2022年2月5日7 分
葡萄品種から探るペアリング術シリーズは、特定の葡萄品種をテーマとして、その品種自体の特性、スタイル、様々なペアリング活用法や、NG例などを学んでいきます。
今回は、メルローをテーマと致します。
同じボルドー品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンとの共通点や違いも合わせて、読み進めてください。
また、このシリーズに共通する重要事項として、葡萄品種から探った場合、理論的なバックアップが不完全となることが多くあります。カジュアルなペアリングの場合は十分な効果を発揮しますが、よりプロフェショナルな状況でこの手法を用いる場合は、ペアリング基礎理論も同時に参照しながら、正確なペアリングを組み上げてください。
品種自体の主張が非常に強いカベルネ・ソーヴィニヨン(以降、CSと表記)に比べると、メルローは主役としても脇役としても、落ち着いた輝きを放つ品種です。CSと同様に、国際品種としては最も成功したものの一つですので、文字通り、世界中で栽培されています。
CSに比べると、香りや風味の共通点は多いのですが、より丸みのあるテクスチャー、果実味が強く、タンニンは滑らかになることが多いため、慣れればブラインド・テイスティングでも容易に判別がつきます。
メルローは大別すると2つのスタイルに分かれますが、共通して樽熟成が基本になっています(新樽比率はワインごとに大きく異なります)。
1. ポムロール型:メルロー単一が基本となるスタイル。
2. サン=テミリオン型:カベルネ・フランとのブレンドが基本となるスタイル。
また、それぞれのスタイルが、さらにオールドワールド系かニューワールド系に細分化されます。
ポムロール型はよりパワフルな果実感を伴い、サン=テミリオン型はよりエレガントな味わいとなる傾向がありますが、ニューワールド系になるとほぼ無条件でパワー感が増しますので、オールドワールド系のポムロール型と、ニューワールド系のサン=テミリオン型は、基本的にほぼ同じレベルのパワフルさと考えて問題ありません。
整理すると、以下のような傾向になります。
パワフル:ニューワールド系ポムロール型
中庸:オールドワールド系ポムロール型、ニューワールド系サン=テミリオン型
エレガント:オールドワールド系サン=テミリオン型
また、同系統(オールドワールド系かニューワールド系)であれば、ほとんどの場合で、CSよりも穏やかになる傾向があります。
分かりにくい場合は、以下の順にパワー感が増すと覚えましょう。
ピノ・ノワール < シラー < メルロー < カベルネ・ソーヴィニヨン
メルローの風味は、CSと類似点が非常に多く見られます。
果実:ブラックベリー、マルベリー、カシス、プラム、ブルーベリー、ブラックチェリー
野菜:ピーマン、ブラック・オリーヴ、グリーン・オリーヴ、キノコ、トリュフ
ハーブ:ミント、フェンネル、タイム、セージ、ローズマリー、ユーカリ、オレガノ
花:すみれ
ミネラル:鉛筆の芯
樽:ヴァニラ、キャラメル、エスプレッソ、モカ、チョコレート、シナモン、ナツメグ
その他:シガー、なめし革、タール
CSと同様に、冷涼気候であれば、野菜(特にピーマン)的な味わいが出やすい傾向があり、温暖な気候では果実味が強く出てきます。
また、オールドワールド系ならハーブ、ミネラルやシガーといった果実味以外の要素が強く、酸も高く、アルコール濃度は温暖化の影響下にある近年なら平均して13.0~14.0%の間で、ニューワールド系は果実味が強く、樽からの風味の影響も強く、酸は少し低く、アルコール濃度は14.0%を上回る傾向があります。
風味だけを気にするのであれば、メルローとCSは、ペアリングに置いても相互置換が可能と言えますが、実際には果実味やタンニンの部分で、微妙な差異が生じますので、ディテールを気にする方は、使い分けられるようにしましょう。
CSとの比較的視点から見ていきましょう。
以下はCSのペアリングにおける第一段階です。
1. あらゆる赤身肉に対して有効。
2. (赤身肉)を焼くという調理法に対して有効。
