2021年9月5日3 分

ペアリングの番外編 <旨味>

最終更新: 2022年3月15日

ペアリングにおいて、旨味をある程度考慮するという流れは、実は最近生じたものです。ワインに含まれる旨味(アミノ酸)が、料理のどのような要素と関係性をもつのかも、まだまだ研究が必要な段階ではありますが、現状判明している効果について、お話して行こうと思います。

ワインの旨味はどこからくるのか

ワインに旨味をもたらす筆頭の存在が、酵母です。ワインに含まれる旨味の大部分が、酵母由来のもので、酵母が自己分解した際に、アミノ酸が放出されます。この反応からもたらされる旨味を多く含むワインとしては、瓶内二次発酵後に長い間、澱と共に熟成させるシャンパーニュ製法のスパークリングワイン、澱と共に熟成させるシュール・リー製法オレンジワインの製法産膜酵母と接触させるシェリー等の製法、澱を攪拌させるバトナージュ、澱が対流しやすいコンクリート・エッグやアンフォラでの醸造等の手法が用いられたワインが挙げられます。

第二の旨味の元(と仮説が立てられている)はタンニンの酸化熟成です。ワインのタンニンに含まれる主な渋味成分は、お茶と同じカテキンですが、この渋味成分が、非常に緩やかなスピードで酸化熟成することによって、旨味成分を放出し始める、と考えられています。タンニンと熟成の関係に関する科学的調査はまだ完全には終わっていないようで、まだ未知の部分が残されている可能性も指摘されています。しかし、筆者の経験上、理想的な環境でゆっくりと熟成したコルク栓の赤ワイン(栓による酸化熟成の変化に関しては、こちらの記事を参照)には、確かな旨味を感じることが多いです。おそらくは、この仮説は基本的に正しく、証明が難しいだけ、と考えるのが自然だと思われます。

旨味の効果

1. 塩味との複雑な関係

旨味は塩味の刺激を和らげる効果がある一方で、塩味には旨味をブーストする効果があります。難しく感じるかも知れませんが、ペアリングの時には、「旨味の強いワインを合わせる場合は、料理もある程度塩味を含んでいた方が良い」というシンプルな理解で十分です。

2. 苦味と酸味を引き立てる

旨味には苦味と酸味を引き立てる(強める)効果がありますが、ワインに含まれている旨味程度では、それほど大きな変化は期待できません。基本的に無視しても大丈夫な項目です。

3. 甘味を抑える

旨味には、甘味(果実味)を抑え込む(弱める)効果がありますが、ワインに含まれる旨味程度では、それほど大きな変化は期待できません。基本的に無視しても大丈夫な項目です。

4. クッション効果

ペアリングにおける、旨味の最も重要な働きです。ワイン、もしくは料理に含まれる旨味は、両者間に挟まる緩衝材のような役割を果たします。この効果のポイントは、ワインか料理のどちらかにある程度旨味が含まれているだけで、自動的に発動する、という点です。つまり、とっても簡単に効果が得られるということです。例えば、ワインと料理が、いまいちうまくペアリングしない時に、料理に旨味成分を足す(最も有効な旨味調味料の使い方かも知れません。。)だけで、ギクシャクした印象がかなりマイルドに変化するはずです。実際は、このクッション効果は、1~3の効果が総合的に発動した結果でもあるのですが、分かりやすくするために、分けて考えた方が良いと思います。

5. ブリッジ効果

旨味の最も強力な効果は、旨味同士がつながった時に発生します。この効果は、ワインと料理の双方に旨味がしっかりと含まれている時のみ、というかなり限定された条件が付きますが、互いの旨味をブーストさせ合うような、インパクトの強いペアリングを実現させることができます。