6月28日自然農法の真理 <後編>私は、昨年の春からこの冬の間中ずっと思い悩んでいたことがあった。 「なぜ人間は、野に舞う蝶や、空飛ぶ鳥のように自由に生きることができないのか…。」 その悩みに答えを示してくれたのが、福岡正信氏だ。 自然農法の大家、福岡氏の遺した数々の言葉。...
6月15日自然農法の真理 <前編>福岡正信氏とは?と聞かれて一言で答えることができる人がどれ程いるだろうか。 自然農法の人、粘土団子の人、わら一本の革命の人。 世界のワインに通じる方なら、氏について知っているかもしれない。 海外に通じるワインプロフェッショナルなら、氏について聞かれたことがあるかもしれない。...
5月31日高みへと <ロワール渓谷特集:最終章>ロワール渓谷のソーヴィニヨン・ブランには、どうも複雑な思いが拭いきれずにいた。セントラル地区は、この品種の世界的聖地とされてきたが、特に日本においてはあまり話題に上がることもないし、レストランやショップでも、それほど見かけるわけでもない。同じくフランス国内にある、その他品種...
5月21日アイデンティティの行方 <ロワール渓谷特集:第三章 >悲壮感漂うワイン。 カベルネ・フランから生み出される、ロワール渓谷を代表する数々の素晴らしい赤ワインを一言で表すとそうなる。 華やいだスミレの香りと、力強い大地のトーンが交差し、ワイルドとエレガンスを行き来しながら、メンソールのような心地よい余韻へと誘われる。最高のテロワー...
5月10日伝統と変化 <ロワール渓谷特集:第二章 後編>少し古いワイン教本を読むと、ロワール渓谷のシュナン・ブランの特徴として、「濡れた犬」、「濡れた藁」、「濡れた羊毛」といった表現が頻出する。確かにかつて、この地のシュナン・ブランには「濡れた」何かの印象が強く残るものが多かった。その主たる要因として、葡萄の熟度の低さが挙げられ...
4月30日マイナー品種の女王 <ロワール渓谷特集:第二章 前編>私自身は決して好きではない表現だが、世界三大〇〇という紹介の仕方は、あらゆるジャンルにおいて、非常に一般的だ。もちろん、ワインの世界でも様々な使われ方がされてきた表現だ。一種の思考実験として、この表現を深堀してみると、今まで見えてこなかったものが、突然見え始めることがある。...
4月15日フランスの庭 <ロワール渓谷特集:第一章>全長1,006km。フランス最長の河川であり、ヨーロッパ全土でも3番目の長さであるロワール河は、色とりどりの恵みを、フランスに、そして世界にもたらしてきた。数々の壮麗なシャトー群は世界中の旅行者を魅了し、アスパラガスやアーティチョークは世界各地のレストランへと届けられる。ヴ...
3月27日曇り空の向こうへ <シャブリ特集:後編>変わらないための努力をしていくのか。変わっていくための努力をしていくのか。たった2つしかない選択肢が示されたとき、そしてその両方が茨の道であると知ったとき、人はどちらを選ぶのだろうか。 混迷の中にある銘醸地シャブリは、まさに今、岐路に立たされている。...
3月12日混迷の銘醸地 <シャブリ特集:前編>今日よりも、より良い明日がきっと来る。 エントロピーの増大に抗うことが、生きるということそのものである人類にとって、少なくとも今はまだ、時間とは不可逆的なものなのだろう。そう、過去に向かって生きることが、精神世界の中だけの話なのであれば、我々にはそもそも選択肢が無いのだ。...
2月28日償いの丘 <カタルーニャ特集:ペネデス編>何度も、何度も、フラッシュバックする光景がある。あの瞬間、不意に気付かされた過ちに、あらゆる言い訳は意味消失した。私にとってペネデスの丘は、終わりのない贖罪の日々と、生涯守り続けることになる約束の、始まりの地である。 ペネデス...