3. 苦味を伴う味わいや調理法に対して有効。
対して、メルローでは以下のように微妙に変化します。
1. あらゆる赤身肉に対して有効。
2. 焼くという調理法だけでなく、煮込むという調理法にも対応可能。
3. 苦味を伴う味わいや調理法に対して有効。
4. 一部の魚介類(特にサーモン、マグロ、海老、帆立)と好相性。
つまり、メルローはCSに比べると、食材と調理法に対して、より寛容な側面があるということです。調理法やソース次第ではありますが、鶏肉や豚肉といった白身肉に対しても、CSよりは遥かに使いやすい品種でもあります。
魚介類にメルローを合わせる場合は、必ず加熱調理するようにしましょう。
例えばボルドーワインを料理に合わせる際に、料理がよりヴァリエーション豊かな食材や調理法で仕立てられている場合は、右岸のワインを合わせる方が無難な選択となります。
第二段階の微調整はCSとほぼ同様です。CSでのポイントも踏まえながら、微妙に異なる部分をしっかりと押さえ、最終的にどういうスタイルやテロワールのメルローを選ぶか考えていきましょう。少し上級編ですので、家庭でのペアリングであれば、そこまで細かく気にする必要もないでしょう。
1. 料理の塩分と酸
料理の塩分量や酸度が高くなればなるほど、オールドワールド系のメルローが有効です。例えば、ステーキにステーキソース(塩分と酸が強い)をかけるなら、ポムロール型でもサン=テミリオン型でも、オールドワールド系が正解です。一方、ステーキソースをかけないなら、ニューワールド系の方が良いでしょう。
2. 料理の風味付けや付け合わせ
調理の際にハーブやキノコを用いた場合、CSよりもメルローの方が、実は適性が高くなります。基本的にはオールドワールド系で合わせましょう。バターをたっぷり使って焼いた場合は、新樽比率の高いメルローと相性がより良くなりますので、ニューワールド系が活躍することも多くなります。
3. スパイスの有無
CSはスパイス風味に対しても多少は対応できますが、メルローはスパイスが苦手です。スパイスが効いた料理の場合は、ローヌ系品種の方が遥かに合わせやすいので、無理は禁物です。
4. 肉の厚みと固さ
肉がより分厚く、固い場合は、アルコール濃度とタンニンに気を配りましょう。分厚く固い肉(咀嚼回数が多くなる肉)は、より高いアルコール濃度とタンニンでないと、バランスを取るのが難しくなります。薄めのカットで柔らかい仕立ての肉料理ならオールドワールド系を、厚めのカットでしっかりと噛む仕立ての肉料理なら、ニューワールド系が有効です。
5. 肉の脂肪分
脂の乗った肉の場合、それに対応した酸が必要となります。基本的には、脂身の多い肉は、酸度が高めのオールドワールド系で合わせましょう。一応、タンニンにも、脂肪分と中和する性質がありますが、酸によるカット効果の方が強力です。
6. フルーツソース
CSに比べて総じて果実感の強いメルローは、フルーツ(ベリー)系のソースとは抜群の相性を誇ります。ソフトなタイプのメルローはチェリー、クランベリーなどのソースと、パワフルなタイプのメルローならプルーンやレーズンを使ったソースで合わせてみましょう。
CSにとって黒コショウは、困った時の強力な助けになりますが、メルローの場合はオリーヴがそれに該当します。グリーンでもブラックでも大丈夫ですので、メルローと料理のピントが今ひとつ合わない時は、是非オリーヴを試してみてください。
*注:オリーヴオイルは特に有効ではありません
・繊細な味わいのあらゆる料理(メルローもCSと同様に、基本的には「強い味わい」であることをお忘れなきように。)
・カプサイシン系の辛い料理(メルローの高アルコールは、カプサイシンの刺激を大幅に増加させます。)
・タンパク質に乏しい料理(タンニンはタンパク質と優先的に結合しようとする性質があります。例えば葉野菜とメルローを合わせた場合、タンニンが行き場を失い、苦い味わいとなります。)
・チョコレート(CSと同様に、特殊なケースをのぞいて、非常に難しいペアリングとなります。)
・ブルーチーズ(塩味がさらに引き出されてしまいます。)