2023年7月11日3 分

Wine Memo <9>

domaine tetta, Bonbons Colorés 2021.

その個性は、消すべきか、活かすべきか。

個性を研ぎ澄ました先にあるオリジナリティか、平均化の成れの果てとしての999/1000か。

人間社会に当てはめると、実にリアルな問題として浮かび上がってくるこのテーマは、ワインの世界でも、ようやくまともに議論がされるようになったのではないだろうか。

そして、その議論の構造もまた、人間社会と酷似している。

個性を尊重する社会に!(品種やテロワールの個性を大切に!)と声高に叫びながらも、現実での個性派は生きづらさ(売りやすさ、分かりやすさ)という呪縛から逃げきれていない。

幼い頃から「個性派」で、大人になってもその性質が一切変わっていない筆者は、「普通になれ」という脅迫を常に受けながら生きてきた。

だからこそ、この問題は私にとって全く他人事では無いのだ。

最近、このテーマについて再び深く考えさせられるワインを飲んだので、Wine Memoとして残しておこうと思う。

岡山県の人気ワイナリーdomaine tettaによる、遊び心と明確なヴィジョンが共存した、素敵なワイン。

ブレンドは安芸クイーン(巨峰同士の交配品種)66%、マスカット・ベイリーAが29%、その他は白葡萄も含む4種で合計5%。

赤とロゼの中間的性質で、極僅かな発泡も伴っている。

白葡萄を含む4種の詳細は不明だが、95%を占める2つの黒葡萄は、共にヴィティス・ラブルスカ種に連なる品種だ。

そして、ラブルスカ系黒葡萄といえば、「フォクシー・フレイヴァー」と呼ばれる独特のいちごジャム的なアロマが特徴。

フォックス=狐、であることから、日本では狐香とも訳され、フォクシー・フレイヴァーを「野生感の強いアロマ」と勘違いしている人も多いが、正しくは前述した香りのことを指している。

さて、この「フォクシー・フレイヴァー」こそ、活かすか抑えるか、の対象に長年なってきたものでもある。

抑えるための研究も、活かすための研究も行われてきたが、私の極個人的な好みで言うのであれば(そもそも善悪二元論でまとめきれる話でも無い。)、活かしてくれたワインの方が好きだ。

domaine tettaによるこのワインは、そもそもワイン名が「Bonbons (=ボンボン菓子、キャンディ) Colorés(=カラフルな)」となっている通り、フォクシー・フレイヴァーを全面的に活かした快作

黒葡萄系フォクシー・フレイヴァーのいちごジャム風味に、白葡萄系フォクシー・フレイヴァーのパイナップル風味が絶妙なアクセントを与えている。僅かな発泡も、甘い印象をスッキリさせてくれている。

日本では、主にマスカット・ベイリーAから、フォクシー・フレイヴァーを抑え込んだ上で、巧みなワインメイキングによって、「世界基準」のワインを生み出そうという流れがあり、その完成度も含め、私自身もその可能性には大いに注目をしている。

しかし、それでも私は抗えない。

このワインが放つ、突き抜けた爽快感と解放感に。

「そのままで良い、そのままが良い。」

このメッセージは、私のような個性派にとって、救いでもあるのだから。