2月13日誰がために鐘は鳴る <カタルーニャ特集:プリオラート編>世界を旅していると、自分がその場所にいる違和感を全く感じない街に出会うことが稀にある。異国であるはずの場所が、生まれ故郷のように肌に、心に、自然と馴染むのだ。街角から聞こえてくる色とりどりの音が、耳あたりの良い大阪の言葉にすら聞こえてくるのだ。...
1月31日祝福の鐘は、葡萄畑から鳴り響く <オーストラリア・クラフト・ワイン特集:後編>過ちを正すのは難しいことではない。だが、正したことを理解してもらえるかは、全く別の問題だ。「他人の不幸は蜜の味」という底知れぬ悪意は、カソリック教会における「七つの罪源」や、ダンテの叙事詩「神曲」などにおいて、人を罪へと導くものとして常に描かれてきたように、残念ながら、人と...
1月15日栄光の落日 <オーストラリア・クラフト・ワイン特集:前編>2015年頃から約3年間、熱狂していたと言っても決して大袈裟ではないワインが、私にはあった。一人のプロフェッショナルとして、常に公正公平であれるようにと、ワインと造り手に対して感情移入することを徹底して避けてきた筆者にとって、それは極めて例外的な出来事だった。どこか停滞感が...
2021年12月26日偉大さだけが、価値では無い <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:最終章>より優れていること。漠然としたその言葉だけが絶対的な価値になってしまうことほど、悲しく、虚しく、恐ろしいことはない。ヒトに当てはめてみると、その怖さが良くわかる。極々一部の「より優れた人間」だけに価値が宿る社会になってしまったとしたら、ヒトの大多数は逃れようの無い絶望感の中...
2021年12月10日イタリアで最も偉大な産地 <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:第三章>バレバレスコに想いを馳せると、いつもやるせない気持ちになる。偉大なるバローロの栄ある光は、バルバレスコに深い影を落とし続けてきたからだ。そう、バルバレスコに与えられた地位は、永遠のNO.2。ワインファンに「イタリアで最も偉大な赤ワインは」と尋ねると、おそらく90%程度はバロ...
2021年11月28日ワインの王、王のワイン <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:第二章>過日、とあるワイン初心者の方から質問を受けた。ピエモンテ州の同じ造り手で、DOCGのワイン(Dogliani)よりも、DOCのワイン(Langhe Nebbiolo)の方が高いのは何故か、と。DOCGは最高位格付けでは無いのか、と。...
2021年11月10日栄光は霧の中 <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:序章>目に飛び込んでくる世界が紅葉色に染まり、冬の足音が聞こえてくる頃になると、私はいつもピエモンテに想いを馳せる、そしてネッビオーロが恋しくなる。かすかにオレンジがかった魅惑的なワインのエッジがそうさせるのか、枯葉を思わせる滋味深いアロマがそうさせるのか。でも、その想いはいつも...
2021年10月26日パーカーとボルドー <ボルドー特集:後編>人は変われないのか。私はその問いに対する答えをもたぬまま、本稿の執筆と向き合い始めた。失敗は恥ではない。愚かさも、未熟さも恥ではない。私はずっとそう思ってきた。だが、繰り返すことは確かな恥だとも、知っていたはずだ。だから、もうこれ以上繰り返さないために、常識も、一般論も、過...
2021年10月10日Bordeaux in Green <ボルドー特集:前編>正直に言おう。私の心は長らくの間、ボルドーから離れていた。かつて夢中になっていたことを、どこか小っ恥ずかしく感じて、少し酸っぱい想い出に蓋をするようなところもあったとは思うが、単純に、私の心に響くボルドーになかなか出会わなくなっていたのもまた事実だ。思えば、近代のボルドーに...
2021年9月25日その憂いが、世界を変えた <ボジョレー特集後編>愛するものに、自らの理想像を押し付ける。厄介極まりないヒトの性に、筆者もまた囚われている。ありのままを受け入れたいと建前を言い放ちながらも、本音では自らが受け入れられる折衷点を常に探っている。それは結局のところ、部分的にでも理想を押し付けていることと何ら変わらないことと知り...