イストリア半島で出会った究極のオレンジワイン

クロアチア

皆さんこの地のワインをしっかりと飲んだことはあるでしょうか?そしてさらに、そのクロアチアの中でも秘境とも言えるイストリア半島のワインをご存知でしょうか?


まさかこの地でこんな衝撃的なワインに出会えるとは思いもしなかった一本がある。


ワインのご紹介をする前に、イストリア半島の説明をしておきたい。アドリア海の最奥、イタリアとスロベニアに国境を接する三角形の半島。この地に入るとまず目にするのは何層にも続く丘と、それを覆うように広がる森。その森の中にちらほらと、葡萄畑オリーヴ畑が点在する。よくトスカーナに例えられることが多いが、それと違うのは森が主役で、その合間に葡萄畑があること。それだけ自然が豊かに存在し、それゆえに生態系の多様さが保たれている畑が主役の土地は、その畑によって本来の自然の姿からは離れていってしまう。農薬や化学肥料を散布すればなおさら、である。一見、葡萄畑が青々と広がる土地は自然豊かに見えるが、環境を変化させてしまっている可能性がある。そして、葡萄畑にいる生き物だけでなく、水辺にいる生き物、森にいる生き物、そして様々な自然との共生の中でこそ葡萄を育てるべきだと岩井は思う!と、、、この話をすると長くなってしまうので、話を変えて食文化をみてみよう。この土地は一言で言うならば、トリュフの名産地である。ちょうど私が訪れた10月は、収穫時期でトリュフ祭りなるものがそこかしこでおこなわれていた。もちろんしこたまトリュフを(お得に)食べてきたのは言うまでもない。


土壌をみてみると、半島のほとんどは粘土質に石灰岩が混じるいわゆる粘土石灰。一部には、鉄分が豊富な赤土が混じるエリアもみられる。畑は主に丘の中腹にあるので、水捌けはとても良さそうであった。この地のワインは地場品種が中心だが、どのワインも品があるのは、やはり石灰の存在が大きいのではないかと思う。


ほとんどの白ワインが、地場品種であるMalvasia Istriana マルヴァジア・イストリアーナで作られている。数多いマルヴァジア亜種の中でもアロマティックな香りと杏のような果実味で、他と一線を画すワインになる。しかし、今回ご紹介するワインは意外だがシャルドネである。だが、この作り手に品種の個性は関係ない(とまで言っていいのか!?)。品種を飛び越えて彼自身の世界観を表現するのが、そう、ロクサニッチである。


生産者:Roxanich /ロクサニッチ

ワイン名:Milva / ミルヴァ

葡萄品種:Chardonnay / シャルドネ

ワインタイプ:オレンジワイン

生産国:クロアチア

生産地:Istria / イストリア半島

ヴィンテージ:2010

インポーター:Vins d’Olive / ヴァン・ドリーヴ

参考小売価格:¥4,325


世界中の有名ワイン産地を15年間にわたり回ったのちにロクサニッチ氏がたどり着いたのは、彼の生まれ故郷であるクロアチア、イストリア半島。さらに選んだ畑は、赤土のテーラ・ロッサという呼ばれる特別なエリア。葡萄栽培はビオディナミを取り入れた有機栽培。当主のロクサニッチ氏は髭もじゃで精悍な顔つきだが、目がとても優しかったのが印象的であった。現在は、彼の娘さんたちが頑張ってワイン作りを引き継いでいる。クロアチアにはまだまだナチュラルワインの作り手がいない中、このイストリア半島には4軒だけナチュラルワインの作り手がおり、彼はその一人でもある。ただ他の3軒とは掛け離れたワイン作りをする。


