヴェーゼにとっての「グランクリュ」である、と考える私にとって、ブレンドが前提のCarmignanoは(ワインは素晴らしいが)、「第四のサンジョヴェーゼ」候補からは外れる

となると、残る有力候補はやはり先述したValdarno di Sopraと、Morellino di Scansano D.O.C.G、そしてMontecucco D.O.Cとなるだろう。

少し角度を変えて見てみよう。

原産地呼称のステータスだ。

3つの候補地の中で、唯一最高位のD.O.C.Gを獲得しているのが、Morellino di Scansanoである。

イタリアワインファンなら、現代において(過去は違ったが)、この階層の違いは無意味に限りなく等しくなっていることを良く知っているかとは思うが、世間一般というレベルでは、まだまだ「最高位」であることの意味はとてつもなく大きい。

つまり、マーケティング・ポテンシャルという側面から見ると、Morellino di Scansanoは、頭一つも二つも抜け出している、となるだろう。

ワインの勉強(資格試験など)においても、D.O.C.Gの優先度は、D.O.Cの比にならないため、イタリア最重要ワイン産地の一つ、トスカーナ州のD.O.C.GであるMorellino di Scansanoを「覚えた」人は多いはずだ。

では、Morellino di Scansanoの魅力、そして問題点とは何なのだろうか。

魅力はもちろん、そのテロワールにこそある。

アミアタ山の(大昔の)火山活動によって、火山灰が主体となった土壌

三大銘醸地よりもかなり温暖なテロワール。

隣り合うMontecucco D.O.Cも似た部分が多いが、このテロワールならではの、豊満で明るく、ジューシーでしなやかな個性は、実に素晴らしい。

問題点は、基本的に他エリアと同様の「国際品種のブレンド」だ。

Anteprimaでは数多くのMorellino di Scansanoをテイスティングしたが、特段優れたワインは一切の例外なく、サンジョヴェーゼ100%だった。

高品質を実現するためにすべきこと、その答えは明白だと思うのだが、あくまでも世間的には新興産地であるMorellino di Scansanoにとって、「分かりやすさ」の元となる国際品種は、味の素的依存度でこの産地に巣食っている。

せめてもの救いは、Morellino di Scansanoにおける国際品種のブレンドには、「主役喰い」のボルドー主要品種ではなく、より控えめなシラーやアリカンテ・ブーシェが用いられることが多い点だが、それでもやはり単一の方が優れている。

少し厳しいのかも知れないが、Morellino di Scansanoはサンジョヴェーゼ単一ならD.O.C.G相当、国際品種とのブレンドならD.O.C相当、となると私は考えている。

そして、もちろん今回の「出会い」ワインとして紹介するのは、D.O.C.Gの名に相応しいワインだ。

造り手の名は、Le Rogaie

環境破壊への強い問題意識をもつ若い二人組が立ち上げた、まだ醸造施設をもたないワイナリー(正確にはワインレーベル)だ。

Morellino di Scansanoは、サンジョヴェーゼ100%。オーセンティシティ保護の意識から、ステンレスタンクも樽も使わず、古いコンクリートタンクでのみ醸造を行う。

温暖な気候を感じさせる、高い凝縮感とアルコール濃度、そして火山性土壌らしいリフトしたアロマと重心の高い軽やかな果実味が、反重力的な動きを見せる。

縦方向に良く伸びる味わいは素晴らしく、ニュートラルなコンクリートタンクで保持された純粋性が、細部にまで行き渡っている。

2020~2022年の3ヴィンテージをテイスティングしたが、精度は年々向上している。

話を聞くと、醸造はこの地を代表する銘醸の一つ、Antonio Camillo(サンジョヴェーゼ単一に拘る古典派)のタンクを借りて行っているそうだ。

日本への輸入はまだ。

高い将来性が見込めるワイナリーだけに、日本市場への登場が非常に楽しみだ。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。