4月4日3 分

Wine Memo <22>

安心院ワイン, 小公子 2021. ¥3,920

同じ言葉と文化を話す同朋として、もちろん日本ワインの発展を心から願っている。

 

しかし、その想いと、ワインに対する評価は明確に切り離すべきだと私は思う。

 

少なくとも、私のようなプロフェッショナル側の立場であれば。

 

私にとって日本は、世界に数多くあるワイン産地の一つであり、それ以上でも以下でもない。

 

日本ワイン愛好家には冷たいと思われるだろうし、実際に良くそう言われもするが、色眼鏡をかけまくって、自信満々で日本ワインを海外の専門家に紹介した結果、微妙な反応が返ってきた時なんかは、なんとも行き場のない気持ちになるものだ。

 

新興産地としてワイン産業が発展しつつある国のソムリエやジャーナリストと話をしても、明確な根拠なく自国のワインを褒め称えることは稀である。

 

彼らは皆、自国で形成されつつあるワイン文化が、すでに世界的な銘醸地として知られている伝統国と比べてどれほどのレベルに至っているかを、実に冷静に見極めているのだ。

 

さて、私が往々にして感じる日本ワインの本質的な課題は、一般的に言われることの多い「価格」ではない

 

本当の課題は、「熟度」だ。より正確に言うなら、バランスの取れた葡萄の成熟、となる。

 

糖度、酸度、フェノールのピントが、収穫のタイミングでバランス良く合うことによって、ミッドパレットが充実した複雑な味わい、つまり高品質ワインの土台が出来上がる。

 

もちろん、自然相手のモノづくりなのだから、どれだけ正確な仕事をしてもうまくいかないことがあるのは当然だが、ピントが合う可能性を高めるために最も必要な条件が、適品種にあることは間違い無いだろう。

 

現状では、明らかに適品種ではないと考えられる成熟の影響がはっきりと出ているにも関わらず、「これが日本のテロワール」だと押し切られているワインが多々見受けられる

 

確かに、テロワールといえばテロワールだが、その言葉を明らかに適品種ではない葡萄から造られた低品質なワインを肯定するために使うのは、ナンセンス極まりないと私は思う。

 

そんな日本ワインの中にも、私が数々のテイスティングを通じて、適品種であると確信に至った素晴らしいものはある。

 

西日本側で栽培されている「小公子」がまさにそうだ。

 

特に大分県北部にある安心院ワインが手がける「小公子」は、現在日本で最も完成度の高いワインの一つ。

 

バランスの取れた成熟が織りなす、果実味と酸の調和、充実したミッドパレットの強固な土台。

 

その上で、小公子らしいしなやかなタンニンや、甘草黒胡椒が入り混じる独特の風味が踊る。北ローヌ地方のシラーにも似た特徴だが、小公子にしかないような香ばしい栗のニュアンスもある。

 

その高い個性の完成度と確固たる品質、ヴィンテージ毎の高い安定感を鑑みれば、この価格が高いとは全く思わない。

 

もし私が、バランスの良い葡萄の成熟、という視点から日本ワインの中でベンチマークを選ぶなら、迷うことなくこの小公子を挙げるだろう。