レストランでのペアリングの考え方

僕は現在京都のLURRA°に在籍しています。

LURRA°はシェフのジェイカブ・キアーが世界各国を渡り歩きインスピレーションを受けた世界中の料理を元に、日本の季節の食材や文化と共に表現をするレストランです。ドリンクのペアリングに関してもオーナーバーテンダーの堺部雄介の創り出すミクソロジーカクテルと、僕がセレクトするワインや日本酒、そしてノンアルコールを考案しています。


レストランのペアリングで何が大切か人それぞれの考え方があると思います。僕の考える大切にしている事は、レストランではやはり料理が主役という事。料理を楽しめるペアリングの提供が重要なのでは、と考えています。勿論楽しむ要素はそれだけでは無いですが、今回は僕の日々やっているペアリングの選び方を説明させて頂きます。


僕はいつもシェフにどの部分をゲストに味わって欲しいかを確認しながら、ペアリングを考えます。そしてディスカッションしながらシェフの作り出す一皿の美味しいと感じる部分をより際立たせたり、香りを立ち上げたりします。


この様な形のペアリングにするには、料理を口に入れてから咀嚼をしている間に順に来る味わいや香り、風味にピンポイントで合わせていきます。(スープなどを除いて咀嚼して味わう料理に対して、液体では香りや味を感じる時間は短いので)


Photo by Mitsuyuki Nakajima


今回のメニューは、熾火の香りを付け焼き上げたアンコウとヴァンジョーヌを入れたクリームソースです。


香ばしい香りのプリッとした食感のアンコウとジュラの郷土料理を思わせるソースのカラメルの様な甘みのある風味と甘み、旨味、アフターには柔らかい酢酸も感じる酸。付け合わせには生のくるみとジェイカブシェフのお皿の中では比較的シンプルな要素のお皿です。


口に入れてから味わいの感じる順序は


アンコウにした岩塩の塩味とアンコウのジューシーさにソースの酸味 →

熾火の香りを感じた後にくるみの香りと食感 →

くるみの食感を感じながらソースの甘い香り →

チーズを思わせる旨味と風味。


大きく分けるとこの様に感じます。

今回は、上記の中でソースの甘い香りにピンポイントを合わせます

このメープルシロップの様な甘い香りの主な成分であるソトロンフルフラールなどは、ヴァンジョーヌやシェリー、熟成したワインなどにも含まれており、フェネグリークの香り成分の主要香の一つでもあります。クリームにも火が入ると少量の同じ香りがあります。


今回のセレクトはジュラのサヴァニャンにしましたが、どの様なタイプのサヴァニャンが良いのか違うタイプの二種に絞って検証してみました。


まず塩気もあり酢酸がしっかり出ていて、甘い香りをしっかり感じつつ樽の香りが続く、長期熟成の美味しいとこどりのような、シェリーよりのタイプを合わせてみました。


甘い香りは伸ばすが、こちらでは酢酸が強すぎてソースのバランスを崩してしまい、樽の香りが強調されてしまい苦味が生じます。

もっとソースのバター量も多く、濃度が高く、ソースの酸度が高い方が合うかもしれません。


次に合わせたのは、ジュラのサヴァニャンでも乳酸発酵(*1)由来の酸がある若いヴィンテージのもの。


スタートの酸度は前者のものよりも強く感じますが、ソースの酸よりも多少強い酸なので、嫌味なく馴染みます。

産膜酵母(*2)の香りも微量に持っているので、ソースの中の甘い香りをブーストしてクルミのタンニンともぶつからずにスムースに持続しました。

勿論このままでも充分に相性は良いのですが、よりソースの香りや旨味を際立たせる為にLURRA°でのペアリングでは、フェネグリークを漬け込んだ糖度6%のシロップを極少量加えています。


カレーのスパイスにも使われるフェネグリークは、少量だとメープルシロップの甘く香ばしい香り(ソトロン)があるので、ソースの甘い香りがさらに香ばしさが増し、ソースの旨味も削れることなく余韻がさらに長く繋がります。


ペアリングにはルールはないと思っています。

その料理を更に美味しく、何よりゲストに楽しんで頂ける様に、今まで体験したことない組み合わせを僕たちは考えています。


生産者:Les Dolomies (Céline et Steve Gormally) / レ ドロミー 

ワイン名:Savagnin Croix Sarrant / サヴァニャン クロワ サラン

葡萄品種:サヴァニャン

ワインタイプ:白ワイン

生産国:フランス

生産地:ジュラ パッスナン

ヴィンテージ:2018

インポーター:Racines

参考小売価格:¥7,000

写真提供:Racines


(*1)乳酸発酵:ワインに含まれるりんご酸(シャープ)を乳酸(まろやか)へと変える発酵工程で、マロラクティック発酵、MLF、マロといった略称も頻繁に用いられる。大部分の赤ワインは乳酸発酵しているが、白ワインに関しては、産地や造り手によって、大きく異なる上に、味わいへの影響も大きい。


(*2)産膜酵母:発酵中の液体の上面に生じる酵母で、膜状に広がる性質がある。一般的な醸造学上では、発酵中の果汁が酸素にさらされ過ぎたことによって起きるエラーであるが、独特の風味をもたらすことから、積極的に用いて伝統的な手法としたワインとして、スペインのシェリーやジュラのヴァン・ジョーヌが有名。


<ソムリエプロフィール>

外山 博之 LURRA ゚

1981年 埼玉生まれ 都内を中心にバーテンダー、サービスマンとして勤務し、その後、都内のレス トランでソムリエとしての経験を積む。 2012年Grisマネージャー就任。ナチュラルからトラディショナルまで幅広いセ レクトのワインを中心にしたペアリングとそのアルコールの構成要素を表現し たノンアルコールペアリングが好評を得る。 2018年6月よりMarutaのドリンクを監修。小規模生産のワインや発酵ドリンク のメニュー開発に携わる。 現在もMarutaでのドリンクを中心としたディレクションを行う。


2019年よりシェフのJacob kearを中心としたレストランプロジェクトの京都 LURRA°にドリンクディレクターとして加わり、2020年のミシュラン一つ星獲 得に貢献。

2021年 3月より調布のMarutaへ正式に加入予定。