2023年2月26日3 分

出会い <31> 若者たちのシンプリシティ

Etyssa, Trentodoc Spumante Extra Brut Cuvee No.6, 2017.

それはトスカーナ州、モンタルチーノでの一夜。

先日の新シリーズでご紹介させていただいた、Banfiに務めるYoshiさんのご自宅にお招きいただき、胃に優しく染み渡るような奥様の手料理と共に、ワイン談義に花を咲かせていたのだが、私が現地調達したいくつかのワインを持ち込みつつ、Yoshiさんも様々なワインを提案してくださった。

流石に現地在住とあって、知らないワインが多く提示され、実に悩ましかったのだが、何かピンとくるものがあったのが今回紹介する「出会い」のワイン。

Trentodocと聞いてピンとくるのは、よほどのイタリアンワイン通か、その筋の専門家くらいのものだろうか。一応、Ferrariという大メーカーが手がける看板スパークリングワインのラベル下部にも小さく記載されているが、そこに目を向けたことのある人の方が遥かに少数派だろう。

Trentodocは、北イタリアのトレンティーノ=アルト・アディジェ州にあるDOCの一つで、1993年にスティルワインのみを認定するTrentino DOCと分離した後、Trento DOCが2007年に商標登録されてTrentodocとなった、というなかなかややこしい経緯をもつ。

総栽培面積は1,000ha弱と小さくも大きくもないサイズ。認められているのは、トラディショナル方式(シャンパーニュ方式)のスパークリングワインのみで、使用可能品種は、シャルドネ、ピノ・ビアンコ、ピノ・ネロ、ムニエとなっている。

同じイタリアのトラディショナル方式スパークリングとしては、ロンバルディア州のFranciacorta(フランチャコルタ)がより知られているとも言えるが、テロワールなどの当たり前のことを除けば、Trentodocとの明確な違いの一つは葡萄品種構成にある。Trentodocで使用できるムニエがフランチャコルタでは使用できない代わりに、エルバマットという土着の白葡萄を最大10%までブレンド(Satenという特殊なカテゴリーを除く)することができる。

少々穿った見方にはなるが、少量とはいえ土着品種を使用できる(最近できるようになった)フランチャコルタの方が、より「イタリアらしさ」を表現する方向へと一歩先に進んでいるとも言えなくはないため、私はTrentodocに対してそこまで強い興味を示してきたわけでは決してない。

だからこそ、ピンときたのだろう。

「四人の若者が集まって、トレンティーノで造っている素晴らしいスパークリング。」

Yoshiさんの一言に吸い寄せられるように、「ではそれで!」と即答してしまった。

写真:Etyssa HPより

今回の主役であるEtyssaは、ジョヴァンニ、マルコム、ステファノ、フェデリコという四人の若者が2009年に立ち上げたワイナリーだが、頑なにTrentodoc Spumanteのみ、しかも単一ヴィンテージ(36ヶ月の熟成が義務付けられる)のみを一種類だけ生産するというフィロソフィーから、初リリースは2016年(2012年ヴィンテージをリリース)にまでずれ込んだ。

初ヴィンテージにはNo.1というキュヴェ名が付けられ、そこから数えて今回のNo.6は6ヴィンテージ目の2017年となる。

冷涼な北イタリアの、さらに冷涼な標高500m地点。石灰質を多く含む土壌。その個性を精密に描き出すシャルドネという葡萄が、繊細で緻密で優美なスパークリングワインの元となる。

現代の若者らしい軽快なタッチと、作り込みすぎないナチュラル感、そして絶妙なバランス感覚は素晴らしいの一言。

おそらく日本国内輸入はされておらず、現地価格もネット上では26~28ユーロと、Trentodocとしては決して安価ではないが、品質は抜群だし、ただ一つのワインを、じっくり時間をかけて丁寧に造る若者たち、というストーリーも実に魅力的。

もし興味のあるインポーターがいれば、彼らにぜひコンタクトをとっていただきたいものだ。

***

「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。