2021年12月12日4 分

再会 <4> 日本を代表する白ワインの価値

Fermier, El Mar Albariño 2018. ¥10,000

実は、このワインには複雑な思いを抱いてきました。つい最近までは。

そして、私の考えが変わった「再会」は、リリースされたてのワインから、その真価を測りきることがどれだけ困難なことかというのを、改めて思い知らされる貴重な学びの機会でもありました。

さて、今回の主役はアルバリーニョ。そして、日本の、新潟のアルバリーニョです。

SommeTimesでも特集記事を組んだことがあり、コラムでも様々な執筆者から度々取り上げていますので、注目が強く集まっている産地であるのは、間違いありません。

早速ですが、本題に突入しましょう。

過去の私も含め、このワインの論点は、「価格」に行きがちだと思います。

新潟のアルバリーニョで一万円という価格は、確かにあまり多くの人が免疫をもっている領域では無いと思います。

しかし、熟成によってしっかりと味わいが開いたEl Mar Albariñoを飲んだ時の私の率直な感想は、「一万円の価値は十分にある」でした。

なぜそう思ったのか。もちろん、ちゃんとした理由があります。

テロワールという概念を聞いたことがある人は、SommeTimesの読者には多くいらっしゃると思いますが、簡単に説明しておきます。

大筋では、「その場所(畑)だからこそでる味わい」のことを指しますが、その理解は大きく2つに分かれます。

一つは、シンプルにその場所の特性(畑の土壌、気候、日当たり、水捌け、風通し等々)だけを切り取った理解です。

もう一つは、場所の特性に加えて、「品種と栽培方法のチョイス」という「人が介在する」範囲までをテロワールとする、という理解です。

私自身は基本的に後者の理解を主軸に置いているタイプです。

なぜなら、ブルゴーニュやボルドーは偉大なテロワールですが、ブルゴーニュにカベルネ・ソーヴィニヨンを植えても、ボルドーにピノ・ノワールを植えても、偉大なワインにはなり得ないと考えているからです。

FermierのEl Mar Albariñoに宿った価値の一つは、ここにあります。

新潟の海岸線沿いに広がる超砂質土壌の地に、アルバリーニョを垣根仕立てで植えている」ということです。このチョイスこそが、世界的にも際立って個性的なテロワールを形成しているのです。

アルバリーニョの本拠地ともいえるスペインのリアス・バイシャスでは、棚仕立てが基本です。基本的には棚仕立ては高収量になるため、葡萄の凝縮度に劣ります。垣根仕立ては逆で、低収量になり、葡萄の凝縮度が上がります。もちろん、例外はたくさんあるので、安易に一般化するのは危険ですが、リアス・バイシャスのアルバリーニョとEl Marに使用された葡萄は、育て方の時点から相当異なっているということです。

El Mar Albariñoはもう一つ、高級な白ワインとしてはやや珍しい作り方をしています。そう、発酵も熟成もステンレス・タンクで行っており、樽を使っていません

一般的には、コストのかかる樽の使用は、ワインの値段に跳ね返ってくることが多いので、高級な白ワインには、何かしらの形で樽が使われるケースがほとんど。

しかし、個人的な意見としては、アルバリーニョには樽の風味(特に新樽のヴァニラ味)は似合いませんので、ステンレス・タンクは大正解だと思います。

つまり、El Marを正しく評価するには、「高級白ワイン=樽の風味」という固定概念から抜け出す必要があります。

では、El Marの味わいの話をしていきましょう。

開放的な青リンゴ、レモン、ハーブ、潮の香り。

非常に密度が高い果実味が、中心から外周まで隙なく広がっていて、中核から螺旋を描くように流れるミネラル、はつらつとした酸、充実したフェノールが、それぞれ明確な役割を果たし、全体像に一切ブレがありません。味わいの構成は、立体的に観察できるほどで、深いレイヤーが極めてクリアに表現されています。やはり、ステンレス・タンクは大正解。

全体的な濃密さと力強さは、長い余韻にまで続くが、重い印象は一切感じさせません。

濃密さやミネラル、フェノールの充実ぶりは、この畑とアルバリーニョという葡萄、垣根仕立てという選択が、全てポジティブに連動していると確信させられるほどに、完成度が高いです。さらに、ステンレス・タンクでニュートラルに仕上げているから、テロワールが完成させた個性が、半端な色付けをされることなく、精緻に表現されています。

筆者がこれまで飲んできた日本ワインの中でも、人も含めたテロワールと、醸造方法の選択が、これほどまでに互いを高め合っている例は、ほとんどありません

言い方を変えましょう。

日本を代表する白ワイン、ということです。

テロワールの特異性を最大限表現する醸造、そして最終的な完成度の高さ。

一万円という値段に、完全に納得しました。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。