シャンパーニュの味わいにおけるドサージュの面白さ

近年、シャンパーニュの多くの生産者がExtra brutBrut Natureを手掛けています。

その理由は気候変動だけではなく、人々のライフスタイルの変化など多岐にわたるのですが、ドサージュはシャンパーニュの味わいにおいて、歴史的にもその流行を生み出してきた重要な一つの要素でもあるのです。


シャンパーニュの歴史の細かい部分については省略させていただきますが、フランス革命後に、ナポレオンがシャンパーニュを世界的に広めたと言っても過言ではないでしょう。


「シャンパーニュは勝利に相応しく、敗北の時にこそ必要だ。」


この名言からも生粋のシャンパーニュ好きなことが伺えます。さて、この頃はシャンパーニュの透明度を高めることが品質の良さを決める重要なポイントでした。どうしても残ってしまう澱をいかに綺麗に取り除くことができるかが価格を左右していたのです。当時は澱を取り除くために古い瓶から新しい瓶に移し替えていたので、なんと半分ものシャンパーニュを失ってしまっていました。そこで、澱引きを簡単に行うためのピュピトルがヴーヴクリコで発明されることになります。クリコの従業員であるアントワーヌ・ド・ミュレが発案し、最初は机に穴を開けただけだったという逸話が残っています。


当時のヴーヴクリコの味わいはというと、澱引きで減ったシャンパーニュをブランデーシロップで補っていましたからとても甘口のシャンパーニュだったことが容易に想像できますね。当時で1Lあたり150gのものドサージュだそうです!


ナポレオンを破ったロシア人将校に、ありったけのシャンパーニュを差し出していたマダムクリコの見事な手腕。甘口シャンパーニュは極寒の地ロシアの貴族たちの間で大流行するのでした。


そこから少し時が経ち、現在私たちが口にしている辛口のシャンパーニュがイギリス市場によって拓かれていくのです。当時甘口ポートがデザートワインとして定着していましたが、食事中でも楽しめるワインとして辛口のシャンパーニュが開発されていったのでした。

1856年に初めてBrutを出荷したのは実はペリエジュエでした。とはいえ、ドサージュは20g~22gだったそうで、現在と比べて2倍近い糖分が含まれていたことになります。


シャンパーニュにおけるドサージュの目的は大きく分けて二つあります。先ほど触れたように、デコルジュマンの際に目減りしてしまった分を補うということの他に、味わいのバランスを調整するという重要な目的があります。瓶内二次発酵が終わった段階のシャンパーニュは酵母が糖を食べつくしてしまっているので、残糖度はほんのわずかになっています。そこでドザージュをすることにより、繊細な味わいの調整を行うのです。今現在では、何をドザージュに使用するのかなど生産者の創意工夫により様々なアプローチがされています。


ドサージュに使用される、門出のリキュールのレシピはあまり明かされることはないのですが、澱引きしたあとの同じワインにショ糖(cane sugar)やテンサイ糖(beet sugar)を混ぜて使われることが多いです。また小さな生産者の中には濃縮したブドウ果汁であるMCR(mout concentre et recutifie)を選択しているところもあります。しかし、最近の傾向として、コストや使い勝手の良さはあるものの、MCRの原材料がシャンパーニュ地方以外で生産されていることや、ワインの素材感に影響を与えてしまう点に難色を示す造り手も増えてきています。それにより、使用する素材など細部にこだわりコストをかけて、特別なリキュールを自家製で作っているところも増えています。


様々なスタイルのドサージュが生まれることにより、時代とともに味わいのバランスはより緻密で繊細になってきています。それはこれからのシャンパーニュがもっといろいろなシーンにより深く特化していける可能性をひしひしと感じさせてくれます。

さて、今回は敢えて、現在の甘口シャンパーニュをご紹介したいと思います。


<ワイン情報>


生産者: Andre Beaufort /アンドレ ボーフォール

ワイン名:Polisy2002 Demi-sec /ポリジー2002ドゥミセック

葡萄品種:Pinot noir80%・Chardonnay20%/ピノ・ノワール80%・シャルドネ20%

ワインタイプ:シャンパーニュ

生産国:フランス

生産地:Ambonnay/ Montagne de Reims & Polisy/ Cote des Bar

モンターニュ・ド・ランス地区/アンボネイ村&コートデバール地区/ポリジー村

ヴィンテージ:2002

インポーター:テラヴェール

参考小売価格:\14,800(税抜)


