2022年6月20日4 分

日本ワインペアリング <3> ブラック・クイーン

本シリーズの第一回で書いた通り、文化としてワインが根付いていない日本では、地の食である日本料理と、日本で造られたワインの間に、特別な関係性は極めて生じにくいと言えます。

ペアリングの真髄にとって重要なのは、冷静さであり、素直さです。

本シリーズの第三回となる今回は、日本発祥のハイブリッド品種である「ブラック・クイーン」を題材にして、ペアリングの可能性を検証していきます。

ブラック・クイーンは、より有名なマスカット・ベイリーAと同様に、川上善兵衛氏によって、アメリカ系葡萄品種のベイリー、そして、イギリスの食用ハイブリッド品種であるゴールデン・クイーンの交配品種として、1927年に開発されました。

親であるゴールデン・クイーン自体も、ヨーロッパ系ヴィニフェラ種とハイブリッド系品種の交配葡萄であることから、ブラック・クイーンに残った(一般的にワイン醸造に向いているとされる)ヴィニフェラ種の遺伝子割合は、かなり少ないことがわかります。

そして、この遺伝的特徴は、ワインにも確かに現れてきます。

さて、ワインになった時の、一般的なブラック・クイーンの特徴を分析していきましょう。

酸味:High

果実味:Med -

渋味:Med-

アルコール濃度:Low ~ Med +

余韻:Very Short

アロマ:未熟なブラックラズベリー

その他:非常に鋭角な酸。酸を抑えるために極端な遅摘みにしたり、過剰に樽を効かせることも。

となります。

ブラック・クイーンの特性として、ペアリングの観点から特に注視すべきなのは、それほど強くない果実味と、強烈過ぎるほどの酸が、かなり極端な構成要素として共存している点です。

この特性故に、日本料理という料理ジャンルを、可能な限り大きな範囲で捉えた場合、最も難しい国産品種の一つとなってしまうのが、ブラック・クイーンです

ワインの最終的な酸の印象は、果実味(甘味)とのバランスによって決定しますので、端的に言うと、ブラック・クイーンから造られたワインは、「非常に酸っぱい」味わいになりがちです。

もちろん例外はありますが、遅摘みや樽による調整を施されたブラック・クイーンの場合、相当程度本来の品種個性を失していますので、わざわざブラック・クイーンをペアリングワインとして選ぶ意義そのものが、微妙とも言えます。

では、ブラック・クイーンがペアリングワインとして輝ける局面を探っていきましょう。

強烈な酸が低めの果実味と共に存在しているワインを料理と合わせる際には、以下の4パターンが、現実的なものとして考えられます。

1. 非常に塩味の強い料理

2. 甘味と塩味を共に強く含み、最終的にやや甘めの味付けになっている料理

3. 非常に酸っぱい料理

4. かなり辛い料理

このパターンを見ただけでも、大多数の日本料理が候補から外れてしまうことが理解できるかと思います。

上記のパターンの中で、日本料理で最も実例が多いのが、2番です。

甘辛い魚の煮付け、鰻の蒲焼き煮穴子(タレ付き)などが2番のパターンに該当しますが、味付けは「かなり濃い目」にすることをお勧めします。

すき焼きや、豚の角煮、タレ焼き肉なども大丈夫そうな気がするかも知れませんが、ブラック・クイーンの中程度以下の渋味、そして極端に短い余韻では、ある程度テクスチャーのしっかりとした肉料理には対応しきれません。肉料理の場合は、ゆずポン酢で食べるしゃぶしゃぶであれば、パターン3として何とか対応できるでしょう。

せっかくの国産品種なのに、と残念な気がしてしまうかも知れませんが、諦めるのはまだ早いです。

ブラック・クイーンの特性が最大限に輝く料理は確かにあります。

それが、パターン4の「かなり辛い料理」と合わせる方法です。

ブラッククイーンの渋味や余韻も合わせて、より正確に言うと、「かなり辛い煮込み料理」となります。

分かりやすい例では、韓国料理のチゲなどが該当します。

チゲは、一般的なワインでは対応が非常に難しい料理の一つですが、ブラック・クイーンとは素晴らしい相性を発揮します。

また、パターン3(非常に酸っぱい料理)とパターン4の複合型であるトムヤムクンのような酸っぱ辛い料理も、ブラック・クイーンとは好相性と言えます。

このように、難しく思える品種やワインでも、視野を広げつつ、目線を変えれば、興味深い可能性に気づくことができるはずです。

ペアリング道に、諦めは禁物です。