2021年6月20日5 分

Advanced Académie <9> ワイン栓後編:コルク代替品

最終更新: 2021年6月23日

それがデイリーワインであれ、超高級ワインであれ、ブショネは関係なく発生する。近年はTCA(詳しくは前編を参照)汚染リスクを可能な限り排除した高級天然コルクも登場しているが、それでもブショネは決して低くない割合で発生する。

例えば家庭用電子機器であれば、不具合が発生した場合、修理や交換、返品といった手段が容易に可能であるが、ワインの場合、必ず返品できるとは限らないため、最悪の場合は無駄になってしまう。ブショネという不可抗力の不具合に対して発生した損失を誰が被るのか、誰に責任があるのか、は状況によっては非常に難しい問題となるからだ。

結論から言うと、ブショネのリスクは、可能な限り最低限まで低くなった方が良い。

そのために、様々なコルクの代替品が開発されてきた。

現在、天然コルクの代替品として主に用いられているのは以下の5種類となる。

1. スクリューキャップ

オーストラリア、ニュージーランドにおいて、スクリューキャップは天然コルクよりも遥かに多く採用されてきたが、現在は世界各地に広がっている。

2. ガラス栓(ヴィノ・ロック)

主に、ドイツ、オーストリアでの採用例が多い。

3. 合成コルク

プラスチック製のコルクが主流。大量生産型のワインに使用されることが多い。

4. 圧搾コルク

圧搾して接着剤で固めたコルク粒を天然コルクの薄いディスクで挟んだもの。アモリム社製の「ツイントップ」が有名。大量生産型のワインに使用されることが多い。TCAリスクは天然コルクに比べて、やや下がる程度だが、安価。圧搾したコルク自体の一部がTCAに汚染されていた場合、破砕によって拡散してしまうため、まとまったロットでブショネが発生するリスクもある。

5. 微細圧搾コルク

圧搾コルクよりも更に細かくしたコルク粒を接着したもの。特殊な洗浄やTCA除去のプロセスが採用されたウネオ・ブシャージュ社製の「ディアム」が有名。低価格〜高価格帯まで幅広く採用されている。

これらのコルク代替品の利点、不利点をより正確に理解していくためには、「香気成分吸収率」と「酸素透過率」の二つの要素を知る必要がある。なぜなら、天然コルクは(ブショネさえ無ければ)この2点において、まさに理想的なバランスを備えたものであるのに対し、代替品はどれも、一長一短となるからである。

香気成分吸収率

ワイン栓はその素材や組成によって、瓶内のワインに含まれる特定の揮発性香気成分を吸収してしまうことがある。スクリューキャップやガラス栓は、吸収率がゼロであるが、コルクの形状をしたものは、天然コルク、圧搾コルク(微細圧搾コルク)、合成コルクの順に、吸収率が高くなる。天然コルクと圧搾コルクの間の吸収率の差は僅かであるが、合成コルクの吸収率は遥かに高いことが判明している。つまり、合成コルクの場合は、ワインから相当な香気成分が抜き取られていると言うことになる。香気成分を吸収しないスクリューキャップやガラス栓にも相応の問題がある。後述する酸素透過率に関連して発生した還元臭を全く吸収できないため、その特徴が強く残ってしまうのだ。

酸素透過率

ワイン栓は酸素を通すべきか、この議論は長年に渡って繰り広げられてきたが、現在は良し悪しではなく、「目的」によって、酸素透過率を考えるのが主流となっている。酸素透過率は、スクリューキャップ、ガラス栓の場合はゼロとなり、圧搾コルク(微細圧搾コルク)、天然コルク、合成コルクの順に高くなる。酸素透過率がゼロの場合、瓶内のワインは還元状態が続くため、熟成スピードが大きく鈍化するのに対し、酸素を透過するコルク系栓の場合は、僅かな酸素交換によって、還元と酸化が繰り返され、平衡状態に至るケースがある。平衡状態は、ワインの熟成にとって理想的な状態だと考えられているが、この繊細なバランスは必ずしも達成されるとは限らず、圧搾コルクの場合はやや低い酸素透過率が、天然コルクの場合は不均一な品質が、合成コルクの場合は高すぎる酸素透過率が問題となる。

スクリューキャップやガラス栓は、ワインの鮮度を長く保つ一方で、独特の還元的熟成による風味が、熟成期間が長くなるほど、顕著になることがあり、この還元風味は個人によって好き嫌いが極端に分かれる傾向がある。また、還元状態が続くということは、ワインが窒息し続けることに近く、場合によってはワインが突然変質(窒息死とでも形容すべきだろうか)してしまうことも稀に生じる。

総合的に酸素透過率とコルク代替品の関係性を見ると、早飲みタイプのワインは、赤ワイン、白ワインに関わらずスクリューキャップやガラス栓が有利となり、熟成をさせたいワインに関しては、ポリフェノールによる抗酸化力の強い赤ワインやオレンジワインはコルク系が望ましく、抗酸化力の弱い白ワイン、ロゼワインは、熟成型であってもスクリューキャップ、ガラス栓導入を検討する余地がある、というのは一般的な見解と言える。

熟成予測のための手がかりとして

もう少し多角的にみた場合、結局のところ、吸収率と酸素透過率の重要性は、熟成によって到達するワインの着地点が変わる、という点にある。長期熟成をさせる場合、多くの合成コルクは論外と言える(ブルゴーニュのドメーヌ・ポンソが開発した特殊な合成コルクのように、例外は存在する)が、その他のワイン栓に関しては、それぞれの熟成パターンとそれに伴うリスクを知り、熟成後の状態を(抜栓をせずとも)可能な限り正確に予測するための手がかりとするのが好ましいだろう。