10月1~2日の2日間で今年の収穫を行った。
昨年が10月15~16日だったので、約2週間早い収穫となったが、周りにも、例年より1週間から2週間早い収穫の決断をした生産者が多くいたようだ。
異常な暑さが続いた2023年、長く雨量の多かった梅雨、猛暑、病害虫、9月の雨と、私にとっては簡単ではない年になったが、全体的に雨が少なく晴れ間が多かったせいもあって、非常に高品質なブドウを例年以上に収穫出来た生産者も多くいたようである。
【収穫日の決定】
9月の時点で、今年の収穫日は10月8~9日か、10月15~16日を予想していた。しかし、猛暑日が続く程の暑さでブドウの成熟が早く進み、更に9月中旬からの雨でブドウが傷み始め、10月中旬までもたないと判断、10月8~9日での収穫を予定した。ところが、9月下旬からブドウの傷みが急速に進み始め、急遽収穫日を早めて10月1~2日で行う事に決定した。収穫1週間前の急な決定になってしまった。
(ブドウは熟していたが、もう2週間程成熟させたかったというのが本音だ)
すぐに委託醸造先へ連絡をして、その日に搬入が可能か確認し、その後、地元の住民自治協議会事務局へ連絡をして、各区へ地域ボランティア募集の連絡を回して頂いた。
最後に私のSNSでも収穫ボランティア募集の告知を行い、人員を募った。
【収穫準備】
収穫日を決定してから収穫までの一週間、準備しなければ行けない事はたくさんある。
当日の収穫がなるべくスムーズに行えるよう、出来る限り傷んだ粒を取り除く作業は収穫前日の夕暮れまで行った。
それ以外にも、草刈りや収穫箱、選果台、ハサミ等の準備、ボランティアの方々への連絡、当日の休憩やお昼にお出しする飲食物の準備、収穫後の運搬車手配など、様々である。
① 収穫箱
収穫量の見込みが1,200kgほどであったので、その量に見合う収穫箱を用意しなければならない。
収穫箱は、地元のリンゴ農家さんから無償で頂いたお古のリンゴ箱を使用しているが、それを約100箱綺麗に洗浄し、圃場中央に準備。
② 選果台
ブドウの収穫は、生産者によってやり方が違うが、私は「収穫」と「選果」を完全に分けて行っている。まずは全ての房を傷み関係なく収穫し、その収穫されたブドウを選果台にて確認し、傷みを1粒残らず全て取り除いている。
収穫する人と、選果する人をうまく振り分け、スムーズに作業が進むよう人数調整する。
③ ハサミ
選果を手伝って頂く事を前提に、それ専用のハサミや粒を取り除き易い先の鋭いものを20個ほど用意した。
(ボランティアの方々には、ハサミ持参をお願いしているが、持参されない方も多く来ると予想)
④ お昼ご飯
収穫ボランティアの方々へお出しするお昼の準備は収穫前夜に行った。
メニューは「ジャージャー麺風ひやむぎ」と「お稲荷」に決定。参加人数が当日にならないと分からない状況であったが、昨年と同じ50名位と予想して、50名分を仕込んだ。
当日は寸胴でお湯を湧かして、ひやむぎをゆで、仕込んだソースにきゅうり、卵黄、刻みのりで仕上げた。
⑤ お礼の焼き菓子
来て下さった方々へお礼の気持ちとしてお持ち帰りの焼き菓子を用意した。
妻にお願いをして、レモンケーキとクッキーを焼いてもらい、お帰りの際にせめてもの気持ちとして皆さまにお配りした。
⑥ 運搬車
今年も昨年同様、ハイエースバンの大型車をレンタルして、10月3日に2往復で2箇所の委託先へ搬入できるよう準備した。
【収穫】
収穫前夜に激しい雨が振り始め、収穫を行えるか不安であったが、当日の朝に雨が弱まり始め、開始の8:00には霧雨程度と、予定通り開始することが出来た。
早朝から集まって下さったボランティア方々の人数はなんと60名。(2日間で総勢90名!)
