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再会 <36> ポツンと系ワイン
Filippi, Turbiana 2018. ¥4,500 テレビ朝日系の「 ポツンと一軒家 」という番組をご存知だろうか。 日本各地の人がほとんど住んでいないような場所に、なぜか「ポツンと」ある一軒家を紹介する番組だ。 なんとも地味でのほほんとした内容だが、私は妙にこの雰囲気が好きだ。 実は、ワインの探求でも、私はこのような 「ポツンと系」ワイン に不思議なほど執心していた時期がある。 その地の伝統とは、ちょっとずれた存在 のワイン。 もちろん、 ヨーロッパ中にあるフランス系国際品種という意味ではない 。 伝統の一部でありながら、ちょっと珍しい 。そんな塩梅のワインだ。 ただ、当時の私はワインの品質的側面からそのようなワインを探していたのではなかったし、そういうベクトルで評価をしていた訳でもなかった。

梁 世柱
2023年4月30日


儚く、美しいワイン <トスカーナ特集:Montepulciano編>
なぜかいつも忘れられている。 Vino Nobile di Montepulciano は、そういうワインだ。 トスカーナ州のサンジョヴェーゼから造られる三大赤ワインの一つでありながら、最も語られることが少ない、地味な存在。 ワインのプロフェッショナルであっても、同州のサンジョヴェーゼを選ぶなら、Chianti ClassicoかBrunello di Montalcinoのどちらかから、真っ先に探す人が大多数だろう。 場合によっては、一部のサンジョヴェーゼ系スーパー・トスカンの影にすら隠れている。 日本語に直訳すると、「 モンテプルチャーノの高貴なワイン 」という実に覚えやすい名称だが、横文字のままだと、どうにも長い。 Vino Nobile di Montepulcianoにとって、Montepulcianoは地名を意味しているが、 他州には同名の葡萄品種 があり、生産量もかなり多いため、なんともややこしい。 確かにライバル産地に比べると、 生産者の数も生産量も少ない 。 さて、これらはVino Nobile di Montepulciano

梁 世柱
2023年4月29日


飛躍の時 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.3>
Chianti Classico Collectionでの二日間を終えた時、私は不思議な高揚感に包まれていた。 極限まで集中したテイスティングを、連日8時間近く休みなく続け、舌も足も思考も、疲弊しきっていたはずなのに、私は妙に興奮していたのだ。 4年前の辛酸を晴らすべく、地道に研究を重ねてきたChianti Classico。 その答え合わせをひたすら繰り返した2日間。 確信に変わった数多くの仮説。 新たな発見。 未知のワインとの出会い。 新世代の躍動と、ベテランのプライド。 複雑に絡み合う思惑。 そして、思い知らされたChianti Classicoの偉大さ。 会場で見聞きした全てが、私を刺激し続けていたのだ。 Chianti Classico編最終章を執筆するにあたり、私は今、安堵感と共に、寂しさに似た感情を抱いている。 2020年代のワイン産業 新型コロナ禍の本格化と共に幕を開けた2020年代。様々なワイン関連ニュースも飛び交ったが、その中でも最もインパクトが大きかったのは、間違いなく ボルドーの話題 だろう。 2021年後半にC.I.V.

梁 世柱
2023年4月14日


出会い <34> 大銘醸のお隣
Mozzoni Ofelio, Rosso di Montalcino “Greppino,” 2019. ワイン産地を訪れ、地元のワインショップへと足を運ぶ楽しさの中に、「 宝探し 」がある。 そう、様々な事情(生産量が少な過ぎる、生産者にその気が無い、など)で、 産地の外へ出ることが滅多に無いワイン をハンティングするのだ。 訪れたのは、トスカーナ州モンタルチーノの街中、モンタルチーノの象徴的建造物でもあるフォルテッツァ(要塞)のすぐ近くにあった、小さなワインショップ。 宝探しが目的だったので、一通り品揃え(素晴らしい地元ワインのコレクション!!!)を眺めた後で、「日本から来たワインジャーナリストです。珍しいワインを探しているので、何か紹介してくれませんか?」と、少々頑固そうな店主に声をかけた。 次々と色んなブルネッロやロッソ・ディ・モンタルチーノを紹介してくれたが、私も(複雑で膨大なイタリアワインはやや苦手な分野とはいえ)ジャーナリストの端くれ。イタリアを代表する超銘醸地のワインなのだから、それなりには知っている。 店主からすると、ひたすら

