2023年11月24日3 分

Wine Memo <16>

Luis Seabra Vinhos, Alvarinho Granito Cru 2021.

全体論で言うならば、ポルトガル・ワインの中でも私の興味レベルが最も低いのは、ヴィーニョ=ヴェルデだろうか。

アルコール濃度が低く、非常に軽く、薄く、極微発泡性で、低価格の超大量生産型ワインという典型的なヴィーニョ=ヴェルデは、どうにも私の心の琴線に触れない。

そういったワインの「役割」は十分に理解もリスペクトもしているが、最大公約数的味わいも、その造り方も、私にそのワインを堪能したいという欲をもたらしてはくれないのだ。

私はそのようなワインを、「Soulless Wine(魂の抜けたワイン)」と度々表現しているが、魂が(技術の過剰な駆使などによって)極限まで薄められたワインが私に響かないのは、私が魂を宿した存在である以上、仕方ないのではないだろうかと思う。

そして、私が抱くある種の苛立ちとも言えるその感情は、「そうではないワイン」との数々の邂逅から来ている側面も強い。

言い方を変えるなら、凡作の大海に、素晴らしいワインが深く沈められてしまう現状に、どうにも我慢がならないのだ。

そもそも、ヴィーニョ=ヴェルデは広い。いや、その地勢と葡萄品種の特殊な分布を鑑みれば、単一の産地としては広すぎる

私が、冒頭で「全体論」としたのは、この広さ故に、ヴィーニョ=ヴェルデの全体像を語ろうとすると、本来の多種多様な魅力を混ぜ合わせてから、大量の水で希釈したような解釈をするしかなくなるからでもある。

本来なら、フランスのロワール渓谷をモデルとした、原産地呼称制度の制定が望ましいと思うのだが、近年ようやく認知と人気が高まったポルトガル・ワインにとっては、やや時期尚早と言えなくも無い。

「ロワール渓谷のどのワインのこと?」という反応が当たり前のように返ってくるように、ヴィーニョ=ヴェルデもまた、細かく分解した上で捉えて然るべきだが、詳細な解説はいつかの特集記事まで機会を待っていただければと思う。

さて、今回のWine Memoの題材となるのは、ヴィーニョ=ヴェルデの中でも際立って特殊性が強い北東部のモンサオン・エ・メルガソ(Monção e Melgaço)地区で生まれたワイン。

モンサオン・エ・メルガソでは、北からの寒流が流れ込む大西洋の影響が、西側の山によって遮られ、夏は暑く乾燥し、冬は寒く湿潤となるマイクロ気候が形成されている。

葡萄品種は、ヴィーニョ=ヴェルデの中で唯一アルヴァリーニョが主体となり、ワイン造りの伝統も、どちらかというとスペイン側のガリシア地方に近い。

つまり、広大なヴィーニョ=ヴェルデの中でも、僻地と言えるこの場所は、最も「技術革新」の影響を(悪い意味で)受けていない地区の一つとも言えるのだ。

造り手のLuis Seabra(ルイシュ・スィアブラ)は、ポルトガルのワイン・ルネッサンスにおいて、極めて重要な役割を果たしてきた醸造家の一人。

2013年に満を持して自らのワイナリーであるLuis Seabra Vinhosを設立した彼は、テロワールを極限までリスペクトした低介入のワインメイキングを、卓越した知見でハンドルする。

Alvarinho Granito Cru 2021は、みなぎるような果実のエネルギー、トップノートを彩る軽やかな酸、緻密なミネラリティ、内柔外硬の見事なストラクチャーが素晴らしい大傑作ワイン。

まさに、Soullessとは対極の、Soulfulなワインだ。

このようなワインは、ヴィーニョ・ヴェルデを深掘りすれば、他の品種や地区からでも、もっともっと出てくる。

ヴィーニョ・ヴェルデは決して、カブのみスタイルのパーティー系ワインばかりではないのだ。