始まりの挨拶および説明(注意事項)を行い、いよいよ収穫がスタート。昨年も参加して下さった方や、収穫経験豊富な方にもお願いしてリーダーシップをとって頂いた。
【選果】
収穫されたブドウ達は先ず選果台へ運ばれ、そこで一房一房確認しながら、傷んだ粒を全て取り除いている。今年はいくつかの品種に傷みが出てしまい、その選果作業に大きな労力を費やさなければならなかった。
収穫自体は、(60〜70名で)3時間程で終了してしまったが、その後の選果に時間がかかり、結局丸2日かかって全ての作業が終了した。
【運搬】
総収量は約1,200kg(白黒/約20品種)であった。
ブドウはレンタルしたハイエースバンで運搬する予定だったが、知人が「2tトラック出せるけど出そうか?」と提案して下さり、トラックで運べる事に。
10月2日の夕方に小諸市内ワイナリーへ2/3量を運んで頂き、残りは翌日の朝に東御市内ワイナリーへ搬入した。
【委託醸造】
今年の委託醸造先は2箇所で、製造ワインは3種類。
①テールドシエル(小諸市):桒原氏
・白ワイン(全房、野生酵母、樽発酵、樽熟成)
・醸しワイン(混醸、全房、野生酵母、樽発酵、樽熟成)
②ツイヂラボ(東御市):須賀氏
赤ワイン1種を製造(混醸、一部全房、野生酵母、SUS発酵、樽熟成)
【気づき】
今年の収穫が終わった。2月の剪定から10月の収穫までの濃く長い約8か月。
今年も「反省点」「問題点」など多くの「課題」を残したが、その中でも1つの大きな「気づき」と「反省」があった。
それは、「自然の摂理」と「認識の甘さ」である。
「ブドウは一年中何かに狙われている」という事に改めて気づかされた。
2月の剪定時期、ブドウは休眠期で眠っている。しかし眠っているのはブドウだけでなく「菌」も越冬中である。
5月の萌芽直前に休眠期防除として最初の消毒が行われるが、この頃から目覚めた菌達が活動を始め、ブドウに侵入する機会を今かと狙いはじめる。
5月の萌芽直後、新芽を好む虫達が動き始め、新芽を食害する。新芽を好むのは虫だけでなく、シカ等の動物もそれを狙う。
6月には、展葉し生長した葉っぱや、新梢、幹を好む虫達が食害を始める。同時に梅雨時期には、菌達が猛威を振るいはじめる。
7月は、引き続き梅雨の影響で湿度が高まり好環境を得た菌達が、ここぞとばかりに襲いかかる。
葉を食べる虫は増え、着果した果粒を食害する虫まで現れはじめる。
8月も、葉や果実を食害する虫と菌類に襲われ続ける。コガネムシが減ってきたかと思えば、違う虫が増加し、ベト病が落ち着いたかと思えば違う菌が襲いかかる。
9月の収穫前も同様である。菌類は雨で感染し増殖し、果実に入り込んでいたものはブドウを腐敗へと追いやる。果実を好む虫たちは食害を繰り返し、挙げ句の果てに鳥類や小動物も熟した果実を待ってましたと言わんばかりに食害する。
10月、収穫まで油断も隙もありはしない。
振り返れば、ブドウは常に何かに狙われていた。
【自然の摂理】
ブドウ栽培。人間が作った畑に植えたブドウ。
本来、そこに存在していないはずの植物「ブドウ」、更にその品種は海外(ヨーロッパやアメリカなど)から来たものであり、葉を茂らせ、美味しい果実を実らせる植物が、森の中の一箇所にたくさん植わっている環境。
冷静に考えれば、狙われないはずは無い。
自分が虫だったとしても、そこへ食べ物を求めて行くだろう。
【反省】
今年は「虫」に、こてんぱんにされた。
葉も実もやられにやられて止める事が困難であったが、食害した虫が悪い訳ではなく、食べられないように対処しなかった自分が100%悪いと思っている。
昨年に被害が少なかったから油断したのは事実だが、今から思えば、ただ「覚悟が足りていない」「自然を甘く見ていた」だけである。
虫や動物達を見ていると、自由でいいなと思う反面、毎日が生と死の行き交うリアルな世界を生きているとも感じる。小さな虫が自分より小さな虫を狙って襲いかかろうとしているところを、上から鳥が狙っているように、「生きる」事に対するリアルが人間とは別である。
(人間にとってそういう場所も世界には多数存在するかもしれない)
一番被害を被った「ブドウトリバ」も、果粒内に卵を産みつけるという繁殖/生存で考えれば、非常に理にかなった行動をしている。ふ化してすぐに食べ物があり、外へ出ても房の中は見つかりづらく且つ全てが食糧である。
自然界に住む彼らは人間が想像する以上に賢く強い。
【決意】
「生きる」力の強い彼らから、もっと真剣にブドウを守らなければいけないと痛感した。
自分の認識と覚悟の甘さが出た年2023年。
自分とブドウの置かれている立場を把握し、今後しっかりと対策して行かなければならない。
<筆者プロフィール>
ソン ユガン / Yookwang Song
Farmer
1980年宮城県仙台市生まれ。
実家が飲食店を経営していたこともあり幼少時よりホールサービスを開始。
2004年勤務先レストランにてワインに目覚めソムリエ資格取得後、2009年よりイタリアワイン産地を3ヶ月間巡ったのち渡豪、南オーストラリア「Smallfry Wines(Barossa Valley)」にて約1年間ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ。
また、ワイン産地を旅しながら3つのレストランにてソムリエとして勤務。
さらにニュージーランドのワイン産地を3ヶ月間巡り、2012年帰国。星付きレストランを含む、都内5つのレストランにてソムリエ、ヘッドソムリエとして勤務。
2018年10月家族で長野へ移住。ワイン用ブドウを軸に有機野菜の栽培をしながら、より自然でサスティナブルなライフスタイルを探求している。
2021年ブドウ初収穫/ワイン醸造開始。
現在も定期的に都内にてワインイベントやセミナーなどを開催。
日本 ソムリエ協会認定 シニアソムリエ
英国 WSET認定 ADVANCED CERTIFICATE
豪国 A+AUSTRALIAN WINE 認定 TRADE SPECIALIST