梁 世柱
2023年4月9日


キアンティの頂 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.2>
膨大に積み重ねられてきた歴史の最先端を生きている我々は、先人達が苦難の末に辿り着いた偉業にフリーアクセスできる。 ワインの世界においても、偉業とすべき成果は数多存在しているが、その中でもいつも私が心惹かれるのは、 中世を生きた先人たち が会得した、 優れたテロワールを見定める秘術 だ。 現代では銘醸地となった地の多くが、その最初期は決して大きな産地ではなかった。 そして不思議なことに、最初期、つまり オリジナルの葡萄畑があるエリアは、現代においても、最上の地であることが多い 。 歴史深いChianti Classico。 そのオリジナルたるエリア。 知る必要がある、理解する必要がある。 Chianti Classicoの真髄に、一歩でも近づくためには。 Chianti Classicoの領域 Chianti Classicoは、トスカーナ州内のサンジョヴェーゼ銘醸地としては、最も北側に位置する産地の一つとなる。 単純に最も冷涼と考えたいところだが、実際には複雑かつ多様なマイクロ気候が形成されているため、その理解は誤解を招きやすい だろう。...

梁 世柱
2023年4月1日


出会い <33> 新たな火山のワイン
La Stesa, Tasto Bianco, 2021. 教育者として仕事をしていると、「 ワインを理解するために、現地(葡萄畑)に行く必要はあるのか? 」という質問を受けることが良くある。 おそらく多くのワイン関係者がYesと答えるであろう質問だが、 私の答えはNo だ。 私自身、世界各地のワインを、それなりの規模で網羅する形で学んできたが、実際に訪れたことのある産地は、(大きな範囲で括れば)両手で足りるくらいしかない。 むしろ、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュなどに至っては、少々意識的に避けてきたのもあり、一度も訪れていない。 だが、それらの産地を訪れていないことが、(現実に必要なレベルでの)理解の深まりを本質的に妨げているとは、全く思わない。 理解をするために必要なのは、 知識と実体験のコネクトのみ であり、理解を深めるために必要なのは、その コネクトの精度と深度 となる。 つまり、正確かつアップデートされた「 活きた情報 」を収集し(この辺りは少々の英語力が無いと難しいかも知れないが、実際には高校一年生レベルの英語で十分。)、その

梁 世柱
2023年3月26日


La Maliosa ~時代の先を行く農の在り方~
私はそこへ行ったのではなく、大きな世界の小さな一部として、ただそこに在った。 ラ・マリオーザ 。 世界の理とは、在り方が異なる存在。 パルテノン神殿、マチュピチュ、そして霊峰富士のように。 その隔絶性は、ただならぬ神性を纏い、人々を強烈に蠱惑する。 踏み締める 大地...

梁 世柱
2023年3月23日


大いなる前進 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.1>
代わり映えしないフィレンツェの街並み。 街中に張り巡らされた、妙に洗練された路面電車。 荘厳と佇むサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。 見覚えのあるホテル。 苦々しい記憶が徐々に蘇ってくる。 再訪を強く望んできたのに、私の心には嬉しさなど一欠片も宿っていなかった。 そう、トスカーナは4年前の私に、随分と長引いた 敗北感 を刻んだ地だったからだ。 トスカーナワインに関する知見と経験が根本的なレベルで足りなかった当時の私に、高貴なサンジョヴェーゼは分厚い壁となって立ちはだかった。 不安げにスワリングを繰り返すグラスの中に、確かにあったはずの真理。 私はそこへついぞ到達できぬまま、帰路についた。 ワイン人として次のステージへ進むために、私が乗り越えねばならない試練を残したまま、4年という時間だけが、無情に刻まれ続けてきた。 久々に降り立ったフィレンツェに私がもち込んだのは、覚悟だった。 再び敗北を味わうことになったなら、求道者として大きな回り道を強いられると。 サンジョヴェーゼ 長らくの間、私はイタリアに数多くある地場黒葡萄品種の中でも、 ネッビオ

梁 世柱
2023年3月16日


出会い <32> 広域キアンティに潜む宝
È Jamu, Zimbat ò Chianti, 2021. 玉石混交 のワイン産地、と聞いて私が真っ先に思い浮かべる産地は キアンティ だ。 正確に言うと、平均点がずば抜けて高い キアンティ・クラシコ 、エレガントなキアンティとして個性が確立しつつある キアンティ・ルフィーナ を除いた、 その他のキアンティ が対象となる。 それもそのはず、そもそもキアンティの名がつく原産地呼称が色々ある上に、範囲も異常に広いものから、極小エリアまでと、とにかくややこしい。 一応参考までに整理しておこう。 最も広域に渡っているのが、単純なChianti。 歴史的、品質的にも最も重要なのはChianti Classicoで、基本的には広域キアンティとは別物扱いになっている。 広域Chiantiの中には、さらに7つのサブゾーンがある。 中でも(唯一と言って良いレベルで)重要と言えるのは、Chianti Rufina。 そして、Chianti Montalbano、Chianti Colli Fiorentini、Chianti Colli Aretini、Ch

