「中国料理とワイン」パート1・導入編(全5回)

そういえばこの場ではちゃんとした自己紹介ができてなかったなぁと思い、今回は自身のルーツを交えつつ現代のレストランにおけるワインという飲み物の立ち位置についてお話しできればと思う。 現在は大阪のChi-Fuというダイニングを含む、グループ全体のディレクター兼ヘッドソムリエという立場をメインに活動中。Chi-Fuはもちろんグループ全体に言えることは、「中国料理とワイン」というコンセプトを明確に打ち出している点だろう。今でこそ「○○料理とワイン」を謳うダイニングは増えたものの、当時はフレンチやイタリアンをはじめとする西洋料理のダイニングが圧倒的に強く、開業から丸11年経ったいま振り返ってみてもこのコンセプトに対する当時の大阪の街の反応はイマイチだった。 自分自身もともとはフレンチの出身で、現時点をもってなおフレンチに従事した期間の方が長いのだが、当時(十数年前)すでに飽和状態を迎えていた、「西洋料理のダイニングにおけるソムリエ」というポジションや業務に魅力を感じなくなりつつあったのも事実である。あえて強い言葉で言うと「誰にでも務まる仕事」、に興味が無くなってしまったのだ。

そんな中、新たな挑戦として「中国料理とワイン」というコンセプトには心躍るものがあった。きっと他の「○○料理とワイン」であっても同様だったとは思うが、ホテルに就職して初めて配属された職場が中国料理店だったということも大きく影響していると思われる。中国料理に対する理解が、他のソムリエと比べると相当に深いところからスタートできたからだ。 そもそもソムリエの主たる業務はワインの購入・管理・販売、そしてサービスとなるのだが、当然のことながらすべての業務に意味がないといけない。何故そのワインを購入するのか、何故そのようにワインを管理するのか、何故そのワインを販売したのか、何故そのようにそのワインをサービスしたのか。 ダイニングに立つソムリエである以上、料理との相性を無視するわけにはいかず、必然的にワインだけではなく料理そのものに対する理解が求められるのだが、齢30を過ぎてゼロから中国料理を理解することはそう簡単なことではない。他の国と比べても広大な土地を持ち、歴史も長い中国の料理群は一言で中国料理と表現することすら不遜に思えるほど深遠なものであるからだ。それこそ世界中で生産されるワインたちや、その歴史と比べても遜色ないだろう。 前置きが随分と長くなってしまったが、ここからが今回の本編(厳密には次回以降から)。実際に自分が中国料理とワインを組み合わせる際に注意している点や、素晴らしい組み合わせとなるロジックを披露していきたい(もちろん実際に試されるのが望ましい)。 一般的に、日本において中国料理は大きく四つに区分される(東西南北に分けて考えられる)。皆さんも一度は耳にしたことがあるであろう北京・上海・広東・四川という区分がそれである。次回以降ではそれぞれをパートに分けて解説し、今回を含めて全5回のシリーズとしたい。 というわけで今回は、導入・前置きに加えて発展目覚ましい中国のワインをご紹介しよう。 中国ワインといえば皆さんどんなイメージを抱かれるだろう。ほとんどの人は「えっ、中国でワインなんか造ってるの?」という感じではなかろうか。日頃からワインを楽しまれている方で、「なんか中国でもワイン造ってるらしいね。飲んだことないけど。」くらい、賢明なSommtimesの読者諸君であれば「ボルドーブレンドの高級ワインが多いんだよね。いつだったか飲ませてもらったなぁ。」くらいだろうか。 かく言う僕自身も長い間、中国で造られるワインに対する経験値や理解度は低いところで停滞したままであった。しばしば訪れる香港や上海、台湾あたりで友人である現地のソムリエたちにテイスティングさせてもらう程度で、それ以外の経験値は皆さんとほぼほぼ同程度だったと思われる。


生産者:Silver Heights Vineyard / シルバーハイツ・ヴィンヤード ワイン名:JIayuan Pinot Noir / ジアユアン・家園・ピノ・ノワール 葡萄品種:Pinot Noir / ピノ・ノワール ワインタイプ:赤ワイン / Red 生産国:P.R.China / 中華人民共和国 生産地:NIngxia / 寧夏 ヴィンテージ:2019 インポーター:koaraya / こあらや 参考小売価格:¥5,700


今年に入って、「中国ワインのクオリティが凄いらしい」という話を数人の信頼できる筋(何人かはSommtimesの執筆陣だったりする)から入手し、早速テイスティングの機会をいただいた。その友人たちが素晴らしいと評価していたのが今回ご紹介するシルバーハイツのジアユアン・家園・ピノ・ノワール2019。まさかの中国ピノである。彼らのコメントには、「北海道のドメーヌ・タカヒコをほうふつとさせる味わい」と俄かには信じがたい文言があり、それならばといただいたサンプルは同年のタカヒコとの比較テイスティングとして試飲することにした。 結論から言うと前述の彼らのコメントはやはり正しく、タカヒコのナナツモリ(それにしても手に入りにくくなってしまったものである)と共通する香りと味の構成であった。イチゴやチェリーを思わせるフレッシュかつチャーミングなノートに梅や鰹節といったどこか和を連想させる香り、若い赤には珍しく松茸やトリュフのニュアンス、スミレのフローラルさ、そしてミントの青み。滑らかな口当たりで酸は揮発したものを含めやや高め。タンニンは滑らかでしっかりとした旨みを感じ、余韻が素晴らしく長い。比較するとシルバーハイツの方がタカヒコよりやや果実味が強く若さを感じるものの、全体的には非常によく似たタイプのワインと言える。ヨーロッパ、特にブルゴーニュ的なピノを目指してきた新世界において、アジア的な旨みと個性を持った素晴らしいワインたちだ。総じて日本料理との相性が良さそうで、特に醤油や鰹出汁を使った料理やお造りには素晴らしく合うだろう。では今回のテーマである中国料理とはどうかと問われると・・・次回以降のロジックで解説できればと思う。


<プロフィール>

田代 啓 / Kei ‘Tassy’ Tashiro


Chi-Fu

ディレクター / ヘッドソムリエ

1977年大阪生まれ。


1歳のとき家族で渡米。幼少期をニュージャージー州で過ごす。 ホテルニューオータニ(主に大阪)にて7年従事、ソムリエとなる。 現在はミシュラン一つ星のアジアンフュージョン・Chi-Fuを含むグループのディレクター兼ヘッドソムリエ。 ワインディレクターとしても国内外のレストランのワインリスト作成・ペアリング考案を手掛ける。 特にアジアのソムリエとのパイプが太く、現地レストランでのコラボディナーや講演等、幅広く活動。 生産国やスタイルに捉われることなく上質なワインをセレクトするペアリングには定評がある。 コンペティションには一切の出場経験なし。 シャンパーニュ騎士団認定 シュヴァリエ Star Wine List 日本アンバサダー アカデミー・デュ・ヴァン大阪校 講師


<Chi-Fu> ミシュランガイド大阪・京都 一つ星 ゴ・エ・ミヨ掲載店 中国料理をベースとしたアジアンフュージョン・ダイニング。 ワインリストやストックの幅広さは関西随一。 国内外問わず多くのゲストがその個性豊かなペアリングを求めて訪れる。