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SommeTimes 2022年ベスト・パフォーマンス賞

2022年は、筆者の考え方が大きく変化した一年でもあった。


それは、ワインの教科書には必ず名前が載っているような、超有名ワインとの向き合い方だ。


私がワインを学び始めた頃、それらの「偉大」とされるワインの価格は、まだギリギリ手の届くものだった。当時学生の身分だった私にとっては、すでに高価ではあったが、仲間を数人集めれば、現実的な範囲内の出費で体験することはできた。


私はワイン会を立ち上げ、心ある協力者たちの助けを得ながら、50回以上の開催を重ねる中で、一人では手が届かないワインの経験を蓄積していった。


ソムリエとしても働いていたが、厳しい競争を勝ち抜く必要があるNYの街で、英語が母国語ではない若いアジア人に、高級ワインを現場で体験できるような機会は巡ってくるようなものではなかった。


ワイン会の開催は、知識面でもキャリア面でも、自らを上のステージへと引き上げるための自己投資に他ならなかった。


そのような経緯もあり、偉大なワインの数々が、私のテイスターとしての礎を強固に築き上げていったのは間違いない。


そして、私は今年の初め頃までは少なくとも、新たにワインを学ぶ人たちは、より深いワインの理解を目指すのであれば、私と同じような経験を積むべきだと考えていた


「基準」としての偉大なワインを知り、体験することは極めて重要だと、確かに考えていたのだ。


しかし、それが変わった。


きっかけは、数多くの後進たちからの質問だった。


一貫した彼らからの質問とは、「ワインを学ぶ上で、有名な超高級ワインは必ず体験しなければいけないのか。」というものだった。


昨年までの私であれば、即答でイェスと答えていた質問だったが、若い彼らにとって、実現不可能に限りなく近い(そもそも実現可能なら、このような質問が立て続けにくることはない)ものであると痛感したこともあり、自らの考え方を変えた。


今は、「体験できるならしたほうが良いが、必須では全くない。」と答えている。


この変化は、聖域なき評論を標榜するSommeTimesのコンセプトと、私の現実における言動の間に生じていた矛盾に、私自身がようやく気付いた、ということも意味する。


私が「必須ではない」という結論に達した理由を整理すると、以下の2つに大別される。


1. 気候変動によってティピシテが崩壊し始めた今、過去の「偉大」さが永続的に固定されたものであると、断定することはできない。

2. 非現実的な超高価格に達したワインを体験することが必須となれば、それは更に激化した「権威主義」を生み出すことにつながる。


そう、この時代にあって、「伝える側」にいる人々は、自らと同じ体験を他者に強制し、その実現が無ければ認めない、という姿勢をとるのではなく、新たに学ぼうとしている人たちを、我々が築き上げてしまった「権威の礼賛」からを解放するために、動くべきなのではないだろうか。


そのような思いもあり、SommeTimesでは初めての取り組みとなる、本年度のベスト・パフォーマンス賞を発表する。



この賞は、単純な「最も素晴らしい」という判断基準では、選出していない。


これらのワインは、それぞれが何かしらのメッセージを宿し、そのメッセージが「未来を切り開く」ものであると、筆者が判断したことによって選出されている。


ランキング形式も新たな権威を生み出すだけだと判断し、選出は各カテゴリーで1ワインのみとしている。


では、発表に移ろう。



白ワイン部門

Limore, Estate Reserve Chardonnay 2021. Greyton, South Africa.

(国内輸入無し / 現地価格:約4,800円)


南アフリカのマイナー産地に誕生した、驚異的なワイン。テロワール、畑仕事、醸造、造り手のセンスが高次元で融合し、圧巻の品質領域に到達している。エルギン、ステレンボッシュ、ヘメル・アン・アールダと、シャルドネが有名かつ高品質な産地は他にもあるが、こういうワインの存在こそが、「権威主義」の意味を希薄にしていると改めて実感した。




赤ワイン部門

Le P’tit Paysan, Old Vine Cabernet Sauvignon San Benito 2020. California, U.S.A.

(国内輸入元:Wine to Style / 国内価格:税抜3,900円)


先んじて、出会い<27>でも紹介したこちらを選出。1970’sのスタイルをモデルとして、それが実現可能な葡萄畑を探し、現代的な洗練を施す、という温故知新の素晴らしい例。このようなコンセプトは、世界的に主流となりつつある最先端トレンドだ。そして、カリフォルニア・カベルネ・ソーヴィニヨンにこびりついた固定概念を、見事に破壊してくれるワインでもある。




スパークリングワイン部門

Ulysse Collin, Blanc de Blancs “Les Enfers” NV. Champagne, France.

(国内輸入元:Racines / 国内価格:税抜18.000円)


工業から農業へと回帰したシャンパーニュが、テロワールの優劣を超えて、どれほどの高みに至ることができるのかを、痛烈に示した一本。このワインを前にしては、名だたるグラン・クリュ・シャンパーニュもただただ霞むのみ。高価、かつ入手困難だが、アンテナを張って手に入れるだけの価値は十分にある。




ロゼワイン部門

Kir-Yianni, L’Esprit du Lac V.V. 2021. Amyndeon, Greece.

(国内輸入元:Mottox / 現地価格:約2,000円)当キュヴェの国内輸入は無し。


大メーカーのラインナップに、このような宝物がひっそりと含まれていることは珍しくない。冷涼なマイナー産地のアミンデオの個性、古樹の力、ロゼという選択、大メーカーらしい高い技術の全てが、極めて高いパフォーマンスに繋がった。トップメーカーのトップワインを追求するだけでは決して見えてこない世界が、ここにはある。




オレンジワイン部門

Vinyas Dempremta, Rabassa 2019. Catalunya, Spain.

(国内輸入元:BMO / 国内価格:税抜5,200円)


オレンジワインは、「面白い」から抜け出し、より高い「品質」を追求していく必要がある。そのための様々な方法論がトライされているが、その答えの一つが、混植混醸にあるのは間違いない。オレンジワインという製法が抽出する圧倒的なテロワールの響き、そして樹齢120年超えというあまりにも貴重な畑。オレンジワインが未知の領域に入った、圧巻の一本。




総括

新しい=良い、ではないが、新しいものが宿すメッセージとは、しっかりと向き合って損は無い。


2023年、ワインの世界にどのような変化と進化が起こるのか、楽しみにしながら年を越そうと思う。






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