梁 世柱
2023年3月12日


出会い <31> 若者たちのシンプリシティ
Etyssa, Trentodoc Spumante Extra Brut Cuvee No.6, 2017. それはトスカーナ州、モンタルチーノでの一夜。 先日の 新シリーズ でご紹介させていただいた、Banfiに務める Yoshiさん のご自宅にお招きいただき、胃に優しく染み渡るような奥様の手料理と共に、ワイン談義に花を咲かせていたのだが、私が現地調達したいくつかのワインを持ち込みつつ、Yoshiさんも様々なワインを提案してくださった。 流石に現地在住とあって、知らないワインが多く提示され、実に悩ましかったのだが、何かピンとくるものがあったのが今回紹介する「出会い」のワイン。 Trentodoc と聞いてピンとくるのは、よほどのイタリアンワイン通か、その筋の専門家くらいのものだろうか。一応、 Ferrari という大メーカーが手がける看板スパークリングワインのラベル下部にも小さく記載されているが、そこに目を向けたことのある人の方が遥かに少数派だろう。

梁 世柱
2023年2月26日


ワインで巡る火山の島々
シチリア、エオリエ諸島 イタリアには 無数の固有品種 や、その土地に根付いた ユニークなスタイルのワイン が多く存在するが、なかでも個性が際立つ 火山島のワイン を紹介しよう。2022年9月、私はシチリア島の北方、ティレニア海に浮かぶ美しいエオリエ諸島を訪問する機会に恵まれた。もちろん、ワイン産地視察という目的ではあったが、海、島、火山というワインに紐付くテロワールを構成する「自然」に、純粋に心踊る旅となった。 2000年にユネスコ世界自然遺産に登録されているエオリエ諸島の主要な7つの島は、次の通り。 ● リパリ島 ● サリーナ島 ● ヴルカーノ島 ● ストロンボリ島 ● パナレア島 ● フィリクーディ島 ● アリクーディ島 シチリアのエトナ山はヨーロッパ最大級の活火山として有名だが、エオリエ諸島も海底火山の活動によって形成された島々で、ストロンボリ島では現在も活発な火山活動がみられる。今回は、ワイン造りが行われている主要3島を巡った。 マルヴァジア・デッレ・リパリ Malva

高橋 佳子
2023年2月21日


再会 <25> 二人の天才
Figli Luigi Oddero, Barolo “Vignarionda” 2015. ¥34,000

梁 世柱
2022年11月20日


ど田舎からサステナブルを考える
サステナブル。 ここ近年、頻繁に耳にするワードである。 私はこのSomme Timesにおいて「ど田舎」でのソムリエ生活を発信し続けているが、その大きな目的は地域で頑張っているソムリエへエールを送ること。しかし実はもうひとつ理由があり、地域でも都市部と変わらずソムリエとして...

SommeTimes特別寄稿
2022年7月21日


ワインとラーメン <後編>
前編では、世界のラーメン事情のお話をしました。 (ワインの話がほとんど無くて、すいません。) さて、いよいよ本題の、ラーメンとワイン、です。 一体どんなワインがラーメンと合うのでしょうか? まず、(言うまでも無く)ラーメンの種類は大きく醤油、塩、味噌、豚骨に分かれ、最近では...

SommeTimes特別寄稿
2022年6月17日


出会い <13> ワインファンのロマン
SRC, Etna Rosso “Alberello” 2019 ¥9,400 近年爆発的な人気の高まりを見せ、今では イタリアの銘醸地 として、真っ先に名前が挙がっても不思議では無いほどの地位を得た シチリア島・エトナ火山 。 『火山の山肌で葡萄を育て、火山のテロワールが宿る。』 なんていうパワーワードも素敵だが、 それだけで人気が出るほど世界のワイン市場は甘くない 。 そう、エトナの人気が高まった理由は、その 圧倒的な個性と品質 にあるのだ。 イタリアのワイン史にその名を残す名醸造家 サルヴォ・フォティ による一連のワイン群や、 フランク・コーネリッセン のようなカルト的人気を誇る生産者など、エトナを彩る造り手たちの魅力も申し分ない。 成功すべくして成功した 。エトナとは、そういう産地だと思う。 そして、エトナの底知れない可能性に心を奪われ、この地に移住してきた新たな造り手たちも多い。 今回の出会いは、そんなエトナのニュージェネレーション組と。