今から4年前、アンボネイ村にあるアンドレ・ボーフォールに訪問しました。お庭には可愛いガチョウたちが気持ちよさそうに闊歩していました。優しい笑顔で迎え入れてくれた、2代目ジャックボーフォールは引退され、現在は兄弟9人でシャンパーニュ造りをされています。シャンパーニュにおけるビオティナミの始祖とも言われる、アンドレボーフォール。1969年より自然農法をスタートさせ、1971年に「Certipaq」からビオディナミを認定されました。1981年にはホメオパシーやアロマテラピーで自身のブドウ畑を管理、栽培していきます。化学肥料、除草剤、殺虫剤全般そして硫黄や硫酸銅なども一切使用していません。今はアンボネイ村に1.6ha、ポリジー村に4.5haを所有しています。

その畑はさまざまな草花や昆虫が共生し柔らかい土壌を造りだしており、自然を生かそうとする純粋な気持ちに溢れていることが伝わります。そんな2つの土壌で大切に栽培されたブドウは収穫後、ポリジー村で醸造されます。




彼らが特にこだわっているのが「酸と糖」のバランス。そして「野生酵母」のみでの発酵を行うということです。2代目ジャックの以前の時代から今現在も、とても重要なことのひとつなのは、ブドウの熟度と酸の残り具合だということです。この二つの要素がワインの骨格を決め、長期熟成を可能にするのだと考えられています。なので、他の造り手と収穫時期が異なってしまうことも多いとのこと。「重要なのは糖度ではなく、熟度と酸だ」との言葉どおり、PH3以下という高い酸度をもつブドウは結果的に、アルコール発酵、マロラクティック発酵を経ても十分な酸が残り、醸造中にSO2(*1)を加えなくともワインを酸化から守ることができるのだと教えてくれます。以前から、自然なワイン造りを志してきたので、この強い酸とバランスをとる為にドザージュを多くしていたそうなのですが、ここ10年で収穫時期を見極めことで、酸と糖のバランスがより取れるようになってドザージュを昔より減らせるように変化してきています


そしてふたつ目のポイントである、発酵についてです。一次発酵は長期使用している古木樽で野生酵母のみで行われます。ポイントなのは二次発酵で、通常はティラージュ(*2)時に培養酵母を加えて二次発酵を行いますが、アンドレボーフォールではティラージュ時に酵母の添加はしないのです。一次発酵後もわずかに残る酵母が活性化していれば、瓶内二次発酵時にブドウの濃縮果汁を加えるだけで自然に発酵が始まるので、自然酵母をしっかりと畑で育てることが重要になってきます。ただ、ヴィンテージによっては自然酵母の働きが弱く、二次発酵後のガス圧が1.2気圧ほどにしか上がらない場合もあるそうで、その場合は全てのボトルからワインを木樽に戻して活発な酵母を選び移すことでワインを活性化させた後、少量のティラージュをして瓶内第三次発酵をするそうです。全て手作業、そして自然酵母のみのワイン造りの厳しさが垣間見えます。年間生産本数は2500ケースのみのレコルタン・マニピュラン(*3)だからできるこだわりと手間のかけ方で、唯一無二のシャンパーニュを作り出しています。


私が今回ご紹介させていただいた、Polisy2002 Demi-secはポリジー村のブドウのみを使用しており、濃縮果汁を使って1Lあたり45gのドザージュをしているのが特徴的です。洋梨、オレンジのコンフィ、パイナップルなどのトロピカルフルーツ、ローズマリー、ヴェルヴェーヌ、ミントなど様々なハーブのアロマ。ドザージュの高さを感じさせない美しい酸が素晴らしく、たくさんの草花に囲まれているかのような余韻が長く包み込んでくれます。口福のマリアージュはハーブを使ったオリエンタルなタイ料理や、アルザス料理のベッコフ。デザートにはオレンジなどの柑橘をつかったショコラ、パイナップルケーキ、洋梨のタルトなどがおすすめです。あとおせち料理にも〇!つい甘口のシャンパーニュなんて!と敬遠してしまいがちですが、美味しいものが大好きな貴方にはきっと大人の愉しみかたができるはず。是非今だからこそ敢えてチャレンジしてみてはいかがでしょうか?


(*1)SO2:亜硫酸、俗にいう酸化防止剤のこと。抗酸化作用と殺菌作用という二つの目的のために主に添加される。


(*2)ティラージュ:二次発酵の前段階として、ワインに糖と酵母を加える工程。


(*3)レコルタン・マニピュラン:葡萄栽培から醸造まで一貫して行う小規模生産者のこと。なお、シャンパーニュ生産者にとっての「小規模」は、他産地の生産者にとっては十分に中規模以上であることも多い。


<プロフィール>

近越 安那 

1982年生まれ、石川県金沢市出身。

制作会社勤務を経て、飲食業界へ。

シャンパーニ