3月3日3 分
Chiacchiera, Piccola Viola 2021.
Wine Memo <19>で述べたように、国際品種がブレンドされた一連のChiantiやVino Nobileに対して、私が異を唱え続けることは今後も変わらないだろう。
サンジョヴェーゼとその他の補助的地品種だけで構成されたワインの、調和に満ちた優美な味わいを思えば、国際品種による補強が「伝統の進化」とはどうにも思えない。
ワインにとって「美味しい」ことは正義だと思うが、それが伝統かと問われれば話が違うのだ。
一方で、国際品種のみで造られたワインに素晴らしい「品質」のものが数多くあるのもまた事実なので、その探究は私にとって隠れた趣味的なものとなっている。
トスカーナ州の中で、特に素晴らしいと私が感じることが多い国際品種は、メルローとカベルネ・フラン。(カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーにもかなり良いものがあるが。)
さらにメルローに関しては、世界的に見てもトスカーナ州は重要な産地の一つと言える。
人気が高く、世界各地で栽培されているメルローだが、この品種のワインが最高品質に到達する産地というのは、実はかなり少ない。
その中で、トスカーナ州のメルローは確実に世界のトップ・ティアに入るのだ。
好適地と言えるゾーンが州内に幅広く分布しているのも興味深い。
最も有名なのは MassetoやMessorioといった超高級メルローを産出するBolgheriだが、私がテイスティングしてきた範囲に限定しても、Chianti Classico、Vino Nobile di Montepulciano、Brunello di Montalcino、Valdarno di Sopraの4ゾーンに最高品質級のメルローが存在し、SuveretoやMaremmaにもかなり良いワインがある。
せっかく立派に育った葡萄樹をわざわざ引っこ抜くというのも、サスティナビリティの観点から見れば疑問視されるとは思うので、サンジョヴェーゼと混ぜずに、IGT(この州では、いわゆるスーパートスカン)としてリリースするのは、素晴らしいアイデアだと思う。
さて、今回の出会いは、Montepulcianoで造られたメルロー100%のワインと。
Chiacchieraは2010年に設立された家族経営の若いワイナリーだが、DOCG関連のワインは全て地品種のみで構成させ、国際品種を混ぜたワインはIGTとしてリリースする「古典派」でもある。
娘の呼び名をそのままワイン名にしたというPiccola Violaは、そのミニマリスト的ラベルの美しさもさることながら、メルロー100%のワインとしても素晴らしい出来栄え。
メルローらしいスミレの華やかなアロマ、弾けるようなジューシーさの果実味、ヴィロードのようなタンニン、抜群にバランスの良い酸、ミネラリーな余韻が見事だ。
全体的に奥深さとフィネスを感じる味わいであり、この葡萄畑が位置するCervognanoというエリアが、Montepulcianoの中でも「特別」であることを改めて実感させられる。
高貴なテロワール、充実した味わい、IGTとしてリリースする潔さ、ラベルを含めたデザインの美しさ、娘の呼び名をそのままつけたというストーリー。どれをとっても、好感がもてる。
最高のメルローだと心から思うし、ブランドイメージで塗り固められた異常に高価なメルローよりも、こういうワイン(一本5,000円程度)の方が、私は好きだ。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。