梁 世柱
2022年6月5日


出会い <12> 若者の感性
Indomiti, “Arga” IGT Garganega 2020 ¥3,800 私もとうに「若手」ではなくなり、すっかりと「中堅」になって久しい。むしろ、ベテランに片足を突っ込み始めたぐらいのタイミングだろうか。年を重ねるにつれ、学ぶ機会よりも教える機会の方が増えてくるのは必然なのだが、どちらかというと学ぶことの方が好きな私にとっては、少々悩ましい問題だ。インプットとアウトプットのバランスを取るのは、とても難しい。 というと、年を重ねるのが辛いように思えてしまうかも知れないが、楽しい部分もたくさんある。特に、若手の台頭にはいつも心が踊らされるのだ。 ワインを扱う業種(ソムリエやショップ店員、インポーターなど)であれば、随分と前からたくさんの後輩や若者たちと接してきたのだが、最近は ワインを造っている人でも、私より若い人がかなり増えてきた 。 彼らのワインを飲むのは本当に 楽しく刺激的 で、もはや趣味と言えるほど、ついついのめり込んでしまう。 今回出会った造り手はまだ30歳にもなっていない、ミレニアル世代の シモーネ・アンブロジーニ...

梁 世柱
2022年5月22日


受け継がれる志
近年、世界のレストランでは食事との相性を重視し、バリエーション豊かな楽しみを表現する“ペアリング”を提案するお店が増え、私自身も様々なお店で驚きや高揚感を楽しませて頂いております。 そのバリエーションという観点でワインについて考えると、生産地やブドウ品種の前に「色調」があり...

SommeTimes特別寄稿
2022年3月24日


再会 <5> 貴族的ワインに宿った永遠の価値
San Giusto a Rentennano, Chianti Classico “Riserva le Baroncole” 2017. ¥5,600 イタリア・トスカーナ州の キアンティ は、世界で最も名の知れた赤ワインの一つ。主要品種である サンジョヴェーゼ も、イタリア屈指の高貴品種です。 それなのに、 キアンティには非常に安価なワインがたくさんあります 。理由はシンプル。 大量生産されているから です。キアンティ全体の平均的な生産量は 年産1億本前後 となっています。実はキアンティを名乗ることができるエリアは、異常なほど広く、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノやヴィノ・ノーヴィレ・ディ・モンテプルチャーノといったトスカーナ州にある他の銘醸地すらもその範囲内に入ってしまっています。「他者の名声にあやかる」というイタリア人の悪い癖が最大限に発揮されてしまっているのはとても残念ですが、相対的にその価値が高まったエリアがあります。 キアンティ・クラシコ のエリアです。 第6代トスカーナ大公「 コジモ三世・デ・メディチ 」が 1716年 に定めた

梁 世柱
2022年1月8日


偉大さだけが、価値では無い <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:最終章>
より優れていること。漠然としたその言葉だけが絶対的な価値になってしまうことほど、悲しく、虚しく、恐ろしいことはない。ヒトに当てはめてみると、その怖さが良くわかる。極々一部の「より優れた人間」だけに価値が宿る社会になってしまったとしたら、ヒトの大多数は逃れようの無い絶望感の中で生きていくことになるだろう。そう、「優れている」という言葉は、 使い方を間違えれば脱出不可能な混沌への呼び水となってしまう のだ。ワインについて語る時、特に、偉大とされるワインと必ずしもそうでは無いワインの両方を語る時は、何をもって「優れている」と表現するかが、極めて重要になる。つまり、 広義としての「優れている」ではなく、常に狭義としての「優れている」という価値判断を貫くべき なのだ。イタリア・ピエモンテ州のネッビオーロにおいては、バローロ・バルバレスコという圧倒的な知名度を誇る二大巨塔と、それ以外のネッビオーロとでは、優れているポイントが全く異なる。確かに、古典的価値観に基づく偉大さという点では、二大巨塔の優位は揺るぎないものだ。しかし、現代は多様性と個性の時代である。

梁 世柱
2021年12月26日


有為転変のシードル
恵比寿H(アッカ)にて、イノヴェーティヴなワインサーヴィスを牽引する新進ソムリエ菅野氏。幅広いジャンル、産出国にまたがるセレクションに加え、ノンアルコール・ペアリングの評価も高い菅野ソムリエからは、鋭い変化球的なコラムが届きました。...

SommeTimes特別寄稿
2021年12月23日
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