そんな彼の作るワインを一言で表現するなら、「琥珀色のスープ」。


??と思われるかも知れないが、このミルヴァというワイン、是非皆様に飲んでみて欲しい。シャルドネの典型的な品種個性を求めて飲んだら、全く予想を裏切られる味わいで驚かれることだろう。スタイルはマセラシオン(果皮を果汁に漬け込む)をしたオレンジワインであるが、表現している味わいはそれとは大きく異なる。シャルドネを圧搾した後、木製バットで果皮・種子とともに野生酵母にて10日間、その後樽熟を6年(!)を経て瓶詰め、さらに瓶熟。そう彼は、フレッシュな果実味なんて求めてないのである。表現したいのは熟成のブーケに集約されてくるテロワールと、それによって顕れる品種の隠れたキャラクター。マセラシオンもそのための手段にすぎない。マセラシオンすることにより、タンニンなどポリフェノールが多く抽出され、より熟成に耐えうることができるが、ともすればタンニンが浮いて感じることが多々ある。彼のワインを飲むと、全くそのニュアンスはなく全てが渾然一体となって溶け込んでいる。そういった意味でまるでスープのような液体である。強いて言えば、スタイルはフリウリのラディコンに近いかもしれないが、全く別の雰囲気を感じる。


香りは、ラム酒漬けのドライフルーツ、茶色いスパイスたち、そしてまるで黒酢のような旨みを含んだ酸味も感じる。口に含むと、酸味、果実味、タンニン、旨みがまろやかに調和して一切の引っかかりなく舌の上に広がる。そして余韻にはメイラード反応(*1)のごとくカラメルや、ナッツのフレーヴァーが鼻に抜ける。ブルゴーニュの熟成したシャルドネのごとく、味わいの複雑さを感じるが、そこにマセラシオン由来のタンニンが加わっているのでさらに奥行きがある。まさにオレンジワインの一つの完成した姿であるといえる。


マリアージュは、是非トリュフと合わせて欲しい!他のキノコにも合うが、出来れば香りが強く少しクセがあるぐらいのキノコが理想である。魚介であれば、うなぎの蒲焼き、江戸前の穴子などと試したい。肉料理は、トンローポーのような豚の煮込み。そしてなんといっても熟成したチーズ(ウォッシュ、ブルー)との組み合わせは絶品である。ヴァンジョーヌのようなニュアンスもあるので、食後にゆっくりチーズとこのワインなど最高の時間だろう。


独特の世界観を味あわせてくれるロクサニッチ、正直言うと人によって好みは別れるかもしれない。ただ、ワインは個性を楽しむものである。日本でこういったワインが楽しめて受け入れられるワインシーンの訪れを切に願う。


ちなみに、ロクサニッチはマセラシオンを6ヶ月もおこなうマルヴァジア・イストリアーナ単一、そして7品種を混醸したオレンジもあるのでそちらも是非試してほしい。


(*1)メイラード反応:グルコース等の還元糖とアミノ酸(アミノ化合物)が加熱された時に生じる褐色反応のこと。キャラメル、ローストナッツ、チョコレートのような香味をワインにもたらすが、ワインにとっては熱劣化と紙一重の存在とも言える。


<ソムリエプロフィール>

岩井 穂純 / Hozumi Iwai

酒美土場 shubiduba 店主


AWMB認定オーストリアワイン大使

J.S.A.認定ソムリエ

アカデミー・デュ・ヴァン講師

Japan Wine Challenge審査員

オーストリアワイン普及団体「AdWein Austria」代表


経歴

1978年生まれ。20代前半より都内のワインバー、高級レストラン勤務を経て神楽坂ラリアンスのシェフ・ソムリエを長年に渡り勤める。その後丸の内の有名ワインバーのマネージャー/ソムリエ、ワインインポーターのコンサルタント、都内隠れ家レストランのプロデューサー/マネージャーを経て、2016年に酒美土場をオープン、現在に至る。2014年よりアカデミー・デュ・ヴァンの講師も務める。


オーストリアワインのスペシャリストであるが、近年はオレンジワインの専門家としても活動。さまざまなオレンジワインのイベントや講座を主催。現在ではTVや雑誌などにもオレンジワインの企画で出演している。


<酒美土場 -shubiduba->

2016年に東京・築地場外市場にオープンしたわずか5.5坪のワインショップ&バー。ナチュラルワインにこだわり、特にオレンジワインの品揃えには定評がある。酒屋ならではの角打ち(かくうち)も行なっており、ナチュラルワインを求めるお客さんで連日にぎわいをみせる。