2022年10月1日3 分

日本ワインペアリング <7> 山幸

本シリーズの第一回で書いた通り、文化としてワインが根付いていない日本では、地の食である日本料理と、日本で造られたワインの間に、特別な関係性は極めて生じにくいと言えます。

ペアリングの真髄にとって重要なのは、冷静さであり、素直さです。

本シリーズの第七回となる今回は、北海道で開発された「山幸」(やまさち)を題材にして、ペアリングの可能性を検証していきます。

山幸は、北海道の池田町にある十勝ワイナリー(日本では初の自治体が運営しているワイナリー)が「寒冷地に適した葡萄」として開発に携わった葡萄です。

親にあたる葡萄は、片方がフランスで開発されたハイブリッド品種のセイベル13053を基にして1970年に誕生した「清美」、そしてもう片方は日本の在来品種である「山ぶどう」です。

山幸が完成したのは、清美の誕生から36年後。山幸の6年前に誕生した「清舞」を含めれば、なんと20,000回を遥かに超える試験栽培が繰り返されたそうです。

十勝の期待を一身に背負った山幸は、2020年、OIV(国際ブドウ・ワイン機構)に、甲州、MBAに次ぐ3番目の日本産国際品種として登録されました。

OIVの登録は、EU圏での販売時に葡萄品種名を記載できるという限定的ではありますが、確かなメリットをもたらします。

では、ワインになった時の、一般的な小公子の特徴を分析していきましょう。

酸味:Med+ ~ High

果実味:Med

渋味:Med

アルコール濃度:Med- ~ Med

余韻:Med-

アロマ:薬草、野生の花、スパイス

その他:独特の苦味を伴った漢方薬的風味

となります。

一般的に知られる葡萄の中で、山幸に風味的類似性のあるものは見当たりません。この非常に特殊な個性は、良い意味でも悪い意味でも、人を選ぶタイプのものではありますが、うまくスポットにハマれば、クリエイティブなペアリングになるでしょう。

山幸でペアリングする際に、まず考慮すべきなのは、その強いアタック感がある酸です。合わせる料理には、相応の強い塩分、酸、脂肪分、油分などが必要になってくる点には、重々留意すべきです。

繊細でライトな仕立ての料理には基本的に向かないと考えるべきでしょう。

また、固い質感や、噛みごたえのある肉なども不向きです。山幸の渋味と余韻では、それらのテクスチャーとマッチしきれません。

さらに難題となるのが、極めて漢方的なというか、薬草を思わせる独特のワイルドな風味です。

このケースでは、山幸の風味を料理の一部として捉えるのが正解です。

つまり、漢方・薬草的な風味を活かして、薬膳料理などと合わせるか、牛、豚、鶏などの内臓を用いた料理柔らかく煮込んだジビエなども良いでしょう。調味料に積極的にスパイス類(爽やかなハーブ系よりも良い)を用いるのも効果的です。

また、強い酸と風味を両方活かすために、アジア系なら黒酢、西洋系ならバルサミコ酢的な味わいとの好相性も期待できます。